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回想③〜白草四葉の場合その2〜伍
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3月29日(火)
クロのお家に初めてお邪魔した翌日、司サンの言葉に甘えてわたしは、再び彼の家を訪ねることにした。
クロが帰り際に言った、「昼過ぎに来てくれ」という言葉のとおり、この日も昼食をとったあと、出掛けることを伯母に伝えて、新しくできた友人の家にむかう。
黒田家に到着し、チャイムを鳴らすと、玄関のドアが開き、
「シロ、来てくれたか!」
「いらっしゃい! シロちゃん、待ってたよ」
と、二人が出迎えてくれた。
「お邪魔します」
と言って、玄関にあがると、リビングの方からパイを焼く甘い香りが漂ってきた。
「もう少しで焼けるからね~。楽しみにしてて」
司サンが笑顔で言うと、期待するような眼差し
「母ちゃん! バニラアイスものっけてくれる?」
と、クロがたずねる。
すると、司サンは、彼の期待に応えるように、
「しょうがないな……シロちゃんが来てくれたから、特別だよ」
そう言って、顔をほころばせた。
「やった~」
と、声をあげて喜ぶクロと一緒に、わたしも、笑顔で、「ありがとうございます」と、感謝の気持ちを伝える。
「今日は、アップルティーも用意してるからね。竜司、シロちゃんを連れて、先にカラオケ部屋に行ってな」
司サンは、優しい笑顔でわたしに言ったあと、クロに案内を任せて、リビングに戻って行った。
「今日は、何の歌を歌おっかな~」
などと、お互いに話しながら、クロとカラオケ・ルームに移動し、セッティングを行っていると、しばらくして、パイを焼き終えたという司サンも合流する。
アップルパイは、午後三時頃におやつとして食べることになった。
「この部屋を使うのも久しぶりね。あっ、二人は昨日も使ってたのか? シロちゃんは、どんな歌が得意なの?」
司さんの問い掛けに、クロが答える。
「アニメの歌が得意だけど、洋楽もスゴく上手いんだ! なぁ、シロ?」
彼は同意をうながしてきたが、わたしは、「あ~、どうかな~?」と、曖昧に笑ってごまかした。
クロが、わたしの歌声を認めてくれていることは、十分すぎるほどわかっていたが、その自分自身の歌について、大人がどのように評価するかについて、わたしは自信を持てないでいた。
「シロちゃんが好きな歌でイイよ。なんでも良いから歌って聞かせてくれない?」
司サンは、穏やかな口調でそう言うが、そうは言っても、聞きなじみのない曲よりは、好きな曲や良く知られている曲の方が歌を聞く側も安心して聞けるだろう。
そういう理由もあって、一曲目のマイクを持つ許可をもらったわたしは、
『ユー・レイズ・ミー・アップ』
と検索ワードを打ち込んで待機した。
※
曲を歌い終えたわたしを眺めていた二人は、演奏が終わると、我に返ったように、大きな拍手を送ってくれた。
「ありがとうございました」
一礼するわたしに、引き続き拍手をしながら、
「いや~、ホントにスゴいのね~。シロちゃん」
と賞賛の言葉をかけてくれた司サンに対して、クロは得意気に答える。
「なっ!? 言ったとおりだろう?」
「なんで、アンタが自慢げに話してんの?」
司サンは苦笑しながら、息子にダメ出しをしつつ、わたしに語りかけてきた。
「でも、たしかに素晴らしい歌声……シロちゃん、どこかで歌を習ってたりするの?」
今度の質問には、わたし自身が答えた。
「はい……ボーカル教室に通ってます……」
「なるほど、それで……」
わたしの回答にうなずいた司サンは、あごに手を当てて、しばらく何かを考えるような仕草をしたあと、
「ねぇ、シロちゃん。竜司と一緒に、テレビのちびっこカラオケ大会に出てみない?」
と、唐突に予想もしていなかった提案をしてきた。
「「えっ、えぇ~~~~~~!!」」
昨日の冗談に反応した時よりも大きな、わたしとクロの声がカラオケ・ルームに響いた。
司サンによると、テレビ局のセットに使用する家具や小物などを提供する時に知り合った局の関係者から、春休みに実施する小・中学生を対象にしたカラオケ大会の出場者を紹介してくれないか、と声を掛けられていたのだとか。
クロに興味があれば、参加を薦めてみようと考えていたが、わたしの歌声を聞いて、俄然やる気が湧いてきたらしい。
「全国キー局の番組じゃなくて、準キー局の放送だから、それほど規模は大きくないらしいけどね」
母親の言葉の意味が理解できなかったのか、キョトンとしているクロに、わたしは、
「東京とか、他の地方では放送されないってコト」
と、説明を加える。
「シロちゃん、さすがね……」
と、司サンは言ったあと、
「二人とも、どうかな? テレビのスタジオで歌ってみる気はない?」
と、再度、確認を行った。
クロとわたしは、お互いに、
(どうする――――――?)
と、顔を見合わせる。数秒の沈黙のあと、
「シロは、どうしたい?」
クロが、たずねてきた。急に提案された話しでもあるし、地域限定であるとは言え、自分の歌がテレビで放送される、ということには、やはり気おくれする気持ちがある。
それでも――――――。
彼が、一緒に出演してくれるなら、勇気を出して、歌うことが出来るかも知れない。
「クロが、一緒に出てくれるなら、わたしは出てみたいな……」
それが、わたしの本心だった。
クロのお家に初めてお邪魔した翌日、司サンの言葉に甘えてわたしは、再び彼の家を訪ねることにした。
クロが帰り際に言った、「昼過ぎに来てくれ」という言葉のとおり、この日も昼食をとったあと、出掛けることを伯母に伝えて、新しくできた友人の家にむかう。
黒田家に到着し、チャイムを鳴らすと、玄関のドアが開き、
「シロ、来てくれたか!」
「いらっしゃい! シロちゃん、待ってたよ」
と、二人が出迎えてくれた。
「お邪魔します」
と言って、玄関にあがると、リビングの方からパイを焼く甘い香りが漂ってきた。
「もう少しで焼けるからね~。楽しみにしてて」
司サンが笑顔で言うと、期待するような眼差し
「母ちゃん! バニラアイスものっけてくれる?」
と、クロがたずねる。
すると、司サンは、彼の期待に応えるように、
「しょうがないな……シロちゃんが来てくれたから、特別だよ」
そう言って、顔をほころばせた。
「やった~」
と、声をあげて喜ぶクロと一緒に、わたしも、笑顔で、「ありがとうございます」と、感謝の気持ちを伝える。
「今日は、アップルティーも用意してるからね。竜司、シロちゃんを連れて、先にカラオケ部屋に行ってな」
司サンは、優しい笑顔でわたしに言ったあと、クロに案内を任せて、リビングに戻って行った。
「今日は、何の歌を歌おっかな~」
などと、お互いに話しながら、クロとカラオケ・ルームに移動し、セッティングを行っていると、しばらくして、パイを焼き終えたという司サンも合流する。
アップルパイは、午後三時頃におやつとして食べることになった。
「この部屋を使うのも久しぶりね。あっ、二人は昨日も使ってたのか? シロちゃんは、どんな歌が得意なの?」
司さんの問い掛けに、クロが答える。
「アニメの歌が得意だけど、洋楽もスゴく上手いんだ! なぁ、シロ?」
彼は同意をうながしてきたが、わたしは、「あ~、どうかな~?」と、曖昧に笑ってごまかした。
クロが、わたしの歌声を認めてくれていることは、十分すぎるほどわかっていたが、その自分自身の歌について、大人がどのように評価するかについて、わたしは自信を持てないでいた。
「シロちゃんが好きな歌でイイよ。なんでも良いから歌って聞かせてくれない?」
司サンは、穏やかな口調でそう言うが、そうは言っても、聞きなじみのない曲よりは、好きな曲や良く知られている曲の方が歌を聞く側も安心して聞けるだろう。
そういう理由もあって、一曲目のマイクを持つ許可をもらったわたしは、
『ユー・レイズ・ミー・アップ』
と検索ワードを打ち込んで待機した。
※
曲を歌い終えたわたしを眺めていた二人は、演奏が終わると、我に返ったように、大きな拍手を送ってくれた。
「ありがとうございました」
一礼するわたしに、引き続き拍手をしながら、
「いや~、ホントにスゴいのね~。シロちゃん」
と賞賛の言葉をかけてくれた司サンに対して、クロは得意気に答える。
「なっ!? 言ったとおりだろう?」
「なんで、アンタが自慢げに話してんの?」
司サンは苦笑しながら、息子にダメ出しをしつつ、わたしに語りかけてきた。
「でも、たしかに素晴らしい歌声……シロちゃん、どこかで歌を習ってたりするの?」
今度の質問には、わたし自身が答えた。
「はい……ボーカル教室に通ってます……」
「なるほど、それで……」
わたしの回答にうなずいた司サンは、あごに手を当てて、しばらく何かを考えるような仕草をしたあと、
「ねぇ、シロちゃん。竜司と一緒に、テレビのちびっこカラオケ大会に出てみない?」
と、唐突に予想もしていなかった提案をしてきた。
「「えっ、えぇ~~~~~~!!」」
昨日の冗談に反応した時よりも大きな、わたしとクロの声がカラオケ・ルームに響いた。
司サンによると、テレビ局のセットに使用する家具や小物などを提供する時に知り合った局の関係者から、春休みに実施する小・中学生を対象にしたカラオケ大会の出場者を紹介してくれないか、と声を掛けられていたのだとか。
クロに興味があれば、参加を薦めてみようと考えていたが、わたしの歌声を聞いて、俄然やる気が湧いてきたらしい。
「全国キー局の番組じゃなくて、準キー局の放送だから、それほど規模は大きくないらしいけどね」
母親の言葉の意味が理解できなかったのか、キョトンとしているクロに、わたしは、
「東京とか、他の地方では放送されないってコト」
と、説明を加える。
「シロちゃん、さすがね……」
と、司サンは言ったあと、
「二人とも、どうかな? テレビのスタジオで歌ってみる気はない?」
と、再度、確認を行った。
クロとわたしは、お互いに、
(どうする――――――?)
と、顔を見合わせる。数秒の沈黙のあと、
「シロは、どうしたい?」
クロが、たずねてきた。急に提案された話しでもあるし、地域限定であるとは言え、自分の歌がテレビで放送される、ということには、やはり気おくれする気持ちがある。
それでも――――――。
彼が、一緒に出演してくれるなら、勇気を出して、歌うことが出来るかも知れない。
「クロが、一緒に出てくれるなら、わたしは出てみたいな……」
それが、わたしの本心だった。
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