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第三部
幕間④〜彼女の想いで〜天竹葵の巻
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~天竹葵の見解~
『動画コンテスト』が終わったあとに行われた広報部の花金部長の講評を聞き終えて帰宅し、部屋着に着替えた私は、自室のベッドに仰向けに倒れ込んだ。
広報部や生徒会になかば巻き込まれるようなカタチで、そして、私自身が、完全に巻き込むようなカタチで、文芸部のメンバーに協力してもらった今回のイベントは、肉体的にも精神的にも疲弊することも多かったが、生徒投票でトップの得票数を得られたことで、いまとなっては、その苦労も心地よい疲労に感じられる。
対外試合や他校と競い合う大会の多い、体育会系のクラブや吹奏楽部と違って、校内でも目立たたない活動をしている自分たち文芸部が、全校生徒による投票で、(僅差とは言え)白草さんたちを上回る支持を集めたことは、私自身も予想できない望外の喜びだった。
時間を掛けて取材を行い、各クラブから聞き取った内容をもとに、自分たちなりに考えたテーマを元に制作した動画が、多くの生徒から支持を得ることができたという事実は、文芸部としては異例のイベントであった今回の企画を通じて、私たちの日頃の活動そのものが認められたような気持ちになる。
黄瀬くんや文芸部のメンバーと一緒に、投票結果の発表を喜びあった瞬間のことを思い出すと、あれから数時間が経ったいまになっても、自然と笑みがこぼれてしまう。
そんなニヤケ顔を引き締めるように、自身で両方の頬をパンパンと二度叩き、私は、自分自身の本来の目的をあらためて確認する。
すでに、一年生の佐倉さんに話しをさせてもらったように、私の当面の目標は、友人のノア……紅野アザミとクラスメートである黄瀬くんの仲を取り持つ、ということだった。
自分と同じように、異性との関係に関しては奥手の面がある親友だが、いや、だからこそ、彼女には、その方面で苦労することなく、幸せになってほしい、と願っている。
それには、つねに周囲への配慮を怠らず、勉強やクラブ活動での自己研鑽にも余念のない彼女の高潔な人格に見合った相手が必要だ。
そして、その相手は、気安く告白してきたり、他の女子に目移りしたり、あるいは本人に原因がなかったとしても、お付き合いを始めた後も周囲に女子がまとわりついて交際相手を不安にさせるような男子では問題がある。
黒田竜司というクラスメートを悪く言うつもりはないが――――――。
彼が、私の考えるノアの相手として、除外したいタイプの男子に当てはまってしまうことは、言うまでもない。
春休みに入る直前からあとのことを考えても、黒田くんは、空気も読まずにノアに告白して、彼女を困らせただけでなく、5月の連休明けには別の女子に告白するという愚行を犯したにもかかわらず、いまも何故か、複数の女子が彼にまとわりついている。
これでは、私の親友でなくても、黒田くんを優良物件として薦めることなどできないということは、誰でも理解してもらえるだろう。
その点、私の《推し》であるところの黄瀬壮馬くんは、先に挙げたような心配をする必要がない男子であると言える。
私のこれまでの見立てでは、黄瀬くんは、気軽に女子に交際を迫ったりするタイプではないし、何人もの女子に気を移すタイプでもなさそうだ。
さらに、女子ウケする容姿のわりに、浮いた噂や彼の周りを取り囲む女子生徒が居るわけでもない。
そして、おそらく、ほとんどの生徒が気付いていないのだろうけど――――――。
多くの人のイメージとは異なり、彼が、うちに秘めた優しさを持っていることを私は知っている。
それは、一年生のときに同じクラスで一緒に図書委員を務めていた彼が、なにげなく私にかけてくれた言葉で実感できた。
「図書委員は、楽な仕事だと思ってたんだけど、図書の展示やPOPづくりとか意外と大変なんだね……天竹さんは、不満も言わずに仕事をしているなんてスゴいよ……そうだ、ボクたち広報部の活動に役立つかも知れないから、効果的なPOPの作り方とか教えてくれない? 天竹さんの作ったPOPを見ると、思わず、その本を手に取ってみたいと思うからさ」
黄瀬くんの見解とは異なり、私としては、文芸部の活動とつながりを感じる図書委員の業務は苦にならないものだったのだが、その業務のひとつとして行っていたオススメ本のPOP作りを褒めてもらったことをとても嬉しく感じたことを覚えている。
自分としては、ひとりでも多くの生徒に、自分のオススメする本を手に取ってみたいと、デザインや文面を考えたのだが、その努力が報われた気がしたからだ。
自分の想いを受け取ってくれる人が居るということを実感できるだけで、心が踊るように弾むことを、私は実感した。
それは、黄瀬相馬くんというクラスメートが、密かに私の《推し》という存在になった瞬間でもある。
こんな風に、私の親友のことを理解してくれる男子なら――――――。
自慢の親友と、自分の《推し》である男子が交際をしてくれたなら――――――。
そして、そんなふたりを、そばから見守ることができたなら――――――。
こんなに嬉しいことはない。
一年生の頃から、そう想い続けた私の想いが、少しずつ理想に近づきつつある。
そのことに喜びを感じながら、第三者の視点からも、現状の把握をしておこうと、私は自分の想いを共有している下級生に連絡をすることにした。
『動画コンテスト』が終わったあとに行われた広報部の花金部長の講評を聞き終えて帰宅し、部屋着に着替えた私は、自室のベッドに仰向けに倒れ込んだ。
広報部や生徒会になかば巻き込まれるようなカタチで、そして、私自身が、完全に巻き込むようなカタチで、文芸部のメンバーに協力してもらった今回のイベントは、肉体的にも精神的にも疲弊することも多かったが、生徒投票でトップの得票数を得られたことで、いまとなっては、その苦労も心地よい疲労に感じられる。
対外試合や他校と競い合う大会の多い、体育会系のクラブや吹奏楽部と違って、校内でも目立たたない活動をしている自分たち文芸部が、全校生徒による投票で、(僅差とは言え)白草さんたちを上回る支持を集めたことは、私自身も予想できない望外の喜びだった。
時間を掛けて取材を行い、各クラブから聞き取った内容をもとに、自分たちなりに考えたテーマを元に制作した動画が、多くの生徒から支持を得ることができたという事実は、文芸部としては異例のイベントであった今回の企画を通じて、私たちの日頃の活動そのものが認められたような気持ちになる。
黄瀬くんや文芸部のメンバーと一緒に、投票結果の発表を喜びあった瞬間のことを思い出すと、あれから数時間が経ったいまになっても、自然と笑みがこぼれてしまう。
そんなニヤケ顔を引き締めるように、自身で両方の頬をパンパンと二度叩き、私は、自分自身の本来の目的をあらためて確認する。
すでに、一年生の佐倉さんに話しをさせてもらったように、私の当面の目標は、友人のノア……紅野アザミとクラスメートである黄瀬くんの仲を取り持つ、ということだった。
自分と同じように、異性との関係に関しては奥手の面がある親友だが、いや、だからこそ、彼女には、その方面で苦労することなく、幸せになってほしい、と願っている。
それには、つねに周囲への配慮を怠らず、勉強やクラブ活動での自己研鑽にも余念のない彼女の高潔な人格に見合った相手が必要だ。
そして、その相手は、気安く告白してきたり、他の女子に目移りしたり、あるいは本人に原因がなかったとしても、お付き合いを始めた後も周囲に女子がまとわりついて交際相手を不安にさせるような男子では問題がある。
黒田竜司というクラスメートを悪く言うつもりはないが――――――。
彼が、私の考えるノアの相手として、除外したいタイプの男子に当てはまってしまうことは、言うまでもない。
春休みに入る直前からあとのことを考えても、黒田くんは、空気も読まずにノアに告白して、彼女を困らせただけでなく、5月の連休明けには別の女子に告白するという愚行を犯したにもかかわらず、いまも何故か、複数の女子が彼にまとわりついている。
これでは、私の親友でなくても、黒田くんを優良物件として薦めることなどできないということは、誰でも理解してもらえるだろう。
その点、私の《推し》であるところの黄瀬壮馬くんは、先に挙げたような心配をする必要がない男子であると言える。
私のこれまでの見立てでは、黄瀬くんは、気軽に女子に交際を迫ったりするタイプではないし、何人もの女子に気を移すタイプでもなさそうだ。
さらに、女子ウケする容姿のわりに、浮いた噂や彼の周りを取り囲む女子生徒が居るわけでもない。
そして、おそらく、ほとんどの生徒が気付いていないのだろうけど――――――。
多くの人のイメージとは異なり、彼が、うちに秘めた優しさを持っていることを私は知っている。
それは、一年生のときに同じクラスで一緒に図書委員を務めていた彼が、なにげなく私にかけてくれた言葉で実感できた。
「図書委員は、楽な仕事だと思ってたんだけど、図書の展示やPOPづくりとか意外と大変なんだね……天竹さんは、不満も言わずに仕事をしているなんてスゴいよ……そうだ、ボクたち広報部の活動に役立つかも知れないから、効果的なPOPの作り方とか教えてくれない? 天竹さんの作ったPOPを見ると、思わず、その本を手に取ってみたいと思うからさ」
黄瀬くんの見解とは異なり、私としては、文芸部の活動とつながりを感じる図書委員の業務は苦にならないものだったのだが、その業務のひとつとして行っていたオススメ本のPOP作りを褒めてもらったことをとても嬉しく感じたことを覚えている。
自分としては、ひとりでも多くの生徒に、自分のオススメする本を手に取ってみたいと、デザインや文面を考えたのだが、その努力が報われた気がしたからだ。
自分の想いを受け取ってくれる人が居るということを実感できるだけで、心が踊るように弾むことを、私は実感した。
それは、黄瀬相馬くんというクラスメートが、密かに私の《推し》という存在になった瞬間でもある。
こんな風に、私の親友のことを理解してくれる男子なら――――――。
自慢の親友と、自分の《推し》である男子が交際をしてくれたなら――――――。
そして、そんなふたりを、そばから見守ることができたなら――――――。
こんなに嬉しいことはない。
一年生の頃から、そう想い続けた私の想いが、少しずつ理想に近づきつつある。
そのことに喜びを感じながら、第三者の視点からも、現状の把握をしておこうと、私は自分の想いを共有している下級生に連絡をすることにした。
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