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たい焼きの頭としっぽ③
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たい焼きを届けに行かせたはずの娘が、家族団欒の夕飯時に、金色の髪をした綺麗なお姉さんまで連れ帰ってくる。
ちょっとやそっとのことじゃ驚きはしない、エプロン姿の肝っ玉父さん母さんも、冷えきった食卓を前に、しばらくは開いた口が塞がらないという感じだった。
うさみおばさんは名刺やら、パンフレットやらを、全身のいたるところから引っ張り出してきて、二人にも私にしてくれた以上に、丁寧に説明してくれた。
いつも空気の凍る親父ギャグや、面白くないダジャレばかりで困らせてくる父さんも、いつになく真剣な表情だ。
腕を組みながら眉間には何重にも皺を寄せ、いがぐり頭を見せつけるように、深く俯いている。
「ラヴィットプロダクション……芸能事務所…、ですか……」
(うわあ。これは久々に父さんの特大雷が落ちるかもな……)
色とりどりのおかずが並べられた四人がけのテーブルで、いつもは空席のひと席に、当たり前のように他人のうさみおばさんが座っている。
そして、ここにいる全員が揃いも揃って、俯きながら、代わる代わるにため息をついていく。とてつもなく異様で、重い空気が流れていた。
そんな静かな空気を終わらせるように、豪快に音を鳴らしながら立ち上がったのは……
(うさみおばさんだ!良しっ!まだ完全に負けたわけではなかったみたい!)
うさみおばさんは、まるで鼻息で食卓をも吹き飛ばしてしまいそうなほど、たどたどしくも熱い演説を見せてくれる。
「まだ駆け出しの事務所ですが、こんなにも可愛くて、目を奪われた子は、初めてなんです!それに、本人のやる気もあるみたいですし!必ずや、うちを代表する子になってくれます!」
(……おばさん、なんだか眩しいよ!いけいけ!頑張れ!お、ば、さ、ん!)
対する父さんの声は、相変わらず虫が鳴くように、か細く小さかった。
「……うさぎさん……でしたっけ?」
(父さん……ボケるならはっきりすべってくれないと。余計に見ていられないよ……)
「……宇佐見です……いえ、もう、うさぎでも、なんでも……お好きなように、呼んでください……」
父さんが一人で気に入って多用するボケに、律儀に付き合ってくれていた宇佐見おばさんも、もうここまでくると適当にあしらう術まで身につけていた。
(ほら、言わんこっちゃない……)
私は父さんのつまらないダジャレのせいか、はたまたこの重い空気で、疲れが一気にドッと出てしまう。
ここにいる全員がもう解散だ、と諦めかけたそのとき、父さんのぱっと華やいだ顔が、どよんとした食卓に咲き誇った。
「わかってくれます!?うちの子の可愛さ!!この目なんて、まるでうちのたい焼きみたいに、クリックリでしょ?やっぱり母さんに似たのかなあ?」
「あなたったら、もう……」
(そうだった……この人たち、家族のことめっちゃ大好きなんだった……そして父さん。その例えは、絶対に間違っています)
言わずもがな、うちの両親は超がつくほど娘を溺愛していた。
娘の可愛さを分かってもらえた嬉しさから、大人たちはすぐに意気投合し、宇佐見おばさんをVIP待遇さながらにもてなしまくった。
そして、三角巾の後ろから結んだ髪をゆらゆらと揺らす母さんを、一緒になって呼びながら、一番多くおかわりをしたのは、他でもない宇佐見おばさんなのであった。
ちょっとやそっとのことじゃ驚きはしない、エプロン姿の肝っ玉父さん母さんも、冷えきった食卓を前に、しばらくは開いた口が塞がらないという感じだった。
うさみおばさんは名刺やら、パンフレットやらを、全身のいたるところから引っ張り出してきて、二人にも私にしてくれた以上に、丁寧に説明してくれた。
いつも空気の凍る親父ギャグや、面白くないダジャレばかりで困らせてくる父さんも、いつになく真剣な表情だ。
腕を組みながら眉間には何重にも皺を寄せ、いがぐり頭を見せつけるように、深く俯いている。
「ラヴィットプロダクション……芸能事務所…、ですか……」
(うわあ。これは久々に父さんの特大雷が落ちるかもな……)
色とりどりのおかずが並べられた四人がけのテーブルで、いつもは空席のひと席に、当たり前のように他人のうさみおばさんが座っている。
そして、ここにいる全員が揃いも揃って、俯きながら、代わる代わるにため息をついていく。とてつもなく異様で、重い空気が流れていた。
そんな静かな空気を終わらせるように、豪快に音を鳴らしながら立ち上がったのは……
(うさみおばさんだ!良しっ!まだ完全に負けたわけではなかったみたい!)
うさみおばさんは、まるで鼻息で食卓をも吹き飛ばしてしまいそうなほど、たどたどしくも熱い演説を見せてくれる。
「まだ駆け出しの事務所ですが、こんなにも可愛くて、目を奪われた子は、初めてなんです!それに、本人のやる気もあるみたいですし!必ずや、うちを代表する子になってくれます!」
(……おばさん、なんだか眩しいよ!いけいけ!頑張れ!お、ば、さ、ん!)
対する父さんの声は、相変わらず虫が鳴くように、か細く小さかった。
「……うさぎさん……でしたっけ?」
(父さん……ボケるならはっきりすべってくれないと。余計に見ていられないよ……)
「……宇佐見です……いえ、もう、うさぎでも、なんでも……お好きなように、呼んでください……」
父さんが一人で気に入って多用するボケに、律儀に付き合ってくれていた宇佐見おばさんも、もうここまでくると適当にあしらう術まで身につけていた。
(ほら、言わんこっちゃない……)
私は父さんのつまらないダジャレのせいか、はたまたこの重い空気で、疲れが一気にドッと出てしまう。
ここにいる全員がもう解散だ、と諦めかけたそのとき、父さんのぱっと華やいだ顔が、どよんとした食卓に咲き誇った。
「わかってくれます!?うちの子の可愛さ!!この目なんて、まるでうちのたい焼きみたいに、クリックリでしょ?やっぱり母さんに似たのかなあ?」
「あなたったら、もう……」
(そうだった……この人たち、家族のことめっちゃ大好きなんだった……そして父さん。その例えは、絶対に間違っています)
言わずもがな、うちの両親は超がつくほど娘を溺愛していた。
娘の可愛さを分かってもらえた嬉しさから、大人たちはすぐに意気投合し、宇佐見おばさんをVIP待遇さながらにもてなしまくった。
そして、三角巾の後ろから結んだ髪をゆらゆらと揺らす母さんを、一緒になって呼びながら、一番多くおかわりをしたのは、他でもない宇佐見おばさんなのであった。
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