25人の探偵物語

唯野bitter

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探偵は25人いる

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 とある場所にキャラメル探偵事務所という事務所があった。その探偵事務所には25人の探偵が在籍していた。
 超能力者や発明家といった個性豊かな探偵がいるのも特徴の一つだ。しかし、最大の特徴は3年前の事件を解決したところにある。
 3年前、日本では国家が転覆するほどの事件が同時に何件も起きた。その時、全ての事件を解決したのが、木村探偵事務所の探偵だった。
 その後、キャラメル探偵事務所は世界中に名声が轟いたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆



 その日、1人の女性がキャラメル探偵事務所を訪れていた。栗毛の髪に小柄な背丈、スーツを身に身にまとっているが、幼さが強く着慣れていない感じが出ている。
 そんな女性がキャラメル探偵事務所の中にある扉の前にいた。


「ふぅ、緊張するなぁ」


 扉の上には所長室という札が掛かっている。この女性はキャラメル探偵事務所の新入社員だ。朝いちばんに所長室にくるように言われたこの女性は、緊張を抑えながら扉の前に立っていた。


「よし!行くぞ!」


 深呼吸して心を落ち付けた後、女性は扉を開けた。


(ガチャ)
「失礼します。今日からお世話になる───」
「貴様ぁ!わしのプリンを勝手に食ったな!」
「ごめんなさい!わざとじゃないんです!」
「知った事か!介錯するからそこに直れ!」
「痛ああああ!瞼をつねるのはやめてぇぇぇぇぇぇ!」
(バタン)


 女性は扉を閉める。


「えーっと?今のは?」


 部屋の中での光景に困惑していた女性だったが、頭を振って記憶を追い出す。


「よし!行くぞ!」


 気を取り直して女性はドアノブに手を掛ける。そして、今度は少しずつ扉を開けて中を覗き込んだ。


(ガチャ)
「……失礼しまーす」
「お願いします!許してください!」
「許せるか!貴様の命が100個あってもプリンと釣り合うと思うでないぞ!」
「僕の命の価値が低すぎませんか!?」
「限定品のプリンじゃぞ!?役に立たない貴様の命なんかよりも価値があるに決まっておるじゃろ!」
(バタン)


 再び女性は扉を閉める。


「……私がいるのって探偵事務所よね?処刑場じゃないわよね?」


 女性がスマートフォンで位置を確認するが、GPSはキャラメル探偵事務所の位置を示している。



「噂に聞いていたよりも変な事務所ね」


 このままでは埒が明かないと思った女性は、扉をそっと開ける。


「さあ介錯してやる!辞世の句を読め!」
「ハンマーを手に言うセリフじゃないですよね!?」
「ならば素手で潰してやる!覚悟せい!」
「介錯って刀じゃないんですか!?」
「フランそろそろ止めろ」


 ハンマーを持った女性を、立派なデスクに座っている男性が静止する。



「新入社員が入って来にくそうにしているだろ。処刑は後にしてくれ」
「後回しじゃなくて止めてくれませんか!?」


 女性に迫られていたマスクをつけた男性が、切実な様子で叫ぶ。


「私の事、気付いてたんだ」


 部屋を覗いていた女性は扉を開け切って、部屋の中へと入る。
 すると、フランと呼ばれた女性はハンマーを壁に立てかけて、デスクに座っている男性の横に立つ。


「ロワの皮を剥ぐのは後にしよう。今は新入社員のことが最優先だ」
「皮を剥がれるのは聞いてないんですが?」


 ロワと呼ばれたマスクをつけた男性が目をひん剥きながら立ち上がる。


「ロワをいじめるのはやめてくれ。プリンが原因で優秀な探偵を失うわけにはいかない」
「ミエルさん……」


 ソファーに座っていた女性が立ちあがって、ロワと呼ばれた男性の前に立ちはだかる。


「まあ、プリンの話は置いておこう。まずは新入社員に説明からしないとな」
「お願いします」
「俺はこの探偵事務所の所長のホウリ。ソファーに腰かけてくれ、今お茶を出そう」
「そんなお構いなく」
「遠慮はいらない。所長命令だと思って腰かけてくれ」


 そこまで言われ断るのが悪いと思った女性は、言われた通りソファーに座る。
 すると、ホウリが女性の前に紅茶のカップとチョコが乗った皿を置く。


「俺特性のガナッシュ入りのチョコレートだ」
「いただいて良いのですか?」
「ああ。苦手なものがあれば言ってくれ。別の物を用意する」
「大丈夫です。いただきます」


 変わった探偵事務所だと思った女性は、出されたチョコを口に入れる。


「……既製品よりも何倍も美味しい。もしかして、手作りですか?」
「その通り、俺の手作りだ」
「ホウリのスイーツは超一級品じゃからな。これを目当てに依頼にくる者もおる」
「それならスイーツ店でも出した方が儲かるんじゃないですか?」
「老後の道楽としてなら考えても良いな。じゃあ、話を戻すぞ。食いながらで良いから聞いてくれ」


 女性はチョコを食べながらホウリの話を聞く。


「俺の名前はホウリ。この探偵事務所の所長をしている」
「存じております」


 ホウリと名乗った男は、黒く短い髪でスーツを着ていた。顔はあまり特徴が無いが、無表情で威圧感を感じる。
 木村探偵事務所の探偵は所長のホウリ以外には情報が無い。依頼人でさえ最低限の情報しか知らされず、世間には情報があまり出回っていない。


「キャラメル探偵事務所は25人の探偵が所属する探偵事務所だ。俺が依頼を受けて適した探偵を派遣することで、事件を解決する」
「なるほど。ここにいる方々は探偵なんですね」
「そういうことだ。順番に自己紹介してくれ」
「では、まずはわしからじゃな」


 ホウリの隣に立っていた小柄で赤髪でツインテールのフランと名乗っていた女性が手を上げる。


「わしはフラン。暴力探偵じゃ。特技は暴力、得意武器は素手じゃ」
「待ってください!?聞きなれないことが多いんですけど!?」
「そうですよ、得意武器をいきなり言われても困りますよ」
「そうですけど、そっちが先じゃないです!」
 

 女性が思わず立ち上がり、室内に大きな音が響く。


「暴力って言いましたよね!?暴力を宣言する探偵なんて前代未聞なんですけど!?」
「わしの探偵は暴力じゃからな。犯人も犯人じゃない者も同様にボコボコにしてやるわい」
「せめて犯人だけにしてくれませんか!?」


 女性は叫んだ後に、フランが置いたハンマーに気が付く。


「そういえば、ハンマー使ってましたよね?素手の方が得意なんですか?」
「素手で頭を潰すと汚れるからのう」
「それだけの理由なんですか!?」
「うむ。わしは武器を使わない方が強いからのう」
「聞いて分かる通り、フランは武力を担当してもらっている」
「わしに掛かれば、どんな者だろうとボコボコにできるからのう」
「探偵に武力っていりますか?」
「犯人が暴れたりした時に取り抑えられるだけの武力がいるからな」
「そういうものですか」


 女性が落ち着きを取り戻してソファーに座りなおす。


「ちなみに、普段のフランは俺の補佐をして貰っている」
「中々暴れられんのが残念じゃがな」
「お前が本気で暴れたら国が亡ぶ。俺が指示した時以外はやめてくれ」
「……フランさんってそんなに強いんですか?」
「地球の全戦力を結集しても蹴散らすくらいには強い」
「……冗談ですよね?」
「本気だ」
「……フランさんは怒らせない様にしよう」
「安心せい。わしはそう簡単に怒らん」
「プリン食べられて怒ってませんでした?」
「プリン食われたら殺すじゃろ?」
「何も可笑しいところはないな」
「なんでホウリさんが同意しているんですか!?」


 ホウリとフランが大きく頷いている中、女性は天井を仰ぐ。変なところに来てしまった、そんな公開が見て取れる。



「他の人も戦えるんですか?」
「全員じゃないがのう。大体の奴は得意武器がある」
「お二人も戦えるんですか?」
「ええ」
「丁度いい、次はロワが自己紹介してくれ」
「分かりました」


 ロワと呼ばれた人物が笑顔で一歩前に出る。緑色の短い髪で中肉中背でスーツを着ている男だ。しかし、よく見ると胸板や腕に筋肉が付いていることが分かり、力強さを感じる。
 そして最大の特徴は口を覆っているマスクだ。


「初めまして、僕の名前はロワ。幸運探偵です」
「幸運探偵?」
「僕は運が良いんです」
「え?運だけで事件を解決するんですか?」
「運だけじゃないですよ」
「こいつの幸運はそんなに都合の良いものじゃない。せいぜい、運よく事件の手がかりを見つけられるくらいだ」
「それでも十分ですけどね。ちなみに、ロワさんも戦えるんですか?」
「戦えますよ」


 ロワがスーツの中からリボルバーを取り出す。


「僕は銃が得意です。銃弾が届く距離であれば、どんな目標にも当てられます」
「へぇ、そうなんですか。……よくよく考えると、とんでもない能力ですね?」
「そうですか?銃が無いと戦えませんし、皆と比べると弱い気がしますけど?」
「理想が高い気がしますけどね」
「そういう訳で、僕の仕事は事件の手がかりを見つけることと銃を撃つくことです」
「銃は撃たないで済むのが良いと思いますけどね」
「ですね」


 ロワが笑いながらリボルバーを懐に仕舞う。


「次は私だな」


 今度はミエルと名乗った人物が前に出る。
 ミエルは長身でスタイルが良かった。金色の長髪が美しく、道を歩けばどんな人物でも振り向くような美貌。可愛いよりも綺麗という印象を受ける彼女は、探偵よりも芸能人などの方が似合っていると感じるだろう。


「私はミエル、記憶探偵だ」
「どういう探偵ですか?」
「見たことを絶対に忘れない能力だ」
「完全記憶能力って奴ですね」


 女性はちゃんとした人だと思い、胸を撫でおろす。


「私の仕事は事件を記憶して推理することだ」
「ロワさんが手がかりを見つけ、ミエルさんが覚えて解決するって感じですか?」
「ロワと組む時は、そんな感じだな」
「他に変わった特技とか無いんですか?」
「あ、えっと……」


 女性の質問にミエルが答えにくそうに顔を反らせる。


「どうしたんですか?」
「その……なんだ……」
「ミエルは一番耐久力が高い」
「耐久力?」


 ピンと来ていないのか、女性は首を傾げる。想定内の反応だったのかホウリは淀みなく説明を続ける。


「フランは暴力が得意っていっただろ?」
「はい」
「そんなフランが暴力で唯一殺せないのがミエルだ」
「……へ?」


 女性がミエルとフランを交互に見て、目を丸くする。


「フランさんって国も亡ぼせるんですよね?」
「そうじゃな」
「そんなフランさんがミエルさんだけ殺せない?」
「そうだな」
「無敵ってことですか?」
「厳密には違うが、無敵に近いと思っても良い」
「なるほど。あと、もう一つ聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「ミエルさんは何で恥ずかしそうにしてるんですか?」


 女性の言う通り、ミエルは顔を赤らめて顔を覆っている。
 恥ずかしがっているミエルに変わって、横にいるロワが説明を始める。


「ミエルさんは耐久力とか固いって言われるのが苦手らしいんです」
「だって……耐久力が高いなど、女の子っぽくないだろう……?」
「そういうものですかね?」


 顔を真っ赤にしているミエルを見て、女性はそう言うものなのだと飲み込む。
 深呼吸をして必死に心を落ちつけているミエルに、女性は質問をぶつける。


「ミエルさんは得意武器はあるんですか?」
「私はレイピアを扱う」


 ミエルはスーツの胸元から銀色に輝くレイピアを引き抜く。


「……そのレイピアは何処から出したんですか?」
「服の中からですよ」
「私達は服の中に武器を仕込めるように訓練している。勿論、武器を仕舞っていても動きに影響はない」
「服に仕込める長さを越えてると思うんですけど?」


 レイピアは柄と刃を合わせて1mはある、とても服に仕込める長さとは思えない。


「秘伝の技術を使っているからな。倍の長さでも服に仕込める」
「その技術、後で教えてくれませんか?」
「時間がある時に教えよう」
「私の自己紹介は以上だ」


 ミエルの自己紹介を終え、探偵側の自己紹介が終わる。


「最後は私ですね。私の名前は───」
「ちょっと待った」


 女性の自己紹介をホウリが止める。


「あの?なんですか?」
「俺達の自己紹介を聞いて何か気付かなかったか?」
「そういえば、変わったお名前だとは思いましたけど?」
「鋭いのう。わしらの名前は本名ではない」
「コードネームって奴です」
「探偵っぽいですね。ですが、必要なんですか?」
「見バレしにくくするために必要なことだ」
「探偵は恨みも買いやすいからのう」
「なるほど」


 女性は納得したように頷く。


「そう言う訳で君にもコードネームを付けたいと思う。何か希望はあるかい?」
「コードネームですか。そうですね……」


 女性は悩みながら目の前の皿に視線を落とす。皿の上には残り1つとなったガナッシュのチョコレートがあった。


「ナッシュ、とかどうですか?」
「ガナッシュのナッシュか。良いんじゃないか?」
「そうですか?適当に決めたかなって思ったんですけど?」
「それくらい適当で良い。自身に結び付けた名前は身バレに繋がる可能性が高い」
「決まりじゃな。よろしくな、ナッシュ」
「よろしくお願いします」


 ナッシュが丁寧に頭を下げる。


「自己紹介は済んだな。じゃあ、ナッシュの仕事について説明するぞ」
「お願いします」
「ナッシュの仕事は探偵どもの補佐と事件の記録だ」
「補佐は分かりますけど、事件の記録ってなんですか?」
「事件の始まりから終わりまで、何が起こったのかや誰がどんな発言をしたのかを記録して報告してほしい」
「ロワさんやミエルさんは報告しないんですか?」
「探偵にも報告はしてもらうが、虚偽の報告が多い」
「虚偽の情報?」


 聞きなれない言葉にナッシュが首を傾げる。


「探偵たちの中には、自分の活躍を盛ったり、過失を隠そうとする奴がいる。なあ、ロワ?」
「な、なんのことですか?」
「明らかに動揺してますね」


 目を泳がせて、動揺しているのがまるで隠せていないロワ。
 そんなロワを見ながら苦笑いをするナッシュ。


「分かりました。きっちり記録させていただきます」
「頼んだぞ。お前らも補佐のナッシュを困らせるなよ。特にロワ」
「そんな困らせるような事なんて言いませんよ」
「本当か?試しにナッシュに何を頼むか言ってみろ」
「肩もみとか、おつかいとか、ゲームの相手とかですかね?」
「ナッシュ、ロワの言う事だけは聞かなくて良いぞ」
「なんでぇ!?」


 涙目のロワを無視して、ホウリは話を進める。


「口で説明されても分かりにくいだろう。早速、ロワとミエルの補佐をして貰おう」
「補佐と言われましても、依頼はあるんですか?」
「ありますよ」
「今から向かう予定だ」
「え?今からですか?」


 目を丸くして口をポカンと開けるナッシュ。


「随分と急ですね?」
「僕達は事前に説明されてましたよ?」
「私にも事前に説明してほしかったんですけど?」
「これからも依頼が突然来る可能性があるからな。咄嗟に出動する訓練だと思ってくれ」
「説明が面倒なだけでは?」
「それもある」
「せめて取り繕ってくれませんか!?」


 ホウリが表情を変えずに言っているため、本気か冗談か分からない。


「依頼の詳細は2人に聞いてくれ」
「はぁ、分かりましたよ」


 言っても無駄だと判断したナッシュは、観念して残りのチョコレートを口に放り込んで立ち上がる。


「行ってきますね」
「おう」
「あの、1つ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「3年前の事件についてです」


 その言葉を聞いた途端、ホウリが眉を顰める。瞬間、部屋の中に体が動かなくなるほどの緊張感に包まれる。
 息をするのも躊躇われるような雰囲気の中、ホウリは口を開いた。


「悪いが話すことは無い。早く行ってくれ」
「す、すみませんでした。行ってきます」


 ナッシュはペコリと頭を下げる。そして、逃げるように所長室から出ていったのだった。


「ロワとミエルも出発してくれ」
「分かりました」
「行ってくる」


 ロワとミエルも所長室から続けて出ていった。
 こうして、探偵たちは事件へと立ち向かって行ったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「こんな感じかな」


 私は試しに書いてみた報告書を読み返してみる。


「やっぱり上手く書けないなぁ」
「どうしました?」


 私の背後からロワさんが手帳を覗き込んでくる。


「実は報告書を書いているんですが、しっくりこなくて」
「そうなんですか。見せてくれませんか?」
「別に良いですよ」


 私は手帳をロワさんに渡す。ロワさんは手帳の中を軽く読むと、私に返してくれた。


「報告書っていうより小説って感じですよね」
「ですよね。これを提出しても良いんでしょうか」
「別に良いのではないか?」



 私とロワさんが話していると、後ろからミエルさんに話しかけられた。


「ホウリは体裁を気にするような奴ではない。自身が分かりやすく書けるのであれば、小説のような内容でも良いだろう」
「そうなんですか」


 だったら、私の書きたいように書いておこう。手帳を閉じて懐に仕舞う。


「それよりも早く行くぞ」
「そうですね。依頼人の人を待たせるわけにはいきません」
「分かりました」


 探偵所の中を出ていくお二人を追いかける。こうして、私の探偵生活が始まったのだった。
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