魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第六十八話 オレにはお前が止まって見えるぜ!

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──────ブラッククロウ──────
ブラッククロウとは少数精鋭の暗殺集団である。ブラッククロウは監視役と暗殺役からなり、ターゲットを四六時中監視して隙を見つけた瞬間に即座に暗殺するという方法をとる。暗殺の成功率は高いが、その分依頼料も張る。また、場合によっては集団で暗殺を実行する場合もある。──────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 




 暗殺者を倒したわしらはそのままホウリの知り合いの所へと戻った。暗い地下への階段を進みながらわしはホウリに気なっていた事を聞いてみる。


「しかし、本当に倒した奴らは放置しておいて良かったのか?」
「奴らも自分たちの事をおおやけにしたくない筈だ。人が居ないうちに回収するだろうよ」
「む?回収できる人手があるのならば、すぐに監視役も補充されるのではないか?」
「奴らにあの地域を全て見張る程の人数はいないから問題ない」


 ホウリ曰く、奴らの正体は『ブラッククロウ』。人数は100人前後で少数精鋭みたいじゃ。わしらが倒したのは約80人じゃから後は20人くらい。確かにあの範囲を見張るのは難しそうじゃ。


「しかし、いきなり8割の戦力を割いてくるとはのう」
「それだけ奴らも本気ってことだ。油断はするなよ?」


 扉の鍵を開けながら釘を刺してくるホウリにわしは重々しく頷く。この状況で油断できるならそいつは生粋のバカじゃろう。
 扉を開けるとそこは寂れたbarのような場所じゃった。部屋の中にはかなり年期が入ったように見えるバーカウンターがあるが、後ろにある棚には酒が一つも入っておらず埃が溜まっておる。家具は端から綿が飛び出しているソファーが数個とbarにあるような高めの椅子だけ。電灯からの光は弱々しく部屋は全体的に薄暗く壁紙は所々剥がれており、清潔感のかけらもない。
 そんな部屋の中で、ロワとノエルはソファーで寝ており、ミエルは壁に寄りかかりながら奥の扉をじっと見ている。


「ただいまー」
「今戻ったぞ」
「……ホウリとフランか。首尾はどうだ?」
「上々じゃ」
「詳しい事は全員が起きている間に話そう」
「そうか」


 それだけ聞くとミエルは再び奥の扉へと視線を向ける。


「ミエル、どうしたんじゃ?なぜ扉を睨みつけておる?」
「……この部屋に来た時にホウリの知り合いにあった。そいつがロワやノエルに手を出さないように私が見張っている」
「はあ?」


 ミエルが言ってる事が分からず変な声が出てしまう。何を言っとるんじゃこいつは?
 ミエルの言葉にホウリから思わず笑みがこぼれる。


「確かに最初にあいつを見た時は警戒するよな」
「貴様もそうだったのか?」
「俺は初めて会う奴は例外なく警戒している」
「……貴様はそういう奴だったな」


 何やら二人だけで通じている様子じゃ。少し寂しい気がするのう。


「事情は分かったが、見張りは俺はがやっておくから今は寝ておけ。これから更に厳しくなるからな」
「……分かった」


 ホウリの言葉にミエルが素直にソファーへ向かい、そのまま寝息をたて始めた。
 意外じゃな、いつもなら「貴様は信用できない」と言ってそのまま残るのじゃが。よく見ると目に隈も出来ておるし、かなり眠たいのじゃろう。


「ふわぁ……」


 そう思っておるとわしの口からもあくびが出てきた。実感は無いがわしもそこそこ疲れておるようじゃ。
 そんなわしを見たホウリはソファーを顎で示す。


「フランも寝てていいぞ。俺はこの部屋の持ち主と打合せをしてくる」
「そうさせてもらおう」


 目を擦りながらわしはソファへと倒れこむ。寝心地が悪い筈のソファでわしは数秒で意識を手放したのじゃった。


☆  ☆  ☆  ☆ 


「おーい、いい加減起きろー」
「うーん?」


 ホウリに体を揺さぶられたわしは目を開け、ソファーから起き上がる。頭の中にモヤが掛かったようにどんよりとしている。どのくらい寝ておったのじゃろうか?
 スキルで時間を確認してみると、どうやら4時間は寝ておったらしい。
 改めて部屋の中を確認してみると他の3人は既に起きており、バーカウンターをテーブル代わりにして朝食を食べていた。


「フランの分も用意してるからさっさと食っとけ」
「……うむ」


 ホウリに促されるまま、バーカウンターへ向かう。バーカウンターの上にはパンケーキが乗った皿とオレの実のジュースが置いてあった。
 わしはジュースを飲もうとグラスに口をつけようとする。しかし、頭に今までの光景が浮かんできて咄嗟に動きを止める。
 確か、ホウリがわしの飲みものにレモの実を仕込むときは、わしが寝起きで頭が回っていないときじゃった。今はまさに条件にあっておる。つまり、このジュースにも何かが仕込まれているに違いない。


「どうした?飲まないのか?」
「くっ、今までのわしじゃと思うなよ!」


 今回は見事に罠を回避して見せる!
 まずジュースに鑑定をして異常が無いか調べる。素材は100%オレの実のようじゃな。
 次にグラスに何か塗られていないか調べる。特に何か塗られている訳ではないみたいじゃな。ここまでは前回までの手じゃが、ホウリのことじゃ。何か別の方法で仕込んでいるに違いない。ジュースでもグラスでもないとしたら……。
 そこまで思考を巡らせると、グラスの横にストローが置いてあるのに気が付いた。もしかすると……
 わしはストローに鑑定をしてみる。

─────ストロー─────
プラスチックで作られたストロー。内側にレモの実の果汁が塗られている。
長さ:21㎝
直径:7mm 

 ほれ見たことか!今度はわしの勝ちじゃ!
 わしはストローを使わずにジュースを飲む。その後、ストローを見せびらかせながらホウリを見てニヤリと笑う。


「そう何度もやられるわしではないわ!」
「……早く食え」


 悔しそうにそっぽを向くホウリ。ふっふっふ、ついにホウリを出し抜いてやったわ!これは朝食もさぞ美味く食えるじゃろう。
 わしは上機嫌でフォークとナイフを取り、パンケーキを切り分けてたっぷりとクリームを乗せる。そして、大きな口を開けてパンケーキを頬張り──────


「グフッ!」


 あまりの酸っぱさにパンケーキを吐き出しそうになる。なんじゃこれ!
 反射的にホウリの方へ顔を向ける。すると、ホウリは勝ち誇った表情でソファに座っていた。


「おいおい、まさかストローを見抜いただけで勝ったと思ったのか?」
「ふ、2つは卑怯じゃろ!」
「鑑定持ちで見抜けない方が悪い。分かったらさっさと食え。果汁はフォークの先端だけに塗ってたから残りは普通に食えるはずだ」
「ぐぬぬ……」


 わしは腹いせに残りのパンケーキをやけ食いする。今回もわしの負けか!いつか絶対に目に物を見せてやるわい!
 わしとホウリのやり取りを笑顔で眺めていたロワが思い出したように口を開いた。


「ところで、この部屋の持ち主の方はどこへ行ったんですか?」
「奥の部屋で依頼の物を作っている」
「依頼の物?」
「そうだ。何かは実物がきてから説明するとして、今は現状の確認をしよう」


 そう言うとホウリはバーカウンターの中へと入る。わしらと対面する形になったホウリはバーカウンターに手を置いて話し始めた。


「まず、俺等の正体はサンドには漏れていない。これからは不意に襲われることもないだろう」
「では、もう安心なんですね」


 胸をなでおろすロワの言葉をホウリは振って否定する。


「時間が掛かれば確実に見つかるから絶対に安心とは言い切れない」
「そうだな、サンドの息の根を止めるまでは油断は出来ないな」
「その通りだ。今日からはあまり外に行けないと思ってくれ」
「ずっとここに居なくてはいけんのか?」
「流石にそれはノエルへの負担が大きすぎるから、別の場所を用意するつもりだ」


 ホウリの言葉でわしは周りへと視線を向ける。ここには質が良いとは言えぬ家具しかなく、換気も日の光を入れる事も出来ぬ。大会が終わるのが2週間後、それまでここに閉じこもりっぱなしでは、ノエルでなくても気が狂いそうになるわい。
 わしは優しくノエルの頭を撫でる。


「早くここからは離れるからな。それまで少し辛抱するんじゃぞ?」
「ここ秘密基地みたいで楽しいよ?」
「2週間もおったら体壊すぞ?」
「ノエル平気だよ?」
「ロワとミエルの為に戦闘できるくらいの広場が無いといけないからな。大会まで訓練しないと大幅に戦力が落ちちまう」
「でも、2週間も籠れる広場がある場所なんて限られているんじゃないですか?見つかりにくい所じゃないとダメですし」
「アテはある」


 そう言うと、ホウリはミエルをじっと見つめ始める。わしらも釣られてミエルを見つめてみる。


「なんだ?私の顔に何か付いているのか?」
(じぃー)
「だからなんなのだ!一体私のなにが……なるほど、貴様の考えが分かったぞ」


 ホウリの考えている事が分かったのかミエルが頭を抱える。


「確かにこれ以上に無いほど安全な場所かもしれないが……私が骨を折らなくてはいけないじゃないか」
「安心しろ、交渉は俺がする」
「籠っている間が問題なんだ」
「2人だけで分かりあうでない。わしらにも分かるように話せ
「……エンゼおじいちゃんの家だ」


 ミエルが頭を抱えながら苦々しい表情で話す。


「なるほど、エンゼさんのお屋敷だったら広いですし秘匿性もありますね」
「ミエルが気が進まぬ表情をしておる理由も分かった」
「……他の候補はないのか?」
「クラン家みたいな候補が他にあるとでも?」
「それは分かっているが……はぁ」


 余程気が進まないのかしきりにため息を吐くミエル。確かにあの屋敷に長期間いれば、跡を継げ攻撃が頻繁に飛んで来るのは目に見えている。気が進まぬのも無理はないのであろう。
 表情が暗いミエルとは対照的にロワとノエルの顔は太陽のように明るくなる。


「あのお屋敷にまたいけるんですね」
「今度は探検出来るかな?」
「きっと出来るよ。2人で隅々まで探検しよう!」
「おー!」


 ロワとノエルは一緒に拳を高々と上げる。ロワは屋敷でひどい目にあった筈じゃが忘れておるのか?まあ、行きたくないと駄々をこねられるよりは良いか。


「明日か明後日には移動できる筈だ。それまではここで過ごしてくれ。何か質問はあるか?」
「はい!」


 ホウリの言葉にロワが勢いよく手を挙げる。


「僕らはここから出られないんですか?」
「ああ、極力出ないでくれ」
「風呂とかトイレはここにあるのか?」
「目立たないがあそこの扉からトイレや風呂に行ける。あまり奇麗じゃないがな」
「食料は?」
「1週間分の非常食があるから問題ない。何か欲しいものがあればこの部屋の主に言ってくれ。俺が3時間ぐらいで用意しよう」


 全員からの質問が無くなった事を確認すると、ホウリはパチンと手を叩く。


「状況の整理は以上だ」
「そういえば、さっきから偶に話に出ているこの部屋の主とは誰なんじゃ?わしだけあっておらぬのじゃが?」
「そろそろ部屋から出てくるだろう。自己紹介は本人から聞いた方がいいだろう」


 そういう話をしていると、丁度奥の部屋の扉が開く音がした。
 どれどれ、どんな奴がこの部屋の主になのか……


「あんら~、またかわいい子が増えてるじゃないのぉ~」


 部屋からは口に髭を蓄えた筋骨隆々の男が現れた。しかし、その体に似合わず動作はくねくねと流動的じゃ。さっきの発言から察するに……そういう事なんじゃろう。とりあえず事故紹介をしておくか。


「はじめまして、わしの名前はフラン・アロスじゃ。よろしく頼む」
「声も可愛いわねぇ、始めまして、あたしはこの部屋の主の『イトウ・コンペ』よ。これからよろしくね」
「う、うむ。よろしく頼む」


 差し出された右手を掴み、イトウと握手をする。その瞬間、わしはすごい力でコンペへと引き寄せられた。


「うおっ!」


 咄嗟の事で反応できなかったわしはイトウに引き寄せられ抱きしめられる。


「あら、意外とフランちゃんって筋肉あるのね」
「ええい!離れんか!」


 わしは力任せにイトウを引きはがしホウリの後ろへと隠れる。


「そんなに照れなくてもいいじゃない?」
「シャアァ!」
「フラン、猫の威嚇みたいになってるぞ。少し落ち着け」


 ホウリに言われ、少しだけ気持ちを落ち着ける。しかし、いきなり抱き着いてきおって、なんじゃこいつは。
 確かにこれをやられては徹夜で見張りを立てたくなるのう。ミエルの気持ちが分かったわい。
 わしらのやり取りを見ていたホウリはどうしたものかと頭を掻く。


「これはイトウなりの愛情表現みたいな奴だから気にするな」
「……まあよい。ここを貸してくれるのじゃから少しは大目に見よう」


 わしはホウリの後ろから前に出る。あまり悪い奴には見えんし、必要以上に警戒することもなかろう。必要以上の警戒は精神を削るだけじゃ。
 

「ところで、こんな奴に何を頼んだんじゃ?」
「それはね、これよ」


 イトウはアイテムボックスから真っ赤な手甲を取り出した。ホウリは手甲を手に取って詳しく見てみる。


「……相変わらずいい仕事だな」
「ホウリちゃんが持ってきた素材が良いからよ。ま、あたしの腕がいいからこそだけど」
「僕も見ていいですか?」


 手甲を手に取った瞬間、ロワの表情が驚愕の表情へと変わる。


「なんですかこれ!凄く軽いんですけど!」
「軽く丈夫な『ブラッドレッドクラブ』の殻を使った手甲よ。並みの攻撃じゃ傷1つ付かないわ」
「俺は攻撃手段が乏しいから、守備面くらいは充実させないとな」
「ふむ、ということはイトウは武具職人か」
「そうよ。でも職人って汗臭くておしゃれじゃないじゃない?だからここでおしゃれなbarをしようと思ったの」
「ここでか?」


 こんな汚い部屋でbarをやっても誰も来ないじゃろう。
 

「やーねー、まだ未完成よ。ゆくゆくは隠れ家的なbarに改良よ・て・い☆」
「だが、金がないみたいでな。そこで、俺が資金提供する代わりに武具の作成や住居の提供をしてもらおうって訳だ」
「なるほど、じゃからここが借りられる訳じゃな」


 いきなり押しかけて快く部屋を貸してくれることは疑問じゃったが、そういう事情があった訳か。という事は、ホウリはこの状況を想定していた訳か。いつもは何だかんだ文句も言っておるが、役に立つ奴じゃな。


「そういう訳だから、いつまでもここに居ていいわよ?」
「気持ちは有難いが、近いうちにここから退散する予定だ」
「あんら~、寂しいわねぇ」


 体をくねらせているイトウを無視し、ホウリはわしらの方へと向き直る。


「ま、そういう訳だからしばらくはここでおとなしくしといてくれ。何かあったらイトウに言えばいいから」
「……分かった。だが、出来るだけ早く帰って来てくれ」
「努力はするが当てにはするなよ?」


 そういうと、ホウリは外へと出ていった。
 まあ、色々とあるがとりあえずは……


「これからよろしくな、イトウ」
「よろしくね、フランちゃん」


 こやつに慣れぬとのう。
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