歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました

上日月

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たい焼きの頭としっぽ①

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人々の視界を遮るビルとビルの狭間で、無数の足音は慌ただしく過ぎ去っていく。そんな、どこか寂しく、閉鎖的な世界で生きようとしたこともある。でも、どうも私には似合わなかった。

人と人のつながりが賑やかさをつくる、下町の一角でずっと生きてきたから。

歴史と風格が残る建物と、筆書きで書かれた看板が肩と肩を隣り合わせる。まるで他所とは違う時間が流れているみたいに。その一部を為す、たい焼き屋「小濱堂」。

読み書きができないときから、この文字だけは自然と読めた。なんてったって私、小濱鈴子(こはまりんこ)は、たい焼き屋「小濱堂」の一人娘だからだ。

「たい焼き、二つください!」
「あいよっ!二つね~、ちょうど新しいの焼き上がったところだよ」

サスペンダー付きのスクールスカートと二つ結びの髪を振り乱しながら帰ってきた私を、今日も威勢の良い父さんの掛け声と、待ち遠しそうに首を伸ばすお客さんが出迎えてくれる。

香ばしい香りが広がる店先にランドセルを放り投げ、息を切らしながら、いつものようによく通る声で挨拶をした。

「こんにちはっ!」

「あら、まぁ~可愛いお嬢さんね?」
「でしょ~?うちの一人娘なんですよ」

「父さん、拓真と遊んでくるから~」
「あいよっ!暗くなる前には帰ってくるんだよ~?」

会う人ほとんどが、初めて顔を合わせたも同然なのに、まるで何年の付き合いもあるかのようなやり取りが、どこを走っても見ることができる。

そんな活気に満ち溢れたこの町が大好きだった。

たくさんの大人に囲まれて育った私たちには、ビル街とこの町を分つようにして並べられた長い石段が、無邪気に駆け回れる唯一の場所だ。

それを見守るようにそびえたつ色付いた大きな木は、冷たい風に吹かれてゆらゆらと揺れている。そのせいで影が消えた石段の上には、たくさんの枝葉が一面に敷き詰められていた。

私はその中から、渾身の一本を探し出そうと、向かい風をものともしないでしゃがみこむ。いつもこうして、会いたいその子の声を待っている。

「おーいっ!」

しばらくすると、息を切らした大きな叫び声が聞こえてくる。まだ、混じり気のない透き通った男の子の声だ。

その声を聞いて、パッと明るくなった顔を上げると、私とちょうど同じ背丈くらいの、スクールズボンを履いた男の子が、肩を上下に動かしながら一直線に走ってくる。

走ってきた後でも、日本男児らしい、その美しい顔は綺麗なままだ。長く伸びた前髪さえも右寄りにきっちりと分けられているから、不思議といつも乱れていない。

「もーう!拓真!遅いよ~」

「仕方ないだろ?俺、このあと出番だってのに、っ」

(そう言いながら、今日も走って来てくれたんだよね~)

私は毎度聞かされる小言を遮るように、手に持つ枯れ枝を、か弱い力で振り下ろした。

「あっ、ぶない、なぁ」

しかし、いつの間にか、拓真も手に入れたらしい枯れ枝によって、今日も自信いっぱいの一撃は、簡単に受け止められてしまう。

(なんでっ……?)

「ねえ!これじゃ勝負にならないって、いつも言ってるじゃん!」

「勝負って……はははっ……俺が鈴子に負けるわけないだろ?」

(また笑った。絶対無理って思ってるでしょ)

「はあ~?そんなのやってみないとわかんないじゃん!良い?次は本気でやってよ?」

「……はいはい。でも、五分だけだからな?」

私が何度短い剣を振りかざしても、拓真は絶対に同じことをしようとはしない。ただ、優しく見守るように笑いながら、どんな無茶も黙って受け止めてくれる。

そして私は、そんな拓真の笑顔をただ見ていたいだけだった。

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