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修二百十七話 なにわろてんねん
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「勇者が見つかった?」
(そうなんだよ)
自分の部屋でフランと共に神と通信をしていると、耳を疑う言葉を聞いた。
「この前までそんな事は言っておらんかったではないか?」
(私だってやれば出来るんだよ?)
「じゃあやれよ。俺がどれだけ準備しても、勇者の魂が無いと話にならないだろうが」
(あははは)
「なに笑ってるんだよ」
久しぶりに殺意が沸き上がってきながら、俺は詳しい内容を聞く。
「勇者の魂は誰が持ってるんだ?」
(人国の王様の息子だよ)
「人国の王子か」
「良いうわさは聞かぬのう?」
フランの言う通り、人国の王子はかなり評判が悪い。使用人を顎で使い、気に入らないことがあるとすぐに暴力で解決しようとする。
権力をかさに着て、街でも好き勝手やっている。恐ろしいのは、これらの噂が全部本当だという事だ。
「面倒な奴じゃのう」
「まったくだ。無駄に強いみたいだし、考えなしに突っ込んでも殺されるだけだ」
(そんなに凄い人なの?)
「権力もある、戦闘力も高い。正直、相手したくないな」
(そんなに強いの?もしかして、まーちゃんよりも強い?)
「そんな訳あるかい」
「流石にフランよりは弱い。だが、現状だとフランの次に強い奴だろうな」
俺の言葉に、神が言葉を失う。
(ええ……ホウリ君が戦わないといけないんでしょ?勝てるの?)
「さあな。調べてみて策を考えるさ」
(頼もしいね。それでこそホウリ君だ。じゃあ、任せたよ)
「はいはい。分かってるよ」
生返事を返すと、神からの通信は切れた。
「はぁ、面倒な相手だな」
「わしも何か手伝うか?」
「ああ、頼めるか?」
「意外じゃな?てっきり断ると思ったが?」
フランが少しだけ目を丸くさせる。
「今回の敵は事前の準備を少しでも怠ると死ぬからな。使える手はなんでも使わせてもらう」
「わしとしては、倒られるのは悪い気がせんな」
口角が上がり、上機嫌なのが隠しきれてないな。フランの力はあまり借りない様にしている。
だが、今回は使わないとかなり時間を消費するだろうし、全面的に頼りにしよう。
「して、これからどうする?」
「フランは後3時間後には舞台の稽古だろ?」
「そうじゃな」
「だったら、速攻で行動しないとな」
「お主、無茶苦茶な事をする時の顔をしておるぞ?」
「ははは」
「笑って誤魔化すでない」
どうせバレてんだ。否定するだけ無駄だろう。
「これから、王子様のストーキングを始める」
「後を付けるという事か。わしのインビジブルとお主の尾行術があれば、見つかる事はありえんじゃろうな」
「そういう事だ」
「肝心の王子様は場所は分かるのか?」
「ある程度の行動パターンは把握してる、今は酒屋で好き勝手してるだろうよ」
「昼間から飲んだくれるなど、ダメ人間の手本じゃな」
「俺を睨みながら言わないでくれるか?」
フランから冷たい視線を受けつつ、俺は床の隙間に爪を掛けてはがす。
床の下からは、いつも使っているワイヤー発射装置が出て来た。
「お主の部屋は何もないように見えて、色々と置いてあるのう」
「泥棒対策だ」
情報や道具を床下やパイプベッドの中、色々な場所に隠してある。かなり巧妙な場所に隠してあるから、知らない奴には一生みつからないだろう。
俺は発射装置を手首につけて準備を終える。
「じゃあ行くか」
「うむ」
☆ ☆ ☆ ☆
そんな訳で、俺たちは王子様、よく来る酒場「キューン」までやってきた。
ここらでは珍しく昼でも酒を飲める店で、酒好きの間で重宝されている。昼間にいるのは夜勤明けの奴がほとんどだが、まれにタダの酒好きもいる。
窓から中を覗いてみるが、今日は人がいないみたいだな。
「ターゲットはいないようじゃな。どうする?」
「どうせここに来るだろうから待ち伏せしよう。その方が手間が無くていい」
「それもそうじゃな」
店の扉を開け中に入る。扉に付いていたベルの乾いた音を聞いた店員が、奥からやってきた。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
「ああ」
「お席にご案内します」
店員に奥の席まで通される。内部はカウンター席が10つ、4人座れるテーブル席が5つある。店の広さとしてはそこそこと言ったところか。
奥のテーブル席に通されて、俺とフランの前にメニューが置かれる。
「注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
「分かりました。そういえば、この店に王子様が良く来るって聞いたんですけど、今日はいないんですか?」
俺の質問に店員さんの笑顔が曇る。
「え、えーっと……」
引きついた笑いを張り付けながら、店員さんが視線を逸らせる。
「どうしたんですか?」
「確かに来るんですけど、あの人が来ると面倒な事になるんですよね」
「面倒?」
店員は困ったように頷く。
「金払いはいいんですけど、他のお客さんに絡んだり、酔ったら大声で歌ったり、物を壊したり迷惑ばかりなんですよ」
そう言って店員は奥のカウンターを指さす。そこには何かに叩きつぶされたように潰された椅子があった。
「昨日、あの椅子を破壊していったんですよ。好き勝手しても王族だからどうしようも無いですし、本当に困っているんです」
「それは酷いですね」
「あの人が来るとお客さんも逃げちゃいますし、どうにかなりませんかね?」
「そうでしたか。憲兵の知り合いがいるので、相談してみますね」
「ありがとうございます」
店員は頭を軽く下げ、暗い表情のまま奥に引っ込んでいった。憲兵じゃどうしようもないことが分かっているんだろう。俺もなんとかなるとは思っていない。
「大変そうじゃな」
「だな」
「そういえば、王子の名前はなんというのじゃ?」
「ゴオリって名前だ」
「強そうな名前じゃな」
「そうか?」
店員が去り、俺たちはメニューを開く。
「客として来ている以上、なにか注文するか」
「ワインはあるか?」
「そんな上品な酒はない。ここの主力はビールとかエールだ」
「ビールとエールって何が違うんじゃ?」
「色んな人を敵に回しそうな発言だな」
フランに酒の説明をしていると、扉のベルの音が店内に響き渡った。
俺達が扉の方に視線を向けると、日に焼けた大男が乱暴に店内に入ってきた。男は店員に案内される前にカウンター席に座る。
さっきの店員が嫌そうな顔をして、男の元へと行く。
「いらっしゃいま……」
「ビール。さっさとな」
「かしこまりました」
「あ?なんか嫌そうだな?」
「いえ、そんな事はないです……」
店員が小さく頭を下げて、奥に引っ込んでいく。巻き込まれたくない感じが丸わかりだ。
男は気分を害したようだったが、舌打だけしてカウンターに頬杖をついた。
フランが男に聞こえない様に小声になる。
「なあ、もしかしてあいつがゴオリか?」
「その通りだ」
見るからにデカい態度だが、まだ大人しいな。
「あいつを観察して情報を得る訳じゃな?」
「そうだ。今回は戦闘に関する情報が欲しいから、誰かが戦ってくれるといいんだが」
「わしが代わりに戦うか?」
「あまりフランに戦って欲しくはないんだがな」
勇者と魔王が殺しあい、決着がつくと魂が混ざりあう。そうなると、世界の半分が消滅してしまう。流石に殺しはないとは思うが、万が一を考えると決断できない。
「安心せい。わしは手加減の達人じゃ。ロワを100発殴っても生かしておけるぞ」
「殴られるロワが不憫だな」
確かに峰打ちのスキルもあるし、殺すリスクはかなり低いか。それなら任せても問題ないかもな。
「分かった。ただし、条件がいくつかある」
「なんじゃ?」
「戦闘のタイミングや戦い方は俺が指示する。今回の目的はあくまで情報の収集だからだ」
「うむ、分かった」
フランは素直に頷く。使ってくるスキルと、戦闘時の癖を把握できればだいぶ有利になるな。
そう思っていつつ、ゴオリに視線を向ける。すると、店員がビールを持ってきた所だった。
「おまたせいたしました」
店員がゴオリにビールを持ってきた。瞬間、
「遅ぇんだよ!」
ゴオリが怒りだしてカウンターを叩き壊す。店員は怖がってビールを取り落としそうになる。しかし、なんとか堪えてカウンターに置く。
「も、申し訳ございませんでした」
「謝って済むか!なめてんのか!」
「ひぃ!」
涙目の店員を怒鳴りつけるゴオリ。その様子を見ていたフランが俺を見てくる。
「ホウリ」
「まだダメだ」
ゴオリはまだ手を出していない。ここで俺たちが手を出したら、面倒なことになる。
俺が観察を続けていると、ゴオリが店員の胸倉を掴み上げた。
「俺を誰だと思ってる?第50第国王の息子だぞ?お前なんか、いつでも処刑出来るんだからな?」
「ごごごごごめんなさい!」
涙目で必死に謝る店員。だが、ゴオリの怒りが収まる事はなく、拳を振り上げた。
「痛い目に合わないと分からないみたいだな?」
「ひぃぃぃぃ!」
振り上げた拳が店員に向かう。
「フラン」
「わかった」
拳が店員に当たると思った瞬間、フランが割って入りゴオリの拳を受け止めた。
ゴオリの手からフランが店員を無理やり引き離し跳ね飛ばす。
「お主は奥にでも引っ込んでおれ」
「あ、ありがとうございます」
店員はわき目も振らずに店の奥に駆け込んだ。
ゴオリは怒りの籠った眼でフランを睨みつける。
「あ?誰だお前は?」
「通りすがりの正義の味方と言ったところじゃな」
「あ?舐めてんのか?」
「その通りじゃが?」
「テメェ……」
怒りでゴオリの顔が真っ赤に染まる。
「死ぬの覚悟で俺の前に立っているんだな?」
「お主はスライム相手に命の覚悟をするのか?変わっておるな?」
「分かった。お前は骨も残さない」
拳を鳴らしながらゴオリはフランに近づいていく。すると、俺の頭にフランの声が響いてきた。
『して、これからどうすればよい??』
『まずは相手の攻撃を躱してくれ』
『分かった』
ゴオリが目を血走らせてフランに近づいてくる。巻き込まれない様に気を付けないとな。
「オラァ!」
ゴオリが残像が見えるほどの速さで突きを繰り出す。正直、今までみた中でフランの次に早い突きだ。
ラビでさえこんなに早く動くことは出来ないだろう。だが、
「ほう?中々やるのう?」
フランの次に早いという事は、フランにはかなわないという事だ。フランに難なく躱されている。
当たらないことに更に腹を立てたのか、ゴオリの突きにさらに力がこもっていく。
「ぐがああああ!」
「そう吠えるでない。近所迷惑じゃぞ?」
フランの挑発にゴオリの顔から理性が無くなっていく。
滅茶苦茶に拳を繰り出すが、フランにはすべて見切られている。これは勝負にならないな……うん?
俺は一つ気になる点を見つけ、フランとの念話を再開する。
「フラン、俺が指示したタイミングで奴の攻撃を受けてくれ」
「うむ?分かった」
フランとゴオリの戦いを観察する。
……ここだな。
『フラン』
『了解じゃ』
フランがゴオリの拳を腕で受ける。瞬間、こちらまで届くほどの衝撃破が巻き起こった。あんなの受けたら、マジで肉片すら残らねえな。
対するフランもあれだけの攻撃を受けながらもケロッとしている。本当に化け物だ。
「くそが!」
拳を止められたゴオリが後ろに下がる。そして、フランに向かって人差し指を向けた。
『気を付けろ、何か仕掛けてくるぞ』
『分かっておる』
フランはスキルで防御力を高めて身構える。
ゴオリはフランを鋭く見据えると、人差し指から光の線を発射しフランの胸に命中する。
「むう?」
フランの服が一瞬にして焼ききれ、焦げ跡と共に穴が開いた。だが、フランはダメージを受けている様子はない。
「かなり妙な技を使うのう?出が早く、威力も高い。しかも射程もかなりの物と見た」
「な、なんでこれが聞かねえんだ……」
ゴオリが予想外の光景に顔を引きつらせる。フランが服の胸元をスキルで直しつつ、ゴオリに近づく。
「今ので終わりか?」
「まだに決まってるだろ!」
ゴオリが再びフランに殴り掛かる。しかし、フランにはカスリすらしない。
『次はどうする?』
『もう一度攻撃を受けて欲しい。タイミングは指示する』
『了解じゃ』
指示通り、フランは再び回避に専念する。
1分、2分、3分……ここか?
『フラン』
『うむ』
フランは再び拳を腕で受ける。だが、先ほどのような衝撃は起こなかった。
フランも不思議に思ったのか、首を小さくかしげる。
『先ほどよりも弱いぞ?』
『やっぱりか。フラン次は100くらいの攻撃を連続で繰りだしてくれ』
『ああ』
俺の指示通り、フランはゴオリに向かって乱撃を繰り出す。速さはゴオリとはくらべものにならに程で、ゴオリは全く躱せていない。
「くう……だが、この程度の攻撃なんていくら食らっても……」
確かに、ゴオリにダメージが通っている様子はない。しかし、額に汗を浮かべつつ徐々に後退していく。
それが数分続き、ついにゴオリの後ろは壁になってしまった。
「くう……ふざけやがって……」
「憎まれ口を叩くより、どうにかした方が良いのではないか?」
楽勝そうなフランに対し、焦りの表情を見せるゴオリ。
「はっはー!無駄無駄無駄無駄!」
「ぐう……」
ゴオリも負けずに拳を繰り出すがフランには当たらず、1度殴るまでに数発の拳を受けている。
「うう……うぐっ!」
瞬間、ゴオリが顔を歪めた。なるほどな。
『フラン、もういいぞ』
『わかった』
フランが後ろに大きく跳んで、構えを解く。
「まだやるか?それとも、もっと遊ぶか?」
「くぅぅぅぅ調子に乗りやがって!覚えてろよ!お前なんか刑務所にぶち込んでやる!」
そう捨て台詞を吐きながら、ゴオリは店を飛び出した。
「戦闘面で勝つ気が無いのが哀れじゃな」
「あれだけボコボコにされて心が折れない方が無茶だろ。というか、時間は大丈夫か?」
「……わしはここで失礼する」
そう言ってフランは残像を残して、店を飛び出した。忙しない奴らだな。
俺はそう思いつつ、テーブル席に戻った。そして、あいつを倒すための方法を思案するのだった
(そうなんだよ)
自分の部屋でフランと共に神と通信をしていると、耳を疑う言葉を聞いた。
「この前までそんな事は言っておらんかったではないか?」
(私だってやれば出来るんだよ?)
「じゃあやれよ。俺がどれだけ準備しても、勇者の魂が無いと話にならないだろうが」
(あははは)
「なに笑ってるんだよ」
久しぶりに殺意が沸き上がってきながら、俺は詳しい内容を聞く。
「勇者の魂は誰が持ってるんだ?」
(人国の王様の息子だよ)
「人国の王子か」
「良いうわさは聞かぬのう?」
フランの言う通り、人国の王子はかなり評判が悪い。使用人を顎で使い、気に入らないことがあるとすぐに暴力で解決しようとする。
権力をかさに着て、街でも好き勝手やっている。恐ろしいのは、これらの噂が全部本当だという事だ。
「面倒な奴じゃのう」
「まったくだ。無駄に強いみたいだし、考えなしに突っ込んでも殺されるだけだ」
(そんなに凄い人なの?)
「権力もある、戦闘力も高い。正直、相手したくないな」
(そんなに強いの?もしかして、まーちゃんよりも強い?)
「そんな訳あるかい」
「流石にフランよりは弱い。だが、現状だとフランの次に強い奴だろうな」
俺の言葉に、神が言葉を失う。
(ええ……ホウリ君が戦わないといけないんでしょ?勝てるの?)
「さあな。調べてみて策を考えるさ」
(頼もしいね。それでこそホウリ君だ。じゃあ、任せたよ)
「はいはい。分かってるよ」
生返事を返すと、神からの通信は切れた。
「はぁ、面倒な相手だな」
「わしも何か手伝うか?」
「ああ、頼めるか?」
「意外じゃな?てっきり断ると思ったが?」
フランが少しだけ目を丸くさせる。
「今回の敵は事前の準備を少しでも怠ると死ぬからな。使える手はなんでも使わせてもらう」
「わしとしては、倒られるのは悪い気がせんな」
口角が上がり、上機嫌なのが隠しきれてないな。フランの力はあまり借りない様にしている。
だが、今回は使わないとかなり時間を消費するだろうし、全面的に頼りにしよう。
「して、これからどうする?」
「フランは後3時間後には舞台の稽古だろ?」
「そうじゃな」
「だったら、速攻で行動しないとな」
「お主、無茶苦茶な事をする時の顔をしておるぞ?」
「ははは」
「笑って誤魔化すでない」
どうせバレてんだ。否定するだけ無駄だろう。
「これから、王子様のストーキングを始める」
「後を付けるという事か。わしのインビジブルとお主の尾行術があれば、見つかる事はありえんじゃろうな」
「そういう事だ」
「肝心の王子様は場所は分かるのか?」
「ある程度の行動パターンは把握してる、今は酒屋で好き勝手してるだろうよ」
「昼間から飲んだくれるなど、ダメ人間の手本じゃな」
「俺を睨みながら言わないでくれるか?」
フランから冷たい視線を受けつつ、俺は床の隙間に爪を掛けてはがす。
床の下からは、いつも使っているワイヤー発射装置が出て来た。
「お主の部屋は何もないように見えて、色々と置いてあるのう」
「泥棒対策だ」
情報や道具を床下やパイプベッドの中、色々な場所に隠してある。かなり巧妙な場所に隠してあるから、知らない奴には一生みつからないだろう。
俺は発射装置を手首につけて準備を終える。
「じゃあ行くか」
「うむ」
☆ ☆ ☆ ☆
そんな訳で、俺たちは王子様、よく来る酒場「キューン」までやってきた。
ここらでは珍しく昼でも酒を飲める店で、酒好きの間で重宝されている。昼間にいるのは夜勤明けの奴がほとんどだが、まれにタダの酒好きもいる。
窓から中を覗いてみるが、今日は人がいないみたいだな。
「ターゲットはいないようじゃな。どうする?」
「どうせここに来るだろうから待ち伏せしよう。その方が手間が無くていい」
「それもそうじゃな」
店の扉を開け中に入る。扉に付いていたベルの乾いた音を聞いた店員が、奥からやってきた。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
「ああ」
「お席にご案内します」
店員に奥の席まで通される。内部はカウンター席が10つ、4人座れるテーブル席が5つある。店の広さとしてはそこそこと言ったところか。
奥のテーブル席に通されて、俺とフランの前にメニューが置かれる。
「注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
「分かりました。そういえば、この店に王子様が良く来るって聞いたんですけど、今日はいないんですか?」
俺の質問に店員さんの笑顔が曇る。
「え、えーっと……」
引きついた笑いを張り付けながら、店員さんが視線を逸らせる。
「どうしたんですか?」
「確かに来るんですけど、あの人が来ると面倒な事になるんですよね」
「面倒?」
店員は困ったように頷く。
「金払いはいいんですけど、他のお客さんに絡んだり、酔ったら大声で歌ったり、物を壊したり迷惑ばかりなんですよ」
そう言って店員は奥のカウンターを指さす。そこには何かに叩きつぶされたように潰された椅子があった。
「昨日、あの椅子を破壊していったんですよ。好き勝手しても王族だからどうしようも無いですし、本当に困っているんです」
「それは酷いですね」
「あの人が来るとお客さんも逃げちゃいますし、どうにかなりませんかね?」
「そうでしたか。憲兵の知り合いがいるので、相談してみますね」
「ありがとうございます」
店員は頭を軽く下げ、暗い表情のまま奥に引っ込んでいった。憲兵じゃどうしようもないことが分かっているんだろう。俺もなんとかなるとは思っていない。
「大変そうじゃな」
「だな」
「そういえば、王子の名前はなんというのじゃ?」
「ゴオリって名前だ」
「強そうな名前じゃな」
「そうか?」
店員が去り、俺たちはメニューを開く。
「客として来ている以上、なにか注文するか」
「ワインはあるか?」
「そんな上品な酒はない。ここの主力はビールとかエールだ」
「ビールとエールって何が違うんじゃ?」
「色んな人を敵に回しそうな発言だな」
フランに酒の説明をしていると、扉のベルの音が店内に響き渡った。
俺達が扉の方に視線を向けると、日に焼けた大男が乱暴に店内に入ってきた。男は店員に案内される前にカウンター席に座る。
さっきの店員が嫌そうな顔をして、男の元へと行く。
「いらっしゃいま……」
「ビール。さっさとな」
「かしこまりました」
「あ?なんか嫌そうだな?」
「いえ、そんな事はないです……」
店員が小さく頭を下げて、奥に引っ込んでいく。巻き込まれたくない感じが丸わかりだ。
男は気分を害したようだったが、舌打だけしてカウンターに頬杖をついた。
フランが男に聞こえない様に小声になる。
「なあ、もしかしてあいつがゴオリか?」
「その通りだ」
見るからにデカい態度だが、まだ大人しいな。
「あいつを観察して情報を得る訳じゃな?」
「そうだ。今回は戦闘に関する情報が欲しいから、誰かが戦ってくれるといいんだが」
「わしが代わりに戦うか?」
「あまりフランに戦って欲しくはないんだがな」
勇者と魔王が殺しあい、決着がつくと魂が混ざりあう。そうなると、世界の半分が消滅してしまう。流石に殺しはないとは思うが、万が一を考えると決断できない。
「安心せい。わしは手加減の達人じゃ。ロワを100発殴っても生かしておけるぞ」
「殴られるロワが不憫だな」
確かに峰打ちのスキルもあるし、殺すリスクはかなり低いか。それなら任せても問題ないかもな。
「分かった。ただし、条件がいくつかある」
「なんじゃ?」
「戦闘のタイミングや戦い方は俺が指示する。今回の目的はあくまで情報の収集だからだ」
「うむ、分かった」
フランは素直に頷く。使ってくるスキルと、戦闘時の癖を把握できればだいぶ有利になるな。
そう思っていつつ、ゴオリに視線を向ける。すると、店員がビールを持ってきた所だった。
「おまたせいたしました」
店員がゴオリにビールを持ってきた。瞬間、
「遅ぇんだよ!」
ゴオリが怒りだしてカウンターを叩き壊す。店員は怖がってビールを取り落としそうになる。しかし、なんとか堪えてカウンターに置く。
「も、申し訳ございませんでした」
「謝って済むか!なめてんのか!」
「ひぃ!」
涙目の店員を怒鳴りつけるゴオリ。その様子を見ていたフランが俺を見てくる。
「ホウリ」
「まだダメだ」
ゴオリはまだ手を出していない。ここで俺たちが手を出したら、面倒なことになる。
俺が観察を続けていると、ゴオリが店員の胸倉を掴み上げた。
「俺を誰だと思ってる?第50第国王の息子だぞ?お前なんか、いつでも処刑出来るんだからな?」
「ごごごごごめんなさい!」
涙目で必死に謝る店員。だが、ゴオリの怒りが収まる事はなく、拳を振り上げた。
「痛い目に合わないと分からないみたいだな?」
「ひぃぃぃぃ!」
振り上げた拳が店員に向かう。
「フラン」
「わかった」
拳が店員に当たると思った瞬間、フランが割って入りゴオリの拳を受け止めた。
ゴオリの手からフランが店員を無理やり引き離し跳ね飛ばす。
「お主は奥にでも引っ込んでおれ」
「あ、ありがとうございます」
店員はわき目も振らずに店の奥に駆け込んだ。
ゴオリは怒りの籠った眼でフランを睨みつける。
「あ?誰だお前は?」
「通りすがりの正義の味方と言ったところじゃな」
「あ?舐めてんのか?」
「その通りじゃが?」
「テメェ……」
怒りでゴオリの顔が真っ赤に染まる。
「死ぬの覚悟で俺の前に立っているんだな?」
「お主はスライム相手に命の覚悟をするのか?変わっておるな?」
「分かった。お前は骨も残さない」
拳を鳴らしながらゴオリはフランに近づいていく。すると、俺の頭にフランの声が響いてきた。
『して、これからどうすればよい??』
『まずは相手の攻撃を躱してくれ』
『分かった』
ゴオリが目を血走らせてフランに近づいてくる。巻き込まれない様に気を付けないとな。
「オラァ!」
ゴオリが残像が見えるほどの速さで突きを繰り出す。正直、今までみた中でフランの次に早い突きだ。
ラビでさえこんなに早く動くことは出来ないだろう。だが、
「ほう?中々やるのう?」
フランの次に早いという事は、フランにはかなわないという事だ。フランに難なく躱されている。
当たらないことに更に腹を立てたのか、ゴオリの突きにさらに力がこもっていく。
「ぐがああああ!」
「そう吠えるでない。近所迷惑じゃぞ?」
フランの挑発にゴオリの顔から理性が無くなっていく。
滅茶苦茶に拳を繰り出すが、フランにはすべて見切られている。これは勝負にならないな……うん?
俺は一つ気になる点を見つけ、フランとの念話を再開する。
「フラン、俺が指示したタイミングで奴の攻撃を受けてくれ」
「うむ?分かった」
フランとゴオリの戦いを観察する。
……ここだな。
『フラン』
『了解じゃ』
フランがゴオリの拳を腕で受ける。瞬間、こちらまで届くほどの衝撃破が巻き起こった。あんなの受けたら、マジで肉片すら残らねえな。
対するフランもあれだけの攻撃を受けながらもケロッとしている。本当に化け物だ。
「くそが!」
拳を止められたゴオリが後ろに下がる。そして、フランに向かって人差し指を向けた。
『気を付けろ、何か仕掛けてくるぞ』
『分かっておる』
フランはスキルで防御力を高めて身構える。
ゴオリはフランを鋭く見据えると、人差し指から光の線を発射しフランの胸に命中する。
「むう?」
フランの服が一瞬にして焼ききれ、焦げ跡と共に穴が開いた。だが、フランはダメージを受けている様子はない。
「かなり妙な技を使うのう?出が早く、威力も高い。しかも射程もかなりの物と見た」
「な、なんでこれが聞かねえんだ……」
ゴオリが予想外の光景に顔を引きつらせる。フランが服の胸元をスキルで直しつつ、ゴオリに近づく。
「今ので終わりか?」
「まだに決まってるだろ!」
ゴオリが再びフランに殴り掛かる。しかし、フランにはカスリすらしない。
『次はどうする?』
『もう一度攻撃を受けて欲しい。タイミングは指示する』
『了解じゃ』
指示通り、フランは再び回避に専念する。
1分、2分、3分……ここか?
『フラン』
『うむ』
フランは再び拳を腕で受ける。だが、先ほどのような衝撃は起こなかった。
フランも不思議に思ったのか、首を小さくかしげる。
『先ほどよりも弱いぞ?』
『やっぱりか。フラン次は100くらいの攻撃を連続で繰りだしてくれ』
『ああ』
俺の指示通り、フランはゴオリに向かって乱撃を繰り出す。速さはゴオリとはくらべものにならに程で、ゴオリは全く躱せていない。
「くう……だが、この程度の攻撃なんていくら食らっても……」
確かに、ゴオリにダメージが通っている様子はない。しかし、額に汗を浮かべつつ徐々に後退していく。
それが数分続き、ついにゴオリの後ろは壁になってしまった。
「くう……ふざけやがって……」
「憎まれ口を叩くより、どうにかした方が良いのではないか?」
楽勝そうなフランに対し、焦りの表情を見せるゴオリ。
「はっはー!無駄無駄無駄無駄!」
「ぐう……」
ゴオリも負けずに拳を繰り出すがフランには当たらず、1度殴るまでに数発の拳を受けている。
「うう……うぐっ!」
瞬間、ゴオリが顔を歪めた。なるほどな。
『フラン、もういいぞ』
『わかった』
フランが後ろに大きく跳んで、構えを解く。
「まだやるか?それとも、もっと遊ぶか?」
「くぅぅぅぅ調子に乗りやがって!覚えてろよ!お前なんか刑務所にぶち込んでやる!」
そう捨て台詞を吐きながら、ゴオリは店を飛び出した。
「戦闘面で勝つ気が無いのが哀れじゃな」
「あれだけボコボコにされて心が折れない方が無茶だろ。というか、時間は大丈夫か?」
「……わしはここで失礼する」
そう言ってフランは残像を残して、店を飛び出した。忙しない奴らだな。
俺はそう思いつつ、テーブル席に戻った。そして、あいつを倒すための方法を思案するのだった
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そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
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(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
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※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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