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序章 ストーリーとは

11 ソリューションへと主人公を導く「ターンキー」

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大変長く間を空けてしまい、ご不憫をおかけした。

今年も何卒よろしくお願いを申し上げたく思う。

あれからというものの、なんだかんだ言って遅々として小説の創作が進んでいないのが現状であり、果たしてこのペースで自分のやると決めたことを実現できるのかどうか、甚だ疑問に思われても致し方ない部分が少しばかり露呈しているような気もする。

前回書いた本格特集の記事は、大いに修正の余地があることが一つと、今後のネットコンテンツにおいてある種のアップデートのような意味をはらむことになり、非公開にさせて頂いた。

いち早く作家を実現できるようにするといった約束は、一見するとおざなりにさせてしまったかのように思えるが、時間はかかれどそれはこのコンテンツを介して有言実行するつもりでいる。

やることなすこと、さっさと終わらせて次のステージに移行するべきだと感じるこの頃である。

 

今回は、以前に書いた記事「実際のストーリーで何を問題提起とするのか」の中で、今後展開していく記事の内容を4つ紹介させて頂いたが、その最後の項目である「キャラクターから創作したい人が初めに認識すること」をこの記事の本質にある内容として書かせて頂こうかと思う。もちろん前回の記事の最後で予告した「ソリューション」と「役割」の密接な関係についても、この内容と連動させて書いていくつもりである。というよりも、キャラクター創作の初期段階で初めに行うことがこの二つの関連性が意味するものである、という表現の方が適切だと思う。

それではその関連性を解説していこう。

 

 

 

目次

1 敵が起こす危機はいつも主人公の懐にある

2 両者を対立させる引き金「ターンキー」

3 「ターンキー」は主人公へ「ソリューション」に関連する力も与える

 

 

 

1 敵が起こす危機はいつも主人公の懐にある

 

しばらくぶりのことだと思うので、一旦これまでの内容を整理しよう。

ストーリーにおいて、事態の変化を引っ張り合う二つの対立構造というものがあった。それが、敵と味方の拮抗のことであり、敵が先だって「クライシス」、即ち「危機」という、登場人物たちや世界の存亡の命運を左右する出来事を起こし、それを回避、あるいは打倒などによって克服するために味方サイドが敵の野望や思惑、陰謀などといったものを打開する、という一連のプロセスがあったと思う。さらにこれがいつ、どのようにして始まるのかに関しては、過去のタイムラインで「環境の不和」と呼ばれる、敵が発生する何らかの温床が次第に肥大化していき、敵となった存在が味方サイドを攻撃する、という出来事が起きたことが前提条件になることも話した。その出来事が不発に終わったために、現代でそれが再燃する、という設定がおおむね基本的な流れであることも話したはずだ。そして、味方サイド及びその陣営に位置する主人公には予めその運命を享受し、立ち向かう立ち位置に存在していなければならないことも少しばかり説明したように思う。

前回はこれら「危機」や「温床」などの視点から、敵役が発生する経緯を解説していったが、今回はその真逆の配置にあたる味方サイドとそれに与する主人公の役割とその発生要因を解説してみようと思う。

 

主人公におけるこの「運命を享受し、立ち向かう立ち位置に存在する必要性」とは、簡単に言い換えればまさに「敵を打破すること」であり、主人公と呼ばれる登場人物に必ずと言っていいほどに任命された役割が、この「打破」、既存の三幕構成で言えば「対立」という項目に該当するものであることは、これまでの解説を読むにせよ、他のハウツー本をご覧になってきたにせよ、ご存知の方も多いはずだ。

では、主人公が「対立」するまでの間に、主人公はどんな経緯を経て、何を得ている必要があるのだろうか?

読者の方もよくお分かりのように、敵と主人公が冒頭から対立したりなどといった行為はほぼあり得ないと言っても過言ではないことは、特に説明しなくても十分だろうと思う。そのような展開は、そもそもストーリーの流れ的に見ていびつだし、「なぜ、こんなところでこのような展開が起きるのだろうか?」と読者を当惑させてしまうだけであることは、十二分に理解されていると思う。

主人公が敵と対立するためには、両者が必然的に出会うための出来事が必要であり、そのための「お膳立て」として伏線を張る必要が生じるからだ。

 

そうなるならば、先ほどの言葉にあったように経緯、つまり敵と主人公が出会うための「きっかけとなる出来事」が必要であり、それはいきなり「バーン!」と起こすのではなく、適切な順番を経て順序立てて徐々に起こしていくことが不可欠となる。ただ、そうとは分かってはいても、作者の中で一番難解な創作の一つとして、この「きっかけとなる出来事」、つまり「ハプニング」や「事件」、あるいは「危機的状況」などといったものをさり気なく自然な形で描いていくには、一体どうやったらいいのか、という困惑が控えていることは、往々にしてあるはずだ。実際上、「はじめの話をどう書いていいのか、わからない」という作者の声を見かけることも多かった。

 

この課題をうまく解決する手段の一つとして、「ソリューション」へと導かれる関連要素を使う手がある。

世界の危機を一気に解決する「ソリューション」、これが秘められている地点へ主人公を運ぶための何かしらの「ツール」を主人公が予め所有している、あるいは所有することになった、という前提条件を使うのだ。この「ツール」は大抵の場合「主人公の懐」にいつも存在し、この存在を知った敵が絶好の機会を狙って主人公を一時的な危機に陥れるのであり、この一時的な危機が先ほどの「事件」と呼ぶもので、ストーリーの波でいう一番最初の小規模な「山場」にあたる部分である。

一体どういうことか、私のお気に入り映画である「トランスフォーマー」を例にとって説明しよう。

 

 

 

2 両者を対立させる引き金「ターンキー」

 

この映画のいいところは、私なりの視点で言うとプロットがしっかりと練られていることに加えて、テリング、つまり映画に必要な追走劇や戦闘シーンなどといった要素が順番にかつタイミングよく表れていることだ。他の映画、例えば「アベンジャーズ」を例にとると特定のシーンが起きる所以、つまり「なぜ、その出来事が起こったのか?」という根拠を明確に具体的に明かし切れていないところが時として見受けられるのだが、この映画は―第5弾「トランスフォーマー 最後の騎士王」はプロットがこんがらがっていて、主旨が非常にあいまいだったのでこの作品は省くが―その根拠がちゃんとしたタイミングで明確に示されている作品が多く、ストーリーの流れ的に妥当性のある構想がセッティングされていることにある。もちろん、この映画とて決して完璧ではない。第3弾「トランスフォーマー ダークサイドムーン」には僅かばかりの中だるみが見受けられたし、この作品群の全体像として、主人公が「事件」後に事の解明に乗り出すまでの心境の移行が甚だ不明瞭ではあった。それでも、全体的な完成度から見てこの作品たちはよくできている部類に属するものであると私は結論づけている。関心のある方は一度見てみることを勧める。特にプロットが一番よくできているのは第2弾の「トランスフォーマー リベンジ」だ。

 

余談はともかくとして、「ツール」と呼ぶものがこの「トランスフォーマー」シリーズにはよく登場する。

第1弾の「トランスフォーマー」で解説しよう。

仮にまだ観ていない方がいたとしたらネタバレが生じることになるので、そこはご容赦頂きたい。

 

この作品は地球外生命体として位置づけられる金属生命体たち、つまりトランスフォーマーたちがオートボットとディセプティコンと呼ぶ二つの勢力に分かれて、かつて太古の地球に落下した、生命を創造できる彼らの遺物「オールスパーク」を巡って戦いを繰り広げる話である。このオールスパークは軍隊を創造することが可能であり、この強大なパワーを人類文明のテクノロジーを豹変させることで軍隊を編成し、人類を滅ぼそうと目論むディセプティコンが「あるもの」を捜索しに地球に潜入する。そのリーダー、メガトロンは、この遺物を追って地球に飛来してきたが、地球の磁場で方向感覚を失い、氷河に墜落した、という過去がある。そして、1800年代に、主人公サム・ウィトウィッキーの遠い祖先である探検家アーチボルド・ウィトウィッキーが彼の存在を発見し、彼をたまたま起動させた時にメガトロンの目から発射された光線がアーチボルドのかけていた眼鏡に直撃し、メガトロンにインプットされていたオールスパークの座標がその眼鏡に刻印された、という過去がその一連の流れで明かされるのだ。この祖先の眼鏡をサムはネットで競売にかけていた。それを発見したディセプティコンの仲間が彼を追跡して襲撃をかける、という出来事が発生するのだ。この出来事が私が位置づける「ハプニング」や「事件」であり、そして、オールスパークを見つけるための探検家アーチボルド・ウィトウィッキーの眼鏡こそが「あるもの」、つまり、この「ツール」と呼ぶものなのである(ついでに説明しておくと、オールスパークは「ソリューション」にあたる)。この「ツール」を主人公が所有していることによってそれを敵が主人公ごと見つけるためのきっかけが生まれることになるのだ。この「ツール」という言葉は今までの解説の定義上、便宜的に用いたもので、実際は私はこれを「ターンキー」と呼んでいる。この「ターンキー」を主人公の懐に、つまり、彼の手元に所持させることによって敵サイドと味方サイドの両者が争奪戦を展開する流れをくむことが可能になるのだ。1のタイトル「主人公の懐にある」とは、ここから来ているのだ。

 

なぜ「ターンキー」と呼ぶのか?

ここでの「ターン(turn)」とは「~の方向を変える」「状況が一変する」「変化させる」などの意味を持つ。転じて「ターンキー」とは、「状況を変えるための鍵」という訳になる。こう表現すると何となくわかるかもしれないが、つまるところ、この「ターンキー」とは「トランスフォーマー」で言うところの「眼鏡」のことであり、更にこれが「ソリューション」、つまりオールスパークの場所へと導くための「引き金」となる役割を果たすもののことである。要は、敵と味方を衝突させるには、そのどちらもが欲する「ソリューション」の最小単位である「ターンキー」を始めに設定しておくことで、ストーリーの冒頭部分がスムーズに、そして自然な形で展開できることになるのだ。

 

 

 

3 「ターンキー」は主人公へ「ソリューション」に関連する力も与える

 

この「ターンキー」だが、実は主人公だけが持つ特定の資格と、その資格が最終的にソリューションを得る必要条件とも繋がることも、作品によっては存在する。その「資格」とは主人公だけが持つ能力のことである。

例えば、敵を殲滅するパワーを持つ宝石に「心」があり、その心を動かすことができるのは秩序正しい心を持った者だけ、などといった設定がそれに該当する。ここではもっと分かりやすくするために、第2弾の「トランスフォーマー リベンジ」を例にとろう。

 

1の「トランスフォーマー」でオールスパークはメガトロンの胸部と同化し、そのあまりに強大なパワーでメガトロンとオールスパークの双方共に機能不全になった。正確には、メガトロンは倒され、オールスパークは破片となってオートボットのリーダー、オプティマスプライムに収拾された。そして、2の「リベンジ」ではそのオールスパークの破片が軍の倉庫に厳重に保管されていることが明かされる(結果的に仲間たちによって倉庫から奪われ、メガトロン復活の動力源として使われてしまう)。同時に、1でメガトロンの胸部にオールスパークを押し込んだ主人公サムのパーカーに同じくオールスパークの小さな破片がついており、手にしたパーカーの中からそれが床に落ちる、というシーンがある。破片を拾ったサムの脳内に謎の象形文字が瞬き、次第にサムはその文字に思考を乗っ取られ、入学したばかりの大学で混乱を招き寄せることになる場面が描かれていく。

実はこの破片には、トランスフォーマーたちのもう一つの秘密が刻み込まれていた。

原始人類が狩りを始めたころ、古代のトランスフォーマーたちは既に地球に到来し、「ある装置」を平野に築いていた。その装置から得られるトランスフォーマーたちのエネルギー資源「エネルゴン」を種族存続のために使い、ひいてはそれが地球のみならず太陽系滅亡の危機になることも顧みず、メガトロンたちは大学内に潜入させたヒト型ロボットを引き金に、サムを捕捉して彼の脳内にある文字が意味するものを取り出そうとした。だが、彼が殺されそうになったその瞬間にオプティマスが駆け付け、メガトロンとの一騎打ちになる。メガトロンを含む敵三体を相手に必死に戦うも、不意を突かれたオプティマスはメガトロンの武器で背後から胸部を刺し貫かれてしまい、命を落としてしまう。

何とか脱出したサムは、新たに加わった仲間たちと文字の正体とその解読に専念していくと、それは、かつてオプティマス・プライムの初代先祖たちが建設した装置「グレートマシン」と呼ぶ、太陽からエネルゴンを採取する巨大な機械の駆動源のことに関する内容を表していた。グレートマシンを起動できるその駆動源「リーダーのマトリックス」を狙い、この星系の太陽からエネルゴンを採取して消滅させることで、地球が住めない星になってしまってでも、種族の存続のために太陽を消滅させようとした先祖たちの中の裏切り者、フォールンとそれに追従するメガトロンは、文字がマトリックスの隠された在り処を意味していたことを知ったサムを追ってグレートマシンを起動させようと目論むが、その一方でサムは、マトリックスの持つパワーをオプティマス復活に使えないだろうか、と考えを巡らせる。なぜなら、フォールンを止められるのは、同じプライムの名を持つ者だけであることを知ったからだった(ただ、個人的に思うのは、オプティマスがフォールンを倒せるのならば、フォールンの部下であるメガトロンが彼を倒せたのは、なぜだったのか、という疑問が生じる。というのは、メガトロンの上に立つ者であるフォールンが力関係的にオプティマスに倒されるのなら、その部下のメガトロンはオプティマスを倒したがゆえにフォールンより力がある、ということになってしまい、両者の上下関係が成り立たなくなってしまう、という理由を見つけたからである。絶対に敷かなければならないルールではないが、パワーバランスを考えた時の矛盾点として気づいた、というだけの話である)。

 

前置きが非常に長くなってしまったが、以上が「リベンジ」の大まかな内容である。1と違うところは「ターンキー」が眼鏡などの物理的なアイテムではなく、サム自身、正確にはサムの脳内にインプットされた古代文字であること、そして、そういう設定自体が主人公自身に文字を解読するための媒体役としてこぎつけることになったことだ。このやり方は主人公と「ターンキー」が完全に同化した形を取っており、うまい方法を用いていると思う。補足だが、一見すると「ターンキー」は文字が入っていた破片だ、という見方もできるが、事実上マトリックスというソリューションへサムを導いたのは、文字であり、サム自身でもあるので、ここでは「ターンキー」は破片ではなく文字、あるいはそれと同義になったサムである。「ターンキー」と主人公を同等の定義にするという手法は珍しく、他の作品ではあまり類を見ない。そういったこともあってこの第2弾はシリーズの中で最もよく緻密に計算された作品だと個人的に見ている。

この場合においては、主人公に「文字の存在を知る」「導かれる」というある種の能力を「ターンキー」が与えた、ということになる。これによって、「ターンキー」が物理的ではなくとも、主人公がソリューションへの導き役自身になりえた、という工程になり、物理的なものの意味合いが何なのか、ということを説明するための手間が省けたことになる。実際上は文字の正体を知るために元ディセプティコンの老人やちびっこ元ディセプティコンを頼る工程がこの作品においては生じてはいるものの、本来的な「物理的なものの登場」→「その解明」→「事の真相の解明」という一連のプロセスが、「主人公による(物理的なものが意味したものの)解明」→「事の真相の解明」といったような、主人公にその要素の一部が含有されるプロセスに短縮されていることになる。このような手法を用いれば、物語によっては直接的に主人公が力や能力といったものを得ることも可能になる。その能力とは上記の例で示したように、「ソリューション」に関する資格、即ち主人公だけにしか与えられない特権のことである。こうすることによって敵が主人公を狙うためのより正当性のある根拠としても成立することができる。

 

以上のような例を踏まえて「ターンキー」はいかようにも変換が可能である。何も物理的なアイテムであったり、果ては既存の世界のスケールである必要もない。設定によっては、例えば、惑星や地球そのものを「ターンキー」とすることも可能だ。例えば、地球が「声」を持っており、正しい心を持った者だけにその声が聞こえ、星のどこかに秘められた財宝を教えることができる、などといったように、だ。これは少々強引かもしれないが、実際に私の一大SF小説「トランセンダー1激動を告げる者」に似たような形式で使っている。

 

このような視点から見て、主人公が敵と遭遇するまでの間で作者は何を用意すればいいのかというと、それは「ソリューション」と主人公を繋げる接点、つまり「ターンキー」及びそれに付随した能力のことである。

それこそが主人公にとっての「役割」であり、ミッションとしての「目的」である。

私がストーリーを創作する場合は、この「目的」に該当する項目を「パーパス」として捉え、設計をするのだが、それはストーリーの「構築」に値するものなので、しばらく間を置いておく。

 

それはさておき、登場人物から作品を創作したい人はこの「役割」及び「目的」から入ると、それに付随した彼や彼女の定義やその輪郭がある程度明確に浮かび上がってくると思う。

主人公だけでなく、全ての登場人物たちが必要とする「目的」は、ストーリーの創作の中で重要な項目のうちの一つで、これがあって初めて敵と味方の対立構造が基礎的に形成されると言っても過言ではないはずだ。その対立構造が敵の生み出す「クライシス」や、味方や主人公が発揮させる「ソリューション」を話の流れ的に自然な形で作り上げていく最初の基本的構造となりえるものなのだ。つまるところ、登場人物たちの「役割」や「目的」は、ソリューションを自分たちの元へ引き寄せるためのいわば「コンパス」ようなもので、この指針があるからこそソリューションが物語の中で具体的にどんな意味合いをもってその姿を現すのか、その謎を紐解くための「探偵」としての定義を成すことになるのだ。

 

 

以上が今回の主旨となる。

これは、ストーリー創作をキャラクターから設計したい、という人向けに解説した記事になる。同時に新三幕構成の「ソリューション」とも連動させて説明させていただいた。

今回は、実例が文面の幅を大きく占拠してしまい、具体的な内容が薄かったので、次回以降の記事に反省点の一つとして参考にするつもりである。

 

今後ともご愛顧をよろしくお願いしたい。

 
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