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「あぁーあ子涵兄さんが婚約者だったらよかったのに」
「……はい?!」
思わぬ言葉に子涵は茶器を落としそうになってしまった。
「子涵兄さん、女性にモテモテじゃない。優しくて、威張り散らさないし、若いうちに師範の地位まで手に入れられて、優良物件だって街のお姉さん達が言っていたわ」
陽に当たらないので肌が白いが、それでも優美な仕草と落ち着いた声は町の女性達をとろけさせるほどに魅力的だ。しかも春蕾達の側仕えもしていたので子供の扱いもお手の物。
野菜屋のおばさんなんてあと10年若かったらアタックしていたのに、と旦那さんの前で悔しがっていたほどだ。
「はははは……ご冗談を。私には毛筆しかないだけですよ」
そう謙遜する子涵に春蕾はため息をついた。本音半分でもあるのだ。ただ、子涵はもともと朱家に代々使える家僕、婚姻なんて絶対にありえない身分差だ。
「私も妖魔退治に行きたいわ。そうそう、皓轩に弟子ができたらしいわ。なんだっけしゅ……んーなんか口がうまい男の子」
「ほう……弟子ですか? まだつけられないはずですが」
「じゃー自分が勝手に言ってるだけね。最近そいつも一緒に来るのよね。最初の頃は後ろで静かにしてたのに、最近は話しかけてきてなんか嫌な感じなんだけど。皓轩はこいつは良い奴なんだっていうの」
「なるほど」
「皓轩に友達が増えるのは良いけど、何故かしら私はその少年とは仲良くしたくないのよねー。私って性格悪くなったみたい。昔みたいに三人で遊びたいのに……」
春蕾はパクリと甘いまんじゅうを口にした。この数年で自分だけ置いてかれているような気もするのだ。跡取りから外れてから二人の態度は変わった。妖魔退治に参加させてもらえないから余計かもしれない。気を遣って妖魔退治の話を一切しない浩然と逆に皓轩は妖魔退治の自慢ばかりしてくる。
自分だって参加させてもらえば活躍できるはずだ、そしたらみんなも認めてくれるのでは?っと春蕾が思っていると。
「妖魔退治はダメですよ。お嬢様は剣を持っていないのですから」
「……何も言っていないわ」
「顔に出ています。それに迎えがきたようですよ」
「え?」
ドタドタと激しい足音とともに扉を開けたのは今さっき噂していた皓轩と弟子と名乗る少年だ。
「ここにいたのか春蕾探したぞ!」
大きな声で溌剌とした姿はまさに武将といっていい雰囲気だ。薛家は武術に重きを置いている仙師でもあるので皓轩も、同世代の若者よりも筋肉質だ。
「いやー見つかってよかったですね~。お嬢さんはジャジャ馬とは聞いてましたが男性と一緒とは」
そしてその後ろに付き従っているのが小太りな少年なせいで余計皓轩が筋肉質に見えてしまう。
「「……」」
「あぁ、子涵兄さん紹介しとくよ、こいつ俺の弟子の翔杨 だ」
「杨 こいつは毛筆の師範である徐子涵俺たちがガキの頃は側仕えしてたんだ。怒らせると怖いからな」
「あいやー!師範さんでしたかこれは失礼いたしました。翔杨と申しますわー」
先ほどのふてぶてしい態度とは変わってニコニコ顔で子涵に話しかける杨に春蕾重一気し顔をしかめた。
「怒らせることをしていたのは皓轩様だけですけどねぇ。それよりお嬢様に何かご用で?」
子涵は笑顔のまま皓轩に問いかけた。
「あぁ、春蕾を借りてくぞ」
「いやよ。私は今子涵兄さんとお茶をしているのよ」
「あぁ? 俺が誘ってるんだぞ。良いから来いよ」
「そうですよ。お嬢さん兄さんが誘ってるのに行かないなんて損してますよ。他の女性達は素直にいくっていうのに」
「はぁ?!」
横槍してきた杨の言葉に春蕾は腹を立てて立ち上がってしまった。
「おや、どうしました。嫉妬ですか~いやー女性の嫉妬は怖いですわ~」
見当違いな言葉を言われ、春蕾は開いた口が塞がらなかった。どこに対して嫉妬しているというのか。全く意味がわからなかった。横にいる皓轩は何故か満足そうな顔をしているし、思わず横にいる子涵を見れば驚いてる表情。どうやら自分の感覚は正常のようだと安心するも、勝手に盛り上がる二人に大きなため息しか出なかった。
「子涵兄さん、そうそう、明明がお礼を言っていたわ」
「それはよかった」
「何を書いたの?」
「婚約のお祝いに守りの符を」
「それは素晴らしいわね」
二人で会話していると皓轩が怒ってしまった。
「こら!! 俺を無視するなよ!」
「無視していないわ、お話に興味なかったんだもん」
「そうですね。皓轩様はお嬢様をデートに誘いたかったわけではなさそうなので」
「な、な、デートなんかじゃない!」
子涵の言葉に皓轩は顔を真っ赤にさせて否定した。
「そうですよねぇ。デートに弟子を連れてくなんて事ありえませんからねぇ」
「お、おうよ!」
「では、お嬢様。この後はまっすぐお帰りになってくださいね」
「えぇ、そうね」
春蕾は子涵の言葉でやっと皓轩がここにきた理由がわかったが、同時に本当にデートなのか? という思いもあった。
子涵の弟子達が廊下の先で不安そうにこちらを伺っているのも見え、これは自分がいなくならないと仕事の邪魔になってしまうことにも気づいた。
「じゃーまた遊びに来るわね。子涵兄さん。少しはお外に散歩に出てちょうだいね」
「えぇ、なるべく出るようにします」
お別れの挨拶をして皓轩の横を通り過ぎれば慌てて、彼が追いかけてきた。
「ま、まてよ! 俺が送ってってやるよ」
「結構よ。弟子に修練でも教えてあげたら? それにこの街は朱家が守っているのよ? 一人で帰れるわ。あなたと違って」
「ぁ、杨先に帰ってろ」
「ぇ! いいんですか?」
「いいから帰ってろ!」
慌てて皓轩は杨を送り返すと、春蕾の横に並んで歩き始めた。
「なんで怒ってるんだよ」
「怒るに決まっているわ。なんでそんなに態度が悪いのよ」
「はぁ?春蕾だって悪いだろ」
「そっちが先に悪いからね」
「なんだよ。それより、なんで家に居なかったんだよ。今日は家にいる日だろ?」
「どうして私の日程をあなたが知っているの?」
「それは……まぁ、あれだよ。で、ほら行くぞ」
「はぁ? 会話になってないんだけど?」
乱暴に春蕾の腕を掴むと帰り道とは逆の方向に歩き始めてしまった。
「ちょっと!」
「いいから来い」
「……はい?!」
思わぬ言葉に子涵は茶器を落としそうになってしまった。
「子涵兄さん、女性にモテモテじゃない。優しくて、威張り散らさないし、若いうちに師範の地位まで手に入れられて、優良物件だって街のお姉さん達が言っていたわ」
陽に当たらないので肌が白いが、それでも優美な仕草と落ち着いた声は町の女性達をとろけさせるほどに魅力的だ。しかも春蕾達の側仕えもしていたので子供の扱いもお手の物。
野菜屋のおばさんなんてあと10年若かったらアタックしていたのに、と旦那さんの前で悔しがっていたほどだ。
「はははは……ご冗談を。私には毛筆しかないだけですよ」
そう謙遜する子涵に春蕾はため息をついた。本音半分でもあるのだ。ただ、子涵はもともと朱家に代々使える家僕、婚姻なんて絶対にありえない身分差だ。
「私も妖魔退治に行きたいわ。そうそう、皓轩に弟子ができたらしいわ。なんだっけしゅ……んーなんか口がうまい男の子」
「ほう……弟子ですか? まだつけられないはずですが」
「じゃー自分が勝手に言ってるだけね。最近そいつも一緒に来るのよね。最初の頃は後ろで静かにしてたのに、最近は話しかけてきてなんか嫌な感じなんだけど。皓轩はこいつは良い奴なんだっていうの」
「なるほど」
「皓轩に友達が増えるのは良いけど、何故かしら私はその少年とは仲良くしたくないのよねー。私って性格悪くなったみたい。昔みたいに三人で遊びたいのに……」
春蕾はパクリと甘いまんじゅうを口にした。この数年で自分だけ置いてかれているような気もするのだ。跡取りから外れてから二人の態度は変わった。妖魔退治に参加させてもらえないから余計かもしれない。気を遣って妖魔退治の話を一切しない浩然と逆に皓轩は妖魔退治の自慢ばかりしてくる。
自分だって参加させてもらえば活躍できるはずだ、そしたらみんなも認めてくれるのでは?っと春蕾が思っていると。
「妖魔退治はダメですよ。お嬢様は剣を持っていないのですから」
「……何も言っていないわ」
「顔に出ています。それに迎えがきたようですよ」
「え?」
ドタドタと激しい足音とともに扉を開けたのは今さっき噂していた皓轩と弟子と名乗る少年だ。
「ここにいたのか春蕾探したぞ!」
大きな声で溌剌とした姿はまさに武将といっていい雰囲気だ。薛家は武術に重きを置いている仙師でもあるので皓轩も、同世代の若者よりも筋肉質だ。
「いやー見つかってよかったですね~。お嬢さんはジャジャ馬とは聞いてましたが男性と一緒とは」
そしてその後ろに付き従っているのが小太りな少年なせいで余計皓轩が筋肉質に見えてしまう。
「「……」」
「あぁ、子涵兄さん紹介しとくよ、こいつ俺の弟子の翔杨 だ」
「杨 こいつは毛筆の師範である徐子涵俺たちがガキの頃は側仕えしてたんだ。怒らせると怖いからな」
「あいやー!師範さんでしたかこれは失礼いたしました。翔杨と申しますわー」
先ほどのふてぶてしい態度とは変わってニコニコ顔で子涵に話しかける杨に春蕾重一気し顔をしかめた。
「怒らせることをしていたのは皓轩様だけですけどねぇ。それよりお嬢様に何かご用で?」
子涵は笑顔のまま皓轩に問いかけた。
「あぁ、春蕾を借りてくぞ」
「いやよ。私は今子涵兄さんとお茶をしているのよ」
「あぁ? 俺が誘ってるんだぞ。良いから来いよ」
「そうですよ。お嬢さん兄さんが誘ってるのに行かないなんて損してますよ。他の女性達は素直にいくっていうのに」
「はぁ?!」
横槍してきた杨の言葉に春蕾は腹を立てて立ち上がってしまった。
「おや、どうしました。嫉妬ですか~いやー女性の嫉妬は怖いですわ~」
見当違いな言葉を言われ、春蕾は開いた口が塞がらなかった。どこに対して嫉妬しているというのか。全く意味がわからなかった。横にいる皓轩は何故か満足そうな顔をしているし、思わず横にいる子涵を見れば驚いてる表情。どうやら自分の感覚は正常のようだと安心するも、勝手に盛り上がる二人に大きなため息しか出なかった。
「子涵兄さん、そうそう、明明がお礼を言っていたわ」
「それはよかった」
「何を書いたの?」
「婚約のお祝いに守りの符を」
「それは素晴らしいわね」
二人で会話していると皓轩が怒ってしまった。
「こら!! 俺を無視するなよ!」
「無視していないわ、お話に興味なかったんだもん」
「そうですね。皓轩様はお嬢様をデートに誘いたかったわけではなさそうなので」
「な、な、デートなんかじゃない!」
子涵の言葉に皓轩は顔を真っ赤にさせて否定した。
「そうですよねぇ。デートに弟子を連れてくなんて事ありえませんからねぇ」
「お、おうよ!」
「では、お嬢様。この後はまっすぐお帰りになってくださいね」
「えぇ、そうね」
春蕾は子涵の言葉でやっと皓轩がここにきた理由がわかったが、同時に本当にデートなのか? という思いもあった。
子涵の弟子達が廊下の先で不安そうにこちらを伺っているのも見え、これは自分がいなくならないと仕事の邪魔になってしまうことにも気づいた。
「じゃーまた遊びに来るわね。子涵兄さん。少しはお外に散歩に出てちょうだいね」
「えぇ、なるべく出るようにします」
お別れの挨拶をして皓轩の横を通り過ぎれば慌てて、彼が追いかけてきた。
「ま、まてよ! 俺が送ってってやるよ」
「結構よ。弟子に修練でも教えてあげたら? それにこの街は朱家が守っているのよ? 一人で帰れるわ。あなたと違って」
「ぁ、杨先に帰ってろ」
「ぇ! いいんですか?」
「いいから帰ってろ!」
慌てて皓轩は杨を送り返すと、春蕾の横に並んで歩き始めた。
「なんで怒ってるんだよ」
「怒るに決まっているわ。なんでそんなに態度が悪いのよ」
「はぁ?春蕾だって悪いだろ」
「そっちが先に悪いからね」
「なんだよ。それより、なんで家に居なかったんだよ。今日は家にいる日だろ?」
「どうして私の日程をあなたが知っているの?」
「それは……まぁ、あれだよ。で、ほら行くぞ」
「はぁ? 会話になってないんだけど?」
乱暴に春蕾の腕を掴むと帰り道とは逆の方向に歩き始めてしまった。
「ちょっと!」
「いいから来い」
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