空が青ければそれでいい

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仁流会風間組。関西を拠点に活動する日本一勢力のデカイ、広域暴力団。
その名を知らん国民は数少ない言うても過言やない。というより日本国民なら、一度は聞いた事ある名前かもしらん。
1992年に暴対法が施行され、肩身狭なったはずの暴力団。そのご時世に風間組は当時仁流会のトップの仁流会会長である佐渡組に、戦争を仕掛けた。
佐渡組はシャブに大麻などの違法薬物売買、闇金に売春、時には人身売買までする悪どさを極めた組やった。
堅気の人間すら巻き込み、昔の任侠道なんかフル無視して極道の頂点、即ち日本で一番勢力のデカイ仁流会の会長の座を手にし長年君臨してた。
極道界を牛耳ってきた佐渡組はその悪どいやり方で敵も多かったものの、圧倒的な構成員の数で戦争なんか金と時間の無駄と仕掛ける組はおらんかった。
戦争なんかしても勝ち目無いって事や。それは盃を酌み交わした風間組も佐渡組の傘下に入ってたから、わかってたこと。分かってたことやのに、風間組組長に就任して間のなかった風間龍一は盃を無に返し、あろう事か佐渡組に戦争を仕掛けたのが始まり。
これが世に言う、仁流会、平成の下剋上。通称、平成の極道戦争。

連日連夜マスメディアがその抗争を報道し、莫大な数の警察が動き、関西は揺れた。
叩き潰されると思っとった風間組は、暴力でのし上がった佐渡組とは違い頭脳明晰と呼ばれる風間龍一がぞの頭脳をフルに使い、佐渡組を翻弄した。
結果、関西一と謳われた佐渡組は、大きいとは言えん風間組に数日で叩き潰された。
そして佐渡組は風間組の告発により、次々と幹部クラスの逮捕者が出た。
これは任侠の世界では御法度。戦争に勝ったと言えどヤクザの敵と言って過言無い警察に、同じ穴の狢の佐渡組を売り渡したんやから。
とは言え、佐渡組ののし上がる為ならどんな非道な手も使い、筋も立てん礼儀のなさ。それを快く思ってなかった仁流会の中から、風間組に物言いする奴はおらんかった。
悪の全てをやり尽くした佐渡組は、叩けばイヤと言うほどホコリが出て政界との繋がりまで芋づる式に掘り出され、極道の世界だけでなく政界までを揺るがした。
佐渡組は組長、佐渡肇の逮捕により解散。風間組は仁流会会長の座を手に入れた。
その風間龍一の息子が、風間…。
「最低最悪…風間」
「いきなりなんや」
「最悪やろ!!関西一の極道の息子やぞ!!その辺の会社の社長のがマシやったわ!ふざけんな!先に言えやっ!!そしたらお前…」
ケツ触らしたり扱かしたりせんかったわ!…は、さすがに声に出せず、伝わるんか分からん口パク。
「組は関係あらへん。俺はまだガキやし、普通の高校生の風間龍大や。第一、組のこと言うたら威乃は警戒したやろ」
それが普通の反応やろ。
別にええ…連れとか後輩なら、親がヤクザやろうがお巡りやろうが別荘入ってようが、そいつはそいつ。俺のポイントそこちゃう。
お前…昨日一昨日と俺に何してん!?喘いでイッといて言うんもなんやけど、ケツの中まで…中まで。
「隠し事すんなっ!ボケェ!」
と、思わず風間の頭をガツンと殴った。そこで我に返る。ここ…風間組。
風間はきっと時期に若頭なって、組長なる男…の頭ガツンやて。あかん…ドラム缶にコンクリ詰めされて、大阪湾沈むんや。
「ふふ…龍大さんが殴られてんの、初めて見ましたわ。ああ、申し遅れました。若頭補佐の梶原秀治いいます」
ご丁寧に名刺を出され、思わず立ち上がり受け取る。紙切れの名刺に異様な重みを感じるん、何ででしょう。
「わ…若頭補佐って…何?」
ボソッと風間に聞けば風間はタバコを取り出して、銜えてそっぽを向いた。
な、何やそれ!
「言いたないんですよ。まだ龍大さん高校生やから若頭の正式な名を受けてませんけど、いずれは若頭。色々一人じゃこなせん事もあるでしょう?それを助けるんです」
梶原さんが、にっこり微笑んで教えてくれた。何や…何やそれって…。
「お前一人じゃ何も出来んみたいやん」
あ…っと声に出したこと後悔。チラリと風間を見ると、あの目で俺を睨みつけてきた。
やめて…引くわ。その迫力。
「で?わざわざ何ですの?会社まで」
梶原さんが風間の前に上品な陶器の灰皿を差し出した。こないな皿、うちじゃあ飯もよそえん。家宝になるわ、豪華過ぎて。
「ああ…威乃の母親捜して。ヤバい事なってるみたいや」
「風間っ!」
急な振りにこっちが焦る。
何言うてんねん、コイツっ!焦る俺を無視して、梶原さんと風間は当事者抜きの話をし出した。ご、極道いうんはみんなゴーイングマイウェイか。
「はあ…親ですか。両親?」
「母親。知り合いに助け求めとるみたいやわ」
「何かややこしいんですか?」
「さぁ…」
さぁ…ってアンタ…そりゃないやろ。
手掛かりも無く、この広い町から一人の女探せって、お前は何でそんな偉そうに言えんねん。
「威乃さん?」
梶原さんは聞いても無駄や思ったんか、俺に振ってきた。
話してええんか悪いんか…。
「悪いようにはせん。梶原は使える奴やから、親見つけて欲しかったら早よ言え」
絶対に30歳は超えてる梶原さんに、使える”奴”って…。よう遠慮無しに言えるわ。
ってか梶原さんもその言葉に嫌な顔一つせん。俺なんか”早よ言え”ってエラそうに言われて、キレそうやのに。
大体、この中で一番年下のオマエが、何で一番エラそうやねんって!!でも、ここで熱なってもしゃーない。
一つ、深い深呼吸をして、俺はポツリと言葉を零し始めた。
「秋山愛って言います。知り合いに手紙送ってきて…助けてくれ殺されるって。おかん…2ヶ月前に男の親に会いに行く言うて家出たっきりやから」
「ほぅ…殺されるねぇ」
梶原さんの目の奥が、ギラリと光った気がした。
久々に見つけたオモチャ見たみたいな、そんな目。
「男の名前とか知りませんの?」
「本名かは分からんけど、オカン、そいつのこと純ちゃんって呼んでた。俺も1回しか会うてへんし…で、ここに傷あんねん」
俺は梶原さんに、目尻からの傷を指でなぞってみせた。
こないなとこに傷ある男なんか、ごまんとおる。でも、それしか今の俺には分からん。
何でもっと止めんかったんや。
何で連絡先聞かんかったんや。
何で自分からおかんの携帯に電話せんかったんや。
何で…何で。
挙げたらキリない後悔。
もし…おかん死んでたら…。ゾクリと、言いようのない不安と恐怖が身体を襲って、身震いした。
風間がそれに気ぃついたんか、俺の手をギュッと握ってきた。
「見つけたる。ちゃんと逢わしたるから、心配すんな」
「風間…」
「俺を誰や思ってんねん。仁流会風間組組長の息子の風間龍大やぞ」
力強い双眸。何人たりとも敵わん、てっぺんに立つ男の双眸。
俺は黙って頷いた。
「威乃さん、お母さんの勤務先教えてくれますか?そっから当たりましょう」
梶原さんがニッコリ微笑んだ。

まさか探し出して、はい見つかりましたなんか子供の隠れんぼやあるまいし、そないな訳にもいかん。
俺は風間と共に家まで帰らされる事なった。フルスモ高級ベンツで…。
ええな、ベンツ。混んでる道も、何故かスイスイ走れる。微妙な感じやけど、まぁええわ。
「俺んち来たら?」
隣に座る風間の誘い。
「嫌じゃ」
次こそケツ掘られる。貞操の危機いうやつやな…。男として微妙…。
「まあええわ」
風間は小さい溜め息を漏らしたが、聞かん振り。
ってか、ただの後輩やのうて、あないな組の次期若頭なんて知ったら死んでも貞操守るっちゅうねん。
「着きました」
運転席から声がして、俺のアパートの表通りなんが分かった。
「じゃあな…」
こないな場所にドカンと止められたら、何事やと注目浴びる。
路地入ったら、チンピラやらなんやおる街やのに。アパートの前やのうて良かった。
サッサと降りて、早よ行けと風間に合図送った。風間は少し肩を竦めると、車を出せと言うたんか車はスッと動き出し、あっという間に見えんようなった。
路地入って、アパートに向かう。
刑事は何か掴んだやろうか?おかんは見つかるんやろうか?
あのグチャグチャの文字が頭から消えんで、頭を振る。悪い考えばっかり…頭を過ぎる。
「…最悪や」
「最悪なんは俺じゃボケェ。何時間待たせんねん」
頭上に降りかかった言葉に頭をあげると、アパートの二階。
俺の部屋の前の、今にも腐り落ちそうな鉄の柵に凭れ掛かったハルがおった。
「…ハル」

狭い部屋の中に漂う、重たい空気。部屋に入ってもハルは無言。
彰信がここにおったら間違いなく、この緊張感にショック死してる。
「…ハル」
「どこ行っててん、学校フケて」
怒り度マックス。久々見た。ハルのマジギレ。
「いや…ちゃうねん」
「何が」
「おかんが…行方不明やて、刑事が学校来てん」
「愛さんが!?」
ハルはちょこちょこ家来てるから、おかんともよう知った仲やった。
俺らから見たらおばはんやけど、ハルがおばさんと呼んだら皿を投げつけて出入り禁止されたいんかと凄んだ過去があり、以来ハルは愛さんと呼んでる。
迷惑な話や。
「だって、男と親に会いに行ったって…」
「殺される、助けていう手紙が、知り合いんとこに来てん。で、サツ動いてんねん」
「マジかよ…」
「言うん…遅なってごめん」
しばしの沈黙。ハルも困惑してる風。
そりゃそうか。行方不明やもんな。サツまで動くって、普通やないよな…。
「で、サツにおったんか」
「あ、いや、風間…」
言うた瞬間、稲妻走ったみたいに、俺とハルの間にピシッという亀裂が入った感じした。
ハルの顔つきがヤバいもんなってて、話の流れで思わず口にしてもうた俺は自身を呪った。
「風間…?」
「あ…あの」
ピクピクと、ハルの顳谷が痙攣しとるんが解る。
ハルに何も言わんで、挙げ句嘘ついて、風間に近づいた。
でも、俺の方からやない…風間から…って同罪か。怒るんは当然か…。
「何で風間の名前が、威乃の口から出てくんねん」
「さ、さぁ…何ででしょう…」
「殺すぞ」
あかん…言い訳思いつかんし、逃げれそうにもない。もう薄情せなあかんのか…。
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