魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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Ifストーリー ここが私の世界

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「……もう限界じゃ」


 書類の山に囲まれながらわしは独りで呟く。毎日毎日、この部屋で書類と格闘しておる。その間、外へはあまり出られず、楽しみは食事だけ。こんなのひどすぎる、どんなブラック企業でもここまで働かせ詰めはせんぞ。


「……外に行きたい」


 1か月前までは好きなだけ外にいられたのじゃが、人生ままならぬものじゃな。
 遊びに行きたいという欲求を抑えながら、わしは書類にハンコを押す。メリゼが頑張っておるからいつもよりは少ないが、この調子じゃと数か月はかかる。旅に出るまで数か月は長すぎる。ホウリ以外には王都に帰ってもらうのも視野に入れてみるか。


「……眠い」


 疲れで頭を回らなくなっていく。机に突っ伏してしまい、わしの意識は闇の中へと消えた。


☆   ☆   ☆   ☆


「フラン、起きろ」
「うーん?」


 誰かに名前を呼ばれて目を覚ます。
 そこには学生服を着たホウリがおった。


「うーん?何やっとるんじゃホウリ?そんなコスプレしよって」
「何寝ぼけてんだ。一時間目から居眠りしやがって」
「一時間目?」


 ホウリの言っている事が分からずに辺りを見渡す。わしが居るのは執務室ではなく教室の中じゃった。
 周りでは他の生徒たちが雑談しておる。そんな生徒の中にわしは見知った奴を見つける。


「ロワ?ミエル?」
「あ、フランさん。起きましたか?」
「一時間目から居眠りか。夜更かしのしすぎか?」
「あ、ああ。ちょっとな……」


 曖昧な答えで質問をかわす。同じく制服を着たロワとミエルを見てわしは首を傾げる。なんでこやつらもコスプレしておるんじゃ?
 訳が分からずに何も言えずにおると、3人が話し始めた。


「次の授業なんでしたっけ?」
「歴史だな」
「うひー、僕、歴史苦手なんですよ」
「英語以外は出来るみたいな口ぶりだな?」
「あ、えっと、勉強は全般苦手です」
「私でよければ勉強を教えようか?」
「お願いします。これ以上成績が下がると、姉さんに叱られてしまうので」
「ロワの姉さん怖いもんな」


 普通の学生のような話をしていた3人じゃったが、チャイムが教室の中に鳴り響き、それぞれの席へと戻っていく。
 そして扉が開いて英語の先生が入って来た。


「ハァーイ、皆元気?」


 教室に入って来たのはコレトじゃった。恰好は普通のスーツに黒板を指すための棒を持っている。
 コレトは皆そろっている事を確認して満足そうに笑う。


「それじゃ、始めるわよ。教科書の61Pを開いて」


 コレトが板書をしながら教科書を読む。
 授業を受けてみて分かったが、この歴史の授業は地球と異世界の歴史が混ざっておるみたいじゃ。
 織田信長が魔法の三段撃ちをしたとか、魔道具が種子島から日本に伝わったとか、弁慶は魔族だとか。異世界でも日本でも聞いたことがないような歴史じゃ。
 ここでわしは確信する。これ、夢じゃな。そうと決まればこの状況を楽しむとしよう。
 本来ならば退屈な授業であるじゃろうが、わしにとっては新鮮じゃ。楽しみながらわしは残りの授業を受けたのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ふぃー、やっと終わりました」


 放課後になり、ロワが机に突っ伏す。


「なんで勉強ってしないといけないんでしょうか?」
「ほとんどの学生が思う疑問だな」
「ホウリさんは良いですよね。頭いいですから勉強しなくてもいいですもんね」
「軽く1000回くらいは死んだ方がマシみたいな経験をした結果だがうらやましいのか?」
「あ、何でもないです」
「貴様は本当に何なんだ」


 ミエルが呆れたように言う。この世界でもホウリは色々と可笑しいらしい。
 ロワはしばらく力なく突っ伏していたが、急に起き上がる。


「今からは弓道の時間ですよ!僕、行ってきますね!」
「私も行こう」
「ミエルも弓道部なのか?」


 わしの言葉に見えるが怪訝そうな顔をする。


「私はマネージャーだ」
「なるほど、ミエルらしいのう」


 わしが納得した様子になると、ミエルの表情が更に怪訝そうになる。
 そんなミエルを見たホウリは2人を急かすように言う。


「2人とも早く行った方が良いんじゃないか?部活に遅れるぞ?」
「そうでしたね。行きましょうミエルさん」
「あ、ああ」


 不思議そうなミエルを連れてロワが教室を出ていく。
 2人を見送り、ホウリがわしの方へと向き直る。


「さて、俺が何を言いたいか分かるか?」
「ん?さっぱり分からんぞ?」
「フラン、お前はこの世界の人間じゃないな?」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。
 時間を掛けてホウリに言われた言葉を咀嚼し、理解して驚愕する。


「な、なんでそれを!?」


 ここはわしの夢の中の筈じゃ。なんで夢の中のホウリがその事を……ホウリならば察せる気がするのう。わしのホウリのイメージの性か。
 じゃが、これは好都合かもしれぬのう。この世界について知らぬが、ホウリなら色々と教えてくれるじゃろう。


「お主の言う通りじゃ。色々と教えてくれぬか?」
「ああ良いぜ」
「助かる。というか、お主はわしが別の世界の存在でもよいのか?」
「そんな細かい事良いじゃねえか。何か見たい物とかあるか?」


 まあ、夢じゃしそんなの気にしても仕方ないかのう?


「そうじゃな……ロワの部活を見たいのう」
「了解。ロワは弓道場にいる。案内しよう」


 ホウリに案内されながら、わしは校内を見てみる。
 どこかで見たような奴が多いのう。あそこにいるのはディーヌか?友人と仲良く喋っておるのう。
 食堂におるのはディフェンドの店長じゃな。なんだか、知り合いばかりで変な感じじゃのう?


「あまりジロジロ見ていると変に思われるぞ」
「別に良い。何かあればお主が何とかしてくれるじゃろ?」
「人任せかよ」


 そんなこんなで弓道場に到着する。元の世界でロワが使っていた弓道場とは違い年期は入っているようじゃが、かなり綺麗な建物じゃな。
 入口から入り、弓道場にある観客席に座る。弓道場ではロワが袴に身を包んで的を狙っておった。後ろではノートを持ったミエルがロワを見守っておる。
 ロワが矢を放つと的の真ん中に中る。この世界でも弓の腕はいいようじゃな。


「中々良い腕前じゃな」
「全国で1、2を争うほどの腕前だからな」
「ロワに迫る腕前の奴がおるんか。顔を見てみたいわい」
「今見れるぜ。あいつだ」


 弓道場に誰かが入って来る。あいつはジルか?確かに奴であればロワと同等の腕前じゃろうな。
 ロワはジルが入って来たのを見ると、少し笑ってそのまま的を狙う。放たれた矢は的の真ん中を射抜く。
 ジルはそれを見て的を負けじと矢を放つ。ジルが放った矢も的の真ん中に中る。


「やるのう」
「2人ともトップの腕前だからな。決着が着かずに夜になる事もある」
「そこまで実力が拮抗しておるのか」


 この世界でも2人はライバルなんじゃな。この世界は元の世界との共通点が多いのう。夢じゃから当たり前じゃが。
 というか、さっきから光景が変わらん。2人とも同じ所にしか中てんし、矢を補充しに行く事はあっても射る姿勢も同じじゃし、長い時間見ていると退屈になってきたのう。


「退屈そうだな?もう行くか?」
「そうじゃな。他の所をうろつくとするか」


 腰を上げて大きく伸びをする。次はどこに行くかのう?


「なにか行っておくべき所はあるか?」
「学校は観光施設じゃないからな?フランが行きたい所とか会いたい人とかを考えた方が良いんじゃないか?」
「そうじゃな……」


 会いたい人とかおったかのう?


「そうじゃ、ノエルはどこじゃ?」
「この時間は友達と遊んでいるだろうから、会うなら後でだな」
「そうじゃな……」


 今まであった奴の顔を思い浮かべていく。……自分で言うのも何じゃが、碌な奴にあっておらぬのう?
 少ない知り合いを思い浮かべながら、なんとか会いたい奴を出していく。


「……メリゼに会いたい」


 わしが選んだのはメリゼじゃった。前の世界でホウリの次に世話になった奴じゃし、この世界でどうなっているかも気になる。


「メリゼか」
「厳しいか?」
「そんな事は無いんだが、あまり会う事はおすすめしない」
「どういう事じゃ?」
「俺からは言いにくいな。どうする?会うか?」
「会えるなら会いたいのう」


 ホウリの言い方に引っ掛かりを覚えながらも、メリゼの所へと向かう。
 ホウリに連れられてたどり着いたのは『生徒会室』と書かれた扉の前だった。


「まさか、メリゼは生徒会長か?」
「そのまさかだ」


 メリゼが生徒会長とはのう?元の世界でもわしが魔王に推薦したし、自然な事かもしれぬか。
 わしは生徒会室の扉を開ける。すると、書類に目を通しているメリゼの姿があった。周りには他の生徒会の役員たちも仕事しておる。
 忙しそうな役員の後ろを通ってメリゼの傍に行く。


「よおメリゼ。調子はどうじゃ?」
「……魔王ですか」


 メリゼは嫌そうにわしを見てくる。この世界でも魔王と言われた事に少し驚く。
 あれか、わしがメリゼに魔王以外で呼ばれるイメージが湧かないんじゃろう。ここはわしの夢の中じゃし。
 じゃが、少し当たりが強くないか?現実はもう少し敬意みたいな物があったぞ?
 不思議に思っておると、メリゼがわしを睨みつけながら吐き捨てるように言う。


「何も用が無いのなら出て行ってくれませんか?魔王、いや元生徒会長?」
「は?」


 メリゼの思いもよらぬ言葉に間抜けた声が出てしまう。


「わしが元生徒会長?嘘じゃろ?」
「今度は記憶喪失のフリですか?あなたが書類は嫌だといって生徒会長の座を押し付けた事は一生忘れませんよ?」


 そんな事やっとたのか。この世界のわしはどういう奴なんじゃ。


「そ、そういう事なら少し手伝っても良いぞ?何かやる事は……」
「文字通りあなたの席はありません」


 メリゼの言葉通り、生徒会室に空いている席はない。皆が忙しそうに書類をまとめたり紙にペンを走らせている。確かに座れそうな席は無いのう。
 ……お前の居場所は無いという意味ではない筈じゃよな?


「分かったらさっさと出て行ってください。これから文化祭の打ち合わせをしないといけないので」
「そ、そうか。邪魔したのう」


 逃げるように生徒会室から出ていき、振り向かずに廊下を進む。とりあえず生徒会室から離れたい、その一心で廊下を進む。


「おーい、そろそろいいんじゃないか?」


 ホウリの言葉で我に返って歩みを止める。ここまで来ればよいじゃろう。


「ふぃー、まさかメリゼに冷たくされるとはのう」
「だから行かない方が良いと言ったんだがな」
「理由を説明せい。理由が分かっておったら行かんかったわ」
「ちょっとした嫌がらせだ。気にするな」
「気にするわい」


 あっけらかんとしたホウリに殺意を覚える。……わしのホウリのイメージが強すぎて現実と夢でそう変わらん気がするわい。


「それにしても、わしが生徒会長だったとはのう?」
「結構人気だったぜ?なにせ、不良グループを1人で何とかしたからな。付いたあだ名は『魔王』だ。ピッタリだろ?」
「なじみ過ぎて違和感がないわい。そういえば、わしはいつまで生徒会長だったんじゃ?」
「一昨日」
「へ?」


 本日2度目の間抜けた声が思わず出る。


「何があったんじゃ?」
「メリゼの言った通りだ。書類が嫌だって言ってやめたんだよ」
「わしって結構嫌な奴じゃったのか?」
「そんなこと無いぞ?みんなの悩みを親身になって聞いたり、行事には生徒の意見を最大限取り入れたり」
「ふむ、詳しく聞かせろ」


 ホウリが言うにはわしは2年連続の生徒会長らしい。2年目の春に生徒会にメリゼが入り、わしは途中でメリゼに生徒会長を引き継ごうと思っておったらしい。メリゼもそれを知っておったから、わし以上に働いたらしい。 
 そんな中、わしはメリゼに何も言わずに会長の座を譲った。それが一昨日の出来事らしい。


「今の説明にメリゼがわしを恨む理由があるとは思えんが?」
「そりゃ恨まれるだろ。文化祭の調整で忙しい時期に何も言わずに生徒会長を押し付けられたんだからな」
「わしが言うのも何じゃが、ひどくないか?」
「そうだな」


 去年が大変だったから今年はメリゼに押し付けた、わし自身の思考が手に取るように分かるわい。
 そんなこんなで廊下を歩いていると、食堂にたどり着いた。そういえば、さっきディフェンドの店長が食堂におったのう。何か美味いものが食えそうじゃ。


「ホウリ、食堂に寄って行かんか?」
「別にいいぜ。小腹が空いてた所だ」


 食堂の前にあるメニュー表を見てみると、カレーやナポリタンといった定番のメニューと共に、料理長おすすめメニューが書いてあった。今日のおすすめは『マスカットのパフェ』みたいじゃな。値段は……


「300円!?安過ぎぬか!?」
「いつもこんなんだ。学生には安く美味い物を食べて欲しいみたいでな」
「売り切れ必死じゃろ」
「だから整理券がある。こういう奴だな」


 ホウリが懐からパフェの整理券を取り出す。白いチケットにマスカットパフェの文字が書かれているシンプルな券じゃ。


「整理券って全部で何枚なんじゃ?」
「10枚だな」
「争奪戦には何人参加した?」
「265人だな」
「もう驚かぬぞ」


 どのような戦いがあったのか怖くて聞けぬわ。


「お主が参加するのならば1枚は手に入れられぬのう。実質9枚の争奪戦か。中々厳しいのう?」
「何言ってる?12


 ホウリは整理券をずらして2枚見えるようにする。何やっとんじゃこいつは。


「貴重な整理券を2枚もどうするつもりじゃ」
「食うに決まってるだろ」
「食えんかった奴の気持ちを考えた事は無いのか?」
「弱い奴が悪い。それとも」


 ホウリはわしに整理券を差し出す。


「食わないのか?」
「食うに決まっておろう」


 対して悩みもせず整理券を受け取る。あるものは仕方ない、とても心苦しいがわしが食う事にしよう。
 2人でカウンターへと向かう。すると、店長……もとい料理長が笑顔で待っていた。


「やあホウリ君。そろそろ来ると思っていたよ」
「いつもありがとうございます。これおねがいします」
「少し待っててね」


 整理券とお金を受け取って、料理長は厨房に引っ込む。


「まさか、今から作る気か?」
「その通りだ。他の料理とは違っておすすめメニューは料理長が直々に作る」
「贅沢じゃな」


 他の料理とは気合の入り方が違う。これは期待できそうじゃ。
 楽しみに待っていると、トレイにパフェを2つ乗せた料理長が奥から現れた。
 大き目のコップくらいのガラスの器に、これでもかとマスカットが乗っておる。外から見える断面にはコーンフレークと言ったカサ増しは無く、スポンジやクリームが詰め込まれておる。これが300円とはのう。


「ありがとうございます」
「また来てね」
「はい、ぜひ来ます」


 トレイを持ち料理長に見送られながら席を探す。
 食堂にはお喋りを楽しんでいる生徒や、教科書を広げて勉強をしている生徒がいた。全て埋まっているという事は無いが、広めの席となると探すのに時間がかかりそうじゃ。
 1分後掛けて席を見つけ、ホウリと向かい合う形で座る。


「いただくか」 
「そうじゃな」


 いただきますと手を合わせてスプーンを手に取る。しばし迷って乗っているマスカットを救って口に入れる。
 マスカットの爽やかで上品な果汁が口の中に広がる。安物ではなく、質が高い物であると一口で分かる。
 次にクリームとマスカットを一緒に口に運び、わしは驚愕する。
 生クリームと思っていたがマスカルポーネのクリームじゃった。クリームだけでも美味いがマスカットと共に食べることで上品な甘さが加わり、美味さが加速しておる。


「……すごいのう」
「……だな」


 その言葉だけでホウリも同じ気持ちであると確信する。今は言葉を交わすよりもこの幸せを教授したい。わしらはそう思っていた。
 再び、パフェを食べようとスプーンを動かす。しかし、それは叶わなかった


「……そのまま手を下げろ。さもなくば耳を切り落とす」
「お前は冗談も通じないのか?」


 もの凄い殺気を感じ、目の前に視線を向けるとマスカットを摘まもうとしていた手を下げていたナップがいた。


「6つもあるんだから1つくらい良いじゃないか」
「じゃあ、お前の骨を30本折ってもいいな?206本もあるんだしな?」
「良くない!果物と骨を一緒にするな!」
「我儘だな、じゃあ頸椎だけでいいぞ」
「確実に殺しにきてる!」


 ナップの頬に一筋の汗が流れる。ホウリが本気であると感じ取ったのじゃろう。まあ、今更知り合いが出てきた所で驚きもないのう。


「で?何か用か?」
「俺がお前に話しかける理由は一つしかないだろ?」
「そうか死ね」
「二言目には死を宣告するな」


 スイーツタイムを邪魔されたからなのか、ホウリの機嫌がかなり悪い。悪すぎて殺意が抑えきれずに漏れ出てきておる。


「こらナップ!またホウリ君に絡んで!」
「あんたも飽きないわね」


 後ろからミルとシースが呆れた様子でやって来た。こやつらの表情を見るに毎回こんなやり取りをやっとるみたいじゃな。


「そんな事より、今日こそお前に勝つ!」
「はいはい、何やるんだ?」


 ホウリが諦めた様に勝負の内容を聞く。


「ふっふっふ、今日の勝負はこいつだ!BAN・BAN・SHOT!」


 ナップが得意げにゲーム機を2つ取り出す。


「このゲームは所謂、シューティングだ。自信をアイテムで強化しながら相手を倒した方が勝ち。簡単だろ?3日前に発売されたばかりのゲームだ」
「やけに自信満々ね?」


 ゲーム機を手に取りながらシースが呟く。


「当たり前だ。学校をさぼって3日間徹夜で練習したからな」
「最近見ないと思ったらそんな事してたの?」
「ホウリに勝てれば何でもいい」


 ナップの言葉に呆れるミルとシース、そして話を聞いていないホウリ。なんだかナップの奴が可哀そうになってきたのう。
 相手にされていないのが分かっているのかいないのか、ナップが上機嫌で話す。


「発売されたばかりのゲームでなら勝機はある!勝負だホウリ!」
「分かった。構えろ」


 ホウリが片手でゲーム機を操作してゲームを起動させる。そして、反対の手でパフェを食べ始める。


「いつでもいいぞ」
「はっ!舐めた真似を!それで負けても言い訳するなよ!」


 ゲームが始まりナップがもの凄い形相でゲーム機に集中する。対してホウリはパフェを食いながらのんびりと話し始めた。


「ボローネさんとパンクさんはどうしたんですか?」
「文化祭の準備中よ」
「そういえば、文化祭も近いですけどお二人のクラスは何をやるんですか?」
「僕たちはお化け屋敷だね」
「広めの教室を貸し切るのよ。二人も来てね」
「勿論です」
「わしは怖いのは苦手じゃな」
「俺が手を握ってやろうか?」
「いらぬわ」
「くそっ!アイテムが全然取れねえ!」


 お化け屋敷とはなんとも文化祭らしいのう。こやつらも楽しそうに話しておるし、こっちまで楽しくなってくる。


「そう言う君たちのクラスは何をするの?」
「カフェじゃよ。ホウリがかなり力を入れておってのう」
「当たり前だろうが。スイーツ作るんなら手を抜くつもりは無い。目指せ3つ星レストランだ」
「ホウリ君なら出来そうだよね」
「俺は出来ない事は言いませんよ」
「被弾!?どこから撃ってきた!?」


 今日も文化祭の話し合いでホウリはかなりの熱で話しておった。クラスの皆が軽く引くくらいのう。


「俺は中途半端はしません。やるなら徹底的にやります」
「徹底的の程度が常人の100倍は強いと思うがのう?」
「まあな」
「否定せんかい」
「な!?負けただと!?まだ1分も経ってないぞ!?」


 わしとホウリのやり取りを聞いたミルとシースが可笑しそうに笑う。


「何が可笑しい?」
「いやー、本当に仲がいいと思って」
「微笑ましいわね」
「生暖かい目で見るのは止めんかい」


 ホウリが空になった器にスプーンを入れる。そして水を一口飲みながら口を開いた。


「俺たちの仲が良いのは確かだな。ロワやミエルとも仲が良いしな」
「そういえばあの二人とも仲が良いわね。フフフ、仲良し4人組って感じね」
「5人の間違いじゃろ?」
「5人?もう一人いるの?」


 不思議そうな顔をする2人を見て違和感を覚える。じゃが、ここが別の世界である事を思い出す。
 ノエルはこの学校の生徒ではない。ミルとシースはノエルを知らんのじゃろう。


「あー、あれじゃ。わしの妹も結構一緒におるからな」
「あの可愛い子ね」
「知っとるのか?」
「お休みの日に君たちと一緒にいる子でしょ?」
「あの子可愛いわよね?流石フランちゃんの妹ね」
「そうじゃろ?」


 ノエルを誉められ、自分のように嬉しくなる。


「どれ、ノエルの話をもう少ししてやるかのう」
「もう下校時間だ。続きは今度にしてくれ」


 窓の外から夕陽が差し込んでいる。ホウリの言う通り、もう少しで下校時間みたいじゃ。


「残念だけどお開きね」
「そうだね。ほら、行くよナップ」


 ホウリに負けて呆然としていたナップを連れてミルが食堂から出ていく。


「くそー!覚えてろよー!」
「はいはい、パンクとボローネを連れて帰るわよ」


 捨て台詞を吐きながら遠ざかっていくナップ。夢の中でも愉快な奴じゃ。


「わしらも行くか」
「そうだな」


☆   ☆   ☆   ☆


 夕暮れの道を喋りながらホウリと歩く。


「この世界は平和でよいのう」
「少なくとも歩けば敵とエンカウントする事はないな」
「うらやましいのう。毎日、皆で面白おかしく過ごしたいわい」
「元の世界は危ないのか?」
「街は安全じゃが、それ以外は魔物が出てくる」
「大変だな」


 他人事のようにホウリが言う。まあ、この世界のホウリにとっては他人事なんじゃが。
 わしが抗議しようとすると、向こうから人が走って来るのが見えた。その者は最も見慣れた姿……ノエルじゃった。


「フランお姉ちゃーん!」


 走りながら抱き着いてくるノエルを優しく抱きしめる。ノエルは背中のランドセルを揺らしながらホウリにも抱き着く。


「ホウリお兄ちゃん!」
「よう、ノエルも今帰りか?」
「うん!一緒に帰ろ?」
「そうだな」
「わーい!」


 ノエルの左右の手をわしとホウリで繋ぐ。上機嫌なノエルと共に夕焼けに照らされる道を歩く。
 しばらく歩くと向こうにロワとミエルの姿が見えた。


「ホウリさーん!」
「フラーン!ノエルー!」


 手を振る2人にわしらも手を振る。
 2人がいる方向へと向かい合流する。


「お疲れさん、今日はどうだった?」
「ジルとの勝負は引き分けでした。明日こそ決着を付けますよ」
「そう言って1ヶ月間決着が付いていないじゃないか」
「どっちも外しとらんという事か?」
「その通りだ」
「どっちも色々と可笑しいのう」


 他愛のない話をしながら帰り道を歩く。こんな日がいつまでも続けばいい、わしがそう思っていると意識がどんどんと暗くなっていった。



☆   ☆   ☆   ☆



「……きろ。起きろ、フラン」
「うーん?」


 顔を上げると、わしの顔を覗き込んでいるホウリがいた。どうやら、わしは寝ていたらしい。
 よく覚えておらんが、とても楽しい夢を見ていた気がする。


「寝るならベッドで寝ろ。疲れが取れないぞ?」
「そうじゃな」


 大きく伸びをして席を立つ。この感じからして3時間は寝ておったみたいじゃ。そろそろ夕飯じゃな。


「今日の夕飯は何じゃろうな?」
「今日は野菜中心らしいぞ?」
「偶にはよいかものう」


 扉を開けようとドアノブに手を掛けようとした所でとある疑問が浮かぶ。


「ホウリ、一ついいか?」
「なんだ?」
「もし、ここよりも平和な世界があって、知り合いがそこに全員いるとしたら、移住するか?」
「しないな」


 ホウリがあっけらかんとした様子で即答する。


「なぜじゃ?」
「俺の世界は今はここだ。この世界でのやる事を放棄して逃げる事はしない。それに……」
「それに?」
「つらい世界なら俺が変える。絶対にだ」


 ホウリが当たり前のように、しっかりとした口調で話す。


「お主らしいのう」
「お前は移住するのか?」
「分からん。その時になって考えるとする」
「お前らしいな。さっさと飯にいくぞ」
「了解じゃ」


 ドアノブを捻って外に出る。
 この世界もわしにとっての現実。どんなに苦しかろうと、辛かろうとそれは変わらん。じゃが……


「この世界も悪くない」
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