脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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シスコン兄

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早朝、私達兄妹はいつもと同じように早めに起きる。

理由は兄の学校にある。
大学と高等部は距離が離れているのだ。
別々に車を出せばいい、と思うのだが兄がそれを断固として許さなかったのだ。

……そんなわけで、私を先に高等部まで送ってから兄の大学まで車を走らせる事になるため必然的に早起きしなければいけないのだ。
つまりは兄の過保護が原因で早起きをせざるをえないのだ。
まぁ、兄が過保護なのは今に始まった事ではないのだが。


「清水、お父様とお母様は?」


清水というのは私専属の使用人だ。
専属はいらないと言ったのだが何かあればどうする!
と聞いてもらえなかった。

そこで何年か前に清水を私の専属にしてもらったのだ。
清水を選んだのにはとある理由があるのだが……それはまた今度にしよう。
もう1人、専属がいるのだが、それもまた今度にしよう。


「旦那様と奥様は昨夜の疲れが溜まっているのか、まだ起床されてはおりません」

「そう、ありがとう、清水」

「勿体なきお言葉でございます」


そういう固いのは好きじゃないのだが……仕方ないのだろうか?

というか、父は疲れているというよりも二日酔いだろう。
母は…朝が弱いからなぁ……。
つまり、母はいつもの事であり、父は自業自得だ。


「お待たせしてしまい申し訳ありません、お兄様」

「うん、今日も咲夜は可愛いね。

さぁ、行くとしようか」


私は兄のシスコン発言のせいで取得したスルースキルを全力で発動した。

これさえなければ最高の兄なんだけどなぁ……。
フラグが折れた証でもあるのでこのくらいは仕方ないのかもしれないが。
私は兄に婚約者が出来るかが心配だ。
出来たとしてこんな兄が婚約者と上手くやっていけるのかが不安なのだが。


「昼休みは3組に迎えに行くから待っていてくれるかい?」


……ソウデスカ。
やっぱり昼食を一緒にとるのは決定しているんですね。
分かってたよ!


「その事ですが……愛音も一緒によろしいでしょうか……?」

「勿論だよ。
咲夜の大切な友人だからね」


……昨日、私の友人である天也と奏橙の事は悪い虫とか害虫呼ばわりした癖に。

そんな事を思っていたが、決して顔には出すことなく笑顔でお礼を告げた。
すると兄も嬉しそうに表情筋を動かした。


「咲夜様、御到着致しました」

「えぇ、ありがとうございます。
お兄様、行ってまいります」

「行ってらっしゃい、咲夜」


私は車から降りるとまっすぐに教室に向かった。


教室には既に何人かの生徒が登校していて、その中には愛音や、天也と奏橙までいた。
私は自分の席に鞄を置くと3人のところに近づく。


「おはようございます、愛音、天也、奏橙」

「おはようございます、咲夜」

「あぁ、おはよう」

「おはよう、咲夜」


愛音、天也、奏橙の順で私に挨拶を返してくる。
丁度話が一段落ついたところだったらしい。
そこで私は先に忘れそうな要件を伝えておく事にする。


「今日の昼食の事なんですが……」


そう話を切り出すと天也は顔を引き攣らせ、奏橙は苦笑を漏らした。
唯一、愛音だけが2人の表情に戸惑いを隠せずにいた。


「やはりというか……お兄様が来ますわ」

「「だろう悠人先輩だからな」」


天也…奏橙…あれでも私の兄なんだからそんな嫌そうな顔しないでくれるかな?
分かるけど…。
確かに私が天也や奏橙の立場なら嫌だし……。

そしてやはり2人の表情の意味が分からないのか愛音はえ?え?と、戸惑いを隠せずにいる。
そんな愛音の様子にクスリと笑ってしまう私だった。


「愛音、お兄様は覚えているかしら?」

「は、はい。
恰好いい人ですよね?」


恰好いいか…まぁ確かに恰好いいだろうね。
………外見は。


「お兄様が天也と奏橙に言った言葉があったでしょう?」

「あ……その……。
なんというか、個性的というか…シス……咲夜を大切にしてるんですね?」


分かったらしい。
というか、最後、何故疑問形?
まぁシスコンっていいたいんだろうけどさ。
言い直しても無駄だと思うよ?


「悠人先輩はシスコンだからな。
それは咲夜も認めてるし、悠人先輩の周りの人なら悠人先輩の印象を聞かれたら大抵、親しい人ならシスコンって答えるくらいだしな」

「悠人先輩がシスコン発言連発してるせいか先輩方は咲夜の事知ってるしね」


笑いながら言っているが私にとっては全くもって笑えないんだけど!?
それどころか死活問題なんだけど!?


「そ、そうなんですか?
ってあれ?
来るって事は3人共いないんですか……」


あれ?
いなくなるって……もしかして自分は一緒じゃないとか思ってる?
そんなわけないのに……。


「愛音も一緒ですわよ?
今朝、お兄様に愛音も一緒に、と言っておきましたから大丈夫ですわ」

「え!?
で、でも……迷惑じゃ…」


迷惑って……。
そんな事あるわけないのに……。


「迷惑なわけありませんわ。
それともやはり私と一緒にというのは……」

「そ、そんな事ありません!
嬉しいです!」

「なら良かったですわ」


本当に良かった。
私の数少ない友人だし。


「そうでしたわ…。
お兄様の事なんですが……クラスまで迎えに来るそうですの」

「「だろう」」


まぁこれもいつも通りだからね。
問題ない。
ただクラスが騒がしくなるのだが。

そして時間は流れ、昼休みとなった。

昼休みとなってすぐに天也と奏橙は女子の軍団に囲まれる。
これもいつも通りだ。
ただ、いつも通りではないとすれば愛音といた私まで男子達に囲まれている事くらい。
愛音はヒロインだし…と思っていたのはつかの間、私にも誘いがかかってきたのだ。


「海野さん!
良かったら御一緒しませんか?」

「咲夜さん、俺と一緒に昼食を…」

「海野さん、よろしければ2人で昼食を……」

「海野さん、昼食…」


と、私にも誘いが来たときはびっくりした。
そしてその隣では愛音まで誘いを受けている。

どう処理しようかと考えている時のことだった。
教室の扉が開いた。

……兄が来たのだ。

兄は囲まれている私を見て優しい笑顔を浮かべた後、周りの男子達をみて冷たい笑みに変貌した。
口元は笑みを浮かべているのに目元は笑っていない。
器用な兄だ。
そして、いつもよりも数段低い声で問いかけた。


「……何をしているんだい?
僕の可愛い可愛い天使である咲夜に群がらないでくれるかな?
その声で僕の天使の鼓膜を汚さないでくれるかな?

それと…世界一可愛い天使である咲夜の友人の黒崎さんにも近付くのはやめてもらえるかい?
先約しているのは僕なんだ。
最後に…僕の天使に触れた奴はいるかい?
髪の毛一本でも触れた奴は名乗り出ろ」


笑顔でスラスラと述べた兄の怒りのオーラに晒された男子達はすぐに私と愛音の傍から離れていった。

兄よ……最後暴言になってるぞ……。

それを確認すると兄は私のそばへ来て暖かな笑みを浮かべた。


「咲夜、害虫に触れられたところはないかい?
ごめんね、僕が遅くなったせいでこんな害虫達に囲まれるだなんて…。
こんな可愛い可愛い天使である咲夜に群がらないはずがないのに…本当に済まなかったね。
さぁ、行こうか」

「…お兄様!!
私は可愛いくも無ければ天使でもありません!
そんなに連呼するのはやめてください!
それとクラスメイトの事を害虫呼ばわりするのはやめてください!」


私は兄が来てから今まで何も発しなかったが遂に羞恥が勝ち、兄を咎める。
…が、私がそこまで怒りを顕にしても兄は笑顔だった。
それどころか…


「咲夜は優しいね。
でも、怒っている咲夜もやっぱり可愛いけど笑顔の咲夜の方が倍以上可愛いよ」

「お兄様!!
お兄様がそんなだから先輩方に同情のような目で見られるんです!
大体ですね、私も高等部に上がったのですからいつまでも子供扱いするのはやめてください!
それと、いい加減天也と奏橙に対して大人気ない対応をするのはどうかと思いますわ!
助けてもらった事には感謝しますがお兄様は言い過ぎです!」


私がまくし立てても兄は笑顔を崩す事は無かった。


「咲夜、同情の目で見た奴の名前は分かるかい?
僕がそんな目で見ないように目を潰してこよう。
それと、あの悪い虫は追い払わないといけないんだ」

「…悠人先輩、本人がここにいるんですが……」

「……俺、そこまで何かやったか?」


そんな奏橙と天也の2人をスルーして兄は私に言い聞かせるようにゆっくりと言っていく。


「大体ね、僕の咲夜が可愛い過ぎるのがいけないんだよ。
咲夜が可愛いすぎる天使だからあんなにも害虫が寄ってくるんだ。
害虫共は追い払わないとますます寄って来るんだからこれでも生温いくらいなんだよ。
ずっと一緒に居れたらいいんだけど……流石にそうも出来ないからね」


あぁ、この兄を矯正するのは私じゃあ無理だね。
この神を崇めるかのような心酔ぶりじゃ無理無理。
よし、兄は放って置くことにしよう。


「如月さんも待っているからね、早く行こうか」

「皐月先輩が!?
お兄様、急ぎましょう!
天也、奏橙、急がなければ置いていきますわよ。
愛音、行きましょう」

「なっ…おい!?
済まない、咲夜と約束が…」

「悪いけど先輩方と約束があるんだ。
だから、通してくれるかな?」


2人共無事に抜け出せたようだ。
奏橙は大分なれたが天也は断るのは向いてないようだ。
もしくは、それ程までに天也が人気なのか、天也がお人好しなのか……。

ま、私には関係ないからいいけど。
食堂につくと5席だけ空いている席があった。
勿論、皐月先輩達がとっておいてくれていた席だ。


「皐月先輩!
お待たせしてしまい申し訳ありません」

「咲夜さん、気にしないでくださいな。
どうせそこのシスコン馬鹿が何かやらかしたのでしょう?」


皐月先輩はこの9年間で兄の事に限り随分と辛辣になった。
9年前であれば兄の前では決してシスコン発言はしなかったが今ではサラッと口に出している。


「そうなんです!
お兄様がクラスの男子のことを害虫呼ばわりしたんですの!」

「あら…悠人さん、後輩を害虫扱いするとは……どういう事ですの?
勿論、詳しく説明してくださりますよね?」


皐月先輩は後輩想いの優しい先輩だ。
だからこそ、こういうのは許さないだろうと判断していた。


「僕の可愛い咲夜に群がる虫共なんて害虫で充分だと思わないかい?
咲夜は優しいから断りづらくて困っているのを知っている癖にああやって群がってくるんだよ?
そんな奴らは後輩というよりも害虫でしかないだろう?
僕の咲夜に近付く奴は殲め……しっかりと潰さないとね」


兄は笑顔で言い切った!!

……本当、うちの兄がすいません……。
ご迷惑をおかけしています……。
というか、今殲滅って言いかけたよね?
言い直したけど絶対、殲滅って言おうとしたよね?

マジで穴があったら入りたいくらいだ。


「そういえば咲夜さん、その方は?」

「あ…紹介致します。
昨日会ったばかりですが…私の友人の…」

「黒崎愛音といいます!
よ、よろしくお願いします!」


愛音の慣れていない様子に皐月先輩はふふっと優しく微笑んだ。
やっぱり皐月先輩は可愛いなぁ……。
可愛いし、恰好いいし…勉強も出来るし、運動神経もいいし……いつまでたっても私の憧れの先輩だ。
兄と違って。


「私は、如月皐月と申します。
そこのシスコ……悠人さんと同じ大学の1年ですの。
咲夜さんとは初等部の頃からの付き合いですわ。
これから顔を合わせる事もあると思いますし…よろしくお願い致します」

「あ、皐月先輩は今年も光隆会のメンバーですか?」

「えぇ、今年は1年からは私と、悠人さん、涼太さんと八神さんがメンバーよ。
会長は和希先輩ですわ」


あぁ……またか。
やっぱり鬼龍院先輩もメンバーなんだ…。
あんな巫山戯た様子でよく……。
って…そういえば鬼龍院先輩がいない気がする。


「鬼龍院先輩は今日は来られないんですか?」

「あぁ……先輩は…その、なんていうか……悠人が仕事を押し付けておきながら『遅い!』って言って置いてきたんだ……」


……まさかの兄のせいでしたか。
重ね重ね申し訳ない……。


「…お兄様、仕事を押し付けたとはどういう事ですか?」

「仕事が多くて咲夜と会える時間が減ってしまうからね。
頼んできたんだよ」

「お兄様!
私とお仕事とどちらか大切か分かっているんですか!?」


絶対分かってないだろうけど。


「そんなの当たり前じゃないか。
大切なのは咲夜に決まっているだろう?」


駄目だ……。
そこは普通、仕事と答えないといけない場面だと思うんだ。
なのになんで『私』で決定しているのだろうか?
頭が痛くなるよ、本当に。


そんな事をしているうちに愛音は他の先輩方と挨拶を終えたらしい。
そんな時だった。
何故か外が騒がしく感じた。
嫌な予感がして振り向いてみると案の定、鬼龍院先輩だった。


「おいこらテメェら!!
何普通に俺に仕事押し付けて昼メシ食ってんだよ!?
普通逆だろうが!!
後輩が仕事して先輩がメシだろうが!!
お前らも止めろや!!

1年で会に顔出したのは仕事を押し付けにきた悠人と仕事を断りに来た皐月だけだぞ!?
八神は初日から学校休むし!!
白鳥、オメェはまず会に顔出せや!!
何お前らだけいい思いしてんだ!
俺も混ぜやがれ!!」


先輩がまくし立てたところで私は箸をおいた。
そして周りの高等部の生徒が見ている中、大声でまくし立てる先輩をみてまたか、とため息をつく。


「鬼龍院先輩、お仕事お疲れ様です。

私がお兄様達に我儘を言ったせいで鬼龍院先輩にご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません……。
鬼龍院先輩も何も食べていないようですし今からでも一緒に食事をとりませんか?」


上目遣いで自分の持つ武器を最大限まで引き上げ似合わない事をしていると感じつつもやり遂げる。
すると、鬼龍院先輩はたちまち上機嫌に戻った。


「……咲夜がそう言うなら仕方ねぇ…。
まぁ、仕事放り出した悠人が悪ぃんだから咲夜は気にすんなよ」


鬼龍院先輩はそう言って私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
そんな私を兄がすかさず抱きしめると鬼龍院先輩から引き離した。


「……先輩、先輩の変人オーラが咲夜に伝染ったらどうしてくれるんですか?
分かったらさっさと僕の天使から離れてください。
咲夜の半径10km以内に入らないでください。
咲夜と同じ空気を吸わないでください。
天使である咲夜の事をその目で見ないでください。
咲夜の視界に入らないように心がけてください。
髪の毛1本でも、先輩がおこした風すらも咲夜に触れたら容赦しませんからそのおつもりで」


……兄よ。
さすがにそれは私ですらドン引きするからね?
ほら、皆も顔を引き攣らせてるし…。
はぁ……何で兄はこうシスコンなんだろう?
というか、シスコンの域を通り越していないだろうか。

これがいつかヒロインである愛音に向いてくれるのかな?
それなら嬉しいんだけどなぁ……。


「なぁ、咲夜、お前からも何か言ってやってくれねぇ?」


なんて先輩が言うので仕方なく兄を注意する。


「お兄様、鬼龍院先輩で遊ぶのはおやめください」

「咲夜がそう言うなら」


兄はすぐに了承をかえしてくれた。


「おい!
悠人、テメェはいい加減にしろよ!?」


鬼龍院先輩の言葉を華麗にスルーした兄はニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべていた。

それから暫くたわいもない話をしてお開きとなった。


「咲夜、帰りは迎えに行くよ」

「…仕事、終わらせてからですよ?」


と言うと兄は一瞬固まってから笑顔で


「あぁ、分かってるよ。
(咲夜に付きまとう虫の駆除をしないとね)」


などと少しニュアンスが違うようなするがきっと気の所為だろう。
私にがいがないのなら問題ないが。
念の為天也と奏橙には注意していてもらおう。
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