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序章 ストーリーとは

7 問題を解決する「ソリューション」と三つの要素のまとめ

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前回の記事でお伝えした危機「クライシス」はストーリークエスチョンの本質的な要素である「問題提起」を引き起こすための、いわば引き金のようなものである、というものだった。

そうした「クライシス」の規模がその世界の中でより大きく肥大化して、全体的な均衡を揺るがすほどの規模にまで発展した時、その均衡を元に戻すための手段というものが存在する。この手段というものが「ソリューション」であり、登場人物の中で主要人物である主人公がそれを手にした時のタイミングでそれが有する能力と真価が発揮される、というものである。今回はその「ソリューション」における定義と役割、その提示地点と、その手段が発揮される発生地点までを解説していく。

 

「ソリューション」とは、ストーリーで起きた危機としての問題を収束あるいは全面的な解決へと導くことになる、何らかの具体的手段のことを意味する。例えば、現代において敵によって人類が生きる活力を奪われた時、太古の地球に存在した文明の遺産が人々にエネルギーを与える能力を持ち、その真価が主人公の手によって発揮されることになる、といったように、世界を維持することが困難になった時に、それを復元する何らかの能力を有していることが基本的な意味合いとなる。ポイントとしては、危機を一気に解決するほどの威力を秘めており、また、主人公と何らかの関係性や接点があり、その能力は主人公だけが発揮できる特定的な限定を持つことも挙げられる。その存在がストーリー上で明るみに出るタイミングというものもあり、現在において危機が起きることになった過去の原因が解明された時に、主に「語り部」と呼ばれる役割を持つ登場人物によって明かされることが多い。その意味で「ソリューションの提示地点」というこのタイミングは中規模の危機が起きるストーリーの後半あたりで明かされる特徴がある。

その存在が明らかになった時、主人公を主軸とする登場人物は秘宝や遺産やエネルギーやアイテムなど、何かしらの具体的な形でソリューションとして存在するそれを探し求める旅や冒険に出ることになる。必然的に主人公のもとに届くパターンもある。

そうして主人公がソリューションを手にした時、ストーリー上で世界的な危機として肥大化した「クライシス」を収束させるため、それを使って敵と対峙する運命を持つ、というタイミングが発生した時、それはソリューションが発揮される地点に到達した、ということになる。

 

以上を踏まえて、「ソリューション」には以下の特徴がある。

 

○定義

ストーリーで起きた危機としての問題を収束あるいは全面的な解決へと導くことになる、何らかの具体的手段のことを意味する。

 

○役割

ストーリー上の危機「クライシス」としての問題を解決、あるいは収束する役目を持つ。

 

○提示地点

危機が起きることになった過去の原因が解明された時にその解決能力を有している手段の存在が明かされる。

 

○発生地点

危機がそのストーリーで展開される舞台、つまり世界の均衡をより大きく崩すことになる出来事が肥大化した時、何らかの形で主人公がソリューションを得たことによって、その能力が発揮される。

 

以上が基本的な要点となる。

「ソリューション」まで解説することができたので、この三つの要素「システム」「クライシス」「ソリューション」が一体何を意味するものなのか、そういったことをこれから説明していこうと思う。

 

 

これまでの要素「システム」「クライシス」「ソリューション」をより分かりやすく理解するために、簡潔な表現に換言するとするなら、それは以下のようになる。

 

○「システム」:ストーリーの環境

 

○「クライシス」:ストーリーの問題

 

○「ソリューション」:ストーリーの解決

 

箇条書きにしたこのまとめを新たに換言すると「環境」「問題」「解決」の三つになる。

実はこれが意味する既存の一般的な脚本術におけるある構成論がある。

それこそが「三幕構成」と呼ばれるものであり、その内訳である「日常」「対立」「解決」の三つがそれぞれこの「環境」「問題」「解決」に該当する、というものである。

 

なぜ、該当すると言えるのか?

それは、どちらにおいても、主人公とストーリーの変化との関連性を示しながらストーリー全体の流れを、主人公の立ち位置から表現しているからである。つまり、主人公の視点に立った形でストーリー変遷の様子を表現しているからである。

「環境」は主人公の「日常」を意味し、「問題」は敵対者との「対立」を、「解決」はそのまま、対立あるいは問題の収束を意味している。

 

だが、これらは主人公という視点からのストーリーの根幹「三幕構成」であり、その本質を簡潔に表現しきれたものと言い切るには少々強引な部分がある。

ストーリーには主人公がどうしても必要不可欠な存在なのだが、ストーリーと呼ばれる「出来事の変化」を考えなければならない以上、単に主人公という視点だけでの三幕構成では、主人公が次第に出来事に巻き込まれていく過程の理由、つまり、「なぜ主人公がストーリーに巻き込まれていくのか」を十分に説明できないという盲点が生まれてしまう。主人公という視点だけで出来事が起きる所以を証明することはできない。出来事には出来事としての独立した経緯があり、そこに主人公が席巻されていく形で「変化」が生まれる、という構造を理解して初めて主人公が存在する意味を持たせることができる。

 

ということは、この「三幕構成」をストーリーの「変化」と定義付けている理論もかなり多いと思うのだが、その論点でストーリー創作論の話を進めていくとするのなら、この一般論としての「三幕構成」は真に「変化」に該当するものではない、という結論が導かれる。

では、本質的な「三幕構成」とは何なのか?

 

ここで前回、ストーリーという変化の本質は「危機を問題提起することだ」とお話したが、実はその危機「クライシス」をさらに細分化した構成論が、このブログを一新する前に書いた記事で記してある。

それが、出来事の変遷である「発生」「解明」「収束」である。

つまり、危機「クライシス」を細分化したこれらの要素を、このブログでは「三幕構成」と定義しているのだ。

 

以前の記事「ストーリーを一言で表すなら」リンク先

 

序章 ストーリーとは~ストーリーを一言で表すなら~ | ゼロからわかるストーリー創作講座 (jugem.jp)

 

 

危機という出来事が「問題」の代名詞なら、「問題」はストーリーの「変化」として構成されてもおかしくはないことは、これまでの記事で説明している通りである。

ストーリーの本質は出来事の変遷という意味における「変化」なのだから、主人公自らが「変化」を起こすという構図にはならないはずである(このブログで解説している「変化」と呼ばれるものの中で、主人公の環境が「変化する」という視点が既存の三幕構成である)。主人公はあくまでこの「出来事の変遷」に巻き込まれていくことになる「動かされるもの」なので、「変化」を引き起こす主因には決してならない。そういった意味も含めて、「変化」は出来事の変遷、つまり、何らかの問題が引き起こされる一連の話の流れなのである、という別の視点に立つことが、ここで解説する「三幕構成」の奥底にある「変化という出来事の変遷」の部分に関わっていくことと同義になるというわけだ。

 

次回では、一旦ここで説明した「ソリューション」に焦点を絞って、この項目が主人公を動かす根拠となる「役割」というものと密接に連動していることを解説していこうと思う。

 

 
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