魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百七十八話 この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます。

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「ねぇねぇ、お店まであとどれくらいなの?」
「もう少しじゃよ」


 わしはオダリムの街中をノエルと歩いておった。事の発端はリビングのテーブルに置かれた便箋だった。
 中にはパーティーを行うという手紙と地図、チケットが入っていた。地図にはオダリムのスイーツ店であるディフェンドへ道順が描いてあった。チケットはディフェンドのパーティーに参加するためのもの。差出人は勿論ホウリじゃ。
 そんな訳で、ノエルと共にオダリムへ来たわしはディフェンドへ向かっていた。王都からワープ出来るように手配されているとは思わんかったがな。


「手紙にはなんて書いてあったの?」
「オダリム防衛のお疲れ様パーティーをするからディフェンドに来いと書いてあったぞ」
「ディフェンドって美味しいお菓子を作るお店だよね?スイーツコンテストの時に店主のティムおじちゃんも前にお家に来てたし」
「スイーツコンテストの事は思い出したくないのう……」


 不条理な出来事すぎて、思い出すだけで頭が痛くなってくるわい。


「前に食べたキャンディー美味しかったなぁ」
「じゃよな」


 初めにオダリムを出発した時にキャンディーを沢山貰ったのう。ノエルも美味しそうに食べておったっけのう。


「今日は更に美味しいスイーツが食べられるぞ」
「ほんと!?」
「本当じゃ。実際に食ったわしが保証する」
「やったー!楽しみ!」


 余程嬉しいのか、ノエルがわしの隣でぴょんぴょんと飛び跳ねる。その様子を見て、わしも思わず楽しい気持ちになる。


「とはいえ、わしはダイエットであまり食べられないがのう」
「えー?そうなの?可哀そう……」
「安心せい。ホウリとて鬼ではない。少しくらいは食わせてくれるじゃろう」


 ホウリはスイーツに関しては優しさを見せてくる。頑張ったご褒美に少しだけでも食わせてもらえるじゃろう。
 そんな淡い期待を抱きながら、ディフェンドまでたどり着く。


「なんじゃか、店の中が騒がしいのう?」
「そうだね?」


 前に来た時は静かで上品な雰囲気じゃったけどな。今は外まで話声が聞こえるほどに賑やかじゃ。不思議に思いながら扉を開けて中に入る。
 そこにはいつものディフェンドの内装は無かった。テーブルや椅子が片づけられていて、長テーブルに様々なスイーツが置かれている。そんなビュッフェスタイルのパーティーで見知った面々が飲んだり食ったりしていた。
 見た感じ20人はおる。ディフェンドの店内は狭めじゃし、少し圧迫感がある印象を受ける。


「ホウリの奴、こんなに呼んだのか。どうりで騒がしいわけじゃ」
「よぉフラン、ノエル」


 奥からホウリが満面の笑みやってくる。今まで見た中で一番の笑顔じゃ。弾けると表現できる程の満面の笑み、正直不気味という印象が強い。


「お招きいただきありがとう、と言った方が良いか?」
「他人行儀な挨拶はいらないぞ。今日は楽しむことだけ考えてくれ」
「そうしたい所じゃがな」


 わしは会場内のスイーツに目を向ける。魅力的なスイーツが多くあるが、ダイエット中のわしには目の毒じゃ。
 そんなわしの心情を分かっているのか、ホウリは目を閉じて頷く。


「分かってる。ダイエットの為にスイーツを食べる訳にはいかないって思ってるんだろ?」


 そう言ってホウリは1錠の錠剤を差し出してくる。


「これは糖の吸収を抑える薬だ」
「こんなのあるなら最初から寄越さんかい」
「常用する薬じゃないんだよ。飲み過ぎると、逆に糖を吸収しやすくなる体質になる」
「なんて薬を飲まそうとしておるんじゃ!?」
「1回だけなら問題無い。そんなことよりも、今日はそれ飲んで楽しんでくれ」


 そう言うと、ホウリはしゃがんでノエルの頭を撫でる。


「ノエルも今日は好きなだけ食べて良いからな」
「ほんと?夜ご飯食べられなくなるんじゃない?」
「今日は気にするな。好きな物を好きなだけ食べてくれ」
「わーい!ホウリお兄ちゃん大好き!」


 ノエルが嬉しそうにホウリに抱き着く。むぅ、少し羨ましい。
 ノエルが離れると、ホウリは立ち上がる。


「俺はやる事があるから行く。じゃあな!」


 相変わらずの笑顔でホウリは店の奥に引っ込んでいった。


「忙しない奴じゃな」
「でも楽しそうだね」
「じゃな」


 スイーツのパーティーなど、忙しくてもホウリにとっては楽しいじゃろう。


「ホウリの言う通り、何も気にせずに楽しむか」
「うん!」


 わしは薬を飲んで、ノエルと一緒にディフェンドの中を散策する。


「食べたいだけスイーツを食べられる機会なんて早々ないからのう。お腹いっぱい食べるとしよう」
「うん!何から食べる?」
「そうじゃな……」


 ディフェンドのスイーツは何を食べても美味い。いくらでも食べて良いと言っても、食べられる量には限度がある。食べる物は吟味しないとのう。


「あ、ゼリーあるよ」
「どれどれ?」


 ノエルがゼリーのカップを持ってきてくれる。小さめのサイズで食べやすい。


「なんじゃこのゼリー?色が変じゃぞ?」
「『虹ゼリー』って書いてあったよ?」


 ゼリーの色が次々と変わっていく。まるでシャボン玉のようじゃ。


「どういう仕組みなんじゃろうな?」
「どんな味なんだろうね?」
「食ってみるか」


 スプーンを取って、ノエルと共に虹ゼリーを口に入れる。


「これは!?」


 口の中に入れた時はリンゴのような爽やかな甘み。じゃが、次の瞬間にはレモンのような酸味や柿のような濃厚な甘みに変わる。怒涛の味の変化じゃが、混乱せず、むしろ心地良いとさえ思える。


「美味しい!」
「じゃな!」


 誇張無しで毎日でも食べられる味じゃ。のど越しも普通のゼリーよりも良い気がする。


「もっと食べよう!」
「そうじゃな!」
「気に入っていただけたようで何よりでございます」


 カップを取ろうとした瞬間、後ろから聞き覚えのある声がした。振り向いてみると、ディフェンドの店主であるティムが立っていた。


「お久しぶりですミエル様、ノエル様」
「ティムおじちゃん!こんにちは!」
「久しぶりじゃな。元気そうで何よりじゃ」
「皆さまのお陰でございます」
「それにしても、よく貸切れたのう。ディフェンドは超人気店じゃろ?」
「1カ月前にホウリ様からお疲れ様会をしたいと予約を受けまして。お世話になっていることもございましたので、特別に貸し切りにいたしました」
「用意周到じゃのう?」


 ホウリの事じゃし、これくらいの準備はするか。スイーツのことじゃし、いつも以上に準備してそうじゃな。


「流石はホウリじゃな」
「…………」
「どうしたんじゃノエル?」
「1カ月前からお疲れ様会をするために予約してたんだよね?」
「そう言っておったのう?」
「つまり、ホウリお兄ちゃんは1カ月でオダリムの襲撃を終わらせる予定だったってこと?」
「……そうなるのう」


 ホウリの奴、最初から1カ月しか戦うつもりは無かったな?不意打ち気味の襲撃じゃったのに、最初から勝つ算段を付けておったわけか?


「どれだけ先を見据えておったんじゃろうな」
「流石はホウリお兄ちゃんだね」


 ここまで来ると背中に冷たいものが走ってくる。まあ、ここまで出来んとわしを倒すなんて出来んか。


「それでは、私はこれで失礼いたします」
「うむ」
「またねー!」


 ティムも忙しいのか、厨房の方へと引っ込んでいった。
 軽く手を振って見送った後、わしは再びテーブルの上のスイーツに目を向ける。


「他にも美味しそうなスイーツが沢山じゃな。次はどれを食べるかのう」
「ノエル、これ食べたい!」


 ノエルが茶色い一口サイズの直方体のスイーツを指さす。札には『溶ける生チョコ』と書いてある。


「生チョコが溶けるのは当たり前じゃろ」
「だよね?けど、わざわざ書くってことは何かあるのかな?」
「かもしれんのう」


 前に食べたショートケーキも驚きの仕掛けがあったし、普通ではない特徴があるのかもしれん。試しに食べてみるか。
 生チョコを摘まんでみるが、特に変わったことはない。むしろ、普通の生チョコよりも固いような?


「じゃあ行くよ?」
「うむ、せーのっ」


 ノエルと同時に生チョコを口に入れる。瞬間、わしらは驚きのあまり目を見開く。


「何じゃこれ!?」
「すぐに溶けた!?」


 固いチョコが口に入れた瞬間に溶けた。まるで、ムースのように口溶けが滑らかじゃ。肝心のチョコも香り高く甘みも上品で、何個でも食べられそうじゃ。


「これは美味すぎるのう。こんなに美味いチョコを食うと、他のチョコが食えんくなるかもしれん」
「おいしー!これももっと食べたい!」


 相変わらずスイーツのクオリティが高すぎる。これが食べ放題なのは贅沢じゃな。
 この他にも美味いものがあるのか。まだまだ楽しめるようじゃな。
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