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本編
フィーリン商会 ホール
しおりを挟むこのホールにいるのは、俺と同じ勝ち上がった者だ。
エリス様のもとへ向かう班である俺たちグループの競争率はかなり高かった。
そこで、各グループの長を除いた時の成績優秀者が集まることになった。
「エリス様のお力になれる……」
それだけで十分すぎるくらいの褒美だ。
俺は、元々エリンスフィールの小さな村に妻と息子と3人で暮らしていた。
たが、妻が貴重な薬がなければ助からない、重病にかかった。
妻を治すための薬は貴族や豪商でもなければ用意出来ないような非常に高価なものだった。
そんな時だった。
俺が、エリス様と、女神と出会ったのは。
俺達の住んでいた村に訪れた貴族の娘、あろうことか、俺はその貴族の娘を襲った。
誘拐し、脅せば妻の薬を手に入れることが出来ると思ったからだ。
……まぁ、それもルーファスの奴にやられて簡単に捕らえられてしまったわけだが。
普通であれば、衛兵に差し出して終わるであろうところを、エリス様は違った。
「待ってください、ルーファス。
この方にもなにか事情があるのでしょう。
それを聞いてからでも遅くはないはずです。
私に出来ることであれば、やれる範囲でやりましょう。
ですから、事情を話してはくれませんか?」
と、優しく語りかけて下さったのだ。
ただの犯罪者となり下がった俺に向かって。
慈愛溢れるその笑みと、罪悪感、そして僅かな希望から俺は全てをエリス様に話した。
すると、エリス様は悲しげな表情をした後、移住の提案をしてきたのだ。
それどころか、息子を学校に通わせてくださり、妻の治療もしていただいた。
そして、犯罪者の俺にフィーリン商会という居場所を用意して下さった。
エリス様は、俺たち家族の恩人だ。
だからこそ、あの方への恩は必ず返したいとも思うし、エリス様に向かう害悪は全てねじ伏せてしまいたいとも思う。
「全てはエリス様のために」
俺は、諜報部の一員として、エリス様の手となり足となる。
そのために今、ここにいるのだ。
これでもし、エリス様のお役に立てなければ……。
妻と息子からどんな仕打ちを受けるか分かったものではない。
なんだかんだ言って、エリス様のことになると怖いのは妻と息子なのだ。
いや、ハーネス様よりは怖くはないか。
ハーネス様はエリス様が関わると性格が変わるからな……。
あれより怖いものはない。
「そう思うと、エリス様を傷つけようとする奴もバカだなぁ……。
あの、ハーネス様やルーファスが許すわけないのに……」
俺は、まだ見ぬ敵に心の中で合掌した。
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