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神原が帰って少し部屋を掃除してから万里を覗いたが、やはり死体のようにピクリともしない。
実は薬が効き過ぎて、心臓発作を起こしてベッドの中で冷たくなって居た。とか本気で笑えない。
あまりに起きないし動かないので雷音は万里に近付くと、そのピクリともしない身体を揺すった。
とうに死んでいて、冷たい身体…にはなっておらず、ほかほかと子供の様に身体は暖かかった。
そっと顔を覗き込むと、薄暗い中、長い睫毛がピクッと揺れたのが見えた。
無用な心配だったようで、当たり前だしそうでないと困るが、生きている…。
「いい加減に起きてください」
生きてはいるだろうが、ここまで動かないのはさすがに気持ちが悪い。雷音は万里の身体をゆっくり揺さぶった。
するとギシギシと音が鳴ってもおかしくないくらい重たそうに、目蓋が開いた。
そして顔を出した赤い目が雷音をチラッと見て、また姿を隠そうとするので、雷音はその華奢な身体をまた揺さぶった。
「ちょっと…」
「もー、お薬はイヤや」
消え入る様な声を出して、ラグに包まって猫の様に丸くなる。すっかり怯えている様に見える万里が少し可哀相になって、雷音は万里をラグの上から撫でた。
「すいません。本当に、ここまで効くとはね。起きれますか?」
「ふわふわしとる」
「大丈夫、身体は宙に浮いてませんよ」
「…なんそれ、冗談かいな」
万里はもそもそとラグから這い出て来ると少し笑ってみせ、やはり重たそうに身体を起こした。
頭がぼんやりしているのか身体に力が入らないのか、またすぐにベッドに寝転がりそうな背中に手を添えてナイトテーブルに置いていたコップに手を伸ばした。
「どうぞ」
「なに?お茶?」
虚ろな目でそれを見て、万里はぷっと吹き出した。
「執事?」
「執事でも何でもいいから。ほら、目が覚めますよ」
万里は雷音の差し出したそれに恐る恐る鼻を近付けた。こういうのどこかで見たなと思ったら、店の裏口に居た野良猫だ。
手を差し出すと、警戒心いっぱいの目を向けて首だけをにゅっと伸ばして雷音の指先に鼻先を付けて匂いを嗅ぐ。まさにそれ。
「自分で持ちなさい」
雷音が叱ると、万里は唇を尖らせて耐熱ガラスのコップを手にした。ゆらゆらと上がる湯気を見ながら、万里の目と同じ赤い色をしたそれを、どこか訝しんでいるようだ。
「熱そう」
猫舌か?まんまじゃねーかと可笑しくなる。
万里はフーフーと子供の様にコップに息を吹きかけて、恐る恐る口先をつけた。
「酸っぱ!!」
まるで猫が毛を逆立てる様にビクッと震えて、抗議の目を雷音に向けて来る。それに雷音は首を傾げた。
「ローズヒップティー、初めて?」
「ローズヒップティー?ローズ?ん?バラ?」
「そうそう、リラックス効果があるからいいんだと思ったんだけど?俺ね、珈琲と紅茶はすごい好きで。種類は豊富なんで、欲しいのあったら言って下さい」
「はぁ?紅茶とか飲まんし」
万里は初めて飲むローズヒップティーを、ゆっくりと嗜む。嫌いではないようで、雷音はそれにホッとした。
少しだけ万里の顔に顔を近付けてみると、薔薇の香りが漂う。
ルビー色の目と薔薇の香り。万里に似合うなとフフッと笑った。
「これ、天然ものなんですよね。仕入れたばっかりなんだけど、いい匂いだと思いません?」
「せやなぁ」
「あ、そっか。京都だから、お茶とかの方が好き?」
「お茶は好きやけど…」
「勉強しときますよ。とりあえず、シャワー浴びてきてください。晩御飯にしましょ」
「は?晩?」
「もう、夜なんですよ」
「ほんまや…」
窓から覗き見える外の暗さに唖然としている。確かに、あんな泥の様に眠れば時間の感覚も狂うだろう。
「大丈夫ですか?」
雷音はナイトテーブルに置いてあるスタンドライトのスイッチを入れた。
やんわりとした明かりが灯り、万里の顔を照らした。明るさをかなり抑えている照明だが、寝起きの万里にはキツいのか顔を顰めた。
自覚が無いほどに寝すぎたせいでか、両目が充血していて元から黒目が赤い左目は大変な事になっていた。
「大丈夫?目、見える?」
「は?ああ、うん。ちょい、ぼやけとる。…いや、ちょい見えてへんかも。へっちゃらや、すぐに見える様になる」
万里は左目を擦りながら、ローズヒップティーを飲み干して伸びをする。細い身体の骨が、ポキポキと音を鳴らした。
「風呂、入れます?」
「一緒に入ってくれるん?」
「いや、俺、飯の用意するんで」
「そないなん?つまらんわぁ」
万里は本気なのか冗談なのかとも言えない顔で笑って、ベッドから足を下ろすとゆっくりと立ち上がった。
「何や、ぐるぐるしとる」
そう言う万里の姿は、Tシャツ一枚の艶かしい姿。Tシャツの下から白い足が露になっていて、雷音は思わず赤面してしまった。
これが同じ男の足かと感心するほどに、白く細い脚。筋肉隆々というわけでもなく、だが細すぎるというわけでもない。
雷音は思わず手を伸ばして、その足を撫でた。
「お触り禁止やえ」
万里は少しだけ振り向いて、妖艶に笑う。
「いや、細いし綺麗だなぁと思って」
「おなごみたいで好かんのや」
万里は少しだけ膨れてみせた。やはり女じゃないのだから、そんな言葉で喜ぶはずもない。
それに万里は極道で、若頭で、常に暴力と一緒に居るのが当たり前のような状態…それで綺麗だの細いだの言われても…。
「そうですよね。うん。あ、風呂、使い方を教えるんで来て下さい」
雷音は万里をバスルームへ案内する。広々としたバスルームにご満悦の万里は、雷音が居るにも関わらず服をぽんぽん脱ぎ始めた。
「ちょっと!」
「なんやの今更。それに男同士やで」
確かにそうだ。今更だし、男同士だ。何ら問題はない。
それがただの男同士の知り合いで、何の感情もない相手ならばだ。肌を重ねて、その身体の中の熱さまで知った相手は別だ。
だが相手は万里。そういうことを易々と受け入れる性質で極端な話、自分が良ければ往来を裸で歩きそうな剛腹さのある男。そんな男に何を言っても、万里にはとっては本当に”今更”なのだ。
「あんた…疲れる」
「失礼やなぁ」
雷音は脱力して、風呂の使い方とバスタオルの場所だけ教えると、バスルームから出て行った。
性格が元々、豪快なのだろう。
そうだ、雷音と寝たのだって初めてだというのに、何の恥じらいもなくただ欲望のままに乱れた。
躊躇いなんて微塵もないまま。いや、躊躇いなんて持ってしまったら終わりなのかもしれない。
いつ死ぬのか、いつ襲われるのか、いつ何があるのか分からない世界に身を置いている万里にとって、一瞬の躊躇いが一生を終える事になることだってあり得るのだ。
儚いように見えても万里は極道の世界に生きる人間であって、雷音とは別世界の人間なのだ。
「俺とは違う人間」
雷音は自分に言い聞かせる様に呟きながら、台所に向かった。
万里が風呂を堪能してご満悦であがってくる頃には、部屋には良い匂いが立ち籠めていた。
さすがに泥の様に眠っただけあって、万里の胃袋はその匂いに悲鳴をあげるようにして鳴いた。
「あんはん、ほんによぉ出来やはった嫁やねぇ」
「うわ!髪の毛拭けよ!」
ぼとぼとと雫を落としながら万里は雷音に近付いたものだから、雷音は思わず声を荒らげた。
バスタオルを頭に被せたまま、雫をぼとぼとと垂らす万里の頭を掴む様にして雷音は拭いだす。
「あいたた」
「子供じゃないんですから」
「やて、腹減って」
雷音が用意した部屋着は大き過ぎたのか、服に着られている状態の姿に雷音は思わず笑う。
大きな服と、べちょべちょの髪の毛。これはもう、子供以外の何者でもないな。
「もう出来るから、座っててください」
「んー」
あらかた髪の毛の雫を吸い取って言うと、聞いているのかいないのか、生返事をしながら万里はソファに向かう。
そのソファの上に置かれたボストンバックをごそごそ漁り出したかと思えば、着ていた上着を脱ぎ出すものだから驚いた。
ブランド物の派手な色のアンダーウェアとラインの綺麗な腰と背中。首のタトゥーがエキゾチックで、思わず舌打ちする。
試されているのか、忍耐力を養わされているのか。
「おい、何してんの」
「湿布」
「は?」
振り返る万里を見れば、胸と腹とにどす黒く変色した痣が出来上がっていた。それがちょっと打った程度のものでないことは、その範囲の広さから分かる。
雷音は思わずそれに顔を顰めて、コンロの火を止めた。
風呂に入る時には気が付かなかったが、顔だけじゃなく身体にも派手に傷を作っている。痛々しいそれに自分の腹がむずむずしてきた。
「貼りますよ」
「あ、そう?」
「他にはないですか?」
「多分な」
ソファにごろんと寝転がる万里の変色した肌を撫でると、万里の身体が少しだけ撥ねた。
「い…ったー」
「ごめん」
「あいたた…痛いわぁ」
へらっと笑うその顔がいつもよりも頼りなくて、雷音はその髪を撫でた。
綺麗な顔も傷で台無し。綺麗な身体も痣だらけで痛々しい。本当に、何がよくて極道なんて…。
「無茶しないでよ」
「ふふ、心配?」
「そりゃね。情もありますよ」
「寝たから?」
「…後ろ」
返事をせずに言うと、万里は眉を上げて起き上がり、背中を雷音に向けた。
首元のタトゥーは相変わらず何が書かれているのか分からない。どこの国の文字かも雷音には分からなかった。
だが、万里によく似合っていた。そして、その身体のラインは男とは俄に信じられないほどの淫猥な線だ。
肌も絹の様に滑りが良くて、肌理が細かいのか、雷音の掌に吸い付いて来る。折角、こんなに綺麗なのに…。
「内臓とか大丈夫なんですか?」
「うん」
「うんって。医者に診てもらった?」
「小山内が診たから、へっちゃらや」
「いや、あの人医者なの?」
「こうゆー怪我ん専門って感じかいなー」
何それ。意味分かんね。雷音は少しだけ乱暴に湿布を貼ると、そこを指で強めに突いた。
「痛い!!」
「おしまい。飯にしましょ」
「暴力やー」
「好きでしょ、暴力。だから、こんなにも痣作るんでしょう」
雷音は厭味を言いながら、リビングへ向かった。そんな雷音を膨れっ面で見ながら、万里は部屋着に腕を通してリビングへと向かった。
実は薬が効き過ぎて、心臓発作を起こしてベッドの中で冷たくなって居た。とか本気で笑えない。
あまりに起きないし動かないので雷音は万里に近付くと、そのピクリともしない身体を揺すった。
とうに死んでいて、冷たい身体…にはなっておらず、ほかほかと子供の様に身体は暖かかった。
そっと顔を覗き込むと、薄暗い中、長い睫毛がピクッと揺れたのが見えた。
無用な心配だったようで、当たり前だしそうでないと困るが、生きている…。
「いい加減に起きてください」
生きてはいるだろうが、ここまで動かないのはさすがに気持ちが悪い。雷音は万里の身体をゆっくり揺さぶった。
するとギシギシと音が鳴ってもおかしくないくらい重たそうに、目蓋が開いた。
そして顔を出した赤い目が雷音をチラッと見て、また姿を隠そうとするので、雷音はその華奢な身体をまた揺さぶった。
「ちょっと…」
「もー、お薬はイヤや」
消え入る様な声を出して、ラグに包まって猫の様に丸くなる。すっかり怯えている様に見える万里が少し可哀相になって、雷音は万里をラグの上から撫でた。
「すいません。本当に、ここまで効くとはね。起きれますか?」
「ふわふわしとる」
「大丈夫、身体は宙に浮いてませんよ」
「…なんそれ、冗談かいな」
万里はもそもそとラグから這い出て来ると少し笑ってみせ、やはり重たそうに身体を起こした。
頭がぼんやりしているのか身体に力が入らないのか、またすぐにベッドに寝転がりそうな背中に手を添えてナイトテーブルに置いていたコップに手を伸ばした。
「どうぞ」
「なに?お茶?」
虚ろな目でそれを見て、万里はぷっと吹き出した。
「執事?」
「執事でも何でもいいから。ほら、目が覚めますよ」
万里は雷音の差し出したそれに恐る恐る鼻を近付けた。こういうのどこかで見たなと思ったら、店の裏口に居た野良猫だ。
手を差し出すと、警戒心いっぱいの目を向けて首だけをにゅっと伸ばして雷音の指先に鼻先を付けて匂いを嗅ぐ。まさにそれ。
「自分で持ちなさい」
雷音が叱ると、万里は唇を尖らせて耐熱ガラスのコップを手にした。ゆらゆらと上がる湯気を見ながら、万里の目と同じ赤い色をしたそれを、どこか訝しんでいるようだ。
「熱そう」
猫舌か?まんまじゃねーかと可笑しくなる。
万里はフーフーと子供の様にコップに息を吹きかけて、恐る恐る口先をつけた。
「酸っぱ!!」
まるで猫が毛を逆立てる様にビクッと震えて、抗議の目を雷音に向けて来る。それに雷音は首を傾げた。
「ローズヒップティー、初めて?」
「ローズヒップティー?ローズ?ん?バラ?」
「そうそう、リラックス効果があるからいいんだと思ったんだけど?俺ね、珈琲と紅茶はすごい好きで。種類は豊富なんで、欲しいのあったら言って下さい」
「はぁ?紅茶とか飲まんし」
万里は初めて飲むローズヒップティーを、ゆっくりと嗜む。嫌いではないようで、雷音はそれにホッとした。
少しだけ万里の顔に顔を近付けてみると、薔薇の香りが漂う。
ルビー色の目と薔薇の香り。万里に似合うなとフフッと笑った。
「これ、天然ものなんですよね。仕入れたばっかりなんだけど、いい匂いだと思いません?」
「せやなぁ」
「あ、そっか。京都だから、お茶とかの方が好き?」
「お茶は好きやけど…」
「勉強しときますよ。とりあえず、シャワー浴びてきてください。晩御飯にしましょ」
「は?晩?」
「もう、夜なんですよ」
「ほんまや…」
窓から覗き見える外の暗さに唖然としている。確かに、あんな泥の様に眠れば時間の感覚も狂うだろう。
「大丈夫ですか?」
雷音はナイトテーブルに置いてあるスタンドライトのスイッチを入れた。
やんわりとした明かりが灯り、万里の顔を照らした。明るさをかなり抑えている照明だが、寝起きの万里にはキツいのか顔を顰めた。
自覚が無いほどに寝すぎたせいでか、両目が充血していて元から黒目が赤い左目は大変な事になっていた。
「大丈夫?目、見える?」
「は?ああ、うん。ちょい、ぼやけとる。…いや、ちょい見えてへんかも。へっちゃらや、すぐに見える様になる」
万里は左目を擦りながら、ローズヒップティーを飲み干して伸びをする。細い身体の骨が、ポキポキと音を鳴らした。
「風呂、入れます?」
「一緒に入ってくれるん?」
「いや、俺、飯の用意するんで」
「そないなん?つまらんわぁ」
万里は本気なのか冗談なのかとも言えない顔で笑って、ベッドから足を下ろすとゆっくりと立ち上がった。
「何や、ぐるぐるしとる」
そう言う万里の姿は、Tシャツ一枚の艶かしい姿。Tシャツの下から白い足が露になっていて、雷音は思わず赤面してしまった。
これが同じ男の足かと感心するほどに、白く細い脚。筋肉隆々というわけでもなく、だが細すぎるというわけでもない。
雷音は思わず手を伸ばして、その足を撫でた。
「お触り禁止やえ」
万里は少しだけ振り向いて、妖艶に笑う。
「いや、細いし綺麗だなぁと思って」
「おなごみたいで好かんのや」
万里は少しだけ膨れてみせた。やはり女じゃないのだから、そんな言葉で喜ぶはずもない。
それに万里は極道で、若頭で、常に暴力と一緒に居るのが当たり前のような状態…それで綺麗だの細いだの言われても…。
「そうですよね。うん。あ、風呂、使い方を教えるんで来て下さい」
雷音は万里をバスルームへ案内する。広々としたバスルームにご満悦の万里は、雷音が居るにも関わらず服をぽんぽん脱ぎ始めた。
「ちょっと!」
「なんやの今更。それに男同士やで」
確かにそうだ。今更だし、男同士だ。何ら問題はない。
それがただの男同士の知り合いで、何の感情もない相手ならばだ。肌を重ねて、その身体の中の熱さまで知った相手は別だ。
だが相手は万里。そういうことを易々と受け入れる性質で極端な話、自分が良ければ往来を裸で歩きそうな剛腹さのある男。そんな男に何を言っても、万里にはとっては本当に”今更”なのだ。
「あんた…疲れる」
「失礼やなぁ」
雷音は脱力して、風呂の使い方とバスタオルの場所だけ教えると、バスルームから出て行った。
性格が元々、豪快なのだろう。
そうだ、雷音と寝たのだって初めてだというのに、何の恥じらいもなくただ欲望のままに乱れた。
躊躇いなんて微塵もないまま。いや、躊躇いなんて持ってしまったら終わりなのかもしれない。
いつ死ぬのか、いつ襲われるのか、いつ何があるのか分からない世界に身を置いている万里にとって、一瞬の躊躇いが一生を終える事になることだってあり得るのだ。
儚いように見えても万里は極道の世界に生きる人間であって、雷音とは別世界の人間なのだ。
「俺とは違う人間」
雷音は自分に言い聞かせる様に呟きながら、台所に向かった。
万里が風呂を堪能してご満悦であがってくる頃には、部屋には良い匂いが立ち籠めていた。
さすがに泥の様に眠っただけあって、万里の胃袋はその匂いに悲鳴をあげるようにして鳴いた。
「あんはん、ほんによぉ出来やはった嫁やねぇ」
「うわ!髪の毛拭けよ!」
ぼとぼとと雫を落としながら万里は雷音に近付いたものだから、雷音は思わず声を荒らげた。
バスタオルを頭に被せたまま、雫をぼとぼとと垂らす万里の頭を掴む様にして雷音は拭いだす。
「あいたた」
「子供じゃないんですから」
「やて、腹減って」
雷音が用意した部屋着は大き過ぎたのか、服に着られている状態の姿に雷音は思わず笑う。
大きな服と、べちょべちょの髪の毛。これはもう、子供以外の何者でもないな。
「もう出来るから、座っててください」
「んー」
あらかた髪の毛の雫を吸い取って言うと、聞いているのかいないのか、生返事をしながら万里はソファに向かう。
そのソファの上に置かれたボストンバックをごそごそ漁り出したかと思えば、着ていた上着を脱ぎ出すものだから驚いた。
ブランド物の派手な色のアンダーウェアとラインの綺麗な腰と背中。首のタトゥーがエキゾチックで、思わず舌打ちする。
試されているのか、忍耐力を養わされているのか。
「おい、何してんの」
「湿布」
「は?」
振り返る万里を見れば、胸と腹とにどす黒く変色した痣が出来上がっていた。それがちょっと打った程度のものでないことは、その範囲の広さから分かる。
雷音は思わずそれに顔を顰めて、コンロの火を止めた。
風呂に入る時には気が付かなかったが、顔だけじゃなく身体にも派手に傷を作っている。痛々しいそれに自分の腹がむずむずしてきた。
「貼りますよ」
「あ、そう?」
「他にはないですか?」
「多分な」
ソファにごろんと寝転がる万里の変色した肌を撫でると、万里の身体が少しだけ撥ねた。
「い…ったー」
「ごめん」
「あいたた…痛いわぁ」
へらっと笑うその顔がいつもよりも頼りなくて、雷音はその髪を撫でた。
綺麗な顔も傷で台無し。綺麗な身体も痣だらけで痛々しい。本当に、何がよくて極道なんて…。
「無茶しないでよ」
「ふふ、心配?」
「そりゃね。情もありますよ」
「寝たから?」
「…後ろ」
返事をせずに言うと、万里は眉を上げて起き上がり、背中を雷音に向けた。
首元のタトゥーは相変わらず何が書かれているのか分からない。どこの国の文字かも雷音には分からなかった。
だが、万里によく似合っていた。そして、その身体のラインは男とは俄に信じられないほどの淫猥な線だ。
肌も絹の様に滑りが良くて、肌理が細かいのか、雷音の掌に吸い付いて来る。折角、こんなに綺麗なのに…。
「内臓とか大丈夫なんですか?」
「うん」
「うんって。医者に診てもらった?」
「小山内が診たから、へっちゃらや」
「いや、あの人医者なの?」
「こうゆー怪我ん専門って感じかいなー」
何それ。意味分かんね。雷音は少しだけ乱暴に湿布を貼ると、そこを指で強めに突いた。
「痛い!!」
「おしまい。飯にしましょ」
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