戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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越後動乱編

覚悟を決めろ

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私は卑怯者だ。

 私はきっと、この戦場に立つ誰よりも卑怯者だろう。

 それは敵味方関係無い。

 戦場から逃げた者も、人をどんな卑怯な方法で殺した人間よりも、兵を無駄に死なせ、民衆を害そうとした杉浦玄任よりも私は卑怯者だ。

 何故なら、彼らは

 一揆勢は自らの命を賭け、この戦場に立っている。

 上杉方は言うまでも無い、彼らこそ真の武士もののふだ。

 私はどうだ?

 幸村に、光秀に、お藤に守られてこの場所に立つ私は最も安全であり故に卑怯だ。

 今も、怒りながらも頭の中では思っている。

 

 違う!

 それを払拭する為にに私は、止められない震えを必死で抑えて前に立とう。この身が皆の象徴となるならば、守られても良いから前に立とう。

 そしてもし最期の刻が来たのなら、せめて全責任を負えるようにしておかなければならないだろうな。

 「杉浦...玄任!!!!」

 私が叫ぶように言った瞬間、時間ときが止まったかのように戦場が静止する。

 敵も、味方も手を止めこちらを向くいた。

 敵からは殺意を、味方からは憧憬の視線を受けながら、私は少しずつ杉浦玄任に近づいていく。

 一歩ずつ、ゆっくりと。

 そんな私の前から一歩後ずさり、そして元の場所に戻ろうとしたのは大将としての矜持か、それともここで怯えた素振りを見せては味方の士気に関わると踏んだのか。

 恐らく前者だろう、そのなけなしの維持はあっさりと崩れ玄任はあっけなく地面に倒れ伏していた。

 「何か、言い残すことはあるか?」

 「な、なんだお前は。なんなのだ!貴様は!」

 「誰でも無い、ただの隠居だ。」

  腰を抜かしながらも絶叫するように言う玄任に対し、私は淡々と答え始める。

 「き、貴様さえいなければ全て上手く回っていたのだ!我ら一揆は上杉を打倒しこの越後に民衆の為の国を作れた!」

 「お前が王のか?上杉より上等な支配になるとは思えんな。」

 もうこの男に対して、自分の動く行動は理解してわかっている。それでもなお、私は彼と対話する。

 それはまるで、刑を宣告する審判者に似た光景でもあった。

 「お前は、宗教など如何でも良いのだろう?」

 「何を馬鹿なことを!私以上の信者などいるものか、この中で最も布施を多く行なっているのは私ぞ!」

 「布施でのみ信心を図ることそのものが浅い、お前は信者を都合良く操れる力としか見ていなかった。」

 百姓を宗教を利用して戦争に駆り出す、この辺りの知識は現代人であり歴史を学んだ者でしかもしかしたらわからない観念かも知れない。

 今回の一揆軍のような宗教によって操られた軍は幾らでも存在する。神の元に略奪や殺戮は許される、そう信じ込まされて彼らは戦うのだ。

 そんな筈は無いだろう、盗みや人殺しがOKな世界など許される筈もない。

 民衆が求めていたのは、つまるところ免罪符だ。

 己の欲を満たす為、金が欲しいと思う人の欲を目の前の男は利用した。

 「そんな男が、支配者として相応しい筈も無かろうて!恥を知れ杉浦玄任!!!!」

 「だ、黙れ...貴様に何が分かると言うのだ、わ私は...」

 「もうこれ以上、語ることもあるまいて。」

 私はゆっくりと後ろを振り向く、そこには左近と光秀が立っていた。

 「久方ぶりに、私も1人の武士もののふとして武を振るいましょう。ご指示を。」

 「この3人で戦うのなんていつぶりだよ!行くぜぇぇぇ!」

 そんな中、こちらへ来ようと駆け出して来る影が1つ。

 慶次だ。

 「慶次、お主は幸村と千代を守れ。」

 「なっ!ご隠居様、私はまだやれます!」

 「無理ですな。」

 憤慨するように言う慶次、それに待ったをかけたのは光秀だった。

 「細かい傷が体の至る所にあります、息も荒い。まだまだ未熟ですな。」

 「も、申し訳ありません...」

 「本来であれば自らの体調を把握し、自ら後方に下がるのが筋です。それを押して参戦しようとするなど。叱責ものですぞ!」

 いや、なんか疲れてそうだし千代の護衛に回しただけなんだが...

 荒事の多くは光秀や左近と解決して来たし、いつもの面子でやった方が連携もしやすいしね。

 まぁ、光秀の言うことも最もだ。足手まといを抱えられるほど私は強く無い、我が部隊の足手まといは私だけで十分なのだ (意味不明)

  と言うか、このような時にいの一番に来そうな幸村が来ない。いつの間にか千代の護衛へと向かっていた。

 幸村が慶次より上回っただと?まぁ今は考えている時間は無いか。

 「では左近、光秀。参るか。」

 「わ、私は一時後退する!時間を稼げ!」

 玄任は引くようだ、家臣を盾にして自らは後方に走り始めた。

 私は刀を抜く、迷いは無い。


◇◇◇◇


 千代殿の警護をしながら、ご隠居様のお姿を見ている。千代殿は正信殿の治療中だ、医学の知識が無い私に入り込む隙は無い。

 慶次殿がこちらに走って来る、その顔は苦々しい表情で満ちていた。

 「くっ、俺もまだ未熟か。左近殿と戦える嬉しさで我を忘れるとは...」

 「仕方が無いでしょう、あのお方と共に戦えるだけでも末代の誉れ。光秀様が慶次殿に厳しく当たったのはそれが理由ですよ。」

 勿論、慶次殿のことも思っているとお藤殿は付け加える。

 そんな2人の会話を尻目に、幸村は目の前の光景から目を離せずにいた。

ご隠居様、左近殿、光秀殿。

 彼らの戦いが、私から見てもあまりに完成されすぎていた為に。

 左近殿はご隠居様の武器。その猛威は敵を何度も薙ぎ倒し、そして討ち取ってきた。

 光秀殿はご隠居様の盾。その武は左近殿ほど華々しく無いものの、暴れまわる左近殿の邪魔にならないよう影のように立ち回っている。

 死角をカバーし、なおかつご隠居様をも守っている。まさに盾だ。

 そんな2人に守られ、ご隠居様はただ歩くのみであった。

 その姿は、物語に出てくるグエイのように強く、まさしく日本ひのもと一の武将と謳われるに相違ないものだ。

 一歩、一歩、その歩みはゆっくりなれどなんの障害も無く。この足場の悪い戦場をまるで何もいないかのように進んで行く。

 「早く!早く行け!馬はどこだ、どこにある!?」

 玄任は見苦しく逃げている、ご隠居様は歩いているだけだ。にも関わらず私には、2人の距離が縮まっているように見えた。

 「ご隠居様!」

 「やべぇ!」

 当然、玄任の近くに行くに連れてその防衛網も堅くなっていく。敵は多数だ、質はともかく数だけは多い中でご隠居様を完璧に守りきれる筈も無い。

 「その首もらった!」

 駆け出す1人の武士、しかしご隠居様は落ち着いていた。
















 『退けどけ

 ご隠居様が言ったのはその一言だけだ、しかしその剣幕は遥か後方にいる私でさえ恐れさせるものである。

 次の瞬間、ご隠居様に近づいた者が爆発と共に後方に吹き飛ぶ。

 同じように玄任の周りを守っていた者たちの何人かが、爆発と共に吹き飛んでいった。

 なんだ今のは?

 ご隠居様が、やったのか?

 「な...なんだ今のは!?なんなのだ?」

 「流石、ご隠居様...」

 慶次殿が目を見開いたまま言う、その隣でお藤殿がウットリとした透けた目でご隠居様を見ていた。

 「な、なんだ。奴は妖術使いか!?」

 「こ、こここんなところで死にたく無い!ぎゃあ!」

 「戦意が消えた...機を完全に捉えましたか。」

 ご隠居様の技?により敵の戦意は完全に消えた。

 敵は誰が言い始めた訳でも無く、左近殿や光秀殿により斬られちりじりに逃げていく。

彼らもまた、玄任の器量を見限っていたのだ。

 こうして、戦場に残る敵は玄任ただ1人となった。

 ご隠居様と玄任の距離は、もう5歩ほどとなっている。

 「ま、まま待て!降参する!降参しゅる!だから、だから命だけは!」

 もう玄任は武士としての矜持を完全に失っていた、這い蹲って土下座する玄任にご隠居様は言い放つ。

 「貴様は何人の命を戦に借り出し、貴様の命令で何人殺した?その責任を負え。」

 ご隠居様の刀は、天高くそびえ立つ。

 その顔は、憤怒に彩られ、演目の般若の如く歪んでいた。

 ご隠居様の見せる、武士としての顔。

 その姿に気圧とされ、私はぶるりと背を震わせる。

 そしてご隠居様の刀が、玄任に落ちた。

  キィィィンという音が鳴る、

しかし、人を斬ったようなあの水と骨が断たれる音がしない。

 なんだ?

 理解に時間を要した、ご隠居様は玄任を

 だが殺していた、ご隠居様の刀は確かに空を斬り地面に刺さっているが、玄任は小便を垂らしながら惨たらしく絶命していた。

 彼に傷は1つもついていない。

 何故だ?私はその理由を後ほど光秀殿に教えて頂き、その理由に驚愕した。

 玄任は何故死んだのか?光秀曰く、動物というものは自分の死期を悟ると苦しまないように自ら死を選ぶようにできているらしい。

 極度の恐怖、極度の恐れから逃れる為の死。

 それを逃れる為に、これから来る痛みから逃れる為に、玄任の体と心は死を選んだのだそうだ。

 次に、ご隠居様がその殺した方を選んだ理由についてだ。

 一揆軍の大将が、戦うことも無く傷1つつけられず恐怖で死ぬ。それは武士にとって決して拭えない汚名となる。

 ご隠居様は玄任の武士らしからぬ行為を咎めたのだ、その噂は逃げた玄任の部下たちが勝手に広めてくれるだろう。

 彼らは、自分たちが臆して戦場から逃げたなどとは言いたく無い。故に自らの元主人を貶める、自分たちが逃げたこと棚に上げてだ。

 悪いのは自分たちで無く、主人のだらしなさ故に見限ったのだと思いたいが故に。

 まぁ、そのどちらもが正しいからそれは良いと光秀殿は言っていたが。

 ちなみにその当時の私は、そのようなことは艶程も考えていない。

 ただ、紅き外套マントを羽織り虚しそうな顔で玄任を見ているご隠居様をただ眺めていただけだった。
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