魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百四話 チャンネルはそのままで

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 ある日、俺たちの家にとある人物がやってきた。
 そいつは恰幅が良く、衣服も派手ではないが一目で質が良いことが分かる。顔には人のよさそうな笑顔を張り付け、親しみやすい印象を受ける。
 そんな奴が俺たちの家のリビングで呑気な顔でお茶を啜っている。


「この紅茶は美味しいですね」
「お偉いさんに出す物は一級品って決めてるんでね。それで?あんたが直接出向くなんて、珍しいこともあるんだな?」


 俺の言葉に、そいつは笑顔のままでお茶を置く。


「実はスターダストの皆さんにお願いがありまして」
「それは聞いた。だから全員集めたんだ」


 俺の言葉通り、リビングにはスターダストの全員が集まっている。
 皆は何が起きるんだという表情で席に付いている。そんな中、フランが怪訝そうに口を開く。


「説明の前に自己紹介が先じゃろ。わしらは何も聞かされておらんのじゃぞ?」
「これは失礼いたしました。わたくし、こういう者でございます」


 そう言って、男はそえぞれの前に名刺を置く。ご丁寧に知り合いの俺の前にも名刺が置かれる。
 名刺には『技術復興局 局長 シュルツ・シュマロ』と書いてある。
 ノエルは名刺を見て首を捻った。


「技術復興局?何それ?」
「始まりの人が残した技術を再現する所だ」
「確か『初めの書』でしたっけ?」
「そうだ」


 初めの書とは、始まりの人が残した書で、様々な技術や発想が記載されている。例を挙げると、早く移動できる機械や遠くの人と会話できる機械……平たく言えば車や携帯電話と言った地球の技術が書かれている。
 そういった地球の技術を再現するのが技術局の仕事だ。
 だが、技術を再現するにあたって問題がある。それは地球とこの世界の物理法則が異なるという事だ。
 例えば、地球で使われているような電波、この世界では出力が10%以下にまで弱くなってしまう。その結果、無線は使い物にならない。そうなると、携帯電話の再現はかなり難しくなってしまう。
 こういった理由で、全ての地球の技術が再現出来ている訳ではない。勿論、再現出来ている技術もあるため、かなり役に立っている。
 話が長くなってしまったが、そういう重要な機関の長がこのシュルツという訳だ。


「で、そんなお偉いさんが何の用だ?」
「実はこの度、初めの書に書かれていた『テレビ』の再現に成功しまして」
「へぇ、やるな」


 テレビも物理法則の違いから再現に手間取っていた技術だ。優先度は低いとは言え、時間がかかったな。
 俺が関心しているとミエルが手を上げた。


「テレビとは何だ?」
「簡単に言えばカメラで写した物を動く絵として、遠くで見られる機械です」
「それって物凄い技術なんじゃないですか!?」
「魔国の景色がお家でも見られるって事!?」
「流石にそこまで遠くの景色はまだ無理です。しかし、王都内の景色であれば可能ですよ」
「それでも凄いな。憲兵所や騎士団に配備すれば咄嗟の連絡にも便利そうだ」
「それはいい考えですね。流石はミエルさんです」
「そ、そんな事は……」


 ロワに褒められたミエルは顔を真っ赤にして俯く。いつも通りイチャコラしてんな。


「そんな凄い技術の再現を手伝えっていうなら分かるが、完成した後に用ってどういう事だ?」
「実は、テレビの使い方は連絡用ではないんです」
「そうなの?」
「何に使うのだ?」
「主な目的は娯楽ですね。家にいながら劇を鑑賞できれば楽しいと思いませんか?」
「確かに。闘技大会も安全に家から見られますね」
「娯楽に使う事と、俺達への頼みは何の関係がある?」


 シュルツは笑顔を深めると絡ませた手を机の上に置いた。


「実は記念すべき初放送に何を放送するかがまだ決まってないんです。なので何を放送するかをスターダストの皆さんに相談したいんです」
「開発が終わったばかりだろ?初放送の事を考えるには早くないか?」
「初放送ですよ?歴史に残るぐらい派手にしたいじゃないですか。だったら、テレビが王都内に普及する前に準備したほうが良いと思いまして」
「言おうとしている事は分かる」


 だが、放送局も受信できる環境も出来るには年単位の時間がかかるはずだ。なのにこのタイミングで、しかも俺達に相談だと?まだ目的があるんじゃないか?
 フランもそう考えているのか、頬杖をついてジト目になる。


「お主の言いたい事はそれだけか?」
「それだけ……とは?」
「その理由なら、テレビ放送に関わる者に相談すればよいじゃろ。なぜ無関係なわしらに相談する?」
「そ、それは、ホウリさんに相談するついでですよ」
「わざわざ全員を揃う日を希望しておいて、その言い訳は通用しないだろ?」
「う……」


 痛い所を突かれたといったように顔を歪めるシュルツ。俺とフランの考えは有っていたみたいだな。


「俺達に隠し事が出来ると思うなよ?」
「さっさと話せ。さもなくば切り落とすぞ?」
「何をだ」


 俺達の詰問に、シュルツはポツポツと話し始めた。


「……実はこの辺りで、とある大道芸の噂を聞きまして」
「どんな噂だ?」
「森の中にいるように清らかな演奏に、天使のように可憐で美しい踊りをした者がいるとか」
「ほう?」


 俺はロワとノエルに視線を向ける。俺が天界にいる時に演奏と踊りの大道芸をしたと聞いたが、こいつらじゃないだろうな?


「もしかして、ロワとノエルか?」
「そうですよ」
「あっさりと認めるんだな?」
「あれ?これは黙ってた方が良かった奴ですか?」
「そうじゃないが、ロワは注目されると不味いんじゃないか?」
「え、あ、そっか」
「ちょっとは考えろや」


 なんで自分事なのに考えが浅いんだ。
 俺は顔を押えながら、チラリとノエルを見る。ノエルは何が起こっているのか分からないのか、可愛らしく小首をかしげている。後でちゃんと説明してやらないとな。


「で、その大道芸人がロワとノエルだと思ったシュルツはこの家に来た訳か」
「それもあるんですが、実はもう一つありまして」
「まだあるのか」
「同じ日に、普通では考えられない動きをする大道芸人が現れたみたいでして」
「考えられない動き?」
「どうにも、座った姿勢のまま跳躍したり、髪の毛で剣を操ったり、目にも止まらない速さで動いたりしたとか。別の2人はそれを受け止めたり回避したりして楽しませたと聞いています」
「へー」


 俺はフランとミエルへ視線を向ける。すると、2人は無言で顔を背けた。こいつらが噂の大道芸人であるんだったら、もう一人は倫太郎か。
 考えをまとめていると、シュルツが申し訳なさそうにしゃべりだした。


「皆さんが話題の大道芸人でしたら、記念すべき初放送に相応しいと思うんですよ!勿論、それに見合ったお礼はします!どうですか?悪い話ではない筈ですよ?」


 シュルツがここぞとばかりに畳みかけて来る。かなりテレビ放送に力を入れているみたいだな。
 それを察した俺たちは顔を見合わせて肩をすくめる。
 俺たちの食いつきが思ったより良くない事を以外に思ったのか、シュルツが不思議そうに首をかしげる。


「あれ?どうしました?皆さん乗り気じゃないですね?」
「私とロワは騎士団に所属しているのだが、芸能活動は一切禁止されているんだ」
「なので、皆さんから見られてしまうテレビには出られないんですよ」
「下手に出てしますとクビになるかもしれませんからね。それは困ります」
「そうですか、……転職とか興味ありませんか?」
「流石に無理ですよ」
「ですよね」


 シュルツが未練がましそうにロワとミエルから視線を外す。そして、楽しそうにニコニコしているノエルに視線を移す。


「ノエルも学校の規則で芸能活動は禁止されておる。諦めるんじゃな」
「……そうですか。そういうあなたはどうですか?」
「わしか?」


 自分が指名されると思っていなかったのか、フランが思わず自分を指さす。
 フランの言葉にシュルツは大きく頷く。


「ビジュアルも申し分ないですし、聞いたところによるとかなりお強いとか?その特技をテレビでいかしてみませんか?」
「うーむ」


 フランが腕を組んで考え始める。フランは劇に出てるから、テレビに出ることについては問題ない。だが、どこか引っかかっているようだ。俺が少し援護してやるか。


「ちなみに、テレビ放送はいつになる予定だ?」
「今から3年後になる予定です」
「あー、それはダメじゃな」
「何故でしょう?」
「3年後にはわしは王都を離れておる。出演は無理じゃな」
「差し支えなければ理由をお伺いしても?」
「差し支えあるからダメじゃ」
「そう……ですか……」


 シュルツが力なくうなだれる。
 正しくはフランの寿命が2年くらいで、3年後は生きていないっていうのが理由だ。まあ、そこまで説明する必要はないだろう。


「ホウリさんは……」
「俺も3年後には王都にいない」
「…………」


 俺の場合は元の世界に戻っているからなんだがな。
 結局、全員に断られたシュルツは頭を抱える。どれだけ俺達を当てにしてたんだ。


「そんなに落ち込まないでください。あと3年もあるんですから、きっと何とかなりますよ」
「あなた方以上にインパクトがある人達がいるとは思えませんが?」
「それは、そうですけど……」


 シュルツの言葉にロワも黙る。それを言われたら俺でも黙るしかないな。


「じゃあ、話は終わりだな。テレビ出演以外だったら力になるから、何かあれば相談してくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください!スターダストの皆さんがダメなら、他の人を紹介してくれませんか?」
「他の人?」
「この際、格が落ちても構いません!どうか!私を助けると思って!」
「そう言われてもな」


 ミエルが困ったように頭を掻く。騎士団の奴や学校の奴は規則的に紹介できない。かと言って、他の知り合いにインパクトある奴なんて……。


「……あ、銀の閃光の皆さんはどうですか?」
「あー、確かにあいつらならインパクトはあるな」


 A級パーティーだし、そこそこ知名度もあるだろうしテレビ出演には向いているかもしれない。


「そうだ!銀の閃光がピッタリだ!」
「そうだね!」
「いい案じゃぞロワ!」


 他のメンバーが一斉にロワの案を支持する。早くこの場を切り抜けたいという気持ちが透けて見えるが、俺も乗っておこう。


「そういう事なら俺が紹介してやってもいいぞ?」
「本当ですか!?助かります!」
「今日すぐには無理だから、日程は後日調整することで良いか?」
「勿論です!では、私はこれで失礼します!」


 そう言うと、シュルツは足早にリビングから出ていった。見送りをする暇も無く、玄関の開閉音が聞こえ、シュルツの足音が遠ざかっていった。


「せわしない奴じゃ」
「あれでも長官だからな」
「ですが、僕はちょっとだけテレビに出てみたかったですけどね」
「ノエルも!」
「お前らは絶対に出るな」
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