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第三話 『気づかぬ原動』

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 「くそっ……、なんなんだよ、アイツ」

 悪態をつくのは、全身黒づくめの男。

 とある山岳地帯のがけから、河に落下――。
 いや、叩き落とされたというべきだろう。

 その落ちた場所が水場だったとはいえ、受けた落下ダメージはすさまじく。
 受け身を取ったとしても、到底耐えれるものではなかった。
 最大HPの10倍以上の落下ダメージだったのだから……。

 だが、男は、死ぬ間際にHPが1残るパッシブスキルを持っている。
 直後に回復薬を飲み、なんとか堪えた。 

 故に生きていた。
 



 そんな男は今、河辺の樹木に、背中を預けて腰かけている。

 その様子はとても元気とは言えなかった。
 周りには、回復薬の小瓶が幾つも散らばり。

 傍には火も炊かれている。

 そんな時刻は、夜。


 その男――。
 山岳でパーティプレイ中の魔法使いにPKを仕掛けた暗殺者は。
 端的に言えば、失敗していた。

 数々の隠密スキルを所持し、気配を殺す事に長けたキャラクタービルドだというのに。
 なぜか、傍のキャラクターにはバレていたのだ。

 姿を消し、足音を消し、匂いも消し。
 
 ――しかし、超音波探知まで防ぐ術は持っていなかったから。
 そんなスキルがあることを、暗殺者は知らなかったから。
 魔法には疎い、ビルドであるから。
 特にそんな所持者が稀有なスキルまでは、網羅出来ない。
 この膨大なスキル群で構成されたゲームでは、プレイヤーが知らないスキルはごまんと存在しているのだ。

 だが、それでも暗殺者は自分の隠密力に自信があった。
 逃げ足にも自信があった。
 これまでうまくPKしてこれたという、実績もある。

 それに。
 山岳地帯は、暗殺者にとってはかなり格下の狩場だった。
 SP92Kのこの男にとっては、そんなところで遊んでるパーティなどに負ける道理など無かったのに。

 それが暗殺者の悔しさを倍増させる。 

 くそ、とまた悪態をつき。
 新しい回復薬を服用する。

 今、暗殺者に出来ることは、ただこうやって耐えることだけだ。
 それが、とてももどかしい。

 しかし、いくら待っても毒は消えなかった。

 「なんでなんだ……全然毒が消えねぇ……! 何レベルの毒なんだよ、ちくしょう」

 暗殺者は今、猛毒に侵されていて、HP、MP、スタミナを一定時間ごとに12%奪われていく状態だ。
 それを、回復薬で耐えているのだった。
 男が、毒耐性を少し上げていなければ、毒の回りはもっと早く、とても耐えれない状態だっただろう。

 解毒剤も、いくつか試したが、全く効果が無かった。
 初級解毒剤はダメ。なぜならLV2の毒までしか解毒できないから。
 中級解毒剤もダメ。なぜならLV4の毒までしか解毒できないから。
 上級解毒剤もダメ。なぜならLV6の毒までしか解毒できないから。
 特注の、プレイヤー産の最上級解毒剤でもダメだった。

 だから、この毒は、LV9以上の毒だ。
 
 本当は、10+2レベルの限界突破スキルで、LV12の毒なのだが。
 

 暗殺者は、自分を打倒したエルフのことを思い出す。
「……あいつ、全然ステータスも何も見えなかった……。パーティが雇ってたPKKかなんかだったのか……? 判らねえ……」
 そのうえペナルティドロップで高価なアクセサリーも消えてしまっている。

 むかつくぜ、と。

 立ち上がり、怒りをぶつけようと、転がる小瓶を蹴ろうとした暗殺者は。
 毒の影響で上手くできずに、そのまま河辺にぶっ倒れた。

 どさり、と。

「くそっ……」

 HPMPスタミナが徐々に減るだけではなく。
 様々な毒をブレンドされた攻撃を受けて、全ステータスにデバフを受けているし、睡魔に見舞われるし、全身は微妙に麻痺している。

 その全部が、毒耐性に効果を緩和されているとはいえ。
 あまりにやばい状態だ。

 暗殺者が悪あがきに、最後のHP回復薬を飲む。

 でも、スタミナの回復薬はもう尽きている。
 このままでは、いずれスタミナ不足で動けなくなり。
 勝手に死ぬだろう。

 そして、毒が消える気配はない。
 かなりの時間経過したのに、毒の効果時間が凄まじいのだろう。

 落下ダメージに耐え、生き残ったはずが。

 もう暗殺者には、助かる未来が見えなかった。

 だから、動けなくなる前にと。

 暗殺者は、短剣で自分の首を切り裂いた――。
 

 エルフに殺されるのも我慢がならないし。
 毒で死んでは、ペナルティドロップの危険が発生するからだ。

 
 「あの、エルフのガキ……、次に会ったら、絶対ぶち殺してやる……!」

 暗殺者は、そんな言葉を残し。
 大量の血潮を、地面にぶちまけながら――。

 

 一筋の光となって、静かに消えていった。

 
 
 
 
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