ローズフィアの物語 青銀の聖女

ひしん

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黒髪の異端審問官

黒髪の異端審問官(7)

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 子供が去ったあとにはシャーレンとロゼスの二人だけが残された。
 シャーレンは隣にたたずむ男の様子をうかがった。わからない、と思う。
 異端審問で何が行われているかを知っている。ロゼスはいつも穏やかで、誰にでも親切に丁寧な対応をしている。今日のようにシャーレンを手伝ってくれもする。けれど、彼は異端審問官で多くの人間を拷問にかけ、火刑台に送っている人間の一人なのだ。
 ……それなのに。
 病人をやケガ人と接するロゼスの眼差しは、本当に穏やかでやさしく見えた。
 それに、今も。――堕天者を異端審問官が助けるなど、あってはならないことのはずなのに。

「……どうして手を貸してくれたのですか?」

「神は子供一人に揺らぐような存在ではありません。それより……ケガをしていらっしゃるようですが。あの子供ですか?」

 言われてシャーレンは腕の傷を思い出した。

「……いえ。自分の不注意でつけた傷です」

 答えるとロゼスは微笑んだ。

「シャーレン様は噂にたがわぬお人柄ですね。随分とおやさしい」

 「失礼します」と断りをいれ、ロゼスはシャーレンの手をとった。
ぽう、と光る暖かな光。次の瞬間には傷は跡形もなく消えた。

「……ありがとう」

 これだけの力。こうやって多くの人々を助けるのに使えるのに、普段は異端審問に使われているのだ。拷問にかけた人間を治癒し、また拷問にかけるために。

「……」

 シャーレンはロゼスの手を苦しげに見つめた。

「……何か?」

「……いいえ。何でもありません」

「何でもないようには見えませんでしたが。何かおっしゃりたいことがあるのではございませんか?」

「……普段は異端審問に使われているのですね、その力」

「それが僕の仕事ですので」

「貴方はそれで満足なのですか、ロゼス」

「……神への背信者を暴き、救うのも立派な仕事の一つですよ。シャーレン様」

「……本当に……貴方は本当にそう信じていますか?」

 シャーレンはじっとロゼスを見た。ロゼスは黙ってシャーレンの目を見返した。シャーレンへとまっすぐに向けられるその漆黒の瞳からは、やはり何の感情も窺い知ることは出来ない。
 しばらくの沈黙の後、ロゼスはにっこりと微笑んだ。

「――もちろんです。シャーレン様」
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