魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百五十六話 とりあえず殴ろう

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 13時、俺達は子供たちを退けて空き教室に戻って来た。


「はぁはぁ、ひどい目に会ったわい」
「ちょっと服装乱れているぞ」
「おっと」


 フランが身なりを見直して整える。


「それにしても、スーツで良く動けるよな。子供を助けるときとか素早過ぎて誰も目で追えてなかったぞ」
「お主は少しは子供を助けようとする気概をみせんかい」
「パチンコ玉は構えていた。もしもの時は軸を反らせていたさ」


 フランが助けそうだったから俺は手を出さなかっただけだ。
 そんなこんなで、時間が13時になったから空き教室に向かう。


「ノエルは大丈夫じゃろうか。寂しくて震えてはおらんじゃろうか?」
「おつかいに行けたんだ。4時間のテストくらい大丈夫だろ」
「そんなこと無いぞ。わしじゃったら、ノエルに会えないと寂しくて死んでしまう」
「何度も言ってるが、早く妹離れをしろ」
「……善処しよう」


 これはダメな奴だな。
 半ば諦めながら扉を開ける。すると、ノエルが制服を着た丸メガネを使けたおさげの女の子と話していた。


「ノエルお疲れさん」
「お疲れじゃ」
「あ!ホウリお兄ちゃん!フランお姉ちゃん!」


 俺達に気付いたノエルが嬉しそうに近寄って来た。


「試験頑張ったよ!」
「よく頑張ったな。あの子は?」
「春からこの学校に通う子でコアコちゃんって言うんだって。この学校の事を教えてもらってたんだ!」
「そうなのか」


 コアコちゃんは俺達に礼儀正しく頭を下げた。


「初めまして、コアコって言います」
「礼儀正しいね。俺はホウリって言います」
「わしはフランじゃ。よろしくのう」
「よろしくお願いします」


 コアコは再びぺこりとお辞儀をする。礼儀正しい子だ。


「何を話してたの?」
「この学校の七不思議とか教えてもらったよ」
「よくある奴じゃな」


 石像が夜に動くとか、校長の正体が魔物とか、職員室が異世界に繋がっているとか、よくある感じの七不思議だった。


「本当かのう?」
「本当だよ!証拠写真だってあるんだから!」


 そう言ってコアコが何枚かの写真を机の上に置く。


「これが動く石像の写真。一人で歩いているでしょ?」
「暗くて見にくいが、後ろに人がおるのう」
「これが校長先生の写真。30年前と今の写真を見比べても全く変わってないでしょ?魔物だっていう証拠だよ」
「背景しか違わないではないか。トリック写真じゃな」
「これが異世界の扉!扉の向こうに見た事の無い建物がある!」
「初めの人が書いた絵に描かれた建物に似ておるのう?誰かが精密な絵でも描いたと考えた方が良いのう」
「…………」


 フランの言葉にコアコが頬を膨らませる。


「おい、言い過ぎだろ。子供の夢を壊すな」
「ノエルは信じるよ?特にこの異世界とか絵じゃないと思うよ?」
「ノエルちゃん……」


 コアコがノエルを感動したように見る。そして、ノエルの手をしっかりと握った。


「ノエルちゃん、この学校に入ったら一緒にオカルト研究会に入らない?」
「オカルト研究会?楽しそう!」


 ノエルも楽しそうにコアコの手を握る。入学前に友達が出来るとは凄いな。


「入学する為にも面接頑張らないとな」
「うん!コアコちゃん、バイバイ」
「ノエルちゃん、またね。次は入学式で会おうね」


 コアコが手を振って教室から出ていく。それをノエルは名残惜しそうに手を振っていた。


「面接頑張ろうな」
「うん」


 ノエルが何かを決意したように頷く。
 強い動機が出来たみたいで良かった。気合を入れて面接も挑めるだろう。
 こうして、俺達は気合を入れて面接に向かうのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 面接の部屋は多目的室だった。扉には『ノエル・カタラーナ 面接室』と書いてある。


「面接は何時からじゃったか?」
「14時からだな。もうノックしてもいいだろう」


 俺は扉を3回ノックする。すると、中から少ししゃがれた声が聞こえて来た。


「どうぞ」


 扉を開けると、長いひげを生やした老年の男性とツリ目の禿げあがった中年が座っていた。やっぱりこいつか。ちょっと荒れるな。
 俺達は用意されている椅子の前に立つ。


「ノエル・カタラーナの保護者のキムラホウリです」


 俺は笑顔を張り付けながら恭しく礼をする。次にフランが営業スマイルを張り付けて礼をする。


「私はフラン・アロスと申します。以後、お見知りおきを」


 瞬間、ノエルがびっくりしたようにフランを見る。確かに、あのフランがこんなにしおらしくなったら誰だって笑う。
 俺も笑いを堪えながら、ノエルに前を向くように指示を出す。ノエルはハッと気が付いて、前に向き直る。
 ノエルはいつもの通り元気よく話始めた。


「ノエル・カタラーナです。よろしくお願いします」
「お座りください」


 老年の男性に促されるまま俺達は座った。


「本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます」
「いえいえ、事情は聞いております。大変でしたね」


 全部じゃないが、ノエルの事情は学園に説明している。じゃないと、こんな特別対応なんてありえないからな。


「申し遅れました。私はピューレ、国語を担当しています」
「俺はジュレ。3年の担任だ」
「早速ですが面接を始めます。まずは保護者の方へ、お子さんと休日はどう過ごしてますか?」


 同居人のストーキングをしてたり、人身売買の組織をおつかいで潰してますとは言えないよな。ここは建前でも言っておくか。


「出かける事が多いですね。王都の中は勿論、王都の外にも出かけます」
「この前は魔国にも行きましたわ」
「へぇー?魔国への道のりはかなり危険だけど、子供連れていくんだ?危機管理はどうなってんの?」


 ジュレが嫌味ったらしく聞いてくる。俺は顔色を変えずに気にしていないという体を装う。


「勿論、安全な道のりを選んでいます。多少危険なのは承知してますが、少しでも色々な世界を見せたいと思っております」
「色々な世界とか言うけど命の危険を冒すだけの価値はあるの?いたずらに危険に晒しているだけじゃないか?」
「この前の魔物の襲撃があったように、どこにいても完全な安全という物はありません。ある程度の危険を経験していないと、いざと言う時に動けません。私たちは多少、危険な目に会わせることも学びだと考えております」
『おつかいで人身売買組織の壊滅に行かせるのは多少か?』


 フランが念話で突っ込んでくるが無視する。
 ジュレは俺が淀みなく答えたのが気に入らなかったのか、フランに標的を移した。


「えー、フランさんに質問です。お子さんに習わせたい事はありますか」
「特にございません」
「へえ?習い事はお子さんの将来の為になると思いますよ?お子さんの可能性を潰す訳ですか?」


 粘着質な言葉を浴びせられたフランは、いつもと違い落ち着いた表情をしていた。


「私はノエルに習い事を強制するのではなく、遊んだり友達を作ったりして欲しいのです。私が決めた習い事をさせてもノエルがやりたい事で無ければ意味がありませんから」


 そう言って、フランは上品に笑う。
 建前では綺麗事を並べているが、要は『習い事をさせたらノエルと遊ぶ時間が無くなるじゃろうがボケェ!』という事だ。


「勿論、ノエルがやりたいという事に対しては全力でサポートするつもりです」
『今はフランを倒す事をやりたいらしいぞ?』
『うるさい黙れ』
「はーん、そうですか」


 フランも淀みなく答えたのが面白くないのか、ジュレがそっぽを向く。隣のピューレを見るが仕方ないなと言うように肩をすくめるだけだ。
 ジュレが何も話さなくなったのを見て、今度はピューレが質問してきた。


「次は、ノエルさんに質問です。最近、一番楽しかった事はなんですか?」
「ホウリお兄ちゃん達と海で遊んだ時です!魚を捕ったりホテルで宝さがししたりして楽しかったです!」
「そうですか、逆に一番悲しかった事は?」
「一番悲しかった事……」


 元気よく話していたノエルの言葉が詰まる。そして、目から一筋の涙が零れ落ちた。
 ピューレが目を丸くして驚いていると、ノエルがゆっくりと話し始めた。


「……お父さんとお母さんが死んじゃった事です」
「それは辛かっただろうね」
「は!資料によると死んだのは3年前だろ?まだ引きずってるのかよ?」


 ジュレの心無い一言がノエルの心を刺す。


『フラン、少し抑えろ』


 俺は杖を取り出して殴りかかろうとしているフランを念話でたしなめる。すると、フランの怒りの声が頭に響いてきた。


『わしの事をなんと言われようと構わん。しかし、こやつはノエルの触れてはいけない部分に触れた。5発は殴らんと気が済まん』
『殴って良い時は指示するから今は押さえろ。ノエルの為だ』
『しかし……』


 俺とノエルが裏で口論している間にも、ノエルの話は続く。


「ノエルのお父さんとお母さんは、盗賊に襲われて、ノエルの目の前で斧で頭を……」
「…………」


 まさかの理由にジュレが絶句する。そんな中でノエルは言葉を続けた。


「その後に攫われて、部屋に閉じ込められて、あの人が、ホウリお兄ちゃん達がいなかったらノエルはここにいないと思う」
「…………」
「今でも、お父さんとお母さんを思い出すと、苦しくなっちゃう。けど、ホウリお兄ちゃん達と出会って少しだけ、苦しくなくなった気がするの。手を繋げば暖かいし、一緒にご飯を食べればホワってするんだ」


 そこまで言うと、ノエルは涙をぬぐう。


「だから、ノエルは頑張って生きる。お父さんとお母さんを思い出すとまだ苦しいし寂しい、けど、ノエルは大好きな人達と一緒に生きたいって思ったんだ」


 ノエルは目を赤くしながら、真っすぐな目でピューレとジュレを見る。そこには子供とは思えぬ程の強い決意が込められていた。



「……そうだったんだね」
「…………」


 ピューレは優しく微笑み、ジュレはバツが悪そうに顔を背ける。


「申し訳ございません、こちらの配慮が足りませんでした」


 そう言って、ピューレが頭を下げる。それをみたジュレもとりあえずと言った様子で頭を下げた。


「ええっと、ノエルは大丈夫だから謝らなくて大丈夫だよ?ノエルも泣いちゃってごめんね?」
「いえ、無神経でした。改めて、謝罪いたします」


 ノエルが困ったように俺を見てくる。まあ、こういう時の対応は慣れていないか。


「気持ちは分かりましたので顔を上げてください。今後は気を付けていただければ大丈夫ですよ」
「お心遣い、感謝いたします」


 やっとピューレ達が顔を上げる。そこから、何とか面接は進んでいったのだった。
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