歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました

上日月

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近くて、遠い⑤

それまで訳もわからずスッキリとしなかった、心の霧がパッと晴れるように、私は何の後腐れもなく、「小濱堂」の娘に戻った。

店先から少し奥へと進んだところに、小濱家の生活スペースがあるが、「小濱堂」との明確な線引きはない。

「母さん、おはよう~」

私は眠い目を擦りながら、寝巻きの姿のまま、母さんが先に立つ台所に加勢していく。

そして食卓に、出来上がった朝食を並べ終えると、父さんを焼き場まで呼びに行き、揃って朝食を取る。

「これ。拓真じゃないか?」

テレビを真剣に見ていた父さんが、拓真の顔を指差した。

"連絡するから…連絡するから…''

私も口までヒョイヒョイと進めていた箸を置いて、テレビを食い入るように見つめる。

朝のテレビには、今日も拓真が映る。そんな拓真の姿にさえ、今まで以上に敏感に反応するようになっていた。

「お父さん、ダメよ。鈴子はPUPU派なんだから~。ほら、変えましょう、変えましょう」

「そうなのか?ったく、仕方ないな……」

(ああ。前になんか、そんなこと言ったかも…)

私はリモコンへと向かう母の手に、がしりと渾身の力で掴みにかかり、無理やりにも同意を引き出そうとした。

「このアナウンサーの人!カッコいいよね?ね?」

「あら、そう?お母さんは、ずっとお父さん一筋よ?」
「母さん。もーう、照れるじゃないか」

(ふぅ~。危機一髪だぜ)

"連絡するから…連絡するから…''

こうして今日も拓真の言葉を頭に残しながら、私の慌ただしい一日は始まる。

朝食を終えると、父さんがまだ暗いうちから仕込んだ生地と餡の、甘い匂いが広がる「小濱堂」へ向かい、また母さんに加勢するように、掃き掃除で店先から店内まで目に見える汚れをすべてなくす。

そして掃除を終えそうなタイミングで、父さんが焼き場に再び戻り、使い込まれた銅板にじっくり時間をかけて熱を浸透させていく。

下町に人の流れが生まれるのは、朝の9時。

父さんと代わる代わる、私たちもその時間に間に合うようにチラチラと時計を見ながら、肌に薄く血色を与えたあと、Tシャツとジーパンに着替え、髪を一つにサッと束ねる。

そして、気合を入れるようにエプロンの紐をキュッと締め、のぼり旗を一度上げてしまえば、もう目の前の出来事しか見ることを許されない。

店前で足を止めたお客さんに威勢よく声をかけ、父さんの焼いた美味しいたい焼きを極力時間をかけずに提供する。

それが私の役目であり、小濱家の日常だからだ。

のぼり旗を下げ、夕飯を食べ、家族の話し声や笑い声が私を満たしているときまでは、まだ大丈夫だった。

でも部屋でいざ一人になると、もう頭の中には本当に"連絡するから…連絡するから…''しか残らなくなる。

(拓真って、店の電話知ってたっけ?さすがに忙しい拓真が、そんなマメなことする?いやいや、ないない……)

「プルルルル、プルルルル」

(本当に電話鳴ってるじゃん……!)

私はだらしなく伸びていた身体を飛び起こして、全速力でその音が鳴る方へ駆け出す。

すると目の前では、一番恐れていた事態が発生していた。

あろうことか私より先に、父さんが受話器に手をかけようとしていたのだ。

(もし電話の相手が拓真だと、父さんに知られたら?それはまずい、まずすぎる!)

「どいてーー!!」

私は町一帯に響き渡るくらいの、馬鹿でかい声を張り上げ、父さんに体当たりしながら受話器を奪い取る。

「……何?鈴子に電話なの?…なら、そう言ってよ……いたたた……」

打ちどころをかばいながら捌けていく父さんを、私はとても心苦しい気持ちで見送る。

(父さん、ごめんよ。でも、私はやっと気づけたこの恋を絶対に守らなくちゃいけないんだー!)

手に持つ受話器から、小さく、それでもすぐにはっきりと分かる拓真の声が聞こえてくる。

「……もしもし?」

その声がまだ夢にみたいに信じられなくて、上がった息も整っていないのに、飛びつくように受話器を耳にきつく押し当てた。

「鈴子?俺、拓真」

「拓真!?」

(……やっぱり、拓真だ!約束、本当に守ってくれたんだ!)

「連絡するって、言ったろ?」
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