魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百四十四話 ロシアガールでジョジョ真似

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「フランお姉ちゃ~ん」


 劇が終わり控室前にノエル、ロワ、ミエルがやって来た。ノエルはわしを見つけると魔装を使って突進してくる。


「うおっと!」


 わしも魔装を使ってノエルを受け止め、スキルを使って衝突時の轟音を消す。
 ノエルも腕を上げたのう。魔装を使わんと受け止めきれんくなって来たわい。
 ノエルはわしに抱き着きながら顔を上げる・


「劇面白かったよ!」
「いつものフランさんとは思えなかったですよ」
「ああ。演技のことは良く分からないが、とても良かったぞ」
「そう言ってもらえると嬉しいのう」
「そういえば、ホウリさんは何処ですか?」


 ロワが辺りをキョロキョロと見渡す。周りにホウリの姿は無い。


「ホウリはこの劇の脚本家だったか。劇場にはいないのか?」
「ホウリは他にやるべき事が残っておってのう」
「やる事ってなあに?」
「すまぬが、部外者には教えられん」


 流石に襲撃があったなんて言えんからのう。心苦しいが黙っておくとしよう。


「そうですか。まあ、ホウリさんなら軽く済ませるでしょう」
「そういえば、わしもホウリと同じ用事があってのう」
「そうだったか。邪魔して悪かったな」
「お主たちと話すことを以上に大事なことがあるか。どんな用事よりも優先するわい」


 しかし、少しばかり時間がないことも事実。名残惜しいが、続きは自宅で話すとしよう。


「ではのう」
「うん!あとでね!」


 3人を見送って、わしは劇場の奥にある物置へと歩を進める。念のため、スキルで人の目に留まらぬようにして、物置の扉を開ける。
 物置の中は薄暗く、明かりは天井の豆電球しか無い。段ボール箱に詰められた荷物が山のように積まれていて、どれも埃を被っている、長い事、使われていないのだろう。
 そんな不衛生な部屋に、不釣り合いなほどに人が詰め込まれている。
 わしとホウリとヌカレとクランチ監督。あとは、8人ほど転がされている。全員が縛られているか、眠らされているかで無力化されている。
 転がされている中で一人だけ意識を保っている者がいる。ナモンじゃ。


「……どういうつもりかしら?」


 殺気を撒き散らしながら、わしを睨みつけるナモン。わしらに、特にわしに対して敵意むき出しじゃな。


「どういうつもり、とはなんじゃ?」
「なんで私だけ意識を残しているのか、と聞いているのよ」


 その問いかけに対してわしは答えぬ。意地悪しておるわけではなく、どうやって説明したものかと、悩んでおるのじゃ。


「どうする?ホウリ?」
「まずはなんで拘束しているのかを説明するのか」
「そんなのいらないわ。私が聞きたいのは、『なんで私達を一人残らず特定できたのか』よ」


 ナモンが悔しそうに吐き捨てる。確かにナモンは念話で連絡をしておった。念話はわしも良く使うが、他の者に使われていることを悟らせないのは便利じゃ。
 念話を看破するスキルもあるが、レアすぎて持っておる者は1000万人に1人と言われておる。
 ナモンもわしらがそのスキルを使っておるとは思っておらんじゃろう。現にわしらは、こいつらを見つけるためにスキルを使っておらん。


「確かに念話自体の隠密性が高い。だが、使う側もそうだとは限らない」
「どういうことよ?」
「念話をしている奴は頭の中で会話している。その時、意識は劇に向いていない」
「視線が劇に向いていなかったり、向いていたとしても、劇の動きに合わせて動いていたりしない。そういう微細な動きをホウリが見張っておった」
「なん……ですって……」


 わしらの説明にナモンが目を見開く。それもそうじゃ。あんな薄暗い客席で、何百人もいる客の全員の視線を見極めるなど、人間業とは思えないじゃろう。
 ホウリが見極めた所で、わしに念話で連絡をし、犯人どもを見極めた。説明だけじゃと簡単に済むんじゃがな。やっていることは簡単ではないが。


「そ、そんなことがある訳……」
「あるからこうなっている」


 ホウリが転がっている連中に視線をやる。ナモンも床の連中に視線をやり、悔しそうに唇を噛む。


「……私達を特定して、どうやって拘束したのよ」
「知らんのか?スキルの中には相手を拘束ものがあるんじゃぞ?」
「そのくらい知ってるわよ。聞いているのは『的確に私達だけを拘束した方法』よ」
「は?言ってることが分からんぞ?」
「なんで分からないのよ」


 こやつの言っていることが本気でわからん。どう答えればいいんじゃ?


「お主はあれか?物を掴む方法を聞かれて、躊躇いなく答えられるのか?」
「どういう意味よ」
「お主らへの拘束など、その程度ということじゃ」


 少し声を低くすると、ナモンの顔が青ざめていく。そういえば、念話で脅しをかけておったんじゃったか。
 ナモンは口をガタガタと震わせて、顔からは血の気が引いている。
 脅し過ぎたみたいじゃな。フォローしてやるか。


「まあ、あれじゃ。お主らなんて文字通り瞬殺できるんじゃから、怖がった所で変わらぬ。気楽にやるがよい」
「ひ、ひぃ……」
「バカ、もっと怖がらせてどうする」
「むぅ、フォローしたつもりだったんじゃが」
「フォロー?トドメの間違いだろ?」


 ナモンの様子を見てしまうと、トドメと言われても仕方がない気がする。


「……それは置いておいて、本題に入るぞ」
「本題って……なんでしょうか?」


 ナモンの口調がやけに丁寧になる。本題に入るには都合が良いのかもしれぬ。


「お主らに、この事件を起こした理由を聞くためじゃよ。なにせ、こちらもいきなり襲われて困惑しておる」
「私も知りたいです。なんでこんなことをしたんですか?」


 今まで黙っていたクランチ監督が、汗を拭きながら口を開く。


「私は今まで、何度も貴女と共に劇を作り上げてきました。それなのに、なぜ私たちを殺そうとしているんですか?」
「なんで?あんた達、本当に分からないの?」
「俺は大体の見当はついてる。だが、本人の口から聞いた方がいいだろう?」
「で?どうなんじゃ?」
「…………」
「前歯を2.3本折るか」
「言います!」


 ナモンが顔を青くして首を縦に振る。やはり、この方が都合が良いな。
 大人しくしていたヌカレがナモンに顔を近づける。


「で、なんでこんな事をやったんだ?」
「貴方のためよ」
「俺のため?」


 ヌカレの眉間に皺が寄る。よほど理解できぬのじゃろう。


「どういう事だ?」
「そのままの意味よ。貴方のために私は貴方たちを殺そうとしたの」
「意味が分からんぞ。あそこで騒ぎを起こしたら、俺まで死んでしまう。それも俺のためか?」
「そうよ」


 さっきとは打って変わって、さわやかな笑顔になるナモン。我が子に見せるような、恋人に見せるような、柔らかな微笑みじゃ。一種の狂気すら感じる。
 ヌカレも狂気を感じたのか、ナモンから顔を遠ざける。


「と、とにかく、俺のためってどういうことだ」
「私はね、貴方を愛しているの」
「へ?」


 突然の告白に、ヌカレが呆気にとられる。
 だが、ナモンは微笑みを崩さずに語り続ける。


「貴方の笑顔が好き、性格が好き、声が好き、動きが好き、呼吸が好き、息が好き」
「な、なんだこいつ……」


 恍惚と愛を語るナモンにドン引きするヌカレ。しかし、引かれてもなお、ナモンは愛を語り掛けている。

「貴方の全てを愛しているの。だから、私の物にならないんだったら壊してしまおう、そう思ったの」
「……なんでそうなる?」
「話が飛躍しすぎて分からん。ホウリ」
「結局俺が説明するのかよ」
「本人が話が通じぬのだから仕方なかろう」


 ホウリがため息をして、説明を始める。
 ナモンはヌカレのファンだった。だが、ヌカレへの恋心が大きくなりすぎてしまい、自分も芝居の道へと進んだ。目的はヌカレへ近づき、親しくなる事。
 努力の甲斐があり、端役としてヌカレと共演することも増えてきて、遂に相手方にまで上り詰めた。これで、ヌカレが私の物となる、そう思った時、


「別の劇でヌカレが別の女と共演することを聞いた」
「それで嫉妬した訳か?もはやストーカーじみておるじゃのう」
「ストーカーというか、ヤンデレが近いな」
「お前らな、もっと真剣に考えろ。命を狙われているんだぞ?」
「捕縛しておるし、もう危険もない。別によかろう」
「そういう問題じゃねえだろ」


 こやつの目的は分かった。ならば、今度はわしの目的じゃな。
 わしがニヤリと笑うと、ナモンの表情が凍り、愛の囁きが止まった。
 ここからはわしのターンじゃ。
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