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盛良くんの告白
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それはまるで私に、というより自分で自分の気持ちを確認するような感じだった。
「お前があの女に刺されそうになったとき、由依香さんがお前に覆いかぶさっただろ?」
元女記者が逆恨みで望亜くんを階段から突き落とし、そして今度は私たちを殺そうと襲ってきた。
最初、あの女の人が盛良くんを刺そうとしたとき、私は頭が真っ白になった。
望亜くんを一人にしたことで、襲われてしまった。
また、私のせいで大切な人が失うと思ったら、恐怖で体が震えた。
自分が刺されることよりも、盛良くんが刺される方が嫌だった。
そして、盛良くんを庇うことに成功した。
でも、それで今度は標的が私に変わった。
そこを、身を挺して庇ってくれたのが由依香さんだった。
「あのとき……。俺さ、由依香さんよりもお前のことの方で頭がいっぱいだった。本当に最低だけど……俺、由依香さんが刺されそうになっているのに、お前のことの方が心配だったんだ」
好きな人よりも私のことを?
でも、きっとそれは……単に私の方が身近だったからじゃないだろうか。
「それは、その……恋人よりも家族を心配する気持ちに近いんじゃ……?」
「逆に言うと由依香さんよりお前の方が大切ってことだろ?」
「……」
「付き合いで言えば、お前よりも由依香さんの方が長い。それなのにお前の方を大切に思ったんだ」
盛良くんが由依香さんに出会ったときから考えれば、既に1年以上は経っているはずだ。
でも、私はほんの数ヶ月前に会ったばかり。
実際に会っていた時間を考えれば、私の方が遥かに少ない。
「……なんて、理由を並べたところで、由依香さんからお前に乗り換えたことには変わりはないよな」
「……そんなこと」
私は知っている。
由依香さんへの想いは本気だったって。
由依香さんに会うために同じ大学を受けて、振り向いてもらうためにアイドルになった。
由依香さんに会ってから、盛良くんは由依香さんのことを中心に考えて行動していた。
でも、そうだからこそ、わからない。
「……どうして私なの?」
由依香さんと比べて、子供だし、綺麗じゃないし、女っぽくない。
そんな私をどうして、好きになってくれたんだろう?
「たぶん、最初のきっかけは、あの女に水をぶっかけたときだろうな」
事件のきっかけとなった、あの女記者によるケモメンへのインタビュー。
あのとき、あの女記者はケモメンを怒らせるためにわざと失礼なことを質問したんだと思う。
でも、私はケモメンのメンバーの誰よりも先にキレてしまった。
手元にあった水が入ったコップを掴み、反射的にその女記者の顔に水を掛けた。
正直、あのときのことは私の中でトラウマになっているほどだ。
「あのときは、単に、こいつスゲーなって思ったんだ」
「……凄い?」
「だってそうだろ。なかなかあんなことできないって。女に水ぶっかけるなんてよ」
「うっ……」
「でもさ、嬉しかったんだ」
「え?」
「あそこまで怒ってくれたってことは、それだけ俺たちのことを想ってくれてたからだろ?」
そう。
私はずっとケモメンを見てきた。
それこそ、結成時から。
まあ、そのときはファンの視点からだったけど。
でも、それでもケモメンが必死に頑張ってきてたのは知っていた。
それはマネージャーになって、3人の裏側を見た後も……いや、私が思っていた以上に頑張っていた。
だからこそ、許せなかった。
自分が書きたい記事を書くためだけに、ケモメンを馬鹿にしたことに。
「で、たぶん、止めになったのは、お前が俺に諦めるなって言ってくれたときだと思う」
「……?」
「言ってくれただろ。アイドルも恋も諦めるなって」
確かに言った。
でも、それは……単に盛良くんに、何かを諦めてほしくなかっただけ。
アイドルのために、何かを犠牲にするなんてして欲しくないっていう、単なる子供のような考えから、口にした言葉だった。
もちろん、本気だったけど、深くは考えていない言葉だったと思う。
あー、ホント、私って子供なんだって痛感する。
「わかってたよ。勢いで言ったんだってことは」
「……」
バレてた。
まあ、そりゃそうだよね。
「でも、本気だってこともわかった。俺に本気で向き合ってくれてるって」
思ったことを口にする。
実に子供っぽいと思うけど、そこに惹かれる要素なんてあったんだろうか?
「今までそんなこと言うやついなかったからな。適当に、俺に話を合わせるようなやつらばっかりだった。けど、お前は本気で向き合ってくれた。……立場上は、止めなきゃならなかったはずなのに、俺の背中を押してくれた」
「……私、そこまでその言葉に責任を持ってたわけじゃないよ?」
「いいんだよ。まっすぐ、俺に向き合ってくれた。それだけで俺は嬉しかったんだ」
そう言って、盛良くんは「俺って結構チョロいよな」と笑う。
なんだか、その笑顔が盛良くんの素って感じで、思わずドキッとしてしまった。
「理由はどうあれ、俺、本気だから」
今度は真剣な顔で私の目を真っすぐ見てくる。
正直、このギャップはズルい。
望亜くんのときも思ったけど、男の人ってすごく子供っぽい一面を見せたと思ったら、ビックリするくらい大人っぽい顔をする。
そんなの、ドキドキしない女の子なんていないよ。
そして、いきなり盛良くんに抱きしめられた。
「俺、誰にも負けねーから。望亜にも、圭吾にも。お前を俺に惚れさせてみせるよ」
そう言って、盛良くんは私の額に優しくキスをしたのだった。
「お前があの女に刺されそうになったとき、由依香さんがお前に覆いかぶさっただろ?」
元女記者が逆恨みで望亜くんを階段から突き落とし、そして今度は私たちを殺そうと襲ってきた。
最初、あの女の人が盛良くんを刺そうとしたとき、私は頭が真っ白になった。
望亜くんを一人にしたことで、襲われてしまった。
また、私のせいで大切な人が失うと思ったら、恐怖で体が震えた。
自分が刺されることよりも、盛良くんが刺される方が嫌だった。
そして、盛良くんを庇うことに成功した。
でも、それで今度は標的が私に変わった。
そこを、身を挺して庇ってくれたのが由依香さんだった。
「あのとき……。俺さ、由依香さんよりもお前のことの方で頭がいっぱいだった。本当に最低だけど……俺、由依香さんが刺されそうになっているのに、お前のことの方が心配だったんだ」
好きな人よりも私のことを?
でも、きっとそれは……単に私の方が身近だったからじゃないだろうか。
「それは、その……恋人よりも家族を心配する気持ちに近いんじゃ……?」
「逆に言うと由依香さんよりお前の方が大切ってことだろ?」
「……」
「付き合いで言えば、お前よりも由依香さんの方が長い。それなのにお前の方を大切に思ったんだ」
盛良くんが由依香さんに出会ったときから考えれば、既に1年以上は経っているはずだ。
でも、私はほんの数ヶ月前に会ったばかり。
実際に会っていた時間を考えれば、私の方が遥かに少ない。
「……なんて、理由を並べたところで、由依香さんからお前に乗り換えたことには変わりはないよな」
「……そんなこと」
私は知っている。
由依香さんへの想いは本気だったって。
由依香さんに会うために同じ大学を受けて、振り向いてもらうためにアイドルになった。
由依香さんに会ってから、盛良くんは由依香さんのことを中心に考えて行動していた。
でも、そうだからこそ、わからない。
「……どうして私なの?」
由依香さんと比べて、子供だし、綺麗じゃないし、女っぽくない。
そんな私をどうして、好きになってくれたんだろう?
「たぶん、最初のきっかけは、あの女に水をぶっかけたときだろうな」
事件のきっかけとなった、あの女記者によるケモメンへのインタビュー。
あのとき、あの女記者はケモメンを怒らせるためにわざと失礼なことを質問したんだと思う。
でも、私はケモメンのメンバーの誰よりも先にキレてしまった。
手元にあった水が入ったコップを掴み、反射的にその女記者の顔に水を掛けた。
正直、あのときのことは私の中でトラウマになっているほどだ。
「あのときは、単に、こいつスゲーなって思ったんだ」
「……凄い?」
「だってそうだろ。なかなかあんなことできないって。女に水ぶっかけるなんてよ」
「うっ……」
「でもさ、嬉しかったんだ」
「え?」
「あそこまで怒ってくれたってことは、それだけ俺たちのことを想ってくれてたからだろ?」
そう。
私はずっとケモメンを見てきた。
それこそ、結成時から。
まあ、そのときはファンの視点からだったけど。
でも、それでもケモメンが必死に頑張ってきてたのは知っていた。
それはマネージャーになって、3人の裏側を見た後も……いや、私が思っていた以上に頑張っていた。
だからこそ、許せなかった。
自分が書きたい記事を書くためだけに、ケモメンを馬鹿にしたことに。
「で、たぶん、止めになったのは、お前が俺に諦めるなって言ってくれたときだと思う」
「……?」
「言ってくれただろ。アイドルも恋も諦めるなって」
確かに言った。
でも、それは……単に盛良くんに、何かを諦めてほしくなかっただけ。
アイドルのために、何かを犠牲にするなんてして欲しくないっていう、単なる子供のような考えから、口にした言葉だった。
もちろん、本気だったけど、深くは考えていない言葉だったと思う。
あー、ホント、私って子供なんだって痛感する。
「わかってたよ。勢いで言ったんだってことは」
「……」
バレてた。
まあ、そりゃそうだよね。
「でも、本気だってこともわかった。俺に本気で向き合ってくれてるって」
思ったことを口にする。
実に子供っぽいと思うけど、そこに惹かれる要素なんてあったんだろうか?
「今までそんなこと言うやついなかったからな。適当に、俺に話を合わせるようなやつらばっかりだった。けど、お前は本気で向き合ってくれた。……立場上は、止めなきゃならなかったはずなのに、俺の背中を押してくれた」
「……私、そこまでその言葉に責任を持ってたわけじゃないよ?」
「いいんだよ。まっすぐ、俺に向き合ってくれた。それだけで俺は嬉しかったんだ」
そう言って、盛良くんは「俺って結構チョロいよな」と笑う。
なんだか、その笑顔が盛良くんの素って感じで、思わずドキッとしてしまった。
「理由はどうあれ、俺、本気だから」
今度は真剣な顔で私の目を真っすぐ見てくる。
正直、このギャップはズルい。
望亜くんのときも思ったけど、男の人ってすごく子供っぽい一面を見せたと思ったら、ビックリするくらい大人っぽい顔をする。
そんなの、ドキドキしない女の子なんていないよ。
そして、いきなり盛良くんに抱きしめられた。
「俺、誰にも負けねーから。望亜にも、圭吾にも。お前を俺に惚れさせてみせるよ」
そう言って、盛良くんは私の額に優しくキスをしたのだった。
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