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第五話 『ゴーストライダー』

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 ローリエが、おっかなびっくり。
 ドラゴンゾンビの頭を撫でようか、とチャレンジしている。
 それを背景に。
 
 フェルマータは、赤のメガネを装着したままで、感心して。

「へぇ、すごいわ。この子、SP0なのにすでにめっちゃ強いわよ? HP257もあるわ」
 と、ウサミミのドワーフは、看破で得た情報を言葉にする。
 
 
「えぇ!?」

 ユナが驚き。
 さらにユナは、ちょっと自信を無くしたような顔で。 

「すでにHP、私の10倍以上ありますね……」

 

 
「他のステータスは?」と冷静にマナ。

「えっと……、MP80、スタミナ55、攻撃力18、防御力16……っていうか、敵1匹も倒してない状態で、筋力と耐久力14もあるわよ? それに種族も、ドラゴン種とアンデッド種のハイブリット種族になってるわ。なにこれ」


「でしょうね。『ドラゴン』『ゾンビ』だもの。ハイブリットなのは当然ね。吸血鬼とかと一緒よ、たぶん――。その分デメリットも何か抱えていると思うわ」

「うん……太陽が出ている状態だと、能力値が減少するみたいね」

「やっぱりね」

「まぁ、減ったところで、普通のプレイヤーのSP0よりだいぶ強いんじゃない?」

「単純に強いわね。……さすが、子供とはいえ、腐ってもドラゴンだわ」

「……」  

 そこで、マナとフェルマータの会話が一時、凍結した。
 耐えきれずに、フェルマータが口を開く。

「……ナニソレ、ダブルミーニング?」

 そして、フェルマータが突然のハイテンションで、続けて早口る。
「『ええ、もう最初から腐ってるけどね、ドラゴンゾンビだけに……!』……とか言ったほうが良かったの、私?」

 でもマナはあっさりしている。
「何言ってるの。フェルに突っ込みなんか期待してないわ。もともとそんなつもりもないし」

「もう、紛らわしいのよ、先生。ボケるならちゃんとボケて」

「私別に、ボケてないわ」


 そこで、ため息混じりに、フェルマータは眼鏡を外す。

「とにかく、強いのは解ったけど……どうやって育てるのかしら? 先生わかる?」

 マナは、首を振る。知らない、と。
「私もペット関係は詳しくないのよ。だけど……たぶん、騎乗スキルで乗ることはできる筈よ」

 
「騎乗スキル、ですか? 私ちょっと攻略サイト見てきますね。ついでにペットのことも調べてきます」

 そう言って、ユナがログアウトした。

 そこで、ローリエが、不思議がる。
 普通、キャラクターに帰属される召喚生物等は、術者が居なくなれば一緒に居なくなる筈だ。
 なのに、ドラゴンゾンビはまだ居る。
 
「アレ、このドラゴン消えないんですね。ユナさん、居なくなったのに……」

「ほんとね。でも――」
 フェルマータが、いち早くドラゴンの動きに気づく。
 
 そぉ~っと、頭を撫でようとするローリエから、ドラゴンの頭が離れ。
 なにか、警戒するように、何かを探すように。
 
 寝かせていた頭をもたげ、眼窩に潜む輝く瞳が、近くを見たり、遠くをみたり。
 
 ローリエは、その子竜の様子を心配し。
 フェルマータは、注意深く見つめて。
「ユナさんを探してるんでしょうか?」

「そうかもね……。もし、どこかに行こうとしたら、私がスキルで抑え込むわ」

「その方が良いわね」
 そんなマナは、「ところで」とローリエを見る。

「はい?」

「ロリは、『風』以外に、『土』と『木』も使えるのね」


「へっ!?」

 ローリエは、一歩、後ろに下がり、仰け反るほど驚いた。
 声も、素っ頓狂な声、という形容に近い、大音量気味だった。

 そこに、フェルマータも参戦してくる。
「あ、それ私も気になってた」と。

 ローリエは、どぎまぎしつつ、訊き返す。
「なぜそれを……?」

「だって、さっき、強化バフかけていたでしょ?」

「あ……」
 そういえばかけていた。
 この前の遺跡でユナにかけたから。
 そのクセのようなもので、かけてしまった。 

 だから。そう。
 用意していた言い訳を――。

「えっと、あれはマスタリレベル1で取れますし……基本バフですから」

「でも、全体化してたじゃない?」

 うっ。
 基本バフの広域化、およびパーティ全体化は、マスタリレベル5から可能なのだ。
 それはもう、中級レベルと言ってもいいくらいで、齧ったとは言えない。
 用意していた言い訳が、即座に破綻してしまい。
 ローリエは言葉に詰まりまくる。

 えっと、あの、その……。
 嘘つきはパーティ追放、とか言われないか、気が気ではなくなる。

 冷や汗すら出そうなローリエ。
 だが、流石にゲームなので冷や汗は出ない。中の人は出てるけど。

 しかし、マナは一人で納得したかのように言う。
「――範囲化できるスキル付の装備か何か?」

 ローリエは全力で乗っかった。
「あ、はい……そうです!」
  
「そう、なるほど、ね」

 それきり、マナは追及をしなかった。


 暫くして、ユナが、再びログインして。
 落ち着きのなかったドラゴンゾンビが、ユナにすり寄る。
 やはり、寂しかった、ということだろう。
 ローリエは再び、ドラゴンゾンビ、なでなで作戦を始めた。

 ユナは、調べてきたことを説明する。

「――お待たせしました。騎乗スキルは色々あるんですけど、ちょっと、そっちを取り始める前に、自分の両手武器スキルとかを揃えないといけないと思いますので、今は置いといてですね。ペットの方は、ドラゴン種のペットというのは、まだどこも情報が無いみたいでした。馬とか、騎乗用リザードとか、騎乗用でない普通のの鳥や猫などの情報はあるんですが……」

 基本的に、騎乗用ペットもキャラクタ―と同じようにSPを獲得し、1000毎に種族強化が行われる。
 ペットの武器や防具は、騎乗用の物しか装備できず、キャラクターのものほど効果が高くない。
 代わりに、爪や尻尾などが、武器と言う扱いで設定されているようだ。
 またペット自身のスキルは自動で取得するものと、プレイヤーの任意の物があるらしい。
 加えて、ペットのステータスの振り分けも、プレイヤーの任意となっている。

 ユナの見てきた情報では、こんなところだった。

 マナが問う。

「竜種についてだけど。このまえの遺跡イベントのところはどう? あの石碑……っていうかたぶん、あれがドラゴンの卵だったんでしょうけど。それについて載ってない? 他に拾った人が居るとか……」

 ユナは首を横に振る。
「いくつかの攻略サイトを見ましたけど、どこにも無かったですね。石碑に注目してる人もいないようでした」

 そこに、フェルマータが口を挟む。

「ユナちゃん、あれ、どうやってゲットしたの?」
「普通に、取れましたけどね?」
「普通に……?」
「はい、隣のかとぶれぱす? の卵と同じ感じで」
「ナニソレ、そんなのアリなの?」

「……何か特殊な条件でもあったのかしら?」

 マナは腕を組んで悩みだした。
 

「えっと、とりあえず。後回しにしようかと思いましたが、ペットに騎乗する、というだけのスキルが、SP5で取れるみたいなので、それだけ今、取ってみましたけど……」

「おっ! じゃあ乗ってみたら?」

 それを聞いて。
 ローリエも、話に混ざる。 

「ユナさん、そのまえに、この子に、名前、つけませんか?」
 
 あ、ホントだ、名前!

 全員、それを思い出した。

 そんなインファントドラゴンゾンビちゃんは、今、ローリエに、そっと撫でられていて。
 やっと、作戦が成功したことをローリエは喜び。 

「やっぱり意外とかわいいかも……?」

 なんて微笑んでいた。

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