魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第一話 魔王?それ、次回からなんですよ

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「それでよー、リルアがやった事を俺がごまかしてんだぜ?少しは自制してほしいものと思わないか?」
「お前も大変なんだな」


 自転車を押しているクラスメイトの愚痴を聞きながら学校からの帰路に着く。


「でもあれだろ?これからリルアの家に行くんだろ?」
「ああ、今日も実験に付き合う事になっている」
「明日から夏休みなのによくやるな」


 愚痴りながらもしっかりと実験に付き合う所を見るに心から嫌ってはいないようだな。そんな感じで愚痴を聞きながら歩いていると俺が住んでいるアパートに着いた。


「それじゃ、またな」
「おう」


 自転車に乗って走り去っていくクラスメイトの背中を眺める。姿が見えなくなるまで見送ると俺はアパートの階段を上る。自分の部屋の前に立ちカギを開けて家の中に入り、リビングにまっすぐ向かう。
 ここまでの俺はこれから起こることなど知る事もなく、呑気に夕飯の事を考えていた。
 リビングへの扉に手をかけ、いつも通り扉を開く。すると、


「とおっ!やあっ!」


 何か居た。何かが俺のテレビゲーム機で勝手に遊んでいた。


「よっしゃ!回復アイテムゲット!」


 そいつは無防備でゲームに熱中している。パッと見は隙だらけで
 だが、後ろ姿で顔は見えないが只者ではない事は雰囲気で分かる。後ろから襲い掛かったとしても瞬殺されるだろう。
 とりあえず、俺はそいつに声をかけてみる。言動一つで死ぬ可能性がある。ここは慎重に行こう。


「おい」
「これ本当にCPU?強すぎてキャラクターの開放すら難しいんだけど」
「おい!」
「くらえ!ってカウンター!?反射とカウンター持ちなんてチートだ!」
「人の話を聞け!」


 そいつとテレビの間に立ちはだかりゲームの邪魔をする。


「なに?邪魔なんだけど?」
「『邪魔なんだけど?』じゃねぇよ!人の家で好き勝手やってんじゃねぇ!」
「ん?あ、ホウリ君か。どうしたの?何か用?」
「人の家で好き勝手やっておいて『何か用?』はないだろ」


 俺の名前を知っているし、この家に仕掛けられた罠が発動していない。こいつは人間じゃない可能性もあるな。下手に怒らせたりしない方がいいかもしれないが、恐れすぎているように見えてもだめだ。今は普通に話をしよう。


「お前は誰だ?なぜ、ここに入ることが出来た?」
「私?そういえば会うのは初めてだったね」


 ゲームオーバーになったゲームを中断し俺の方へと向き直る。


「初めまして、私は神です。気軽にみっちゃんって呼んでね」
「……紙?」
「神。GODだね」


 ゲームが下手なこいつが神?何かの冗談だろ?
 とは言え、この異様な雰囲気は普通じゃない。だが、こいつが神か……。


「あー、その目は信じてないね?」
「まあな」
「うーん、この家に入っている事が証明になると思うけどね。どうしたら信じてもらえるの?」
「このテーブルにケーキと紅茶を瞬時に出せたら信じてもいいぞ」


 笑いながら言った瞬間、テーブルの上にケーキと紅茶が現れた。奴の方を見てみるとドヤ顔をしながらこちらを見ていた。


「どう?これで信じてもらえる?」
「……ああ、とりあえずは信じよう」


 テーブルの上を注視していたが、ケーキと紅茶が現れたトリックはさっぱり分からなかった。催眠術とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。それ以上の特別な力だ。神じゃなかったとしても並大抵の奴じゃない。


「で?神様が俺に何の用だ?」
「そうだね……、とりあえずは」


 神がコントローラーを俺に渡してくる。


「一緒にゲームしよう」



☆  ☆  ☆  ☆ 



「とお!このナイフをくらえ!」
「…………」
「って回避された!?」
「………………」
「しかも一撃で下に落とされた!?」
「……………………」
「あー、もう一回!」
「いい加減、説明してくれ。さっきから30戦やって一回も勝ててないじゃねぇか」


 勝ったら教えてくれると言って30戦しても教えてくれる気配がない。本当に話すつもりがあるのか?


「………………」
「どうした?」
「君に勝つ事に意識がいって完全に忘れてた」


 この神適当すぎる!


「今度こそ説明させてもらうよ。ゲームしながらね」


 そういうと再び神はコントローラーを構えなおす。俺も仕方なくコントローラーを構えてゲームを再開する。


「それで、なんで君を訪ねてきたかだっけ?」
「ああ、なんで俺みたいな普通の高校生に神様が訪ねてきたんだ?」
「またまたー。君が普通なら普通の人間はこの世に居なくなっちゃうじゃない」


 画面の中では俺のキャラにボコボコにされているが、その表情は勝っているかのように晴れやかだ。


「木村鳳梨ホウリ、7歳の時から父親と共に世界中を旅していて、高校が始まる年に帰国。今は高校生活をしつつ異能力者達をまとめ上げている」
「………………」


 自分のキャラが吹っ飛ばされても楽しそうにしながら神は続ける。


「旅の途中も結構大変だったね?猛獣や幽霊と戦ったり、戦争を死傷者を出さずに終わらせたり、命を賭けたギャンブルをしたり。はたまた、死神になったり超能力者と戦ったり、呪われた秘宝を探したり」
「よく調べたな」
「神だしね。君のお父さんとも知り合いだよ」


 俺が勝ったリザルト画面を超速で飛ばされ、すぐに次の勝負が始まる。


「それで君に頼みたいことなんだけどね。異世界で魔王を倒してほしいんだ」


 何言ってんだこいつ?
 俺の困惑をよそに、神(笑)は楽しそうに話し続ける。


「魔物がはびこっている世界、人々は魔族の支配に怯えていた。人々も抵抗を試みるが必死の攻撃も空しく劣勢の状況にある。だが、そんな人々にも希望があった。それこそが──」
「勇者という訳か」


 RPGによくある設定だな。現実でこんなこと言われるとは思ってなかったが。
 配管工を操ってピンク玉を吹っ飛ばしながら質問をする。


「いくつか質問していいか?」
「いいよ」
「何で俺が選ばれたんだ?」
「なんとなく」
「適当すぎるだろ!」


 世界の危機を救う勇者をなんとなくで選ぶんじゃねぇ!


「災難だったねー」
「お前が言うな!」


 ……こいつに抗議しても無駄な気がする。さっさと話を進めよう。


「次の質問だ。これからいく異世界はどういう世界なんだ?」
「その質問を待っていたんだよ!」


 さっきまで脱力しながら喋っていた神(確定)の言葉が急に熱を帯びる。


「あの世界はなんて言ったって私の自信作だからね!普通の世界の100倍以上の労力を掛けて細部の設定まで拘ってようやく完成させた───」
「お前の努力なんてどうでもいい。その世界を端的に説明しろ」
「……はーい」


 あからさまにテンションを下げながら神は説明を始めた。


「まず、この世界では人の強さや状態を可視化出来るようになっているよ。分かりやすく言うとRPGのステータスみたいなものだね。魔法とかスキルとかレベルアップもあるよ。アイテムボックスとかの便利機能もついている!」
「そりゃ楽しそうだな」
「でしょー?」
「てことは、人を襲うモンスターとかも?」
「そこら中にいるよ!」
「活き活きと説明してんじゃねぇ!」

 
 日本で言うところの町の中にライオンが歩いてるようなものだろ。危険ってレベルじゃねぇぞ?


「心配しなくても、チート能力とかあげるよ。簡単に死んでもらっても困るし」
「具体的には?」
「ステータスが100倍になってビームが出せる勇者の剣をあげる」
「おお、そいつはすごいな」


 基礎能力の向上と遠距離攻撃を兼ね備えているのは心強い。強引なだけかと思ったが、意外と考えてくれてたんだな。
 少し安心したところで次の質問に移る。
 

「次の質問だ。魔王はどのくらい強い?」
「その世界の住人が束になっても勝てないくらいかな」
「強すぎだろ」


 勇者の剣使っても勝てるか分からないじゃねぇか。


「倒す方法はあるのか?」
「今の所ないね」
「……異世界転移を拒否したいんだが?」
「ほっほっほ、ダメ」


 ゆるい口調だが、絶対に拒否するという強い意志を感じる。
 こいつから逃げられる可能性は0。覚悟を決めるか。


「次だ。アイテムボックスの詳細が知りたい」
「10個までならアイテムとか武器を虚空に収納できるのものだよ。ドラ○エで言うところの大きな袋みたいな感じだね」
「なるほどな」


 持ち物が大幅に多く持てる訳か。戦闘以外でも役に立ちそうだ。だが、こういうのは始めが一番厳しいものだ。となると……


「1つ提案があるんだが」
「なに?」
「勇者の剣とは別に俺が指定した9個のアイテムがほしい」
「別にいいんだけど、普通にあげるんじゃ面白くないね。……そうだ!」


 リザルト画面を見つめたまま固まっていた神(適当)は突然何かを思いついた表情になる。


「今やっているゲームで対決しよう。君が勝ったら好きなアイテムをあげるよ」
「五十六連敗中で何言ってんだ」
「だからさ、ハンデとして君は攻撃を受けたら負け、私は残機が無くなったら負け、これでどう?」


 何か企んでいる?いや、目を見るに本気だ。バカなだけか。


「分かった」
「そうこなくっちゃ」


 コントローラーを握りしめ直した神《ザコ》はニヤリと笑うと高らかに叫ぶ。


「さあ、闇のゲームの始まりだ!」



☆  ☆  ☆  ☆ 



「い、一発も当たらない?嘘でしょ?」



 五十七回目のリザルト画面が表示され、引きつった表情で眺める神《アホ》。これだけ勝負していたら癖や戦術は学習できる。一発も当たらずに勝つ事は簡単だ。


「俺の勝ちだ」
「……分かってるよ。何がいい?」
「まずは───」


 9つのアイテムを順番に神に告げる。


「ランプ、燃料、食料、水、ナイフ、ここまで問題は無いね。すぐに用意させて貰うよ」
「助かる」


 異世界では何が起こるか分からない。最低でも2,3日は持つように準備してかないとな。


「でもさ、この拳銃と弾薬は何に使うのかな?勇者の剣あれば要らないと思うよ?」
「保険みたいなものだ、使わないに越したことはない」


 万が一の時の保険は必要だ。これまでの経験から嫌というほど学んだ。


「まあいいけどね。ちゃぶ台の上のカードがアイテムと勇者の剣だから忘れないようにね。異世界に持っていけばそのままアイテムボックスにはいるから」
「分かった」


 このアイテムたちが当分の生命線だ。大切に使おう。


「最後の質問だ。異世界に飛ばされた時の場所の詳細を教えてくれ」
「暑いとか湿地帯とかって事でいい?」
「ああ」
「温暖な草原だね。西に向かえば街があるから、そこを目指すといいよ」
「了解。聞きたいことは以上だ」


 後は現地で情報収集すればいい。こいつに聞いても下手な情報を掴まされそうだし、これだけで十分だ。


「おっけー、転移後は私の知り合いを君のもとに向かわせるよ。その子に色々と聞いてね」
「助かる」


 世界が変わると戦い方の勝手も変わる。教えてくれる奴がいるのはありがたい。


「ゲームにも飽きたし、そろそろ転移してもらおうかな。私も仕事しないといけないしね」
「ああ、頼んだ」
「……なんかごめんね。無理やりこんなことに巻き込んじゃって」
「もういいよ。慣れてるし」
「そう言ってくれると私の気持ちも楽になるよ」


 口調は変わっていないが、本当に申し訳なさそうなのが伝わってくる。
 いきなり異世界に行けと言われた時は正気を疑ったが、少なからず慈悲の心があるみたいだ。
 神《グータラ》が指を鳴らすとリビングの床に魔法陣が現れた。


「その魔法陣に乗れば転移を開始するよ」
「りょーかい」


 俺はちゃぶ台からカードを取って魔法陣に乗る。


「じゃ、よろしくね。私はビア〇カとフ〇ーラを選らぶのに忙しいから☆」
「結局、ド〇クエやってんじゃねぇか!」


 全力で叫びながら、俺は視界は白んでいった。



☆   ☆   ☆   ☆





 「さてと、仕事するか。」
 

 少年との通信を終えた神はセーブを済ませてゲームのコントローラーを置いた。


「しかし、あの少年上手くやってくれるだろうか?私が見込んだ者とはいえ、この世界は厳しいからな。まあ、あのチート武器の『伝説の剣』が有ればなんとかなるだろう。」


 神は伸びをしながらそう呟くと、立ち上がって棚の方へと向かった。


「そういえば、あの武器どうしようかな?木刀をどこまで強化出来るか試して失敗して呪いかけちゃった奴。次元の狭間にでも捨てようかな?」


 神は棚を開けると、そこには伝説の剣があった。


「あ、間違って木刀の方渡しちゃった。」


 神はお茶目であった。


「まあ、なんとかなるだろう。」


 そう言うと、神は棚を後にした。
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