初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第二部

エピローグ〜幼なじみや後輩とはラブコメにならない〜急

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 彼女は、少しうつむき加減で肩を小刻みに震わせながら、

「こ、この感覚……まるで、ヨツバちゃんの裏アカを見てるようだべ……敵意むき出しで、相手をアオるヨツバちゃんの裏の顔……お、推せる……」

(推せるんかい!)

 憧れているインフルエンサーの二面性を目の当たりにした上での発言に、

(いや、どう考えても、その反応はおかしいだろう……)

と、感じつつ、宮野さんのようすを観察していると、彼女は、遠慮がちに発言する。

「差し出がましいんですが……ヨツバちゃん、佐倉さんは、裏アカで毒を吐くタイプではないと思うべ……」

 その一言に、同じ学年の佐倉さんが反応し、

「ほら、やっぱり、わかる人には、ワタシの裏表のない性格がわかってるんです」

と、ドヤ顔で白草さんに言い返す。
 しかし、直後の宮野さんの言葉は、室内の全員が予想しないものだった。

「ワタシが考えるに、佐倉さんは、先輩との関係に悩んでるみたいなので……裏アカには、先輩と親しい感じで写ってる写真で、匂わせ投稿をするタイプだべ……」

「!」

「!」

「!?」

「な・な・な・な・な、なんのことですか? に、匂わせ投稿って……」

 これまでより、一オクターブ高い声をあげ、宮野さんと白草さんから露骨に視線をそらす佐倉さん。
 彼女と知り合ってから、ずい分と経つが、こんなに動揺した姿を見たことはない。
 女《・》子《・》の《・》気《・》持《・》ち《・》に《・》敏《・》感《・》で《・》な《・》い《・》ことにかけては、竜司とタメを張っているという自信のあるボクでさえ、そのようすがおかしいことに気づいたのだから、佐倉さんの反応を目の当たりにした女子二名が、彼女の狼狽ぶりを見逃すハズもなかった。
 
「ふ~ん、匂わせ投稿ねぇ~。わたし、自分の経験上、そういうことする人間をそばに寄せつけないことが、平穏な生活への第一歩だと考えてるんだ。これは、ますますクロに注意するように言っておかないと」

 お父さんの婚外恋愛のため、家族関係が破綻してしまった白草さんには、なにかしら感じるところがあるのかも知れない。

「匂わせ投稿は、相手のことを想っていても、いまの自分たちの関係性に不満があったり、自信を持てない人間がすることが多いべ……」

 SNSの投稿に対する分析力の高さ(鳳花ほうか部長のお墨付きだ)を見せる宮野さんだが、このタイミングでの発言は、佐倉さんに対する死体蹴りにも等しい行為だ。
 上級生と同級生の二人の女子の発言に、言葉を失う佐倉さん。その投稿内容の詳細まではわからないが、編集スタジオにいる彼女以外のボクたち三人は、間違いなく、

(これは、確実にナニかやってるな……)

という確信に近い想いをいだきながら、そのようすをうかがう。
 このまま、気まずい沈黙が続くか、と感じた瞬間、

「またせたな~! お、なんだ? さっきまで、賑やかな声が聞こえてたと思ったら、全員だまったままで? なにかあったのか?」

と、およそ場の空気を読むという雰囲気が感じられないようすで、紅茶とカップを載せたお盆を持った竜司が戻ってきた。
 彼の母親であるつかささんオススメの茶葉で淹れると言っていた紅茶は、普段なら女子たちの関心を引くものだったと思うけど――――――。
 いまは、ちょっと間が悪すぎだ。
 そして、不思議そうな表情で室内のメンバーの顔を見渡す竜司に対して、白草さんが口を開く。

「ちょっと、クロに聞きたいことがあるんだけど。この前、クロが佐倉さんの部屋に行ったとき、二人で写真を撮らなかった?」

 彼女の質問に、お盆をテーブルに置いた竜司は、何かを思い出すような仕草で、あごに左手をあてながら答える。

「そう言えば、《ミンスタ》に投稿するとかで、『一緒に写真を撮ってもらえませんか?』って言われて、スマホで撮影したっけ? それがどうかしたか?」

「やっぱり……クロ、気をつけなさいよ。そ《・》の《・》コ《・》、SNSの裏アカに、あなたとの関係性を匂わせる投稿をしてる可能性があるわよ」

 白草さんは、先ほどの宣言どおり、竜司にキッチリと注意喚起をしたが、当の本人は、ハハハと、豪快に笑いながら、

「モモカが、オレとの関係を投稿? なんの冗談だよ? オレが、女子に相手にされてないってことは、シロが一番良く知ってるだろ?」

と、ラブコメマンガの朴念仁系主人公のテンプレートみたいなセリフで、彼女の忠告を一笑に付す。
 まぁ、発言主の白草さんに、(彼女の本心は別にして)振られたばかりだから、そう言いたくなる気持ちもわからなくはないけど……。
 そんな竜司の態度に、苛立ちを覚えたのか、白草さんが

「クロ! ハッキリ言っておくけど、そういう脇の甘いところが……」

と、声をあげたところで、ピンポ~ン、と再び編集スタジオのチャイムが鳴った。

 ※

 十分ほど前の和やかだった雰囲気が一変し、室内のピリピリとした一触即発の状態から逃れようと、インターホンに向かい、ボクはチャイムに応答する。

「はい、どちらさまですか?」

という問いに応えたのは、ボクたちの良く知るクラスメートの二人だった。

「黄瀬くんですか? 連絡もナシに来ちゃってゴメンナサイ。ちょっと、相談したいことがあって……それと、ウチの副部長と広報部の部長さんから伝言を預かっているので、中でお話しをさせてもらっても良いかな?」

 こちらの応答に答えたのは、我らがクラス委員の紅野さんだ。

「せっかくの歓迎会の途中に申し訳ありません」

 紅野さんの隣で、天竹さんも申し訳なさそうに語りかけてきた。
 ウヤムヤであれ、なんであれ、とにかく、この場を収めることができるなら……そう考えたボクは、

「紅野さんと天竹さんが来てくれたんだけど、二人にも部屋に上がってもらって良いよね?」

と、誰に言うでもなく、確認を取って、クラスメートを出迎えることにした。
 
 そして、こんな風に想像する――――――。

 ボクたちが一年生の歓迎会を開催することを知っていた鳳花部長と、そのことを知った上で、クラスメートの二人を《編集スタジオ》に派遣した寿ことぶき生徒会長は、きっと、位置情報アプリの《Benly》を眺めながら、

「おぉ~、黒田くんと黄瀬くんの居るマンションが、燃えてる燃えてる」

なんて言いながら、この状況を楽しんでいるんだろうな、と――――――。
 広報部に、新入部員が加わったこと以外、二週間の週明けと、まるで変わっていない状況に、ボクは、ため息をつくしかなかった。
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