魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第八十一話 あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!

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───検察───
この世界の検察も地球の検察と同じく、裁判の際に被告の罪を言及する職業である。有罪率は95%と日本よりは低いが、高水準である。また、王都の検察は腕はいいが正確に難があることで有名である。────Maoupediaより抜粋



☆   ☆   ☆   ☆



 ここは裁判所。法律を元に罪人を断罪をする神聖な場所。私はこの場に入ることを長年夢見て勉強した。
 検察側と弁護側の熱い答弁、捜査の中で見つかる新たな真実、判決による一喜一憂。そんな日常で生きるのが私の夢だった。
 そして、私は夢が叶って裁判所に検察として立っている。夢にまで見た私の初裁判は……




「んー?それはおかしいな?さっきの発言と今の発言は矛盾してるな?なんでか説明してもらおうか?」
「そ、それは……」
「言えないなら俺が言ってやろう。あんたはその時そこにはいなかったからだ!」
「うっ!?」


 検察が被告をボコボコに打ちのめしていた。


☆   ☆   ☆   ☆


 今から数日前、私は検察所へ初出勤していた。憲兵所の中でも一際大きな扉で緊張していた。


「うー、緊張する……」


 初対面の印象は大事だ。ここは笑顔で好印象を与えたいところだ。
 検察室の扉の前に立って高鳴る胸を深呼吸で沈めて笑顔を作る。そして、扉をノックして勢いよく開ける。


「おはようございます。今日からお世話になるラビ・プレン──」
(ドカァァン!)「セイヤァァァァ!?」


 扉を開けた瞬間、爆発音と共に頭上を誰かが通り過ぎ背後の壁に叩きつけられた。
 慌てて振り向くと、白目を向いてガタイのいい男の人が大の字で倒れていた。どうしたらいいか分からずにあたふたしていると、扉からメガネを掛けている男の人が出てきた。


「このバカ……室内で爆薬なんか使いやがって……」
「あの……」
「ん?ああ君が新人か。騒がしい出迎えですまないな」
「えっと、何があったんですか?」
「このバカがホウリの真似をして爆破キックしてな。失敗してこのザマだ」
「室内で爆発?」


 ここ検察室だよね?マフィアの根城じゃないよね?
 私が言葉を失っていると、メガネの人が倒れている人の頬をペチペチと叩く。


「おいバカ、さっさと起きろ」
「爆発に巻き込まれて起きられるわけないですよ!早くヒーラーを呼ばないと!」
「……うーん?」
「きゃあ!」


 倒れている人が起き上がり、私は思わず悲鳴を上げてしまう。
 男の人は起き上がると大きく伸びをして拳を天井に掲げる。


「はっはっは!スイト復活!」
「うるせえよバカ。さっさと部屋に戻れ」
「そうだなビタル!……ん?その子は?」
「新人の子だ。皆にも紹介するからさっさと行くぞ」
「分かった!」
「分かりました」


 スイトさんとビタルさんの後を追って検察室へと入ります。
 検察室の中は思ったより整理されていて、色んな人が書類とにらめっこしている。棚の中には多くの書類があり、ここまでの検察の歴史が感じ取れる。
 ビタルさんは部屋の中央へ行くと手を叩いてみんなの視線を集める。


「はーい、今日から新しい仲間が加入します。ほら自己紹介して」
「は、はい!」


 ここは私の第一印象が決まる重要な場面だ。私は1歩前に出て咳ばらいをする。


「は、初めまして、わたちの名前はラビュ・プレェンれす!」


 ……思いっきり噛んだ。


☆   ☆   ☆   ☆


「ううう、失敗しちゃった……」


 自分の席に案内された私は机に突っ伏して悶える。家で何回も練習したのに噛んで台無しにしちゃったよぉ。絶対に第一印象は最悪だったよぉ。
 机に突っ伏していると誰かに肩を叩かれる。顔を上げてみると女の人が私に瓶ジュースを差し出していた。


「自己紹介お疲れ様、えーっと、ラビュ・プレェンちゃんだっけ?」
「ラビ・プレンです」
「ラビちゃんね。私の事はクイーンって呼んでね」
「クイーンって本名なんですか?」
「いわゆるコードネームって奴よ」
「コードネームって皆さん持っているんですか?」
「私だけよ。かっこいいでしょ?」
「あはははは……」


 検察の人って変わっている人が多いのかな?ちゃんとやっていけるか不安になってきた。
 心を落ち着ける為に貰った瓶を開けてジュースを呷る。


「げほっ!な、なんですかこれ!とっても酸っぱいんですけど!」
「レモの実100%ジュースよ。酸っぱくて元気出るでしょ?」
「は、はい。ありがとうございます」


 歯が解けそうなほど酸っぱい。胃が痛い今このジュースを全部飲んじゃうと確実に死んじゃうと思う。
 

「おーい、ラビュ!ちょっと来い!」
「分かりました!あと、私の名前はラビです!」


 どうにか飲まないで切り抜ける方法を考えていると、ビタルさんから助け舟が出される。これ以上ジュースを飲みたくない私は瓶ジュースを置いてビタルさんの席へと向かう。


「来たか」
「ビタルさん、本当にありがとうございます」
「何がだ?」
「いえ、何でもないです」
「そうか。だったら本題にはいろう」
「はい!」


 背筋を正してビタルさんの言葉を聞く。


「ラビュ、君にはこれからある裁判に検察として出てもらう」
「私はラビですけど、いきなりですか?」
「検察としてと言ってもある男の補佐としてだ。裁判所の雰囲気をつかむには丁度いいだろう」
「分かりました。それで、どの裁判に出るんですか?」
「サンドの領主の裁判だ」
「……サンドイッチの裁判?」
「サンドの領主の裁判な。今一番注目されている裁判だが、知らないのか?」
「知ってますけど……」

 
 サンド領主の裁判は憲兵の間だけでなく世間でも話題になっている。街を歩いていれば裁判の話を耳にするだろう。
 事の発端は3日前、闘技大会で優勝したキムラ・ホウリがサンドの領主であるローブオを告発したことに始まる。突然の領主の告発に王都中がザワめき、王都内では弁護士と検察官が誰になるかという事で持ち切りだ。


「補佐とは言え、そんな重要な裁判を私がやっていいんですか?」
「俺もそう思ったんだが担当の検事がお前を指名してな」
「そういえば担当の検事って、どなたなんですか?」
「後ろの奴だ」
「へ?」


 私が後ろを振り向くと、スーツを着た黒髪の男の人が立っていた。さっき挨拶したときはいなかったけど誰だろ?男の人は上品な仕草でお辞儀して微笑む。


「初めまして、俺の名前はキムラ・ホウリと言います。よろしく」
「は、初めまして、ラビ・プレンです。よろしくお願いします」


 私はホウリさんにお辞儀をする。ん?キムラ・ホウリ?


「もしかして、闘技大会で優勝したキムラ・ホウリさんですか?」
「その通りですよ」
「え!?検察官だったんですか!?」
「違う。ホウリは言わば協力者みたいなものだ」
「協力者?憲兵がホウリさんに協力を求めたと?」
「むしろ俺が憲兵に協力を求めた感じですね」
「なんの為に憲兵に協力を?」
「国家転覆ですよ?最善な手は憲兵と手を組むことでしょう」


 言われてみれば確かにそうだ。領主の不正を暴くには個人では限界がある。憲兵と協力する方がいい。


「そういう訳で検察官はホウリとラビュに頼む。必ず勝ってこい」
「私はラビですが分かりました」
「任せてください。ラビュさん、行きますよ」
「ホウリさんはわざとですよね?私の自己紹介の時いなかったですよね?」
「そんなこと無いですよ、ライジングさん」
「絶対にわざとですよね!?」

 
 ホウリさんの後を追って検察室を出る。あれ?どこに行くんだろう?


「どこに行くんですか?」
「裁判の打ち合わせにカフェに行こう」
「カフェに?機密事項とか多いですよね?」
「問題ないです。行きますよ」


 そのまま、ホウリさんは憲兵所を出て人が多い通りを進んでいく。心なしかホウリさんの歩く速度が速い気がする。


「ま、待って……」
「時間がないから早く行くぞ」


 ホウリさんは歩く速度を緩めずにどんどん細い通路に入っていきます。というか、口調も変わってる気がする。
 なんとかホウリさんについて行って裏通りにある小さなカフェへと入る。


「マスター、例のアレを頼む」
「かしこまりました」


 カフェに入るとホウリさんは早々に席について、マスターに注文を終えていた。行動が速すぎる。
 私もホウリさんと同じ席について店内を確認する。店内はにぎわっているとは言えないけど、人がいない訳でもない。本当にここで裁判の打ち合わせをしていいのだろうか?


「ホウリさん、本当にここで打ち合わせするんですか?」
「しっ!静かに!」


 ホウリさんが唇に指を当てて真剣な表情になります。ホウリさんの迫力に押されて思わず黙ります。まさか、周りにスパイが?
 慎重に周りを見て他の客を観察する。コーヒーを飲んでいたり、新聞を読んでいたりと怪しい子王道はしていない。
 ホウリさんは目を閉じて何かを静かに待ってる。きっと、ホウリさんにしかわからない何かがあるんだろう。
 私もホウリさんに習い目を閉じて静かに待ち続ける。待つこと数分、誰かがテーブルに近づいてくる気配を感じた。目を開けて確かめてみるとマスターが注文の品をホウリさんの前に置いていた。
 ホウリさんは目を開けると目の前の料理に手を付け始める。


「あの……ホウリさん一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「なんですかそれ?」
「キャラメルパフェだ。このカフェで今日しか出ない限定品だぜ?」
「もしかしてこのカフェで打ち合わせする理由って……」
「このパフェがあるからだ。食いたかったら奢るから頼んでいいぞ」


 私は体から力が抜けていくのを感じる。あの真剣な表情はパフェを待っていただけなんだ。真剣に考えて損した。


「帰っていいですか?」
「ダメだ。俺はこの後、裁判に向けての準備がある。今しか裁判の打ち合わせをする機会はない」


 こうなれば、私もパフェ食べちゃおう。


「すみませーん、私もキャラメルパフェくださーい」
「かしこまりました」
「これが今回の裁判の資料だ」


 そう言うと、ホウリさんは書類の束を取り出す。


「ありがとうございます」


 渡された資料に目を通す。どうやら、細かい罪を追求していき、国家転覆が認められなかったとしても、懲役を多くつけることが目的みたいね。
 肝心の罪状は……


「これ罪状多くありませんか?」
「ざっと30って所だ」
「これだけあればいくつかは認めさせられそうですね」
「いくつかじゃない。全部認めさせるんだ」
「そんな事出来るんですか?」


 私の質問にホウリさんはスプーンを咥えながら不敵に笑う。


「いいか、この裁判は99.99%勝てる勝負だ。あの領主には一生檻の中にいてもらう」


 ホウリさんの言葉にはハッタリや過剰な自信ではない確信が感じられた。この人に付いていこう、言葉一つで私はそう思えたのだった。
 そして、その確信は間違いではないと裁判でまざまざと見せつけられたのであった。
 ちなみに、頼んだパフェはとても美味しかった。
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