魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 ふぉっふぉっふぉ

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 クリスマスの前日、僕はホウリさんと一緒に王都の街を歩いていた。


「うう……寒いですね……」
「今日は昨日よりも4度も低いらしいぞ」
「そうなんですか。どうりで寒い訳ですね」


 コートで防寒しているけど、真に響いてくるような寒さだ。中からもう2枚くらい来ておけば良かったかも。
 体を震わせながら街の中を歩く。


「お、雪か」


 ホウリさんが見上げる。すると、冷たい雪のかけらが僕の鼻先に触れた。


「更に寒くなりそうですね」
「だな。風邪ひくなよ?」
「ええ。明日はクリスマスパーティーですからね」


 今は明日のクリスマスパーティーの為の買い出しに来ている。ご飯の材料とか飾り付けの材料いろいろと。


「まずはどこに行きますか?」
「八百屋だな。野菜を買いに行くぞ」
「分かりました」


 八百屋さんは3つ目の角を右に曲がったところにある。近くて新鮮な野菜がある良いお店だ。


「何買うんですか?」
「トマトとかセロリとか、リンの実とかだな」
「……セロリって必要ですか?」
「必要だ好き嫌いは認めん」
「はーい……」


 なんとかセロリだけ買わずに乗り越える方法はないだろうか。……ホウリさん相手には小細工は無理か。
 そんなことを考えながら僕は街の様子を見てみる。
 行きかう人々の表情はどこか楽しそうだ。明日がクリスマスだからだろうか。
 そんな僕も年甲斐も無くワクワクしている。数あるイベントの中でもクリスマスは一番ワクワクするイベントだ。


「クリスマスパーティーはいつからでしたっけ?」
「夜の7時からだ。それまでに飾り付けや料理は済ませるぞ」
「お昼ごろまではミエルさんと出かける予定なんですけど?」
「問題無い。夕方までに帰ってくればパーティーの準備は間に合う。ノエルやフランも出かけるしな」
「ノエルちゃんはお友達とパーティーなんでしたっけ」
「俺とフランはパーティーの準備のために一緒に出掛ける」
「準備を任せきりなのは悪い気がしますね」
「それこそ気にするな。明日の準備は普通の奴には務まらん」


 普通の人には務まらない準備?どんな準備なんだろうか?
 それを聞こうとしたところで、とある光景に目が釘付けになった。


「煙突に人?」


 それは煙突から下半身だけが出ている光景だった。下半身だけしか見えないけど、赤い上着が見えている。恐らくサンタさんの格好なんだろう。
 他の人も気付いているのか、煙突を見上げてザワザワとしている。


「ケーキの材料の調達だな。失敗する訳にはいかないから、俺とフランで調達してくる。もしかしたら、他の奴の力を借りるかもな」


 ホウリさんは気付いていないかのように話を続けている。ホウリさんに限って気付かないってことは無いから、あえて無視しているんだろう。


「あの、助けなくて良いんですか?」
「世の中にはな、触れてはいけないこともあるんだよ」
「あれは触れた方が良いと思うんですけどね?」


 というか、あの靴はどこかで見た気がする。何処で見たんだっけ?


「……もしかして、兄貴?」
「ああ、あのバカがサンタの格好をして煙突に潜り込もうとしているんだろうよ」


 なるほど、兄貴に関わりたくないからホウリさんは無視してたんだ。


「あの、知らない仲でも無いと思うので、助けませんか?」
「……はぁ、分かったよ」


 ホウリさんが嫌々ながらワイヤーで屋根に上っていく。そして、煙突から突き出した足を掴むと、思いっきり引っこ抜いた。


「ふんっ!」
「ぬぼっ!?」


 煙突の中から上半身が煤だらけの兄貴が現れた。恰好はやっぱりサンタ服で、頭にはサンタ帽を被っていて本格的なサンタさんの格好だ。


「ぶはー!助かった!」
「ロワ~、上手く受け止めろよ~」
「え?ちょ!?」


 兄貴が驚く中、ホウリさんが下にいる僕に兄貴を投げて来る。
 僕は両腕を広げて兄貴を受け止めた。


「よっと」


 なんだかお姫様抱っこみたいになっちゃったかな。
 そんな事を思いつつ、目を白黒させている兄貴を地面に降ろす。


「兄貴?大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」


 地面に降りても兄貴はどこかぼんやりとした表情だ。まだ状況が理解できていないのだろうか。
 ホウリさんも地面に飛び降りてきて、兄貴に冷めた視線を向ける。


「あの、何してたんですか?」
「何って見れば分かるだろ?」


 兄貴が両手を広げてサンタ服を見せつけて来る。


「え?どういうことですか?」
「それで分かる訳ないだろうがバカ」


 ホウリさんが呆れたようにため息を吐く。どうやら、ホウリさんは事情を察しているようだ。


「何があったんですか?」
「ここらでサンタの試験があるんだ。その試験の最中って訳だ」
「サンタさんに試験があるんですか?」
「あるぞ」


 ホウリさん曰く、サンタさんには試験があって合格すると公式にサンタを名乗れるらしい。
 その試験はクリスマスの前日くらいにあって、受かるのはかなり難しいらしい。


「その試験中に、なんで煙突に詰まってたんですか?」
「試験内容に煙突から家に侵入するって項目あってな。それの最中だったんだ」
「そんな試験もあるんですか」
「問題は、侵入する煙突が別の家って事だな」
「……え?マジで?」


 ホウリさんの言葉に兄貴の顔がどんどんと青くなっていく。というか、なんでホウリさんは試験内容を知っているだろうか?


「試験の家は100m向こうにある。ここは全く関係の無い家だ」
「つまり、兄貴は不法侵入しようとしたって事ですか?」
「そういうことだな。通報した方が良いか?」
「それだけは勘弁してくれ!」


 シグナルピストルを天に掲げたホウリさんの腰に、兄貴が縋りつく。


「今捕まったらサンタになれないじゃないか!」
「というか、なんでサンタになりたいんだ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた」


 兄貴が立ちあがってサンタ帽をかぶりなおす。


「コレトさんにクリスマスプレゼントを上げるときに『君の為に本物のサンタになったよ』って言ってみたいからだ!」
「思ったよりも下らない理由だったな」
「くだらないってなんだ!」
「まあまあ、何をするのかは兄貴の自由なんですし。兄貴はクリスマスはコレトさんと過ごすんですね?」
「ああ。コレトさんは神殿長でワープが使いたい放題だからな。王都で過ごすつもりだ」


 職権乱用な気がするけど、大丈夫なんだろうか。


「ロワはクリスマスの予定はあるのか?」
「ミエルさんとお出かけした後に、スターダストの皆でパーティします」
「デートとパーティの良いとこ取りか。充実してんな」
「デート?」


 考えてみればミエルさんとのお出かけはデートともいえるのか。そう考えると、何だか恥ずかしくなってきた。


「おいおい、今更顔を赤くするなよな」
「なんだか恥ずかしくなってしまって……」
「ロワもまだまだだな。こういうのはドーンと構えておけばいいんだよ。そうだ、ホウリに相談したい事があったんだった」
「……なんだ?」


 ホウリさんの表情が『面倒だ』って言ってる。ホウリさんって感情を表情に出さないことも出来る筈だけど、普段は存分に出しているんだよね。


「コレトさんとのデートプランを練ったんだが、アドバイスをくれないか」
「断りたいところだが、聞かない方が面倒そうだな。話せ」
「言い方は気に入らないが、礼は言っておこう」


 お二人の間になんだか険悪な雰囲気が流れる。相談する雰囲気じゃないような?


「で、どういうプランなんだ?」
「まずは会った時にバラの花束を渡す」
「それで?」
「次に夜景のキレイなレストランでディナーだ」
「それで?」
「ディナーの最中にプレゼント。中身はネックレスだ」
「それで?」
「その後は……まあ色々と……」
「成程な」


 兄貴がその後の言葉を濁す。色々と察するところがありホウリさんも追及はしなかった。


「俺のデートプランはどうだ?」
「0点だ」
「はぁ!?なんでだよ!?」


 すごく自信があったのか、兄貴がホウリさんに掴みかかる。けど、ホウリさんに軽くいなされて、逆にアームロックを掛けられた。


「痛たたたたたた!?」
「体術で俺に勝てると思うなよ?」
「分かった!分かったから離してくれ!」


 ホウリさんは兄貴から手を離して解放する。


「痛てて……少しは手加減しろよ……」
「襲い掛かってくる奴には容赦しない。例え知り合いでもな」
「今のは兄貴が悪いです」
「くそが」
「それで、なんで兄貴の案が0点なんですか?別に悪くはないと思いましたけど?」
「そうだ!完璧だろ!」


 僕の言葉に兄貴が激しく首を縦に振る。


「完璧?寝言は寝て言え」
「なぜだ!色々な雑誌を見て、女性が好きそうなものを徹底的に調べたんだぞ!」
「まずそれが間違いだ」
「はぁ?」


 兄貴が大きく口を開けて首を傾げる。


「いわゆる女性に受けそうなのはコレトには合わないって事だ。あいつは夜景の見えるレストランなんて興味ない」
「な!?本当か!?」
「ああ。あいつはレストランよりも居酒屋で飲む方が好きだ」
「そ、そうだったのか……」
「恋人の好みも把握していないのかよ」


 ホウリさんの言葉に兄貴がバツが悪そうに顔を背ける。ストレートな正論に返す言葉がないって感じだ。


「あのな、コレトはアイドル的な扱いを受けているが、普通の人間なんだぞ?お前が見ているのはアイドルの方のコレトで、人間の方のコレトは見ていない」
「………………」
「今回のことは良い機会かもな」
「何がですか?」
「こいつがコレトとどう向き合うのかを考えるのにだ」


 ホウリさんが兄貴を見つめる。僕も一緒になって兄貴を見つめてみる。
 そこには渋い顔をして俯いたサンタさんがいた。


「アイドルの傍にいるか、コレトと生きていくか、よく考えろ。コレトと生きるなら、もっとそいつの事を見てやれ」
「……そうだな」


 サンタさんは顔を上げると、何かを決意した目で僕らを見つめ返していた。


「よし!もう迷わないぜ!」
「それでこそ兄貴ですよ!」


 悩んでいる兄貴なんてらしくない。豪快に笑っている兄貴が一番だ。


「あとのデートプランは自分で考えてみる!ありがとな!」
「おう」
「俺はサンタの試験の続きに行ってくる!じゃあな!」
「またどこかで!」
「じゃあな」


 僕らに見送られながら兄貴は街の中を走っていった。


「兄貴、大丈夫でしょうか?」
「それはあいつ次第だ。もしかしたら、クリスマスの後にコレトにフラれたって泣きながら相談にくる可能性があるかもな」
「上手くいくと思いたいですけどね」
「まあ、なんだかんだ上手くいくんじゃないか?」


 そう言うホウリさんの表情はどこか確信を感じられた。


「どうしてそう思ったんですか?」
「実はな、コレトもサンタなんだよ」
「え?そうなんですか?」
「ああ。ナップがサンタになったって聞いたら喜ぶんじゃないか?」


 確かに、自分に合わせてサンタの資格を取ったと思うだろうし、とても嬉しいだろう。けど、兄貴ってコレトさんがサンタだって知っているのだろうか?ま、いっか。
 兄貴とコレトさんが上手くいきますように。
 お二人の幸せを祈りながら、僕らは歩みを再開する。


「それにしても、デートプランを考えるのって難しいんですね」
「ああ。相手に会わせてのデートは特に難しいぞ」
「僕もミエルさんを考えたデートプランを考えるべきですかね?」
「考えるくらいなら良いんじゃないか」


 うーん、ミエルさんとのデートか。何をしようかな?


「……まずは武器屋に行きますね」
「お互いに戦う仕事だし良いんじゃないか」
「弓と盾を見た後は……街をうろついて良い感じのお店でランチですかね」
「次はどうする?」
「何するかミエルさんと話しながらランチを食べます」
「成程な、80点ってところか」
「あれ?結構高いですね」


 思い付きで立てたプランだったから、そこまで評価されないと思ってた。


「ミエルと共に楽しみたいっていう考えだからだ。ミエルもその辺りを重視するだろう」
「成程、勉強になりますね。そういえば、何をすれば100点になるんですか?」
「プロポーズすれば100点だ」
「流石にプロポーズはどうなんですかね?」
「冗談だよ」
「ですよね」


 流石にいきなりプロポーズされたら困ってしまうだろう。


「僕もサンタさんになりましょうかね?」
「ちなみに、サンタになると23時から強制的にプレゼント配りをさせられる」
「……それってデートが中断するってことでは?」
「プレゼント配るデートに変わるだけだろ」
「プレゼントを配るデートですか。かなり変わってますね。というか、プレゼントって何処に配るんですか」
「事前にプレゼント配送の申請がある家に行くんだよ。子供にとっては本物のサンタがプレゼントを持ってくるって訳だ」
「それはいいですね。ノエルちゃんの為にも申請します?」
「もうしてある」
「流石はホウリさんです」


 そんなことを言い合いながら、僕らは買い物を進めるのだった。
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