魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百三十七話 これから毎日家を焼こうぜ

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 フランさんと約束した場所に到着する。周りに人の気配はなく、住居と思わしき建物にちらほらと明かりが見えるだけだ。


「そろそろ7時だけどフランさんまだかな?」


 私が辺りを見渡すと遠くから人影が向かってくるのが見えた。フランさんかと思って手を上げたが近付いてくると共に違和感を抱く。フランさんにしては身長が高い、つまりフランさんじゃないって事だ。
 私は慌てて建物の陰に隠れて様子を伺うと、白のローブを着た長身の人が通り過ぎていった。ローブを目深に被っていて顔は見えないが、ただ事ではない雰囲気を漂わせている。
 この人も教会に行くのかもしれない。尾行した方が良いだろうか?
 本当は追いかけたいけど、フランさんがいない状況での単独行動は危険だ。ここはグッと我慢しよう。
 せめて大まかな行先でも分からないかと白ローブの動向を観察する。白ローブは真っすぐ進むと服屋さんを曲がって──


「むぐっ!」


 瞬間、誰かに口を塞がれて路地の奥へと引き込まれた。まさか気付かれた!?
 何とか抜け出そうと必死に藻掻くが、相手の力が強すぎて全然抜け出せそうにない!これはマズい!


「むー!むー!」
「落ち着け、わしじゃ」


 諦めずに藻掻いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。後ろに視線を向けると真っ黒な服に身を包んだフランさんの姿があった。
 私が暴れなくなったのを確認したフランさんは拘束を解いてくれる。


「もうびっくりしましたよ。なんで人さらいみたいな事をしたんですか?」
「後ろから普通に声を掛けたら声を上げると思ったからじゃ。それで奴に気付かれたらどうする」
「ああ確かにそうですね」


 少しびっくりしたけどフランさんが来てくれたのなら安心だ。時間もぴったり7時で……


「……フランさん、10分遅れてませんか?」
「……早く行くぞ」
「ちょっと!?」


 誤魔化すようにフランさんが路地から出ていく。
 私は思わずフランさんに続いて路地から飛び出す。だが、少しして自分の行動の迂闊さを悟った。
 いくら白ローブが行ったとはいえ、敵が周りにいないとは限らない。すぐに飛び出す前に周りを確認するべきだった。
 私はファイティングポーズをとって周りを警戒する。そんな私をみたフランさんは呆れた表情になる。


「何しとるんじゃお主は」
「いや、敵がいないかと警戒を……」
「必要ない。フルステルスでわしらの姿は視認できんようになっておる。どれだけ叫ぼうが暴れようがバレる事はない」
「へぇー、便利なスキルですね。……ん?どれだけ叫んでも?」


 フランさんの言葉に引っ掛かりを覚える。フランさんは私の口を押えたのは叫び声でバレないようにするためだと言っていた。でもフルステルスを使うと叫び声も聞こえない。つまりは……


「口塞いだの全く意味ないじゃないですか!」
「お、バレてしまったか。さっきのはちょっと驚かせたかっただけじゃ」
「やっぱりそうなんですか!?」
「そんな事よりもさっさと行くぞ」
「そんな事ってなんですか!?」


 悪びれもせずにあっけらかんと言う。もうツッコむ気も起きない。


「……もう行きましょう」
「そうじゃな」


 フランさんと並びながら道の真ん中を堂々と歩く。なんやかんやあったけど、フランさんのおかげで怯えないで進むことが出来る。改めてフランさんがいて良かったと思う。
 誰かに見つかる事も無く雑貨屋さんの家の前にたどり着く。


「ここですね」
「情報によれば8時に出発するみたいじゃが、今は何時じゃ?」
「えーっと……」


 私が腕時計を見ると、針は7時30分を指していた。


「7時30分ですね」
「あと約30分くらいか。ただ見張るのも暇じゃし、なぞなぞでもするか」
「なぞなぞ?」
「医者でもあり料理人でもあり発明家でもあるのはだーれだ」
「ホウリさん」
「正解」


 おかしい、私が知っているなぞなぞと違う。
 私が抗議しようとすると、雑貨屋さんの扉が開いた。それを見たフランさんは首を傾げる。


「もう8時になっていたか?」
「後30分は時間がある筈ですけど?」
「嫌な予感がするわい」


 そう言うとフランさんは雑貨屋さんの後を追い始めた。私もフランさんに続いて雑貨屋さんの後を追う。


「そういえば、あの白ローブはどこに行ったんですかね?」
「わしがマーキングしておるから、現在位置なら分かる。真っすぐと教会に向かっているみたいじゃ」
「フランさんって本当に何でも出来ますよね」
「スキルで解決できる事ならのう」


 フランさんの言う事が本当なら、確実に関係者だろう。しかも一人だけ恰好が違うという事は立場が上の人物かもしれない。今夜、何かが起きそうな気がする。
 私たちが雑貨屋さんの追跡を続けると、予想通り教会にたどり着いた。
 教会は小さく10人位しか入らなさそうだ。入口には見張りの人がいて、自由に中に入れないようになっている。
 雑貨屋さんは見張りに顔を見せると、そのまま教会に入っていった。


「白ローブも教会に?」
「みたいじゃな」
「どうやって入りましょうか?」
「別に入らんでもよい。要は証拠さえ押さえられれば良いんじゃろ?」


 そう言うと、フランさんは教会の裏手に回った。何をするのかと思うと、フランさんは壁を撫でた。すると、撫でた所が透明になった。


「ここから覗けば中の様子を確認出来るじゃろう。しかもあちらからは見えぬし、声も聞こえる」
「便利過ぎて罪悪感がありますね」


 私はフランさんと並んで教会の中を見てみる。
 教会の中には信者らしき人達が並んでおり、最善には白ローブがいて、信者たちの方を向いている。……ん?


「フランさん、あそこを見てください」
「どれじゃ?」


 私は最前列にいる人を指さす。そこには私たちが追っているリューレがいた。


「こんな小さな所に貴族様がいるとはのう。これは決まりか?」
「何の集まりかにもよりますけどね」


 まだ決定的な証拠が出ていない以上、怪しいの域を出ていない。決定的な証拠が出るまでは突入は我慢しよう。
 私たちは固唾を飲んで何が起きるかを見守る。
 見守る事数分、白ローブが手を広げ高らかに話始める。


「同志たちよ、よくぞ集まってくれた。まずは我が神に祈りを捧げよう」


 白ローブの言葉に信者たちは手を合わせて目を瞑る。
 数分間の祈りが終わると白ローブは再び高らかに話始める。


「この世界には偽りの神がはびこっている。しかし、国は偽りの神以外は邪教と言い弾圧する。このような世界が認められていいのか?」
「良い訳ない!」
「我らにも自由を!」


 白ローブの問いに信者たちが口々に叫び始める。その様子は何かに取り憑かれているようにも見える。なんだか異様な光景だ。
 それにしても、偽りの神って何だろうか?神様がいる事は皆知っている。学校でも習うような基本的な事だ。神様のおかげでスキルは使えるし、生き物は生まれてくる。それ以外の神様なんて聞いた事が無い。


「フランさん、偽りの神って何の事でしょうね?」
「………………」
「フランさん?」


 フランさんからの返事が無い。変に思った私がフランさんの方を見ると、フランさんが青い顔をしていた。フランさんのこんな顔は初めて見た。


「どうしたんですか?
「……ちょっと確かめたい事が出来た。少し席を外すからお主はここで待っておれ」
「え?ちょっと?」


 訳が分からず呆けていると、フランさんは教会の後ろにある森へと消えていった。
 しょうがないので私一人で集会の続きを見守る。教会では相変わらず信者たちが不満を叫んでいる。
 一通り不満を聞いた白ローブは軽くを上げる。すると、信者たちの不満はピタリと止まった。


「偽りの神が何をしてくれた?スキルをくれたか?そのスキルでどれだけの犯罪が起きている!命を与えた?偽りの神が管理している命などいらない!我らが神こそが自由と人類の幸せをかが得ている存在なのだ!」


 白ローブの言葉に信者たちがしきりに頷いている。
 だが、私には白ローブの言っている事が全く理解できない。スキルが無いと魔物の脅威に立ち向かうのは困難だ。命だって管理する者がいないと秩序が乱れるだろう。
 やっぱり、今の世界が成り立っているのは神様のおかげだと思うな。
 その後も私には理解できない話が続く。
 しばらく聞いていると、フランさんが帰ってきた。顔色は悪くなさそうだ。


「席を外して悪かったのう」
「私は大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「少しのう。最悪、お主を連れてここから離れる事も考えたが、問題は無かったわい。さっさと捕まえるぞ」
「それは良かったです」


 よく分からなかったけど、問題ないんだったらよかった。


「それで、奴らは何を話していたんじゃ?」
「よく分からないですけど、信じられている神は偽りで自分たちの神こそが正しいって言ってました」
「邪教か」


 邪教とは国が認めている神以外の神の事だ。信仰するだけならいいけど、極端に信者を増やしたり悪質な勧誘といった事をすると重い罪になる。


「貴族が噛んでる邪教か。更に黒さが増して来たのう?」


 フランさんの言葉に私は心の中で同意する。だが、肝心の決定的な証拠がまだだ。もっと、物的な証拠が欲しい所だけど……。
 白ローブの言葉が続き信者たちの熱がどんどんと上がっていく。ただの集会の熱気とは思えない。
 一通り話し終わった白ローブは幾ばくかトーンダウンする。


「さて、明後日の正午に世界は変わる。偽りの神を信仰して出来た文明を破壊するのだ。そうだな?」
「はい」


 白ローブの言葉にリューレが一歩前に出る。
 その瞬間、私たちに独特の緊張感が走る。決定的な証拠が出るかもしれない、それが私の鼓動を早くする。


「手筈は整ってるな?」
「はい。明後日、王都の各地で爆破を起こし我々の力を世間に見せつけます」
「え!?」


 衝撃の真実に私は目を剥いて驚く。フルステルスが無かったら確実にバレていたであろう。


「王都各地で爆破!?」
「それだけでは無いみたいじゃな」


 リューレの後に続くように信者が次々と口を開く。


「魔物を解き放つ準備も出来ています」
「魔物!?」
「こちらは水道の施設に毒を仕込めました」
「毒!?」


 なんでも無いように言っているが、どれも多数の被害者を出す凶悪な犯罪だ。そんなのが王都中で起こったら被害は計り知れないものになるだろう。
 信者たちの言葉に満足した様子の白ローブは、再び手を広げた。


「最後にもう一度、神に祈りを捧げましょう」


 信者たちが囲炉裏を捧げ始めるが、私の頭の中はそれどころじゃなかった。
 どどどどどどうしよう!1つだけでも手に負えない事件なのに同時に複数もある。しかも、タイムリミットは明日の正午、これじゃ絶望だ。


「あわわわわ……」


 祈りを終えた信者たちが次々と教会から出ていく。しかし、私は何も行動出来ないでいた。
 今、ここにいる人達を捕まえても根拠が今聞いた話だけな以上、起訴は出来ない。仮に尋問しても知らぬ存ぜぬで通されるだろう。


「どどどどどうすれば……」


 本部に応援を頼む?でも、そうしたらリューレの証拠を探す時間が無くなっちゃう。今捕まえる事も出来ない。八歩塞がりだ。


「うう……」


 絶望的な状況に思わず膝を付く。無力な自分に目から涙があふれてくる。もう少しなのに……
 そんな私の肩を叩く人がいた。私が顔を上げるとフランさんが微笑みながら私を見ていた。フランさんは聖母のような笑みで口を開いた。


「ラビや」
「な、なんでしょう?」
「目を覚ませ」
「もごっ!?」


 鋭い目つきになったフランさんから、無理やり口に何かを押し込まれる。
 これは……飴?なんてことはない普通の飴……普通の…………


「って酸っぱい!なにこれ!」


 あまりの思わず口の中の飴を吐き出してしまう。


「レモの実を濃縮した果汁で作った飴じゃ。目が覚めたじゃろ?」
「目が覚めた所じゃないですよ!なんでこんな事したんですか!」
「言ったじゃろ?目を覚ませって」
「こんな事しなくても目は覚めてますよ!」
「本当か?わしには焦りで正常に思考が出来ておらんように見えたが?」


 フランさんの言葉に私は押し黙る。フランさんの言う通りだ。何も弁解が出来ない。


「で、でも……何も打つ手が……」
「本当に無いのか?」


 フランさんが真っすぐと見つめてくる。その瞳には強い意志を感じた。私はその瞳に思わず見とれてしまう。


「本当にもう打つ手は無いのか?その結論は考え抜いての結論か?目の前の事が大きすぎて悲観的になっているだけじゃないか?」
「…………」
「もう一度聞くぞ?本当に打つ手は無いのか?」
「………………」


 自分が本当に嫌になる。ここまで言われてようやく冷静になれた。
 私は流れていた涙を拭って立ち上がる。事件はまだ終わっていない。ここで俯いている場合じゃない。


「すみません、やっと目が覚めました」
「戦う者の良い目じゃ」


 フランさんがニヤリと不敵に笑う。


「それで、何か案はあるんですか?」
「ある訳ないじゃろ」
「へ?」
「言ったじゃろ?わしが出来ることはスキルデ解決出来る事だけじゃ。頭脳労働は専門外じゃ」


 あれだけ自信満々だから何か考えがあるのかと思っていたんだけど、ノープランだったなんて。


「えーっと、じゃあどうしましょうか?」
「お主で考えるがよい。ホウリが言っておったが、お主は情報を元に真実を導き出すのが抜群に上手いと言っておったぞ?」
「おだてても何も出ませんよ?」


 とはいえ、引っ掛かっている事もあるにはある。そこを考えてみよう。
 引っかかっているのはリューレの出国日と事件の日が同じという点だ。もしかしたら、ただの偶然かもしれない。けど、なんだか繋がりがある気がする。
 私は目を閉じて考える。
 まず、今までリューレが捕まらなかったのは物的な証拠が一つも見つからなかった。いくら権力があるとしても完全に証拠を完全に消し去るのはかなり難しい筈だ。
 しかも、明後日の事件はこれまでの事件よりも規模が大きい。これまでのように証拠を残さないのは厳しいのではないか?
 つまり、リューレが魔国に逃げるのは証拠を隠滅しきれないから?


「……何とかなるかもしれません」
「ならばすぐに行くぞ。状況が過酷なのは変わらん」
「フランさんはかあり落ち着いてますよね?不安じゃないんですか?」
「わしだけでは出来るか分からんが、今回は憲兵という頼りになる仲間がおるからな」
「下手したらフランさん一人でも出来そうですけどね」
「まあ、強いて不安点を挙げるとするのならば……」


 フランさんは遠い目をしながら呟く。


「明後日まで眠れなさそうって所じゃな」
「王都の危機よりも自分の睡眠時間の心配ですか」


 こうして、私たちの長い2日間が始まったのだった。
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