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第三百十八話 マヌケは見つかったようだな
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夕方までオダリムの街を練り歩いた僕は宿に戻ってきた。
「1人で怪しい人を探せだなんて無茶だよ」
ホウリさんが去った後、僕は1人で街で怪しい人を探した。けど、都合よく怪しい人を見つけることは出来なかった。
「そもそも、ホウリさんが見つけられない人を僕が見つけられる訳ないでしょ。完全に時間の無駄だよね」
そんな愚痴を言いつつ、宿の扉を開けて中に入る。
「ただいま戻りましたー」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様」
「お疲れじゃ。その様子を見るに成果は無かったようじゃな」
食堂に入るとホウリさんとミエルさんとフランさんが、席座って待っててくれていた。珍しく他の宿泊客の方の姿は見えない。
僕はフランさんの隣に座り、正面のホウリさんに抗議の目を向ける。
「当たり前ですよ。この広いオダリムにいる裏切者を僕だけで探せる訳ないじゃないですか」
「だろうな」
「分かっててやらせたんですか!?」
「貴様、ロワに何をやらせている?」
ホウリさんの言葉にミエルさんも鋭い視線を向けた。すると、ホウリさんは弁明を始めた。
「怒るなよ。成果が無くても意味はあるんだよ」
「どんな意味だ?納得できない場合は考えがあるぞ?」
「考えってなんだ?」
「詳しくは言えないが、ロープと大剣を使うことだけは伝えておこう」
「縛って叩き切るつもりだな?」
「どうだろうな?」
「伏せる意味あるのかよ」
ホウリさんはため息を吐きつつ説明を続ける。
「実はな裏切者の目星は付いているんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。その裏切者を見つけるためにロワには街を歩いて貰ったわけだ」
「どういう理由なんだ?」
「簡単に言えば時間稼ぎだな。詳しくは省くが、ロワに街をうろつかせることによって、裏切者の行動を制限させたんだよ」
「監視みたいなことか?」
「そういう風に考えて貰ってもいい」
自分の行動は意味があったみたいだ。良かった。
僕が胸を撫でおろしていると、ホウリさんが説明を続けた。
「それで、その裏切者っていうのは誰なのか」
「それが一番重要だな」
「僕らが知っている人ですか?」
「ああ。よく知っている人物だ。ロワには街をうろついている間に、そいつを見つけて欲しかったんだがな」
「その人が誰かも分からないんですし、探すのは無理ですって」
「それはどうかな。さっきも言っただろ?『何かがどうしてどうなった』って」
「『犬も歩けば棒に当たる』です。二回目ですし、絶対にわざとですよね?」
「へぇ?そんな言葉があるんだ。知らなかった」
こんな時にもからかってくるなんて。ホウリさんってこんなに意地悪だったっけ?
「まあ良いです。それで肝心の裏切者は誰なんですか?」
僕が質問すると、ホウリさんは無言でニヤつきながら頬杖をついた。
「ホウリさん?どうしたんですか?」
「なあ、ロワ。1つ聞いてもいいか?」
僕が首を傾げていると、対面に座っているミエルさんが不思議そうな顔をした。
「なんでしょうか?」
「犬ってなんだ?」
「……へ?」
ミエルさんの言葉に、僕の心臓が跳ね上がる。
「え?え?何言ってるんですか?あの犬ですよ。プードルとか、土佐犬とか」
「プードル?土佐犬?」
ミエルさんは不思議そうに首を傾げる。この様子だと本当に知らないみたいだ。
慌てている僕をホウリさんは面白そうに眺めている。
「知らなかったのか?この世界に犬はいないんだぜ?」
「ど、どういう事なんですか?」
「あの神が猫派なんだと。だからって犬をこの世界に作らない理由にはならないと思うんだけどな。それで……」
ホウリさんがニヤリと笑いながら立ち上がる。
「どこで犬を知ったんだ?」
「それは……前にホウリさんから聞いたから……」
「いつだ?俺はこの世界で犬のことを言った覚えはないんだが?」
「その……」
皆が僕を見る目が奇異なものに変わっていく。僕はこの状況を打開できる方法を考える。けど、何も思いつかない。
「どうした?上手い言い訳が思いつかないのか?ロワに憑依した裏切者くん?」
ホウリさんの言葉に僕は深くため息をついて俯く。
「はぁ、どうして……」
僕は立ち上がりながら呟く。
「どうして分かったんすか?」
もう誤魔化すのは難しいみたいっすね。というか、キムラ・ホウリがいるなら、言いくるめるのも難しいか。
おいらが諦めて立ち上がると、ミエル・クランが目つきを鋭くして大剣を取り出した。
「貴様、何者だ?」
「キムラ・ホウリが言った通りっすよ。おいらが裏切者っす」
「本物のロワは何処だ!」
今にも切りかからんばかりの勢いで、ミエル・クランが叫ぶ。すると、おいらの代わりにキムラ・ホウリが答えた。
「こいつは本物のロワだ。だが、中に敵が憑依していて、ロワを操っているんだ」
「良く分かったっすね?」
「情報を盗んだ奴らの足取りは掴んでいた。けどな、そいつらは何も覚えてなかったんだよ」
どうやら、裏切者が分からないっていうのは嘘だったみたいっすね。すっかり騙されたっす。
「つまり、何者かがそいつらを遠隔で操るか、憑依して情報を探っているんじゃないかって思ってな。どうやら憑依されているのが正解だったみたいだな」
「そういう事っすよ。だから、その大剣を仕舞ってほしいっす。下手に攻撃すればロワ・タタンも死ぬっすよ?」
大げさに腕を広げて見せると、ミエル・クランが悔しそうな表情で大剣を下ろした。
「懸命な判断っすね。それで、なんでおいらがロワ・タタンに憑依しているって分かったんすか?」
「動き方がロワよりも微妙に違ったからな。ロワに遠隔で命令しているなら動きが違うのは可笑しい。憑依してロワのフリをしていると判断した」
「なんだ、最初からバレてたんすか」
おいらが憑依する時は内面までその人物になり切る。それがバレないためのコツだったんだが、キムラ・ホウリには通用しなかったみたいだ。
「おいらが偽物の可能性は考えなかったんすか?」
「フランに頼んで街の中のロワの反応を探して貰った、そしたら、お前しか反応が無かった」
「そういう訳でロワがお主に憑依されていたと気付いた訳じゃな。全く面倒じゃ。偽物じゃったら、ぶっ飛ばすだけで解決じゃったのに」
「その発想が出てくるのは中々に野蛮だと思うっすよ?」
能力次第では殴られてたんだ。危なかった。
「あんな会話をしていたのは、おいらがロワ・タタンじゃないことの確認っすか?」
「その通りだ。ちなみに、会話でボロを出さなかった時のために、色々と仕込んでたんだぜ?例えば……」
キムラ・ホウリが指を鳴らす。瞬間、どこからか『プルルルル』という電話の音が聞こえた。
「これに反応すれば地球人だ。この世界には電話は無いからな」
「色々と考えてたんすね。そこまでおいらがロワ・タタンじゃないって確認しかったんすか?」
「あと、お前らが日本人っていうことも確認したかったんだよ」
「おいら達が日本人っていうことも目星がついてたんすか?」
「ふうん?適当に言ったが当たっていたか」
あ、しまった。語るに落ちてしまった。
「ふっ、流石はキムラ・ホウリ。けど、そんなのが分かってもどうってことないっすね」
「まあな」
キムラ・ホウリが涼しい顔でサラリと言う。なんだか余裕そうな感じで腹が立つ。
「まあ良いっす。今回はおいらの負けを認めるっす」
「なんだ?ここから逃げられるみたいな口ぶりだな?」
「逃げられるんすよ」
おいらがスキルを解除すると、ロワ・タタンは力なく倒れた。そして、倒れたロワ・タタンから、黒いモヤが立ちあがる。そして、モヤはおいらの体を形成していった。
「なるほどな、自分の体をモヤにして相手に憑依するスキルか」
「そうっすよ。便利で羨ましいっすか?」
「羨ましいな。情報の収集にも戦闘にも役に立ちそうだ」
「ま、自分は戦う気は無いっすけどね」
憑依していても痛いのは痛い。戦うのは魔物どもに任せるほうがよっぽどいい。
「そういう訳っすから、自分は逃げるっす」
「その言い草は逃げる手段があるってことだな?」
「あるっすよ。自分の姿を陰に変えて遠くにワープするってスキルっす」
このスキルはワープ禁止の結界には妨害されない。だから、森に情報を渡しに行くのにかなり便利だ。
「しかも、影になっている間はスキルとかが一切効かないっす。例え史上最強の魔王であってもっす」
「だから余裕だったという訳か」
キムラ・ホウリは慌てずにおいらを見据えている。あの表情はまだ何かある?けど、何があろうとおいらのスキルは止められない。
「じゃあねっす!もう会う事はないと思うっすけど!」
そう言い残し、おいらはスキルを発動させる。すると、おいらの体は影に溶け込んでいって、宿から姿を消した。
「……あれ?」
ことはなく、そのまま宿に立ち尽くしていた。
「な、なんで影になれないんすか!?」
「その答えはただ一つ。お前にそんなスキルは無いからだ」
「そんなことは無いっす!今までだっておいらは影になって皆の元に向かったっすよ!」
「今は使えないんだよ。嘘だと思うなら、ステータスを見てみろよ」
背中に悪寒を感じながら、おいらはステータスを出現させる。
「ほ、本当にスキルが無くなっている……一体何をしたんすか!?」
『それは私の仕業だよ』
おいらの質問に、聞いたことが無い声が答えた。
「誰っすか!?」
『私?私は神様だよ。君のところの神様とは違うけどね』
「か、神!?」
「この宿の下には魔法陣が書いてあってな。さっきの電話のコール音は魔法陣を起動して、天界の神を呼び出した音だ」
他にも神がいるとは聞いていたけど、接触するとは思っていなかった!
「みっちゃんの力で、ロワから出た時にお主のスキルを全て消し去った。今のお主はただの人間じゃ。逃げられると思わんほうが良いぞ」
「そ、そんな……」
「さてと」
キムラ・ホウリが笑顔でおいらに近づいてくる。だが、その笑顔には妙な迫力があって、おいらは動く事ができない。
「お前には聞きたい事が山ほどある」
「お、お前たちに話す事なんて何もない!」
「爪が全部無くなった後も同じセリフが言えると良いな」
笑顔のまま優しくキムラ・ホウリが告げる。
これから自分の身に起こる事を察して、おいらの体が震え始める。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い────
「そんなに怯えるなよ。俺は素直な奴には優しいんだぜ?」
「あ、ああ……」
体から力が抜けて、思わず尻餅を付いてしまう。
「じゃあ、楽しい楽しい監獄へご招待だ」
「ひいい……」
そして、あまりの恐怖においらは意識を手放したのだった、
「1人で怪しい人を探せだなんて無茶だよ」
ホウリさんが去った後、僕は1人で街で怪しい人を探した。けど、都合よく怪しい人を見つけることは出来なかった。
「そもそも、ホウリさんが見つけられない人を僕が見つけられる訳ないでしょ。完全に時間の無駄だよね」
そんな愚痴を言いつつ、宿の扉を開けて中に入る。
「ただいま戻りましたー」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様」
「お疲れじゃ。その様子を見るに成果は無かったようじゃな」
食堂に入るとホウリさんとミエルさんとフランさんが、席座って待っててくれていた。珍しく他の宿泊客の方の姿は見えない。
僕はフランさんの隣に座り、正面のホウリさんに抗議の目を向ける。
「当たり前ですよ。この広いオダリムにいる裏切者を僕だけで探せる訳ないじゃないですか」
「だろうな」
「分かっててやらせたんですか!?」
「貴様、ロワに何をやらせている?」
ホウリさんの言葉にミエルさんも鋭い視線を向けた。すると、ホウリさんは弁明を始めた。
「怒るなよ。成果が無くても意味はあるんだよ」
「どんな意味だ?納得できない場合は考えがあるぞ?」
「考えってなんだ?」
「詳しくは言えないが、ロープと大剣を使うことだけは伝えておこう」
「縛って叩き切るつもりだな?」
「どうだろうな?」
「伏せる意味あるのかよ」
ホウリさんはため息を吐きつつ説明を続ける。
「実はな裏切者の目星は付いているんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。その裏切者を見つけるためにロワには街を歩いて貰ったわけだ」
「どういう理由なんだ?」
「簡単に言えば時間稼ぎだな。詳しくは省くが、ロワに街をうろつかせることによって、裏切者の行動を制限させたんだよ」
「監視みたいなことか?」
「そういう風に考えて貰ってもいい」
自分の行動は意味があったみたいだ。良かった。
僕が胸を撫でおろしていると、ホウリさんが説明を続けた。
「それで、その裏切者っていうのは誰なのか」
「それが一番重要だな」
「僕らが知っている人ですか?」
「ああ。よく知っている人物だ。ロワには街をうろついている間に、そいつを見つけて欲しかったんだがな」
「その人が誰かも分からないんですし、探すのは無理ですって」
「それはどうかな。さっきも言っただろ?『何かがどうしてどうなった』って」
「『犬も歩けば棒に当たる』です。二回目ですし、絶対にわざとですよね?」
「へぇ?そんな言葉があるんだ。知らなかった」
こんな時にもからかってくるなんて。ホウリさんってこんなに意地悪だったっけ?
「まあ良いです。それで肝心の裏切者は誰なんですか?」
僕が質問すると、ホウリさんは無言でニヤつきながら頬杖をついた。
「ホウリさん?どうしたんですか?」
「なあ、ロワ。1つ聞いてもいいか?」
僕が首を傾げていると、対面に座っているミエルさんが不思議そうな顔をした。
「なんでしょうか?」
「犬ってなんだ?」
「……へ?」
ミエルさんの言葉に、僕の心臓が跳ね上がる。
「え?え?何言ってるんですか?あの犬ですよ。プードルとか、土佐犬とか」
「プードル?土佐犬?」
ミエルさんは不思議そうに首を傾げる。この様子だと本当に知らないみたいだ。
慌てている僕をホウリさんは面白そうに眺めている。
「知らなかったのか?この世界に犬はいないんだぜ?」
「ど、どういう事なんですか?」
「あの神が猫派なんだと。だからって犬をこの世界に作らない理由にはならないと思うんだけどな。それで……」
ホウリさんがニヤリと笑いながら立ち上がる。
「どこで犬を知ったんだ?」
「それは……前にホウリさんから聞いたから……」
「いつだ?俺はこの世界で犬のことを言った覚えはないんだが?」
「その……」
皆が僕を見る目が奇異なものに変わっていく。僕はこの状況を打開できる方法を考える。けど、何も思いつかない。
「どうした?上手い言い訳が思いつかないのか?ロワに憑依した裏切者くん?」
ホウリさんの言葉に僕は深くため息をついて俯く。
「はぁ、どうして……」
僕は立ち上がりながら呟く。
「どうして分かったんすか?」
もう誤魔化すのは難しいみたいっすね。というか、キムラ・ホウリがいるなら、言いくるめるのも難しいか。
おいらが諦めて立ち上がると、ミエル・クランが目つきを鋭くして大剣を取り出した。
「貴様、何者だ?」
「キムラ・ホウリが言った通りっすよ。おいらが裏切者っす」
「本物のロワは何処だ!」
今にも切りかからんばかりの勢いで、ミエル・クランが叫ぶ。すると、おいらの代わりにキムラ・ホウリが答えた。
「こいつは本物のロワだ。だが、中に敵が憑依していて、ロワを操っているんだ」
「良く分かったっすね?」
「情報を盗んだ奴らの足取りは掴んでいた。けどな、そいつらは何も覚えてなかったんだよ」
どうやら、裏切者が分からないっていうのは嘘だったみたいっすね。すっかり騙されたっす。
「つまり、何者かがそいつらを遠隔で操るか、憑依して情報を探っているんじゃないかって思ってな。どうやら憑依されているのが正解だったみたいだな」
「そういう事っすよ。だから、その大剣を仕舞ってほしいっす。下手に攻撃すればロワ・タタンも死ぬっすよ?」
大げさに腕を広げて見せると、ミエル・クランが悔しそうな表情で大剣を下ろした。
「懸命な判断っすね。それで、なんでおいらがロワ・タタンに憑依しているって分かったんすか?」
「動き方がロワよりも微妙に違ったからな。ロワに遠隔で命令しているなら動きが違うのは可笑しい。憑依してロワのフリをしていると判断した」
「なんだ、最初からバレてたんすか」
おいらが憑依する時は内面までその人物になり切る。それがバレないためのコツだったんだが、キムラ・ホウリには通用しなかったみたいだ。
「おいらが偽物の可能性は考えなかったんすか?」
「フランに頼んで街の中のロワの反応を探して貰った、そしたら、お前しか反応が無かった」
「そういう訳でロワがお主に憑依されていたと気付いた訳じゃな。全く面倒じゃ。偽物じゃったら、ぶっ飛ばすだけで解決じゃったのに」
「その発想が出てくるのは中々に野蛮だと思うっすよ?」
能力次第では殴られてたんだ。危なかった。
「あんな会話をしていたのは、おいらがロワ・タタンじゃないことの確認っすか?」
「その通りだ。ちなみに、会話でボロを出さなかった時のために、色々と仕込んでたんだぜ?例えば……」
キムラ・ホウリが指を鳴らす。瞬間、どこからか『プルルルル』という電話の音が聞こえた。
「これに反応すれば地球人だ。この世界には電話は無いからな」
「色々と考えてたんすね。そこまでおいらがロワ・タタンじゃないって確認しかったんすか?」
「あと、お前らが日本人っていうことも確認したかったんだよ」
「おいら達が日本人っていうことも目星がついてたんすか?」
「ふうん?適当に言ったが当たっていたか」
あ、しまった。語るに落ちてしまった。
「ふっ、流石はキムラ・ホウリ。けど、そんなのが分かってもどうってことないっすね」
「まあな」
キムラ・ホウリが涼しい顔でサラリと言う。なんだか余裕そうな感じで腹が立つ。
「まあ良いっす。今回はおいらの負けを認めるっす」
「なんだ?ここから逃げられるみたいな口ぶりだな?」
「逃げられるんすよ」
おいらがスキルを解除すると、ロワ・タタンは力なく倒れた。そして、倒れたロワ・タタンから、黒いモヤが立ちあがる。そして、モヤはおいらの体を形成していった。
「なるほどな、自分の体をモヤにして相手に憑依するスキルか」
「そうっすよ。便利で羨ましいっすか?」
「羨ましいな。情報の収集にも戦闘にも役に立ちそうだ」
「ま、自分は戦う気は無いっすけどね」
憑依していても痛いのは痛い。戦うのは魔物どもに任せるほうがよっぽどいい。
「そういう訳っすから、自分は逃げるっす」
「その言い草は逃げる手段があるってことだな?」
「あるっすよ。自分の姿を陰に変えて遠くにワープするってスキルっす」
このスキルはワープ禁止の結界には妨害されない。だから、森に情報を渡しに行くのにかなり便利だ。
「しかも、影になっている間はスキルとかが一切効かないっす。例え史上最強の魔王であってもっす」
「だから余裕だったという訳か」
キムラ・ホウリは慌てずにおいらを見据えている。あの表情はまだ何かある?けど、何があろうとおいらのスキルは止められない。
「じゃあねっす!もう会う事はないと思うっすけど!」
そう言い残し、おいらはスキルを発動させる。すると、おいらの体は影に溶け込んでいって、宿から姿を消した。
「……あれ?」
ことはなく、そのまま宿に立ち尽くしていた。
「な、なんで影になれないんすか!?」
「その答えはただ一つ。お前にそんなスキルは無いからだ」
「そんなことは無いっす!今までだっておいらは影になって皆の元に向かったっすよ!」
「今は使えないんだよ。嘘だと思うなら、ステータスを見てみろよ」
背中に悪寒を感じながら、おいらはステータスを出現させる。
「ほ、本当にスキルが無くなっている……一体何をしたんすか!?」
『それは私の仕業だよ』
おいらの質問に、聞いたことが無い声が答えた。
「誰っすか!?」
『私?私は神様だよ。君のところの神様とは違うけどね』
「か、神!?」
「この宿の下には魔法陣が書いてあってな。さっきの電話のコール音は魔法陣を起動して、天界の神を呼び出した音だ」
他にも神がいるとは聞いていたけど、接触するとは思っていなかった!
「みっちゃんの力で、ロワから出た時にお主のスキルを全て消し去った。今のお主はただの人間じゃ。逃げられると思わんほうが良いぞ」
「そ、そんな……」
「さてと」
キムラ・ホウリが笑顔でおいらに近づいてくる。だが、その笑顔には妙な迫力があって、おいらは動く事ができない。
「お前には聞きたい事が山ほどある」
「お、お前たちに話す事なんて何もない!」
「爪が全部無くなった後も同じセリフが言えると良いな」
笑顔のまま優しくキムラ・ホウリが告げる。
これから自分の身に起こる事を察して、おいらの体が震え始める。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い────
「そんなに怯えるなよ。俺は素直な奴には優しいんだぜ?」
「あ、ああ……」
体から力が抜けて、思わず尻餅を付いてしまう。
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