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フリプリのひめめちゃん
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私に抱き着いてきたのは、金髪の縦ロールの目が大きい、いかにもお嬢様といった雰囲気の女の子だった。
年は私と同じくらい?
たぶん17か18?
でも、あれ? この子、どこかで見たことがあるような……?
「赤井ちゃんとケモメンのみんなには感謝してるんだ! でも、あの女に襲われたって聞いたけど、大丈夫だった?」
私が襲われたと言えば、あの女記者のことを言ってるんだと思う。
そして、私とケモメンに感謝している……。
えーと、そこまで出てきてるのに、思い出せない。
えーと、えーと。
「こんにちは。姫野さんも今回、呼ばれたのね」
「あ、麗香さん、こんにちは。おひさでーす」
姫野……?
あっ!
「フリプリのひめめちゃん!?」
「ピンポンピンポン! せいか~い!」
アイドルグループのフリープリンセス。
アイドル雑誌のエクスに解散寸前まで追い込まれている。
まさしく、私たちと同じ目にあっているというわけだ。
私たちは望亜くんのおかげでなんとか切り抜けられたが、フリプリはそうはいかなかった。
確か、8人いたメンバーは2人になってしまったのだとか。
「ホント、仇を討ってくれて、感謝だよー」
ひめめちゃんが今度は正面から抱き着いてきた。
「いえ、あの、仇とかそういうつもりじゃなかったんですけど……」
「いいのいいの」
私から抱き着くのをやめて、手を後ろに組んで左右にゆらゆらと揺れながら笑っている。
うーん。
やっぱり、独特な子だなぁ。
コンセプトは姫なのに、完全に天然キャラなんだよね、ひめめちゃんって。
「絶対に仕返ししてやるんだー! って燃えてたんだけど、なんだかんだいって厳しくてねー」
「ファンに植え付けられたイメージを払しょくするのは時間がかかるからね」
麗香さんがため息交じりに言う。
ケモメンも危うく、その立場になるところだったので、全然他人事ではないのだろう。
「そうなのー。さすがに、こりゃダメだ―ってなったとき、ケモメンと赤井ちゃんがあの雑誌の記者のことを暴露してくれたでしょ? あれで変わったんだよね」
「エクスにイメージを下げられたグループのファンが、一気にグループの擁護にまわったからね」
そのことで、エクスに書かれたグループのことは全部嘘だったんじゃないかって流れになった。
エクスに悪く書かれたグループは被害者だという意識に変わった。
つまり、完全に風向きが変わったわけなのだ。
そのこともあり、エクスは廃刊に追い込まれたんだと思う。
こう考えてみると、結構自業自得じゃないのかなぁ。
私たちが恨まれる筋合いはないよ。
……終わったことだから、いいけどさ。
「で、見事に私たちも復活ってわけ。……抜けたメンバーは戻ってきてないけどね」
少しだけ悲しそうな顔をするひめめちゃん。
そりゃそうだろう。
8人が2人だもん。
フリプリはプライベートでも遊ぶくらい仲が良いって聞いてたから、尚更、寂しいんだろうな。
「みんなの分も頑張らなくっちゃ!」
ビッとピースをするひめめちゃん。
うーん。
ポジティブで明るい子だなぁ。
萌さんとはまた違った、明るさだ。
一緒にいるとほんわかする。
「いやー、今回の現場は赤井ちゃんと一緒なんて、楽しくなりそうだなー」
その場でクルクルと回るひめめちゃん。
ホントに天然な子だ。
そう思っていると、突然ピタリと止まる。
「あれ? そういえば、赤井ちゃんは何役なの?」
「いえいえ。私は出ませんよ。マネージャーですから」
「そうなんだ? 勿体ないねぇ」
「……勿体ない、ですか?」
「うん。赤井ちゃん人気あるもん」
「……え? えええええ!? 私がですか!?」
「あれ? 知らないの? あの一件で、赤井ちゃん、名物マネージャーって言われてるんだよ」
「……っ!」
バッと麗香さんの方を見る。
そんなこと、一言も聞いたことがない。
麗香さんはバツが悪そうにポリポリと頭を掻く。
「ほら、あくまで赤井ちゃんはマネージャーで、裏方でしょ? だから、そういう雑念は耳に入れない方がいいと思ったのよ」
「……雑念って」
「あれー? 事務所にファンレターとか来てないの?」
「……少しだけ、ね」
「え? 来てるんですか!? 私に!?」
「でも、処分してるわよ」
「なんでですかー!?」
どんなことがあるかちょっと……いや、だいぶ、興味がある。
ラブレターさえ、貰ったことないのに。
……ファンレターか。
麗香さんが大きくため息をつき、少しだけ厳しい目つきになる。
「いい? 人気が出るってことは、アンチも出るってことなの」
「……アンチ、ですか?」
「そうよ。そういう人たちは、平気で誹謗中傷をしてくるの」
「あー、うん。あれはエグイよねー」
「今まで届いていた中にも、そういうのがあったわ」
「そ、そうなんですか?」
「もし、赤井ちゃんがアイドルやタレントなら、受け止めるべきことだし、アンチ慣れをしてもらわないといけないから見せるけど、あなたはあくまでマネージャーよ」
「そっかー。無駄にアンチからの罵倒を見る必要ないもんね」
「そんなことで病んだりなんてしたら本末転倒。だから、あなたはマネージャーの仕事に集中してればいいのよ」
「た、確かにそうですね……」
SNSで炎上してる人を見たことあるけど、あれが自分だったらと思うと、確かに精神的に病みそうだ。
私への手紙にどんなことが書いてあったかは気になるけど、世の中知らない方がよいこともある。
「あなたの人気なんて、一時的なものよ。すぐに忘れられるわ」
「そ、そうですか……」
それはそれで残念といえば残念だ。
「……あなたが人気を気にしてどうするの?」
「あ、そうですよね。すみません」
私が、マネージャーが気にするべきはケモメンの人気だ。
「赤井ちゃん、舞台には出ないけど、稽古には顔出すんでしょ?」
「はい。なるべくは出たいと思ってます」
「やたー! じゃあ、これからもいっぱい会えるねー」
どうやら、私はひめめちゃんに気に入れられたみたいだ。
なんだろ。
マネージャーをするようになってから、アイドルに好かれるようになった気がする。
年は私と同じくらい?
たぶん17か18?
でも、あれ? この子、どこかで見たことがあるような……?
「赤井ちゃんとケモメンのみんなには感謝してるんだ! でも、あの女に襲われたって聞いたけど、大丈夫だった?」
私が襲われたと言えば、あの女記者のことを言ってるんだと思う。
そして、私とケモメンに感謝している……。
えーと、そこまで出てきてるのに、思い出せない。
えーと、えーと。
「こんにちは。姫野さんも今回、呼ばれたのね」
「あ、麗香さん、こんにちは。おひさでーす」
姫野……?
あっ!
「フリプリのひめめちゃん!?」
「ピンポンピンポン! せいか~い!」
アイドルグループのフリープリンセス。
アイドル雑誌のエクスに解散寸前まで追い込まれている。
まさしく、私たちと同じ目にあっているというわけだ。
私たちは望亜くんのおかげでなんとか切り抜けられたが、フリプリはそうはいかなかった。
確か、8人いたメンバーは2人になってしまったのだとか。
「ホント、仇を討ってくれて、感謝だよー」
ひめめちゃんが今度は正面から抱き着いてきた。
「いえ、あの、仇とかそういうつもりじゃなかったんですけど……」
「いいのいいの」
私から抱き着くのをやめて、手を後ろに組んで左右にゆらゆらと揺れながら笑っている。
うーん。
やっぱり、独特な子だなぁ。
コンセプトは姫なのに、完全に天然キャラなんだよね、ひめめちゃんって。
「絶対に仕返ししてやるんだー! って燃えてたんだけど、なんだかんだいって厳しくてねー」
「ファンに植え付けられたイメージを払しょくするのは時間がかかるからね」
麗香さんがため息交じりに言う。
ケモメンも危うく、その立場になるところだったので、全然他人事ではないのだろう。
「そうなのー。さすがに、こりゃダメだ―ってなったとき、ケモメンと赤井ちゃんがあの雑誌の記者のことを暴露してくれたでしょ? あれで変わったんだよね」
「エクスにイメージを下げられたグループのファンが、一気にグループの擁護にまわったからね」
そのことで、エクスに書かれたグループのことは全部嘘だったんじゃないかって流れになった。
エクスに悪く書かれたグループは被害者だという意識に変わった。
つまり、完全に風向きが変わったわけなのだ。
そのこともあり、エクスは廃刊に追い込まれたんだと思う。
こう考えてみると、結構自業自得じゃないのかなぁ。
私たちが恨まれる筋合いはないよ。
……終わったことだから、いいけどさ。
「で、見事に私たちも復活ってわけ。……抜けたメンバーは戻ってきてないけどね」
少しだけ悲しそうな顔をするひめめちゃん。
そりゃそうだろう。
8人が2人だもん。
フリプリはプライベートでも遊ぶくらい仲が良いって聞いてたから、尚更、寂しいんだろうな。
「みんなの分も頑張らなくっちゃ!」
ビッとピースをするひめめちゃん。
うーん。
ポジティブで明るい子だなぁ。
萌さんとはまた違った、明るさだ。
一緒にいるとほんわかする。
「いやー、今回の現場は赤井ちゃんと一緒なんて、楽しくなりそうだなー」
その場でクルクルと回るひめめちゃん。
ホントに天然な子だ。
そう思っていると、突然ピタリと止まる。
「あれ? そういえば、赤井ちゃんは何役なの?」
「いえいえ。私は出ませんよ。マネージャーですから」
「そうなんだ? 勿体ないねぇ」
「……勿体ない、ですか?」
「うん。赤井ちゃん人気あるもん」
「……え? えええええ!? 私がですか!?」
「あれ? 知らないの? あの一件で、赤井ちゃん、名物マネージャーって言われてるんだよ」
「……っ!」
バッと麗香さんの方を見る。
そんなこと、一言も聞いたことがない。
麗香さんはバツが悪そうにポリポリと頭を掻く。
「ほら、あくまで赤井ちゃんはマネージャーで、裏方でしょ? だから、そういう雑念は耳に入れない方がいいと思ったのよ」
「……雑念って」
「あれー? 事務所にファンレターとか来てないの?」
「……少しだけ、ね」
「え? 来てるんですか!? 私に!?」
「でも、処分してるわよ」
「なんでですかー!?」
どんなことがあるかちょっと……いや、だいぶ、興味がある。
ラブレターさえ、貰ったことないのに。
……ファンレターか。
麗香さんが大きくため息をつき、少しだけ厳しい目つきになる。
「いい? 人気が出るってことは、アンチも出るってことなの」
「……アンチ、ですか?」
「そうよ。そういう人たちは、平気で誹謗中傷をしてくるの」
「あー、うん。あれはエグイよねー」
「今まで届いていた中にも、そういうのがあったわ」
「そ、そうなんですか?」
「もし、赤井ちゃんがアイドルやタレントなら、受け止めるべきことだし、アンチ慣れをしてもらわないといけないから見せるけど、あなたはあくまでマネージャーよ」
「そっかー。無駄にアンチからの罵倒を見る必要ないもんね」
「そんなことで病んだりなんてしたら本末転倒。だから、あなたはマネージャーの仕事に集中してればいいのよ」
「た、確かにそうですね……」
SNSで炎上してる人を見たことあるけど、あれが自分だったらと思うと、確かに精神的に病みそうだ。
私への手紙にどんなことが書いてあったかは気になるけど、世の中知らない方がよいこともある。
「あなたの人気なんて、一時的なものよ。すぐに忘れられるわ」
「そ、そうですか……」
それはそれで残念といえば残念だ。
「……あなたが人気を気にしてどうするの?」
「あ、そうですよね。すみません」
私が、マネージャーが気にするべきはケモメンの人気だ。
「赤井ちゃん、舞台には出ないけど、稽古には顔出すんでしょ?」
「はい。なるべくは出たいと思ってます」
「やたー! じゃあ、これからもいっぱい会えるねー」
どうやら、私はひめめちゃんに気に入れられたみたいだ。
なんだろ。
マネージャーをするようになってから、アイドルに好かれるようになった気がする。
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