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第百十八話 trick or treat!
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「ふわあああ……」
朝、わしは2階の自室からリビングへと降りていく。いつもはノエルと一緒に寝ているが、新しい家に来てからは別々の部屋で寝ている。少し寂しいがのう。
新しい家に来てから数日、新しい家にも慣れて各々が思い思いに過ごしている。
わしはと言うと、魔国の時とは違い、やるべきことは無いから、街を適当にぶらついておる。なんだが、隠居した気分じゃ。
「偶には魔国に帰って仕事しても良いかもしれぬのう」
そう思いながらリビングの扉を開ける。
「お久しぶりです、魔王様」
「うおおおおお!?」
リビングにメリゼがいた。
字だけを見ればあっさりしているが、わしへの衝撃は相当な物じゃった。目の前にドラゴンが現れてもこんなに驚かんじゃろう。
「なななぜお主がここにおる?」
平静を装うとするも動揺が声に出てしまう。
そんなわしの質問にもメリゼはいつも通りの無表情のままじゃ。
「私がここにいる理由は一つしかないでしょう?」
「わしを連れ戻しにきたか。じゃが、今はわしがおらんでもよいじゃろ?」
「そんな事はありません。今こそ魔王様のお力が必要なのです。さあ、行きますよ。今回は1年は戻れないと思ってください」
「うう……」
無表情でにじり寄って来るメリゼを何とか回避できないか考える。
『わしにはやる事がある!』→『それは何ですか?』→『それは……』ゲームオーバー
『わしがいないと皆が困る』→『ホウリ様に確認します』→『別にいいですよ』ゲームオーバー
『頼む!見逃してくれ!』→『ダメです』ゲームオーバー
ダメじゃ、どう答えても誤魔化し切れる気がせん。
わしが苦痛の表情をしておると、メリゼが耐えきれんように笑い始めた。
「……プッ、あはははは!」
「どうしたメリゼ?体調でも悪いのか?」
滅多に表情が変わらないメリゼが大笑いしておる。頭がおかしくなったとしか思えん。
メリゼが一通り笑った後、涙を拭きながら口を開いた。
「いやー、ナイスリアクションだ。驚いたかフラン?」
「ホウリか?」
わしの問いにメリゼ……ホウリが満足そうに頷く。
メリゼの口からホウリの声が聞こえてきた。もしかしなくてもホウリの変装じゃろう。
ホウリはメリゼの顔のまま笑顔で話す。
「驚くとは思っていたが、思った以上に驚いたな」
「お主な、少々悪趣味ではないか?」
「何言ってんだ。今日はお菓子くれるか悪戯されるか、2つに1つの日だぜ?」
ホウリの言葉でわしは今日という日を思い出す。
今日はハロウィーン、別の種族の仮装をして別の家へお菓子を貰いに行く日じゃ。ホウリが力を入れるのも納得じゃ。
そういえば、メリゼに気を取られて気付かなかったが、リビングも飾り付けされておる。
カボチャやコウモリの飾りがされており、壁にはHAPPY HALLOWEENという文字が書かれている。
「昨日はこんな飾りは無かったぞ?昨夜の内に全部お主が飾り付けたのか?」
「そうだ。この日の為に準備してたんだぜ?」
ホウリの仕事の速さに関心しながらリビングへと入る。よく見てみると飾りも細かい模様が施されておる。一晩でここまでの飾り付けをするとは、熱意が段違いじゃな。
「朝食は?」
「用意してある。パンプキンパンとパンプキンスープとパンプキンパイだ」
「カボチャ尽くしじゃな」
「味は変えてあるから飽きは来ない筈だ」
無駄にこだわりが強いのう。まあ、偶にはこういうのも良いか。
「む?この山もりのアイシングクッキーはなんじゃ?」
テーブルの上に朝食とは別にアイシングクッキーが置いてある。ダメルでわしが食ったアイシングクッキーと同じものじゃ。
「これはやって来た子供たちに配る物だ。これからラッピングもする」
「以外じゃな、お主の事じゃから貰う方に専念すると思っておったが?」
「せっかくのイベントだ。皆で盛り上がらないと損だろ?」
「じゃが、貰いにも行くんじゃろ?」
「当たり前だろ」
飾り付けをしつつ、クッキーも作って他の家にお菓子も貰いに行く。こやつ、どれだけハロウィンに本気なんじゃ。
席に座って料理に手を付けようとすると、リビングの扉が開いた。
「おはようございまーす!お、凄い飾り付けですね」
「おはよう。なんだか気合入っているな」
「おはよー。おおー凄い!」
朝の挨拶をしながら皆がリビングへと入って来た。皆もリビングの飾り付けに驚愕している。疑ってたわけではないが、本当にホウリが準備したんじゃな。
いつも通り、テーブルで食事しようとしたロワはホウリを見て首を傾げた。
「あれ?メリゼさん?なんでいるんですか?」
「俺だよロワ」
「あ、ホウリさんですか。仮装のクオリティ高いですね」
「良ければ皆も仮装するか?」
「良いんですか?」
ロワが興味深そうにホウリを見る。確かに別の種族に成りきれるのは興味が湧くのう。
「わしも仮装したいのう」
「ノエルもやりたい!」
「分かった。ミエルはどうだ?」
「私はいい。どうにも他の者になるというのは好かない」
「そうか、分かった」
嫌な奴に無理やりやらせるのは良くない。残念じゃがノエル抜きでやろう。
「そう言えば、街で仮装コンテストをやっているんだ。皆で出てみるか?」
「いいのう」
「何か商品とかあるの?」
「とある恋愛劇のペア鑑賞チケットだ」
「やはり皆が仮装するのに私だけやらない訳にはいかないな。私も仮装して大会に出よう」
「さっきと言ってることが変わっとらんか?」
こうして、わしらは仮装して大会に出る事になった。
☆ ☆ ☆ ☆
「皆さんお待たせしました!仮装コンテストの始まりです!」
ステージ上の司会者の声に会場から大歓声が上がる。
わしらはステージの端でわしらは待機していた。
「なんだか緊張しますね」
「確かにそうじゃな」
ロワが緊張した面持ちで呟く。コンテスト会場には数千人の客がおる。全員に注目されるとなると、緊張するのも無理はない。
わしらがコソコソと話しておる中で、司会者は説明を続ける。
「さて、この大会のルールを説明するぜ!仮装した奴らが出てきて、審査員が誰が良かったかを決める!シンプルで素晴らしいだろ?」
≪イエーイ!≫
「じゃあ、素晴らしい審査員の紹介だ!まずはこの大会の出資者、クレプ!」
審査員の席に座っている和服の女性が、上品に手を振る。
良くは知らぬが、有名な貴族らしい。こんな大会に出資するとは物好きじゃな。
「次はこいつだ!この地域の神殿長、マロン!」
「イエーイ!皆盛り上がってるかーい!」
≪イエーイ!≫
金髪で日焼けしているチャラ男がノリノリで叫ぶ。こんな奴が神殿長とは世も末じゃな。
「最後はこいつだ!皆さまお馴染みホウリ!」
「今日はアゲていくぜ~!」
≪Fuuuuuu!≫
「なぜあやつは解説席におるんじゃ」
「ホウリさんが出たら勝っちゃうから審査員するみたいです」
「わしらに有利にならぬか?」
「ホウリならば公正に審査するはずだ。心配ないだろう」
いつもとは違い今回の大会は負けても問題ない。じゃが、やるからには勝ちたいのう。
「御託はここまでだ!早速一人目いくぜ!カモン!」
「行ってきますね」
ロワが緊張した面持ちでステージに上がる。ロワはステージの中央に立つとお辞儀をした。すると、観客席の女共から黄色い歓声が上がる。
そんなロワに司会者はマイクを向ける。
「それでは、自己紹介と何の仮装なのかをどうぞ!」
「は、はい。スターダスト所属のロワ・タタンです。今回はエルフの仮装をしました」
ロワの仮装はエルフ、森の近くに住む魔族じゃ。
耳は尖っていて、服は肩から袖にかけて露出してあるエルフの伝統的な服だ。白を基調とした服とロワの丁寧な振る舞いで清潔感を感じられる。
手にはエルフの楽器であるハープが握られており、まるで本物のエルフのようじゃ。
ちなみに、今回ロワは布を付けておらん。布を付けない方が完成度が高くなるというロワの要望で、ステージに立っている間だけ化粧で誤魔化すことになっておる。
司会者は大げさに驚きながらロワにマイクを向ける。
「これは始めからクオリティが高いですね。今回の仮装のポイントは?」
「耳の形とかはこだわりました。あとは、この楽器ですね」
「弾いてもらったり出来ますか?」
「少しだけなら」
そう言うと、ロワはハープに手を掛ける。ロワの細い指が弦を弾き、美しい音色が会場に流れる。
簡単なメロディーじゃったが、聞いておると胸が透くようにさわやかな気持ちになる。会場の皆も声を上げずに聞き惚れておる。
ホウリが簡単なメロディーをロワに教えておったが、まるでプロみたいに上手い。ロワにこんな特技があったとは。
引き終わったロワはふぅと息を吐いて微笑む。
「以上です」
「う、上手いですね」
「はい、とある人から仕草まで完璧にしないと仮装とは言えないと言われまして」
ロワの視線がホウリへと向く。ホウリはこっちを見るなと言った様子でシッシッと手を振る。
「以上ロワ・タタンさんでした。皆さま大きな拍手を!」
観客からの拍手を背中に受けながら、ロワが戻って来る。
「ひー、緊張しました」
「中々良かったぞ」
「そ、そうだな。中々カッコよかったぞ」
「ハープ綺麗だったー。もっと聞きたいなー」
「分かったよ。家に帰ったら引いてあげるね」
「やったー」
ノエルが飛び跳ねて喜ぶ。ノエルの気持ちも分からんでもない。わしも楽しみじゃ。
「さて、次のエントリーはこいつだ!」
「行ってきまーす!」
ノエルが元気よくステージに駆け出していく。
その様子を見た司会者が笑顔でノエルにマイクを向ける。
「これはかなり幼い子ですね。お嬢ちゃんお名前は?」
「ノエルはノエル・カタラーナっていいます。今日はドワーフさんの仮装をしました」
ノエルの仮装はドワーフ、人族よりも背の低い魔族じゃ。ノエルは子供じゃから、ぴったりの仮装じゃな。
ノエルの格好は鎧のようにゴツイ恰好に深めのヘルメットを被っている。ただ、ヘルメットはノエルに大きすぎるのか、時々ズレたヘルメットを直している。
また、炭鉱で働くドワーフをイメージしたらしく、所々煤で汚れており手にはツルハシを持っている。
「これはまた本格的だね?ここはこだわったとかあるの?」
「うーんとね、衣装に煤つけたりとか、ツルハシ用意したりとかかな?これ本物なんだよ?」
「おー、それは凄いね。他には何かパフォーマンスとかはあるかな?」
会場の皆が微笑ましそうにノエルを見守る。そんな中、ノエルは屈託のない笑顔で話す。
「ドワーフさんは力持ちだって聞きました。だから、岩を持ち上げます」
「え?」
ノエルが行った言葉に会場中が静まり返る。
司会者はマズいと思ったのか、無理に笑顔を作ってノエルにマイクを向ける
「岩を持ち上げるって本物の?」
「うん!岩は用意してあるよ!」
ノエルが手を挙げると台車に乗せられた岩が運ばれてきた。台車で運んでいるにも関わらず、男4人がかりで運んでおる。
かなり重い岩みたいじゃが、ノエルのような子供が持ち上げられるとは思えん。
台車から岩が降ろされ、ノエルが岩の前に立つ。
「こ、これをお嬢ちゃんが持ち上げるの?」
「うん!いっくよー!」
ノエルが岩手を掛けて力を入れる。すると、岩は軽々とはいかないまでもノエルによって持ち上げられた。
「うーん……もう無理!」
顔を真っ赤にしながら岩を持ち上げたノエルは、限界が来たのか岩を降ろす。岩を降ろした衝撃でステージが多少揺れた。
とんでも無いもの見た司会者は震えながらもノエルにマイクを向ける。
「い、今のは何かな?あ!もしかしてマジックかな?何かタネがあるんでしょ?」
「うん、そうだよ?」
ノエルの言葉が意外だったのか、司会者の目が丸くなる。そして、会場中がホッとしたのか、所々から笑い声が聞こえてきた。
「そ、そうだよね。君みたいな子供が岩を持てる訳ないもんね。ちなみにどうやったの?」
「えへへ、秘密」
「気になる所ではありますが、お時間がきました。以上、ノエル・カタラーナちゃんでした!」
万雷の拍手に答えながら、ノエルがステージ端に戻って来た。
「いえーい!」
「お帰りなさい。どうだった?」
「とっても楽しかったよ!」
「それはよかったのう」
わしらの言葉にノエルが笑う。ちなみに、岩を持ち上げたトリックは言わすもがな魔装じゃ。別に嘘は言っておらんから看破でも見破れない。曖昧な言葉とは意外に便利な物じゃな。
「ハイレベルな仮装が続きました!次の方はどんな仮装を見せてくれるのでしょうか!」
そうこうしている内に、次の者の出番が来た。
「さて、次はミエルじゃが」
「……なあ、私も出ないとダメか?」
「ここまで来てなんじゃい。観念していってこい」
ミエルが出場を渋るが、無理やりステージに送り込む。
ミエルは顔を真っ赤にしながらステージに上がる。
「さあ、お名前と何の仮装かをどうぞ!」
「み、ミエル・クラン。猫耳族の仮装をしました…………ニャ」
≪HUUUUU!≫
ミエルの言葉に観客、主に男共の歓声があがる。
ミエルの仮装は猫耳族、ラッカと同じ魔族の格好じゃ。恰好としては薄手のシャツにパンツスタイルと言ったシンプルなものじゃが、最大の特徴であるネコミミとネコシッポがついておる。
ホウリの無駄に高い技術により、ネコミミのカチューシャはネコミミ以外の部分は目立ちにくくなっており、シッポは本物のような動きをしておる。一見しただけでは本物の猫耳族ではないかと思ってしまうじゃろう。
「今回の仮装のポイントは?」
「この耳と尻尾です……ニャ」
一言喋るごとに、ミエルの顔が赤くなっていく。
なぜミエルは猫耳族なのか。それは、ラッカを長年見てきたから仕草とかある程度分かるという本人の希望があったからじゃ。
格好もオフの日のラッカと同じものみたいじゃな。
じゃが、口調まで真似る事に考えが及ばなかったみたいで、エントリー後に羞恥で顔を真っ赤にしておった。
そんなミエルに視界は追い打ちをかける。
「なにかアピールはありますか?」
「あ、アピールですか……ニャ?」
ミエルが顔を引きつらせる。ミエルが出来る事では猫耳族の特徴を生かした行動は難しい。かといってここで何もしないと勝ちの目が薄くなるじゃろう。
ミエルは数秒の間、空をを見つめると、意を決したように視線を戻した。
そして、両手で拳を作ると、それぞれを顔の端に持ってきて一言。
「にゃん」
≪うおおおおおおおおおおおおお!≫
ミエルの一言に会場中の男共が湧き上がる。本当にこいつらときたら……。
「とても可愛らしいアピールでした。以上、ミエル・クランさんでした!」
コンテスト始まってから最大の拍手を受けながらミエルが戻って来た。
「……恥ずかしくて死にそうだ」
「だ、大丈夫ですよ。僕は可愛いと思いましたよ。えっと……にゃん」
「……いっそ殺してくれ」
ロワの言葉がトドメとなり、ミエルがふさぎ込む。
ロワ自体に悪気は無かったのか、ふさぎ込んだミエルを見てオロオロしておる。
「どうしましたミエルさん?」
「ロワ、そっとしておくんじゃ。人には一人になりたい時もあるものじゃ」
「フランさんがそう言うのなら……」
ロワはミエルに話しかけるのを止めたが、気になるようでチラチラとミエルの方を見る。
まあ、少し時間がたてば復活するじゃろ。
「さあ、お次はどんな仮装が出てくるのか!次の仮装はこいつだ!」
「わしの出番か」
「フランお姉ちゃん、いってらっしゃい!」
「うむ、行ってくるぞ」
ノエルに見送られながら、わしはステージに上がる。
「おお、何やらクールな装いですね。お名前と何の仮装かをどうぞ!」
「名はフラン・アロス。仮装はバンパイア」
わしはマントを翻しながら答える。わしの仮装はバンパイア、理由はいう間でもなく、メリゼを見ているからやりやすそうと思ったからじゃ。
タキシードにマントとメリゼをイメージした格好で、ちゃんと牙も付けておる。肌もスキルで浅黒く変えておるし完璧じゃ。立ち振る舞いはメリゼを参考にすればよいし、簡単じゃな。
「前の参加者にも負けない程のクオリティですが、ポイントはどこでしょうか」
「まずは牙です。本物に見えるように材質に骨を使い……」
わしは淡々と仮装のポイントを伝える。
メリゼがこんな感じじゃったし、多分これで間違いない筈じゃ。
「……と言う感じです」
「なるほど、もの凄くこだわっているんですね。何かアピールポイントはありますでしょうか」
「はい、こちらです」
わしはマントを翻し、ブラックミストを発動させる。会場中に黒い霧が満ちたところで、他のスキルで声を反響させる。
「ふはははははは!」
「おお、これは夜の王であるバンパイアそっくりです!」
会場中からも感嘆の声が漏れる。これだけ大規模にブラックミストを発生させるのはバンパイア以外にいない。これは完璧じゃろう。
わしはブラックミストを解除し、笑い声も止ませる。
「これは優勝候補が現れたかもしれません!以上フラン・アロスさんでした!」
≪わあああああああ!≫
これは勝ったのう。
会場中からの歓声を受けながら、わしは勝ちを確信したのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
「優勝者、ベイン・ソウカ!」
「はああああ!?」
ホウリの言葉にわしは思わず叫んでしまう。
全員のアピールが終わり、優勝したのは人族の格好をしたベインじゃった。……納得いくか!
わしは他の参加者がいるなかでホウリに向かって叫ぶ。
「待て!なぜベインが優勝なんじゃ!分かるように説明せい!」
ベインの仮装はどこにでもいる普通の人族の格好じゃった。アピールも少し歌っただけで、特別な事はしておらんかった。なのにこいつが優勝なのは納得がいかない。
以上の事をホウリに伝えると、ホウリはニヤリと笑った。
「確かに、お客様の中にもなぜか疑問に思っている人がいるだろう。だが、その説明をする前にベインの肌を見てくれ」
「肌を?」
わしは今一度ベインの肌を見てみる。しかし、特にかわった様子はない。
「特に変わった様子はないぞ?」
「だろうな。ベイン、肌を少しこすってくれないか?」
ホウリの言葉にうなずいたベインは、服で肌をこする。すると、中からありえない物が出てきた。
「鱗?」
「そう、ベインは魚竜族だ」
魚竜族は魚のような体の魔族じゃ。体はうろこで覆われており、顔は魚のように面長なのが特徴じゃ。足が生えておるから陸でも行動でき、泳ぎも得意な種族じゃ。
わしが言葉を失っておると、ホウリが説明を続ける。
「お前らの仮装は確かにクオリティが高かった。だがな、本物の仮装は自然に魅せる事が重要なんだよ。わざとらしく技術を自慢しなくても、さりげなく本物によせる。それが仮装の本来のあるべき姿だ」
「な、なんじゃと……」
ホウリの言葉にわしは衝撃を受ける。
確かに、わしらはその種族に成りきろうとしたが、根本には自分の特技を自慢したいという思いがあった。じゃが、それでは腕自慢と変わらん。
邪念は捨て純粋に他の種族に成りきる、わしらにはその心が足りなかったのか。
「何か異論は?」
「……ない」
わしはすごすごと後ろに引っ込む。
「わしは勘違いしておった。来年は本物を追求して、実寸大のドラゴンの仮装をしてやるわ!」
「それはステージが壊れるからやめてくれないか?」
こうして、わしらの仮装コンテストは終わりを告げた。
朝、わしは2階の自室からリビングへと降りていく。いつもはノエルと一緒に寝ているが、新しい家に来てからは別々の部屋で寝ている。少し寂しいがのう。
新しい家に来てから数日、新しい家にも慣れて各々が思い思いに過ごしている。
わしはと言うと、魔国の時とは違い、やるべきことは無いから、街を適当にぶらついておる。なんだが、隠居した気分じゃ。
「偶には魔国に帰って仕事しても良いかもしれぬのう」
そう思いながらリビングの扉を開ける。
「お久しぶりです、魔王様」
「うおおおおお!?」
リビングにメリゼがいた。
字だけを見ればあっさりしているが、わしへの衝撃は相当な物じゃった。目の前にドラゴンが現れてもこんなに驚かんじゃろう。
「なななぜお主がここにおる?」
平静を装うとするも動揺が声に出てしまう。
そんなわしの質問にもメリゼはいつも通りの無表情のままじゃ。
「私がここにいる理由は一つしかないでしょう?」
「わしを連れ戻しにきたか。じゃが、今はわしがおらんでもよいじゃろ?」
「そんな事はありません。今こそ魔王様のお力が必要なのです。さあ、行きますよ。今回は1年は戻れないと思ってください」
「うう……」
無表情でにじり寄って来るメリゼを何とか回避できないか考える。
『わしにはやる事がある!』→『それは何ですか?』→『それは……』ゲームオーバー
『わしがいないと皆が困る』→『ホウリ様に確認します』→『別にいいですよ』ゲームオーバー
『頼む!見逃してくれ!』→『ダメです』ゲームオーバー
ダメじゃ、どう答えても誤魔化し切れる気がせん。
わしが苦痛の表情をしておると、メリゼが耐えきれんように笑い始めた。
「……プッ、あはははは!」
「どうしたメリゼ?体調でも悪いのか?」
滅多に表情が変わらないメリゼが大笑いしておる。頭がおかしくなったとしか思えん。
メリゼが一通り笑った後、涙を拭きながら口を開いた。
「いやー、ナイスリアクションだ。驚いたかフラン?」
「ホウリか?」
わしの問いにメリゼ……ホウリが満足そうに頷く。
メリゼの口からホウリの声が聞こえてきた。もしかしなくてもホウリの変装じゃろう。
ホウリはメリゼの顔のまま笑顔で話す。
「驚くとは思っていたが、思った以上に驚いたな」
「お主な、少々悪趣味ではないか?」
「何言ってんだ。今日はお菓子くれるか悪戯されるか、2つに1つの日だぜ?」
ホウリの言葉でわしは今日という日を思い出す。
今日はハロウィーン、別の種族の仮装をして別の家へお菓子を貰いに行く日じゃ。ホウリが力を入れるのも納得じゃ。
そういえば、メリゼに気を取られて気付かなかったが、リビングも飾り付けされておる。
カボチャやコウモリの飾りがされており、壁にはHAPPY HALLOWEENという文字が書かれている。
「昨日はこんな飾りは無かったぞ?昨夜の内に全部お主が飾り付けたのか?」
「そうだ。この日の為に準備してたんだぜ?」
ホウリの仕事の速さに関心しながらリビングへと入る。よく見てみると飾りも細かい模様が施されておる。一晩でここまでの飾り付けをするとは、熱意が段違いじゃな。
「朝食は?」
「用意してある。パンプキンパンとパンプキンスープとパンプキンパイだ」
「カボチャ尽くしじゃな」
「味は変えてあるから飽きは来ない筈だ」
無駄にこだわりが強いのう。まあ、偶にはこういうのも良いか。
「む?この山もりのアイシングクッキーはなんじゃ?」
テーブルの上に朝食とは別にアイシングクッキーが置いてある。ダメルでわしが食ったアイシングクッキーと同じものじゃ。
「これはやって来た子供たちに配る物だ。これからラッピングもする」
「以外じゃな、お主の事じゃから貰う方に専念すると思っておったが?」
「せっかくのイベントだ。皆で盛り上がらないと損だろ?」
「じゃが、貰いにも行くんじゃろ?」
「当たり前だろ」
飾り付けをしつつ、クッキーも作って他の家にお菓子も貰いに行く。こやつ、どれだけハロウィンに本気なんじゃ。
席に座って料理に手を付けようとすると、リビングの扉が開いた。
「おはようございまーす!お、凄い飾り付けですね」
「おはよう。なんだか気合入っているな」
「おはよー。おおー凄い!」
朝の挨拶をしながら皆がリビングへと入って来た。皆もリビングの飾り付けに驚愕している。疑ってたわけではないが、本当にホウリが準備したんじゃな。
いつも通り、テーブルで食事しようとしたロワはホウリを見て首を傾げた。
「あれ?メリゼさん?なんでいるんですか?」
「俺だよロワ」
「あ、ホウリさんですか。仮装のクオリティ高いですね」
「良ければ皆も仮装するか?」
「良いんですか?」
ロワが興味深そうにホウリを見る。確かに別の種族に成りきれるのは興味が湧くのう。
「わしも仮装したいのう」
「ノエルもやりたい!」
「分かった。ミエルはどうだ?」
「私はいい。どうにも他の者になるというのは好かない」
「そうか、分かった」
嫌な奴に無理やりやらせるのは良くない。残念じゃがノエル抜きでやろう。
「そう言えば、街で仮装コンテストをやっているんだ。皆で出てみるか?」
「いいのう」
「何か商品とかあるの?」
「とある恋愛劇のペア鑑賞チケットだ」
「やはり皆が仮装するのに私だけやらない訳にはいかないな。私も仮装して大会に出よう」
「さっきと言ってることが変わっとらんか?」
こうして、わしらは仮装して大会に出る事になった。
☆ ☆ ☆ ☆
「皆さんお待たせしました!仮装コンテストの始まりです!」
ステージ上の司会者の声に会場から大歓声が上がる。
わしらはステージの端でわしらは待機していた。
「なんだか緊張しますね」
「確かにそうじゃな」
ロワが緊張した面持ちで呟く。コンテスト会場には数千人の客がおる。全員に注目されるとなると、緊張するのも無理はない。
わしらがコソコソと話しておる中で、司会者は説明を続ける。
「さて、この大会のルールを説明するぜ!仮装した奴らが出てきて、審査員が誰が良かったかを決める!シンプルで素晴らしいだろ?」
≪イエーイ!≫
「じゃあ、素晴らしい審査員の紹介だ!まずはこの大会の出資者、クレプ!」
審査員の席に座っている和服の女性が、上品に手を振る。
良くは知らぬが、有名な貴族らしい。こんな大会に出資するとは物好きじゃな。
「次はこいつだ!この地域の神殿長、マロン!」
「イエーイ!皆盛り上がってるかーい!」
≪イエーイ!≫
金髪で日焼けしているチャラ男がノリノリで叫ぶ。こんな奴が神殿長とは世も末じゃな。
「最後はこいつだ!皆さまお馴染みホウリ!」
「今日はアゲていくぜ~!」
≪Fuuuuuu!≫
「なぜあやつは解説席におるんじゃ」
「ホウリさんが出たら勝っちゃうから審査員するみたいです」
「わしらに有利にならぬか?」
「ホウリならば公正に審査するはずだ。心配ないだろう」
いつもとは違い今回の大会は負けても問題ない。じゃが、やるからには勝ちたいのう。
「御託はここまでだ!早速一人目いくぜ!カモン!」
「行ってきますね」
ロワが緊張した面持ちでステージに上がる。ロワはステージの中央に立つとお辞儀をした。すると、観客席の女共から黄色い歓声が上がる。
そんなロワに司会者はマイクを向ける。
「それでは、自己紹介と何の仮装なのかをどうぞ!」
「は、はい。スターダスト所属のロワ・タタンです。今回はエルフの仮装をしました」
ロワの仮装はエルフ、森の近くに住む魔族じゃ。
耳は尖っていて、服は肩から袖にかけて露出してあるエルフの伝統的な服だ。白を基調とした服とロワの丁寧な振る舞いで清潔感を感じられる。
手にはエルフの楽器であるハープが握られており、まるで本物のエルフのようじゃ。
ちなみに、今回ロワは布を付けておらん。布を付けない方が完成度が高くなるというロワの要望で、ステージに立っている間だけ化粧で誤魔化すことになっておる。
司会者は大げさに驚きながらロワにマイクを向ける。
「これは始めからクオリティが高いですね。今回の仮装のポイントは?」
「耳の形とかはこだわりました。あとは、この楽器ですね」
「弾いてもらったり出来ますか?」
「少しだけなら」
そう言うと、ロワはハープに手を掛ける。ロワの細い指が弦を弾き、美しい音色が会場に流れる。
簡単なメロディーじゃったが、聞いておると胸が透くようにさわやかな気持ちになる。会場の皆も声を上げずに聞き惚れておる。
ホウリが簡単なメロディーをロワに教えておったが、まるでプロみたいに上手い。ロワにこんな特技があったとは。
引き終わったロワはふぅと息を吐いて微笑む。
「以上です」
「う、上手いですね」
「はい、とある人から仕草まで完璧にしないと仮装とは言えないと言われまして」
ロワの視線がホウリへと向く。ホウリはこっちを見るなと言った様子でシッシッと手を振る。
「以上ロワ・タタンさんでした。皆さま大きな拍手を!」
観客からの拍手を背中に受けながら、ロワが戻って来る。
「ひー、緊張しました」
「中々良かったぞ」
「そ、そうだな。中々カッコよかったぞ」
「ハープ綺麗だったー。もっと聞きたいなー」
「分かったよ。家に帰ったら引いてあげるね」
「やったー」
ノエルが飛び跳ねて喜ぶ。ノエルの気持ちも分からんでもない。わしも楽しみじゃ。
「さて、次のエントリーはこいつだ!」
「行ってきまーす!」
ノエルが元気よくステージに駆け出していく。
その様子を見た司会者が笑顔でノエルにマイクを向ける。
「これはかなり幼い子ですね。お嬢ちゃんお名前は?」
「ノエルはノエル・カタラーナっていいます。今日はドワーフさんの仮装をしました」
ノエルの仮装はドワーフ、人族よりも背の低い魔族じゃ。ノエルは子供じゃから、ぴったりの仮装じゃな。
ノエルの格好は鎧のようにゴツイ恰好に深めのヘルメットを被っている。ただ、ヘルメットはノエルに大きすぎるのか、時々ズレたヘルメットを直している。
また、炭鉱で働くドワーフをイメージしたらしく、所々煤で汚れており手にはツルハシを持っている。
「これはまた本格的だね?ここはこだわったとかあるの?」
「うーんとね、衣装に煤つけたりとか、ツルハシ用意したりとかかな?これ本物なんだよ?」
「おー、それは凄いね。他には何かパフォーマンスとかはあるかな?」
会場の皆が微笑ましそうにノエルを見守る。そんな中、ノエルは屈託のない笑顔で話す。
「ドワーフさんは力持ちだって聞きました。だから、岩を持ち上げます」
「え?」
ノエルが行った言葉に会場中が静まり返る。
司会者はマズいと思ったのか、無理に笑顔を作ってノエルにマイクを向ける
「岩を持ち上げるって本物の?」
「うん!岩は用意してあるよ!」
ノエルが手を挙げると台車に乗せられた岩が運ばれてきた。台車で運んでいるにも関わらず、男4人がかりで運んでおる。
かなり重い岩みたいじゃが、ノエルのような子供が持ち上げられるとは思えん。
台車から岩が降ろされ、ノエルが岩の前に立つ。
「こ、これをお嬢ちゃんが持ち上げるの?」
「うん!いっくよー!」
ノエルが岩手を掛けて力を入れる。すると、岩は軽々とはいかないまでもノエルによって持ち上げられた。
「うーん……もう無理!」
顔を真っ赤にしながら岩を持ち上げたノエルは、限界が来たのか岩を降ろす。岩を降ろした衝撃でステージが多少揺れた。
とんでも無いもの見た司会者は震えながらもノエルにマイクを向ける。
「い、今のは何かな?あ!もしかしてマジックかな?何かタネがあるんでしょ?」
「うん、そうだよ?」
ノエルの言葉が意外だったのか、司会者の目が丸くなる。そして、会場中がホッとしたのか、所々から笑い声が聞こえてきた。
「そ、そうだよね。君みたいな子供が岩を持てる訳ないもんね。ちなみにどうやったの?」
「えへへ、秘密」
「気になる所ではありますが、お時間がきました。以上、ノエル・カタラーナちゃんでした!」
万雷の拍手に答えながら、ノエルがステージ端に戻って来た。
「いえーい!」
「お帰りなさい。どうだった?」
「とっても楽しかったよ!」
「それはよかったのう」
わしらの言葉にノエルが笑う。ちなみに、岩を持ち上げたトリックは言わすもがな魔装じゃ。別に嘘は言っておらんから看破でも見破れない。曖昧な言葉とは意外に便利な物じゃな。
「ハイレベルな仮装が続きました!次の方はどんな仮装を見せてくれるのでしょうか!」
そうこうしている内に、次の者の出番が来た。
「さて、次はミエルじゃが」
「……なあ、私も出ないとダメか?」
「ここまで来てなんじゃい。観念していってこい」
ミエルが出場を渋るが、無理やりステージに送り込む。
ミエルは顔を真っ赤にしながらステージに上がる。
「さあ、お名前と何の仮装かをどうぞ!」
「み、ミエル・クラン。猫耳族の仮装をしました…………ニャ」
≪HUUUUU!≫
ミエルの言葉に観客、主に男共の歓声があがる。
ミエルの仮装は猫耳族、ラッカと同じ魔族の格好じゃ。恰好としては薄手のシャツにパンツスタイルと言ったシンプルなものじゃが、最大の特徴であるネコミミとネコシッポがついておる。
ホウリの無駄に高い技術により、ネコミミのカチューシャはネコミミ以外の部分は目立ちにくくなっており、シッポは本物のような動きをしておる。一見しただけでは本物の猫耳族ではないかと思ってしまうじゃろう。
「今回の仮装のポイントは?」
「この耳と尻尾です……ニャ」
一言喋るごとに、ミエルの顔が赤くなっていく。
なぜミエルは猫耳族なのか。それは、ラッカを長年見てきたから仕草とかある程度分かるという本人の希望があったからじゃ。
格好もオフの日のラッカと同じものみたいじゃな。
じゃが、口調まで真似る事に考えが及ばなかったみたいで、エントリー後に羞恥で顔を真っ赤にしておった。
そんなミエルに視界は追い打ちをかける。
「なにかアピールはありますか?」
「あ、アピールですか……ニャ?」
ミエルが顔を引きつらせる。ミエルが出来る事では猫耳族の特徴を生かした行動は難しい。かといってここで何もしないと勝ちの目が薄くなるじゃろう。
ミエルは数秒の間、空をを見つめると、意を決したように視線を戻した。
そして、両手で拳を作ると、それぞれを顔の端に持ってきて一言。
「にゃん」
≪うおおおおおおおおおおおおお!≫
ミエルの一言に会場中の男共が湧き上がる。本当にこいつらときたら……。
「とても可愛らしいアピールでした。以上、ミエル・クランさんでした!」
コンテスト始まってから最大の拍手を受けながらミエルが戻って来た。
「……恥ずかしくて死にそうだ」
「だ、大丈夫ですよ。僕は可愛いと思いましたよ。えっと……にゃん」
「……いっそ殺してくれ」
ロワの言葉がトドメとなり、ミエルがふさぎ込む。
ロワ自体に悪気は無かったのか、ふさぎ込んだミエルを見てオロオロしておる。
「どうしましたミエルさん?」
「ロワ、そっとしておくんじゃ。人には一人になりたい時もあるものじゃ」
「フランさんがそう言うのなら……」
ロワはミエルに話しかけるのを止めたが、気になるようでチラチラとミエルの方を見る。
まあ、少し時間がたてば復活するじゃろ。
「さあ、お次はどんな仮装が出てくるのか!次の仮装はこいつだ!」
「わしの出番か」
「フランお姉ちゃん、いってらっしゃい!」
「うむ、行ってくるぞ」
ノエルに見送られながら、わしはステージに上がる。
「おお、何やらクールな装いですね。お名前と何の仮装かをどうぞ!」
「名はフラン・アロス。仮装はバンパイア」
わしはマントを翻しながら答える。わしの仮装はバンパイア、理由はいう間でもなく、メリゼを見ているからやりやすそうと思ったからじゃ。
タキシードにマントとメリゼをイメージした格好で、ちゃんと牙も付けておる。肌もスキルで浅黒く変えておるし完璧じゃ。立ち振る舞いはメリゼを参考にすればよいし、簡単じゃな。
「前の参加者にも負けない程のクオリティですが、ポイントはどこでしょうか」
「まずは牙です。本物に見えるように材質に骨を使い……」
わしは淡々と仮装のポイントを伝える。
メリゼがこんな感じじゃったし、多分これで間違いない筈じゃ。
「……と言う感じです」
「なるほど、もの凄くこだわっているんですね。何かアピールポイントはありますでしょうか」
「はい、こちらです」
わしはマントを翻し、ブラックミストを発動させる。会場中に黒い霧が満ちたところで、他のスキルで声を反響させる。
「ふはははははは!」
「おお、これは夜の王であるバンパイアそっくりです!」
会場中からも感嘆の声が漏れる。これだけ大規模にブラックミストを発生させるのはバンパイア以外にいない。これは完璧じゃろう。
わしはブラックミストを解除し、笑い声も止ませる。
「これは優勝候補が現れたかもしれません!以上フラン・アロスさんでした!」
≪わあああああああ!≫
これは勝ったのう。
会場中からの歓声を受けながら、わしは勝ちを確信したのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
「優勝者、ベイン・ソウカ!」
「はああああ!?」
ホウリの言葉にわしは思わず叫んでしまう。
全員のアピールが終わり、優勝したのは人族の格好をしたベインじゃった。……納得いくか!
わしは他の参加者がいるなかでホウリに向かって叫ぶ。
「待て!なぜベインが優勝なんじゃ!分かるように説明せい!」
ベインの仮装はどこにでもいる普通の人族の格好じゃった。アピールも少し歌っただけで、特別な事はしておらんかった。なのにこいつが優勝なのは納得がいかない。
以上の事をホウリに伝えると、ホウリはニヤリと笑った。
「確かに、お客様の中にもなぜか疑問に思っている人がいるだろう。だが、その説明をする前にベインの肌を見てくれ」
「肌を?」
わしは今一度ベインの肌を見てみる。しかし、特にかわった様子はない。
「特に変わった様子はないぞ?」
「だろうな。ベイン、肌を少しこすってくれないか?」
ホウリの言葉にうなずいたベインは、服で肌をこする。すると、中からありえない物が出てきた。
「鱗?」
「そう、ベインは魚竜族だ」
魚竜族は魚のような体の魔族じゃ。体はうろこで覆われており、顔は魚のように面長なのが特徴じゃ。足が生えておるから陸でも行動でき、泳ぎも得意な種族じゃ。
わしが言葉を失っておると、ホウリが説明を続ける。
「お前らの仮装は確かにクオリティが高かった。だがな、本物の仮装は自然に魅せる事が重要なんだよ。わざとらしく技術を自慢しなくても、さりげなく本物によせる。それが仮装の本来のあるべき姿だ」
「な、なんじゃと……」
ホウリの言葉にわしは衝撃を受ける。
確かに、わしらはその種族に成りきろうとしたが、根本には自分の特技を自慢したいという思いがあった。じゃが、それでは腕自慢と変わらん。
邪念は捨て純粋に他の種族に成りきる、わしらにはその心が足りなかったのか。
「何か異論は?」
「……ない」
わしはすごすごと後ろに引っ込む。
「わしは勘違いしておった。来年は本物を追求して、実寸大のドラゴンの仮装をしてやるわ!」
「それはステージが壊れるからやめてくれないか?」
こうして、わしらの仮装コンテストは終わりを告げた。
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