25人の探偵物語

唯野bitter

文字の大きさ
7 / 11

第2事件 ゾンビ事件 その1 

しおりを挟む
 失踪事件を解決した次の日、ナッシュは再びキャラメル探偵事務所の所長室の前に立っていた。


「今日から本番かぁ。不安だなぁ」


 先日の失踪事件は神経を削るほどに過酷な依頼だった。しかし、依頼を終えた際に言われたのは、今回の依頼は軽かったということ。あれ以上に過酷な依頼をこなすと考えると、憂鬱にもなる。


「いつまでもこうしている訳にもいかないよね」


 ナッシュは意を決してドアノブを捻る。


「おはようございます」


 所長室に入ると、昨日と同じように所長のホウリがデスクに座っていた。横にはフランが立っている。
 ただ、昨日とはいる探偵が違った。
 所長室にいる探偵は2人。1人は白衣を着た女性。肌は青白く、銀色の長い髪はボサボサ。不健康そうな出で立ちで探偵の雰囲気はまるでない。背丈は中学生に間違えそうなほどに低く、やる気が無さそうに頭を掻いている。
 もう1人は普通の男性だった。体系は中肉中背。格好は白いTシャツに黒いジャケットを羽織っており、ジーパンを履いている。そして、不気味なほどに身動きをしていない。人間ではなく精巧な人形だと言われた方が納得できる。


「誰だ?」


 白衣の女性がナッシュを見て眉を顰める。明らかに歓迎している様子ではない。
 ナッシュは身を縮こませながら所長室に入る。


「あの、お邪魔でしたか?」
「おはようさん。別に邪魔じゃないから気にするな」
「ですが、歓迎されていない気がするんですけど?」
「こいつの機嫌が悪いのはいつもの事だ。気にするな」
「そうは言われましても……」


 居心地が悪そうにナッシュは白衣の女性に視線を向ける。


「ホウリ、こいつはなんだ?」
「そうだな。先に自己紹介からしてもらうか」
「あの!私はこの探偵事務所の助手になりましたナッシュです!」
「そうか。私は発明探偵のリルアだ」
「よろしくお願いします!」
「ああ」


 その言葉を最後に所長室には沈黙が流れた。沈黙に耐え切れなくなったのか、ホウリが話し始めた。


「リルアはコミュニケーションが下手でな。親しい者以外とは会話が続きにくい」
「ということは、私が嫌われている訳ではないんですか?」
「そうだ」
「良かったぁ~」


 ホウリの言葉にナッシュは胸を撫でおろす。


「リルアさんは発明探偵って言ってましたよね?どんな発明をしたんですか?」
「スマホは支給されたかね?」
「ええ」
「あれを作ったのは私だ」
「そうなんですか!?」


 あれほどの機能を持つスマホを目の前の女の子が作った。その事実にナッシュが興奮する。


「他にはどんな発明をしたんですか!?」
「ロワに会ったのだろう?彼が使っている弾丸も私の発明品だ。他にも車などの乗り物も私が発明している」
「あの車もリルアさんが発明したんですか」


 発明品の話をしていると、心なしかリルアの顔も険しさが和らいできた。


「凄いですね!ちなみに今はどんな発明を───」
「盛り上がっているところ悪いが」


 ホウリが話を打ち切って、先ほどから動いていない男性を指さす。


「そろそろ、そいつを動かさないと不味いんじゃないか」
「……ああ。忘れていた」


  リルアが白衣のポケットからリモコンを取り出して、男性に向けてスイッチを押した。


「ぶはっ!はぁはぁ……」


 瞬間、男性が前かがみになって荒く呼吸し始めた。


「お前なぁ!?人を固めておいて忘れるんじゃねぇよ!死にかけただろうが!」
「生きているから別に良いではないか」
「良くない!」
「その話は後で頼む。まずはナッシュに自己紹介してくれ」
「そうだったな。悪い」


 動き出した男性はナッシュに笑顔で手を差し出した。


「俺の名前はシュン。よろしくな」
「私はナッシュです。よろしくお願いします」


 ナッシュがシュンとガッチリと握手を交わす。リルアと違い、コミュニケーションが取れることに胸を撫でおろす。


「シュンさんは何探偵なんですか?」
「あー、俺は〇〇探偵みたいな愛称は無いんだよ。皆のように特殊な能力は無いからな」
「何を言っている?私が愛称を付けただろう?」
「あんなの却下に決まってるだろ」
「どんな愛称なんですか?」
「モルモット探偵だ」
「そんなの名乗れるか!」
「何故だ?私のモルモットであるのだから、良い愛称だと思うが?」
「お前のモルモットになった覚えはないんだが!?」


 思いもしない愛称にナッシュは思わず苦笑いをしてしまう。そんなナッシュを前に2人の言い合いは加速していく。



「我儘だな?なら他の案を出そうではないか」
「聞くだけ聞いてやる」
「イングリッシュ、クレステッド、リッジバックなんてどうだ?」
「聞いたこと無い単語だな?」
「全てモルモットの種類だ」
「やっぱりモルモットじゃねぇか!?」
「漫才はその辺りにしておけ。そろそろ仕事の話をするぞ」


 ホウリの言葉にリルアとシュンは口論をやめたが、すまし顔のリルアをシュンが睨み続けている。
 だが、すぐにシュンは視線を戻して、やれやれといった様子で首を振った。


「それで?今回の依頼はどういうモノなんだ?」
「簡単に言えばゾンビを何とかしてほしいって依頼だな」
「ぞ、ゾンビ?」
「あっはっは!ゾンビなんている訳ないだろ!」


 シュンが腹を抱えて笑い始める。だが、リルアは険しい表情で話を聞いている。


「死体が動いているということか?それなら、私達よりも戦闘力が高い者に頼めばいいだろう?ヒーローやサイキッカーに頼みたまえ」
「ヒーロー?サイキッカー?」


 聞きなれない単語に頭の上に「?」が浮ぶナッシュ。しかし、会話の流れを止めないために、疑問を飲み込んだ。


「ゾンビと言っても、映画で見るような死体が動くやつじゃない。生きている人間がゾンビになる」
「噛まれたらゾンビになるって奴か?」
「それも違う」
「どういうことだ?」
「とある商店街のとある時間、住民の意識が無くなり、ゾンビのように他の人間を襲う。そして、時間が経つと意識が戻る」
「ん?妙な現象だな?」
「このままだと商店街から人がいなくなってしまいますね。早急になんとかしないと」
「なるほど、これは私達が適任だな」


 何かを察したのか、リルアが頷く。


「特定の時間のみってことは、ゾンビでありがちな細菌が原因って訳でもない。何かの機械によるものか、特異な力によるものか。どちらにせよ、私の機械の知識が役に立つだろうな」
「これまた大変そうだな」
「この程度の依頼なら問題無い」
「違ぇよ。お前の発明品が牙を剥いてくるのを心配しているんだ」
「私の発明品?いつも君を助けているだろう?」
「同じくらいピンチになってんだよ」
「えっと?どういうことですか?」
「詳しくは移動しながら聞いてくれ。今は依頼の話を続けるぞ」


 ホウリの言葉にシュンとリルアが口を閉じる。


「今回の依頼はゾンビ化の謎を解明し、元凶を断つことだ。原因解明には日数が掛かる可能性がある。3日ほど泊まる準備もしてくれ」
「え?泊まり!?」
「いきなりだな?」
「泊まりの準備ができたら出発してくれ。詳しい情報はスマホに送るから目を通しておいてくれ」
「分かった」


 リルアはそれだけ言うと、踵を返して所長室から出ようとする。その肩をシュンが掴んだ。


「待て」
「なんだ?」
「ナッシュはこの事務所に不慣れだ。お前が準備を手伝ってやれ」
「そんなの君がやりたまえ」
「男が女の準備を手伝えるか。デリケートな部分もあるだろ」
「そういうモノか。仕方ないな、着いてきたまえ」
「あ、はい」


 ナッシュが出ていくリルアの後を追う。廊下に出ると、リルアが振り返りもせず進んでいく。ナッシュが着いているとは考えていない動きだ。


「あの、何処に行くんですか?」
「倉庫だ。そこで宿泊の準備をする」
「倉庫?」


 ナッシュの頭にはかび臭くて狭い倉庫が浮ぶ。そんな場所で宿泊の準備をするのかと気が大きく落ち込む。


「一度家に帰るのはダメなんですか?」
「問題無い。だが、事務所で準備した方が早いと思うぞ」
「そうですか」


 そういう命令だと思い、ナッシュは事務所で準備を進める事を決める。


「ここだ」


 リルアがとある扉の前で足を止めた。扉のには倉庫という札が付いている。
 中に入ると意外と明るく清潔な様子だった。棚には見やすいように物資が積んであり、どこにどの物資が有るかが一目瞭然だ。だが、それ以上の特徴があった。


「す、凄い量と種類ですね……」


 倉庫は体育館ほどの広さで、置いてある物資の数と種類が豊富だった。服だけあげてもサイズだけではなく、ブランド、素材など種類の種類が多い。
 ナッシュは棚の間を移動しながら、広さと物資の量に圧倒される。


「ここにある物資だけで、全探偵が3年暮らせる。種類も市販されているものは揃っている」
「そんな量の物資を用意して何するんですか」
「戦争」


 洋服を手に取っていたナッシュの手が止まる。


「……冗談ですよね?」
「時間が無いぞ。早く準備を進めたまえ」
「冗談なんですよね!?」


 ナッシュの言葉に答えず、リルアが倉庫の中を進む。


「スーツケースは手前側だ。大きさも重さも揃っているぞ。生理用品もある。君が普段使っているものを取りたまえ。保存食や菓子は特に種類をそろえている。欲しい物があれば好きに持っていきたまえ。あと、必要であればゲーム類や書籍類も───」
「ちょちょちょ!早すぎますよ!一度に全部言わないでください!」
「仕方がないな。もう一度言うからメモでも取りたまえ」


 ナッシュは手帳を取り出してリルアの言う事をメモし始める。
 リルアの助言を受けつつ、ナッシュは泊まりの準備をしたのだった。


【探偵紹介】
名前 リルア
区分:発明探偵
得意武器:なし


能力値(D~S)
聞き込み力:D(壊滅的)
推理力      :A(得意)
記憶力  :A(得意)
観察力  :B(普通)
戦闘力  :D(壊滅的)


発明が得意な探偵。探偵事務所で使用している発明品は、ほとんどがリルアの発明品である。頭脳労働が得意だが、身体能力や聞き込みなどの能力は低い。
シュンとは幼馴染であり、一番の理解者でもある。探偵事務所では頭脳労働を担当しており、肉体労働を得意とする探偵とコンビを組むことが多い。
人の気持ちを推し量ることが苦手であり、聞き込みも不得手である。体も弱いため、依頼によっては探偵事務所から出ずに捜査することも多い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

処理中です...