空が青ければそれでいい

Jekyll

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「威乃…」
名前呼ばれてハッとなった。知らん間に爆睡。
しかも風間の肩に思いっきり頭預けて、何ゆったりモードなん!?俺…。
「着いた」
「ここ…」
到着したのは思いっ切り賑やかな繁華街なんですけど。大丈夫かよ、コイツ。
風間が電車降りるから仕方なく後に続くけど、ここに何があるんか、ここに来た意味さえ分からん。
「なぁ、風間…何なん一体。どこ行くねん」
「ええから黙っとれ」
はぁ?黙れと来たか、後輩。
あり得んやろ、いきなり場所も告げんと電車乗って、降りてどこ行くんか聞いたんに事もあろうに黙れと。
調子乗り過ぎやろ。
「俺、帰る」
「あかん」
俺様もここまで来たら清々しいわ。俺って人間の主張無視。
何であかんとか言えんねん。

駅出て、ちょっと路地に入る。俺の住んでる街とはまたちゃう。
どうやってのし上がるかみたいな、そんなん考えてる生気ある奴らが見える。
何もかも捨てて、何もかもよくなった奴らとはちゃう。
姉ちゃんも煌びやかで、まだ夢持ってる。無駄やなんて微塵も思ってない。そんな奴らがおる街。
「着いた」
「は?」
路地抜けた表通り。隣近所とは比べ物にならんような、一際目立つ立派な構えのビル。
は?なに、ここに来たかったんか?ってか、ここ…どこ?
「風間?」
「大丈夫や、来い」
何が!?とツッコみたかった。
高校生が入るには似つかわしくない、やたら豪華な回転ドアを抜け中に入る。
大理石が敷き詰められた床に、外が見渡せる場所にあるソファーとテーブル。
一面ガラス張りの窓はマジックミラーになってたみたいで、外から中の様子が見えんようなっとった。
どう考えても場違い!!やのに、気後れする事なく、風間は正面の受付に向かう。
受付カウンターにはグラビアアイドル並みの姉ちゃんが二人、にこやかな表情浮かべとった。
「こんにちは。ご用件をお伺いいたします」
表情は満面の笑みやけど、腹ん中は“ガキが何しに来てん”思うてるはず。
あんまりってか、全くそういうとこ入ったことないから知らんけど、どうやらここは会社みたいや。
「梶原さんおる?」
風間がニコリともせんと言う。
顔ええのに、あの氷みたいな表情があかんなぁ…。見てみぃ、受付の姉ちゃん引いとるがな。大体、梶原って誰やねん。
「梶原でございますか?失礼ですが、アポイントはお取りでございますか?」
こないなガキに上品な敬語使わなあかんて、大人も邪魔くさい生き物やなぁ…。
つうか、なんでこないなとこ連れてこられたんやろ。オカン…オカンのことあんのに…。
はぁ…と溜め息ついて、ぐるりと辺りを見回す。
受付の奥にエレベーター。たっかい天井を見ると、二階まで吹き抜けらしい。
二階から下が見下ろせるようになってて、壁際に二階に上がる階段がある。やたら立派。この会社に何の用よ。
アホみたいな顔して上を見上げとったら、人影が見えた。
「風間…」
その人影に、思わず風間の肩を叩く。
紺のダブルのスーツにサングラス。見るからに…のソイツはこちらに気が付き、一瞬、眉を顰めた。
俺は、風間を呪った。だって…あれ…どう見ても堅気の人間やないやろっ!
どこに連れてきてくれてんねんっ!風間っ!
ソイツはカンカンと高い靴音鳴らしながら、二階から降りてくる。
喧嘩馴れしとる。それなりに拳交わしてした。修羅場やってあったし、こないだみたいな袋にされたんも初めてやない。
でもなぁっ!!俺らのんなんか、所詮ガキの喧嘩。拳の重たさも、それ商売にしてる奴らとなんか、比べもんにならんっ!ってか、ここに何しに来てん!
人の気も知らんで、いかにもそっちの人間ですって言わんばかりの奴が、遂に風間と俺の前に来た。
「風間…!」
ソイツはグラサン外してこっち見る。どうせなら、グラサン外さんといて欲しかった。
その目は、闇に沈んだ人間の目やったから…。
「お疲れ様です!!!!!!!」
やたらでかい声に、身体がアホみたいにビクリとした。いやビビるやろ。
ソイツはいきなり身体を90度に折り曲げて、デカイ声で挨拶してきたんやし。
でも、いつからこないにビビりなったんやろって、ちょっと泣きそうなった。自分の不甲斐なさに。
「お疲れ…梶原さんは?」
「上に居ますけど、言うてくださったら迎え行きましたのに。ここに来るなんて滅多にないでしょ」
「ええねん。上あがるで」
「はい。こちらどうぞ」
俺の目の前で繰り広げられる、意味の分からん会話。
ってか、何、この立場逆転みたいな違和感。風間は何も変わらん。いつもみたいに何も考えてへんみたいな、堂々たる態度。それに頭下げるダブルのスーツ。
いや、何これ!
「行くぞ、威乃」
呆気に取られた俺の手を、風間が引っ張ってくる。思考回路…煙あがってんで。

エレベーターに押し込まれ、無機質な箱の中に違和感バリバリの三人。
押された階は最上階の10階。
「クラスメートですか?珍しいですね、誰かと一緒やなんて」
ダブルのスーツが、風間の後ろに隠れてる俺をヒョイッと覗き込んだ。
先輩じゃ!ボケェ!と言う口もない。
何がどうなってんのかさっぱりで、知らん家に連れてこられた猫みたいに風間に繋がれた手も離さずしっかり握る。
恥も外聞も知らん。このビル全部がやばいビルいうんは、何や、感じ取った。ヤンキーの勘…?
「威乃は俺の先輩や、柴田」
俺の変わりに風間が訂正する。せや!先輩やぞ!と、心の中で同調した。
「えっ?ホンマですか?すんません、失礼言うて。てっきり同級生なんやと。しっかし可愛らしい顔してますねぇ。名前もよぉ似合うとるわぁ」
俺に謝った!?こないなガキにっ!失礼言うてって!?益々分からん!一体何やここ!
顔の事や名前の事言われたけど、突っかかる勇気がない。ヘタレと呼んでくれ。
あっ、でも、実はこの柴田いう人、人相悪いけど一般人?俺の偏見か?人は見かけで判断すんな…。オカンの口癖や。

エレベーターがチンッていう小さい音と共に、目的の階に止まる。くだらん事考えてた、俺の思考もそこで止まる。
一気にドアが開いて、柴田って人が前を歩き、俺は風間に手引かれてガキみたいについて行った。
一階とは雰囲気が全然違う。フワフワの絨毯が引き詰められてて、重厚そうなドアが二つ見える。
柴田さんは、その片方のドアの前に立ち止まり軽くノックをした。
「柴田です。失礼します」
ガチャリとドアが開けられ柴田さんがドアを開いたまま、まるでホテルのベルボーイのように頭を下げて俺らを迎え入れた。
黒で統一されたオフィス。広い部屋の奥に、やたらデカい机が見えた。
その前に座ったら埋もれそうなソファと、地震があっても動かへんのんちゃうんかいうくらい、立派なテーブル。
な、何やここ。
「何や…来るなら言うてください。迎えやりましたのに」
柴田さんと同じ事を言う声が聞こえる。バリトン利いた落ち着いた低い声。
恐る恐る風間の後ろから顔出すと、黒の髪をオールバックにして黒のダブルのスーツに身を纏った、絶対堅気やない男が立ってた。
長身でスーツの上からも分かる、鍛えられた体躯。鷹のように鋭い目が俺を射抜いた。
「友達ですか?珍しい事もある」
「まあな…ちょっと頼みあって」
風間は俺の手引っ張って、そのままソファに座らせた。俺は風間が離れるっ!と不覚にも両手で風間の手を握ってた。
よっぽど情けない顔しとったんか、風間は少し呆気に取られてた。
「えらい怯えてますね」
笑いを含む言い方で、そいつは俺の前のソファに腰掛ける。
そら怯える。いきなり堅気やない奴。しかもチンピラとはほど遠い、かなり上の奴がドンッと目の前。挙げ句、場所は事務所。
そのシチュエーションでいつもの態度でおれる高校生おったら、ソイツはただのアホや。
「えっと…?」
「秋山威乃や…先輩や」
風間はそう言って、俺の隣に腰掛けた。それに、少し安堵する。
「先輩?年上なんですか?後輩かクラスメートかと」
本日二回目。何とでも言え。
「龍大さん、話してないんですか?ここまで連れてきといて」
”龍大さん”って誰の事?一瞬、本気で分からんかった。
どう見ても、あっちのが立場上のはずやのに、ヤーさんは風間を”さん”付けで呼んだ。
「ああ。何となく」
な、何を?何を話してないん!?俺売られんの?臓器バラバラ!?シャブ漬けとか、男専門の売りさせられんの?
だから昨日、あんな事して調教したんか!
「風間…騙したな、貴様」
恨みたっぷりで風間を睨みつけると、何が?とばかりの顔しよる。確信犯かっ!
「威乃さん、龍大さんはここ、仁流会風間組の組長の息子さんですよ。だから、威乃さんに危害加えたりせんから、そないに怯えんといてくれます?」
「え?じんりゅう…え?…仁流会。仁流会?じ、…じ…仁流会!?ここ、風間組なん!?」
きっと俺の顔は顔面蒼白。
オカン、人は見かけで判断せなあかんみたいやわ。
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