魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百七十七話 残念だったな、トリックだよ

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 服屋から出たわしらはまた目的も持たずに散歩する。


「ここらを散歩するのは久しぶりじゃな」
「ここらは店の入れ替えが激しいからな。さっきの店みたいに奇抜な事しないと生き残れない」
「カップル限定の割引か。確かに奇抜じゃな」
「スイーツの店もつぶれるのが早いからコンプリートするの大変なんだよな」
「コンプリートって店に行くだけか?それともメニューの制覇か?」
「もちろん後者だ。1日に3件はハシゴしないと間に合わないんだよな」


 なんでそんなに食って太らないんじゃ。みっちゃんは人に二物を与えたか。
 こんな調子でホウリと話しながら街を歩く。


「他に面白そうな所はないかのう?」
「なんかゲームでもするか?」
「ゲームか。そういえば、ノエル達が魔国でゲームセンターに行ったと聞いたのう」
「凄く暴れたらしいな。あれは相手の自業自得というのもあるけどな」


 確か586対0とかいう大差でボコボコにしたんじゃったか。わしとホウリがおればもっと大差を付けられたじゃろうに惜しいのう。


「よし、ならば今日はそれ以上の大差をつけて勝とうではないか」
「普通の相手に本気出すのは止めとけよ?」
「イカサマしておるクズがいたらどうする?」
「全力でぶっ飛ばしていいぞ」
「よし」


 滾る血を抑えながらわしはゲームセンターを探す。しかも、イカサマしてそうな奴がいそうな所……


「お、あそこなんて良いのではないか?」 


 わしは路地の奥にある寂れたゲームセンターを指さす。かなり注意して見ないと分からんが、わしの目を誤魔化す事は出来ん。


「あそこは治安悪いぞ?ってそれが狙いなんだろうけど」
「その通りじゃ。悪い奴らをボコボコにしたくてたまらないわい」
「こっちから喧嘩を売りに行ってどうする」


 路地に入りゲームセンターの前まで移動する。切れかかっているネオン看板にはポップな文字で『GAMES CENTRE』と書かれている。扉はサビており、きちんと開くかも分からん。これは相当年月が経っておるな。
 しかも、店の面積も小さい。この世界は地球とは違いクレーンゲームといった筐体ゲームは無い。じゃから広さはゲームの幅やクオリティに関係する。これは手の込んだゲームは期待できぬのう?


「本当に入るのか?下手すると誰もいない可能性もあるぞ?」
「入るだけならええじゃろ。人がいなかったら出ればよい」
「それもそうか」


 軽い気持ちでゲームセンターの扉を開ける。すると、ホウリの予想通り全く人がおらん。というか、受付に店員もおらん。


「営業しておらんのか?ホウリは何か知っておるか?」
「あんまり知らないな。あと3日でつぶれるって事くらいだ」
「それだけ知ってれば十分じゃ」


 客だけではなく店員もいないとはのう。これではどうしようもないわい。


「別の場所に行くか」
「そうじゃな」
「あ!お客さんだ!」


 回れ右をして店を出ようとした瞬間、店の奥から若い男がやって来た。幼さが残るそいつは目を輝かせてわしらに迫って来る。


「久しぶりのお客さんだー。つぶれる前に来てくれてよかった!あ、知ってます?この店、あと3日で無なっちゃうんですよ」
「お、おう」


 困惑するわしをよそに店員がまくし立ててくる。返事もしておらんのにグイグイくるのう。


「それで、何します?色んなゲームがありますよ?」
「ゲームと言っても、なにも無いではないか」


 店の奥の方に視線を向けるが、真っ白い空間だけで何の設備も無い。広さもリビングくらいで何かできそうには思えん。
 そんなわしの考えが分かったのか、店員が人差し指を振る。


「ちっちっち、ここは普通のゲームセンターじゃないんですよ」
「どういう事じゃ?」
「こういうことさ!」


 店員が手を店の奥に向ける。瞬間、奥の空間に動き回る的や障害物、弓や銃といった武器まで出現した。


「なんじゃと!?」
「思い描いた物質を即座に生成する、それが僕のスキルさ!」
「はぁ!?そんなのユニークスキルではないか!?」
「その通りです!」
「なんでこんな寂れたゲームセンターの店員なんてしておる!?」


 物質生成のスキルはどの職でも大成できる程のポテンシャルがある。それをこんなゲームセンターで使うなど、勿体ないおばけが集団で襲ってきてもおかしくない。


「だって日毎に内容が変わるゲームセンターなんて面白いと思いませんか?上手くいけば他で働くよりも稼げると思いませんか?」
「確かに面白いとは思う。しかし、現実は閑古鳥が鳴いておるようじゃが?」


 コンセプトやインパクトは良くても、何かしらの問題を抱えておるようじゃな。


「なんで流行っとらん?」
「さあ?僕にも分かりません」


 わしはホウリをちらりと見る。ホウリは溜息を吐いて口を開いた。


「少し遊んでいくか。いくらだ?」
「一回100G」
「安いのう?」
「閉店セールで割引してるんだ」
「普段はいくらだ?」
「1回1万G」
「高すぎないか!?明らかにそれが原因じゃろ!?」


 わしの言葉に店員がなるほどというように手を叩く。そんな簡単な事も分からんかったのか。


「ちぇー、せっかくゲームのアイデアを考えてたのに無駄になっちゃったな」
「だったら俺達に使ってみないか?せっかくのアイデアが無駄になるよりはいいだろ?」
「それもそうだね。よし、まずは的当てから!使いたい武器があれば出すからね」
「わしは弓を使おう」
「俺は銃でいく」


 こうしてわしらはちょっと変わったゲームセンターを楽しんだのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


 遊ぶことたっぷり3時間、あらかたのゲームをわしらは体験した。
 満足したわしらは店員に別れを告げ、お目当てのスイーツショップに来たのじゃった。
 奥の窓際の席に通されたわしらは出された水を飲んで一息つく。


「ふー、面白かったのう。インパクトだけかと思っておったが中々凝っていたわい」
「だな。俺はゾンビを倒す奴が一番楽しかったな。フランはどうだ?」
「わしはチャンバラかのう?物を切る感覚が病みつきになりそうじゃ」
「そいつは良かった」


 ホウリが頬杖を付いて笑う。西日がホウリの顔を真っ赤に照らす。
 色々とホウリには騙されているが、この笑顔は本心なんじゃろうと理解できる。


「あのゲームセンターは無くなるには惜しいのう」
「価格設定だけ見直せば絶対に流行るだけに惜しいよな」


 ホウリとゲームセンターの話をしつつメニュー表を眺める。


「そういえば、カロリーが高くなりすぎないようにすると言っておったが、何を頼んでもいいのか?」
「赤い四角で囲まれてる物はカロリーオフのスイーツだ。その中でなら好きに頼んでいいぞ?」
「ショートケーキにチーズケーキにティラミス……色々とあるのう?」
「飲み物は好きに飲んでいいぞ。なんなら酒でも飲むか?」
「酒もあるのか?」
「この店はBARも兼ねているからな」


 メニューを捲るとワインやカクテルといった豊富な種類が目に入る。値段も良いお値段じゃ。結構しっかりしておるみたいじゃな。


「ふむ、ならばショコラケーキと、このワインをいただくとしよう」
「俺はショートケーキとコーヒーだな」
「全部注文せんで良いのか?」
「全部注文は前にやった。今日はショートケーキだけでいい」
「お主には愚問じゃったか」


 それぞれメニューを決め、テーブルに置いてあるベルを鳴らして店員を呼ぶ。


「お決まりですか?」
「ショコラとショート、飲み物はワインとコーヒーでお願いします」
「かしこまりました。メニューお下げします」


 店員は一礼して厨房の奥に引っ込んでいく。
 店の中は夕方という中途半端な時間という事もあり、数人の客がおるだけでかなり静かじゃ。
 そういえば、最近はホウリと二人でゆっくりと話す機会はあまりなかったのう?今なら落ち着いて話せそうじゃ。


「のう、お主に聞きたい事があるんじゃが良いか?」
「なんだ?」
「お主は何のために生きておる?」
「いきなりどうした?」
「少し気になっただけじゃ」


 ホウリは地球で何度も死ぬ思いをしたと聞く。そこまでして生きたい理由は何か、前から気になっておった。今なら聞くのに良いタイミングじゃろう。
 わしの問いかけにホウリは困ったように頭を掻く。


「答えにくいな」
「特にないのか?」
「あるが、詳しく説明するとなると俺の過去を話さないといけない」
「む、そうか。答えにくい問いじゃったか?」
「まあな。強いて言うなら……」


 ホウリは少し考えた後に口を開いた。


「昔の約束だな」
「約束?」
「どんな目に会っても生きて、旅の思い出を伝える。そいつと約束したんだ」


 そう言うホウリはどこか寂し気じゃった。
 いつも本心を見せんホウリにしては珍しく、今日は感情的じゃ。しかも、少しではあるが自分の過去を語った。まるで、今日が最後で悔いの無いように過ごしておるみたいじゃ。


「どうした?」
「…………ああ、すまぬ。少し考え事をしておった」
「はぁ?デートなのに相手を無視して考え事だと?」
「すまぬすまぬ」
「まあいいけどよ。ちゃんと俺を見とけよ?」
「分かっておる、お主から目を離す事は無い」


 わしがホウリの目をジッと見つめ、ホウリもわしの目を見つめ返してくる。
 それからお互いをジッと見つめあう。
 

「「……ぷっ、あはははは!」」


 1分後、見つめあっていたわしらは同じタイミングで噴き出しあって笑う。なんだか、今日は楽しいのう。


「お待たせいたしました」


 そうこうしていると、注文していたものが運ばれてくる。
 テーブルにケーキと飲み物が並べられ、店員は去っていく。すると、ホウリがコーヒーの入ったカップを持ち上げる。


「今日のデートの締めだ。乾杯でもしようぜ」
「そうじゃな」


 わしもワイングラスを顔の高さまで持ち上げる。


「じゃ、乾杯」
「乾杯」


 カップとグラスを打ち合わせ、互いに飲み物に口を付ける。瞬間、


(パリーン!)


 ガラスが割れる音と共にホウリの頭を何かが通過する。そして、ホウリがゆっくりと椅子から床に倒れ、あふれ出す赤色の液体がカーペットに染みを作っていく。床には1本の矢が深々と刺さっていた。


「きゃあああああああ!」
「ホウリ!」


 急いでホウリに駆け寄り抱き上げる。頭を完全に撃ち抜かれておる。狙撃か!
 窓の方へ視線を向けるが、もうそいつの姿は無かった。


「ひひひ治癒師ヒーラーを連れてこないと!」
「無駄じゃ、即死しておる。憲兵だけ呼んでくるんじゃ」
「わ、分かりました」


 慌てている店員に指示を飛ばし、ホウリを床に寝かせる。


「……さっきの予感が当たるとはのう」


 こうして、わしらのデートは思いがけぬ形で終わったのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


「キムラ・ホウリを始末した」
「ご苦労」


 どこかの真っ暗い部屋で男が2人で向かい合っていた。1人は見るからに高級そうなスーツで身を包み、指には煌びやかな指輪が複数付いている。もう一人は黒い服装に身を包み弓を背負っている。


「しかし、キムラ・ホウリには手を焼かされたな。君も苦労しただろう?」
「1ヶ月間見張ってましたが、全くスキを見せませんでしたからな。今回の機会を逃していたら一生チャンスがないんじゃないかって思ったぜ」
「その1回を物にできたのだ。一流のスナイパーだな。これで計画が順調に進みそうだ」
「俺は金さえ貰えばどうでもいい」
「そうだったね。これが報酬金だよ」


 スーツの男がテーブルの上に金貨の入った袋を置く。スナイパーは袋を取って中身を確かめると、アイテムボックスに仕舞う。


「キムラ・ホウリを始末で来た君の名は裏の世界で有名になるだろう。きっと仕事で忙しくなるんじゃないかい?」
「かもな」
「またよろしく頼むよ」
「金払いが良ければな」


 スナイパーが部屋から出ようと扉を開ける。瞬間、


『ちょっと待てよ』


 2人の頭に男の言葉が響く。スーツの男がその声を聴いて大きく目を見開いた。


「こ、この声は!?」
『よお、スナイパーを雇ってまで俺を殺したかったのか?』
「キムラ・ホウリ!」


 扉が開いてキムラ・ホウリ……とわしが部屋の中に入る。
 ホウリを見たスーツの男とスナイパーの目が大きく見開かれる。その様子をみたホウリは悪戯っぽくニヤリと笑う。


「どうした?幽霊でも見たか?」
「な、なぜ生きている!?確かに矢は頭を貫通したはず!」
「わしのスキルじゃよ。ディメンションを使って矢をワープさせて、ホウリの頭を貫通させたように見せたんじゃよ」
「血はどうなんだ!頭から流れ出てただろ!」
「あれはわしが飲んでいたワインじゃよ。遠目からだと血に見えたじゃろ?」
「し、しかし、なぜ矢を撃つタイミングが分かった!」
「ホウリが見てろと言っておったからな。見てさえいれば、飛んできてからスキルを使っても大丈夫じゃ」


 わしの言葉にスナイパーが絶句する。音速を超えた矢に反応するなど普通の者には出来ぬじゃろうし、仕方ないか。
 わしの説明に、スナイパーはまだ納得言ってないように見える。


「く……念話は無かったはずだ。たったそれだけの合図でホウリが狙われている事を把握したのか?」
「わしらには事前に決めておった合図があるからのう。念話禁止なのは把握しておったぞ」


 口の前で×を作るのが念話禁止のサインじゃ。念話も傍受するスキルがあるから、合図があった時は使わんようにしておる。


「そういう訳だ。外には憲兵もいるし、大人しく捕まれよ。極悪マフィアさんと凄腕スナイパーさん?」
「ふん、暗殺は失敗したがここで始末すれば問題ない」


 そう言ってスーツの男がパチンと指を鳴らす。すると、扉から武器を持った奴らがゾロゾロと入って来た。


「君達2人で乗り込んだのは間違いだったね?やっちまえ!」
「あのな、何で2人で乗り込んだと思ってんだ?」


 襲い掛かって来る敵を見ながら、わしらはそれぞれ武器を取り出す。


「そのほうが安全で速いからだ」
「強制終了したデートの続きじゃ。暴れさせてもらうぞ!」


 こうして、1つの犯罪組織が壊滅したのじゃった。
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