魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第四百三話 先生、ちょっとお時間いただけますか

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「おらおら!逆凪の意識が足りてないぞ!」


 ホウリ先生からの拳を刀の側面で受ける。
 今はホウリ先生との特訓中。今日は居合のみでの攻撃するように縛りが設けられている。今までの特訓ではホウリ先生からの猛攻で、居合を使う機会が無かった。だから、居合を実践で使うための特訓らしい。
 ちなみに、私も戦い方を縛るんだから、ホウリ先生も縛ってとお願いしたら、素手だけで戦うって言われた。
 結果として、リーチが短くなった代わりに、投げとかのバリエーションが増えて、更に厄介になっている。


「くっ……」


 
 刀を鞘に戻す技術である『逆凪』。下手をすると居合そのものである『真鏡』よりも難しいかもしれない。
 居合だけなら自身のペースで放てる。けど、刀を鞘に戻す動作は、相手の動きを見つつ行わないといけない。
 適当に行うと……


「また雑になってるぞ!」


 鞘に刀を戻そうとした瞬間、柄を小突かれて刀の先がズレる。ズレた刀は鞘の側面を滑り、大きな隙を晒す。


「貰った!」


 ホウリ先生の掌底が私の顎に迫ってくる。強い衝撃を覚悟した瞬間、つんざくようなベルの音が訓練場に響き渡った。
 すると、ホウリ先生の掌底が私の顎から数mmのところで止まった。


「時間だな。目下の課題は逆凪だ。明日からは意識していけ」
「……分かったわ」
「じゃあな」


 ホウリ先生はいつものように軽い足取りで訓練場から出ていこうとする。私はそんなホウリ先生が来ている服の裾を掴んだ。


「先生、少しお時間あるかしら?」
「20分くらいは大丈夫だ。どうした?」
「20分ね。少し短いわね」
「何か用か?」
「いつもの御礼にスイーツを沢山用意したから振舞おうと思ってるのよ」
「たった今1時間は大丈夫になった」
「一気に40分の都合が付いたわね」


 とはいえ、私の計画を成功させるには少しでもホウリ先生を引き留める必要がある。長ければ長いほど都合が良い。


「時間を気にしてるってことは、この前みたいに1箱渡しておしまいって訳じゃないんだろ?」
「そうね。食堂に案内するからついてきてくれるかしら?」
「分かった。さっさと行こうぜ」


 いつものようにクールに見せようとしてるけど、ワクワクしているのが分かるわ。余程楽しみみたいね。
 ホウリ先生を食堂まで案内し、席に座らせる。


「ん?フロランは座らないのか?」


 傍に立っている私を不審に思ったのか、ホウリ先生が観察するように見てくる。


「今日のホウリ先生はゲストよ。今から出すスイーツは全てホウリ先生が食べていいわ」
「そうか?なんだか悪いな。けど、対面に座るくらいは良いだろ?ジュースくらいは飲んだらどうだ?」
「そうさせてもらうわね」


 ホウリ先生の対面に座って手を叩く。すると、扉が開いてセムラがスイーツの皿が乗ったワゴンを持って来た。


「失礼いたします」


 セムラがホウリ先生の前にスイーツの皿を次々と置く。


「中々美味そうだな」
「沢山用意したから好きなだけ食べていいわよ」
「わーい!」


 無邪気な子供を思わせるような表情で、ホウリ先生はフォークを手に取る。


「美味ーい!このチョコ、酒入ってるのか!」
「そうみたいね」


 流石にお酒が入っているのかくらいは分かるわよね。きっとホウリ先生はこれくらいのアルコールなら特に問題無いって思ってるわよね。
 私は心の中でほくそ笑みつつ、ホウリ先生を眺める。
 出されたスイーツは次々とホウリ先生の口の中に消えていく。10秒で1皿分のスイーツが消えていく。手際が良すぎて、まるで手品でも見ているかのような気分になっていく。


「美味い!美味い!」


 ケーキ、チョコ、ゼリーetc……全てのスイーツを美味いと言いながらホウリ先生は食す。随分と幸せそうだ。
 ……見ているだけなのはつまらないわね。


「ホウリ先生はこの夏に予定ある?」
「お前らってそろそろ夏休みだろ?その夏休みに合わせて、海に行く予定だ」
「結構ベタなところに行くのね」
「そうだな。適当に海賊行為してきて、お宝ざっくざくの予定だ」
「なんで犯罪予告しているのかしら?」
「大丈夫だ。バレるなんてはヘマしない」
「あなたなら本当にバレそうずに犯罪できそうね」


 呆れつつ、セムラが用意してくれたジュースを吸う。


「お前は何かするのか?」
「家で勉強と特訓よ」
「面白みが無いな。少しは遊んだほうが人生に彩りが出るぞ?」
「余計なお世話よ」


 ジュースが入ったグラスを持とうとして、とある事に気が付いた。


「ホウリ先生って夏休みの時期は王都にいないの?」
「そうだな」
「私の特訓はどうなるの?」
「大丈夫だ。ちゃんと考えている」
「何をさせるつもり?」
「とりあえず宿題を出す。今週はこれを出来るようになってくれ、みたいな感じでな。詳細はセムラさんに伝えておく」
「それだけ?」
「ここからが重要だ」


 ホウリ先生は皿を天井に届くほどに高く積み上げながら口を開く。


「1週間ごとに俺が選んだ奴らを派遣する。そいつらを相手に戦ってくれ。そいつらにフロランの戦いぶりを採点してもらう」
「あら?赤点なら何かあるのかしら?」
「お前の指導を中止する」
「……は?」


 今までと調子を変えずにホウリ先生が宣言する。


「どういうこと?」
「言葉通りだ。赤点だったらお前の指導を中止する」
「なんでよ!」
「緊張感出るだろ?直接指導できない分、緊張感で補って貰おうかなって」
「かなり軽い言い方ね」


 けど、ホウリ先生の目を見れば分かる。冗談なんかじゃなく本気で私を見捨てようとしている。


「そういう訳だから、文字通り死ぬ気で頑張ってくれ」
「……分かったわよ」


 この人のことだから、本当に死ぬ気でやらないといけないくらいの難易度に設定してそうね。
 ホウリ先生は天井スレスレまで積まれた皿の山の上に皿を投げる。皿は山の上に器用に乗っかる。


「もう終わりか?」


 ホウリ先生がセムラに視線を向ける。セムラは軽く目を瞑ると首を振った。


「……以上でございます」
「そうか。大体30分くらいか」


 ホウリ先生は唇を舐めると立ち上がった。
 嘘でしょ!?軽く30人前は用意してたわよ!?それを30分で!?この人本当に人間なの!?


「ほ、ホウリ先生……そんなに食べて体は大丈夫なの?」
「問題無い。普段はこの倍は食ってるからな」
「これ以上食べてるの?」


 なんだろう、心配とかよりも恐怖の方が先に来るわね。けど、体がなんともない?何か間違えたかしら?


「どうした?まだ何か心配か?」
「いや……その……」
「酒を沢山入れてたのに、酔っ払っていなくて残念か?」
「な!?」


 バレてた!?いつから!?


「チョコは露骨だったが、他は結構うまく隠してたな?ゼリーには精霊の泉の水で作った『キャルメ』、ケーキにはユニコーンの血で作った『雅削』を使っているな。どっちも1滴で酒豪が酔いつぶれるほどの酒だ。だが、今回のスイーツは上手く調理してあるから、普通の奴は酒が入っていることに気付かないだろうな」
「……なんで酔ってないのかしら?」


 あれだけのスイーツを食べれば、酒樽100個の酒を飲んだのと同じくらいの酔いが回るはず。普通は死んでも可笑しくない。


「俺は酒に強いからな」
「それだけじゃ納得できないわよ」
「現に酔ってないだろ?」
「それはそうだけど……」
「どうせ、お父さんに俺の弱みとか秘密を探れって言われたんだろ?」
「うっ……」


 完全に図星だ。そこまでバレているのであれば、もうどうしようもない。随分前からバレてたみたいだし、酔わない様に対策していたに違いない。


「……私の負けね」
「俺を嵌めるなんて1000年早いな。じゃあ、俺は行くからな」


 何でもない様子でホウリ先生は食堂から出ていく。


「……もしかして、こういうのってホウリ先生にとって日常茶飯事?」


 ホウリ先生は答えずにサムズアップだけして去っていった。
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