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【第三章】――大魔王のおでかけ――
ヴィヴィアンと|小さき耳長族《ブラウニー》の少女
年季の入った木造の一室。
壁に並べられた幾つもの棚に所狭しと並ぶ、小瓶、結晶、謎の物体。
ランプの明かりのみに照らされた薄暗い店内で。
振り向いた黒づくめの小柄は、小さき耳長族の少女だった。
カウンター越しの魔法具店の店主も。
そして少女も。
吶喊してきた面々に驚きの表情だ。
そんななか、耳長の小柄が「なに?」と低い声で警戒心をあらわにし。
「なんだい、あんたたち?」
店主も、不愉快そうに剣呑な反応だ。
見るからに疎まれている。
だが、そんなのお構いなしにラークが、怒鳴る。
「そいつ、オレ達の戦利品を盗んだんだ!」
けれどやはり店主は悪びれない。
「だからなんだい?」
それにラークはいっそう怒り、さらに強く言う。
「なんだい? じゃねえだろ、ふざけんな! 魔法屋なのに、なんも知らねぇのか? 代理人の戦利品は命と等価だ。それを盗んだら、殺されたって文句言えねえんだぞ! 庇ったあんたもだ!」
「ふん。言いがかりじゃないのかい? あたしゃ、お得意様をバカにされるのは承知しないよ? 証拠はあんのかい?」
「はぁ? しょ、しょうこだって!?」
助けを求めるように、アンシェルを見るラーク。
アンシェルが、耳長少女の手にしている革袋を示す。
「その袋は間違いなく私のモノです。中身は、魔核と示現回路じゃないですか? 砂漠小蠍の……?」
アンシェルのフォローに、店主と少女は互いの視線を見合わせる。
耳長族の少女には汗が滲み、やや焦っているような顔色だ。
きっと、その通りなのだろう。
その証拠に、ヴィヴィアンは「本当のようです」と私に耳打ちする。
『心を読む』ことに成功したのだろう。
だが――。
「そんな袋くらい、似たようなものはたくさんある。その魔物だってこの辺りにわんさかいる。とても証拠とは言えないね!」
ミラがアンシェルに小声で尋ねる。
「ふくろに、とくちょうとか、ないですか?」
が、アンシェルは首を振った。「近くの道具屋で買ったただの袋です」と。
当然のことながら。
幾ら盗んだのが本当で。
私達が確信していても。
相手の心の中で思ったことを証明するのは難しい。
無駄かもしれないと思いつつ、私は、あまり気の乗らない表情で、口をひらく。
「私は、その袋が盗まれた場所から、サソリの魔核の属性色を辿ってきたのよ……。だから間違いようがないわ」
それに店主は、ハッ、と嘲笑めいて。
「魔核の属性色だって? そんなもの見えるわけないだろう? 嘘ばっかり吐くんじゃないよ。私だって魔法を齧ってるんだ、神様でもなきゃそんなこと無理だってことくらいわかるさ。それとも、あんたが魔法の神様だってのかい?」
笑わせないでおくれよ、と店主は掌をプラプラと振った。
帰れとでも言いたいのだろう。
そしてやはり予想通りの反応だった。
溜息を吐く。
説得も証明も難しいかもしれない。
やはり、もう一度街の外で蠍の魔物を狩った方が早い、とラークとアンシェルに提案するべきだと思った。
「さぁ、買い取って欲しいんだろう? そいつらの事は気にせず、それをお渡し」
店主が、耳長族の少女に手を差し伸べる。
しかし。
少女に反応は無い。
その視線は、ぼうっと一点に向けられている。
そうして、視線の先にあるのは踊り子風の少女の姿。
耳長族《ブラウニー》の少女は、ヴィヴィアンの容姿に釘付けになっているようだった。
私は、チャンスだと思った。
同じ場所に居続けたことで、ヴィヴィアンの微弱に漏れ出ている『魅了』の特性に引っかかったに違いない。
試行回数が増した結果、備わっている抵抗力を突破したのだろう。
「どうしたんだい?」
そう心配する店主をしり目に。
私はヴィヴィアンに言う。
「ねえヴィヴィアン、試しにその娘に、袋を返すように言ってみてくれないかしら」と。
すると、怪訝な表情で首を傾げつつも。
ヴィヴィアンが一歩前に出る。低身長な耳長族にやや屈んで目線を合わせ。
「――すいません。とても困っているんです。なんとかその袋を返して頂けませんか?」
「え? うん、良いよ。あなたが欲しいって言うなら」
少女が素直に袋を差し出す、ヴィヴィアンに向けて。
「ちょっと!? 急にどうしたんだい?」
「もういいの。なんだか、お金なんてどうでもよくなったわ」
ヴィヴィアンは「ありがとう」と言って、差し出された袋を受け取り。
その様子を魔法具店の店主は唖然と見つめていた。
命を懸けて採ってきた戦利品をどうでもいい、といわれて憤慨するラーク。
それをアンシェルが止めつつ。
そうして、アンシェルはヴィヴィアンから戦利品の入った袋を受け取った。
アンシェルとラークが中身に間違いないことを確認する。
「やっぱりそうだ、間違いない。ほら、だから言っただろ!」
ラークは声を上げ、
「なにがどうなってるのさ」
店主は呆れかえる。
「悪いわね。――売り手が返却すると言っているのだから、文句は無いでしょう?」
そう言いつつ、私はヴィヴィアンに向かって『念』じる。ここから出よう、と。
私の考えを読み、察したヴィヴィアンがお店から出ると。
続いて、耳長族《ブラウニー》の少女も――。
「ごめんね。それじゃ、また来る」
そう言って、虚ろな目のまま。
ヴィヴィアンの後を追って、急いでお店を出て行った。
「おい、どこ行くんだ! まだ終わってねぇぞ!」
そして私達もラークたちと共に、その後を追うのだった――。
壁に並べられた幾つもの棚に所狭しと並ぶ、小瓶、結晶、謎の物体。
ランプの明かりのみに照らされた薄暗い店内で。
振り向いた黒づくめの小柄は、小さき耳長族の少女だった。
カウンター越しの魔法具店の店主も。
そして少女も。
吶喊してきた面々に驚きの表情だ。
そんななか、耳長の小柄が「なに?」と低い声で警戒心をあらわにし。
「なんだい、あんたたち?」
店主も、不愉快そうに剣呑な反応だ。
見るからに疎まれている。
だが、そんなのお構いなしにラークが、怒鳴る。
「そいつ、オレ達の戦利品を盗んだんだ!」
けれどやはり店主は悪びれない。
「だからなんだい?」
それにラークはいっそう怒り、さらに強く言う。
「なんだい? じゃねえだろ、ふざけんな! 魔法屋なのに、なんも知らねぇのか? 代理人の戦利品は命と等価だ。それを盗んだら、殺されたって文句言えねえんだぞ! 庇ったあんたもだ!」
「ふん。言いがかりじゃないのかい? あたしゃ、お得意様をバカにされるのは承知しないよ? 証拠はあんのかい?」
「はぁ? しょ、しょうこだって!?」
助けを求めるように、アンシェルを見るラーク。
アンシェルが、耳長少女の手にしている革袋を示す。
「その袋は間違いなく私のモノです。中身は、魔核と示現回路じゃないですか? 砂漠小蠍の……?」
アンシェルのフォローに、店主と少女は互いの視線を見合わせる。
耳長族の少女には汗が滲み、やや焦っているような顔色だ。
きっと、その通りなのだろう。
その証拠に、ヴィヴィアンは「本当のようです」と私に耳打ちする。
『心を読む』ことに成功したのだろう。
だが――。
「そんな袋くらい、似たようなものはたくさんある。その魔物だってこの辺りにわんさかいる。とても証拠とは言えないね!」
ミラがアンシェルに小声で尋ねる。
「ふくろに、とくちょうとか、ないですか?」
が、アンシェルは首を振った。「近くの道具屋で買ったただの袋です」と。
当然のことながら。
幾ら盗んだのが本当で。
私達が確信していても。
相手の心の中で思ったことを証明するのは難しい。
無駄かもしれないと思いつつ、私は、あまり気の乗らない表情で、口をひらく。
「私は、その袋が盗まれた場所から、サソリの魔核の属性色を辿ってきたのよ……。だから間違いようがないわ」
それに店主は、ハッ、と嘲笑めいて。
「魔核の属性色だって? そんなもの見えるわけないだろう? 嘘ばっかり吐くんじゃないよ。私だって魔法を齧ってるんだ、神様でもなきゃそんなこと無理だってことくらいわかるさ。それとも、あんたが魔法の神様だってのかい?」
笑わせないでおくれよ、と店主は掌をプラプラと振った。
帰れとでも言いたいのだろう。
そしてやはり予想通りの反応だった。
溜息を吐く。
説得も証明も難しいかもしれない。
やはり、もう一度街の外で蠍の魔物を狩った方が早い、とラークとアンシェルに提案するべきだと思った。
「さぁ、買い取って欲しいんだろう? そいつらの事は気にせず、それをお渡し」
店主が、耳長族の少女に手を差し伸べる。
しかし。
少女に反応は無い。
その視線は、ぼうっと一点に向けられている。
そうして、視線の先にあるのは踊り子風の少女の姿。
耳長族《ブラウニー》の少女は、ヴィヴィアンの容姿に釘付けになっているようだった。
私は、チャンスだと思った。
同じ場所に居続けたことで、ヴィヴィアンの微弱に漏れ出ている『魅了』の特性に引っかかったに違いない。
試行回数が増した結果、備わっている抵抗力を突破したのだろう。
「どうしたんだい?」
そう心配する店主をしり目に。
私はヴィヴィアンに言う。
「ねえヴィヴィアン、試しにその娘に、袋を返すように言ってみてくれないかしら」と。
すると、怪訝な表情で首を傾げつつも。
ヴィヴィアンが一歩前に出る。低身長な耳長族にやや屈んで目線を合わせ。
「――すいません。とても困っているんです。なんとかその袋を返して頂けませんか?」
「え? うん、良いよ。あなたが欲しいって言うなら」
少女が素直に袋を差し出す、ヴィヴィアンに向けて。
「ちょっと!? 急にどうしたんだい?」
「もういいの。なんだか、お金なんてどうでもよくなったわ」
ヴィヴィアンは「ありがとう」と言って、差し出された袋を受け取り。
その様子を魔法具店の店主は唖然と見つめていた。
命を懸けて採ってきた戦利品をどうでもいい、といわれて憤慨するラーク。
それをアンシェルが止めつつ。
そうして、アンシェルはヴィヴィアンから戦利品の入った袋を受け取った。
アンシェルとラークが中身に間違いないことを確認する。
「やっぱりそうだ、間違いない。ほら、だから言っただろ!」
ラークは声を上げ、
「なにがどうなってるのさ」
店主は呆れかえる。
「悪いわね。――売り手が返却すると言っているのだから、文句は無いでしょう?」
そう言いつつ、私はヴィヴィアンに向かって『念』じる。ここから出よう、と。
私の考えを読み、察したヴィヴィアンがお店から出ると。
続いて、耳長族《ブラウニー》の少女も――。
「ごめんね。それじゃ、また来る」
そう言って、虚ろな目のまま。
ヴィヴィアンの後を追って、急いでお店を出て行った。
「おい、どこ行くんだ! まだ終わってねぇぞ!」
そして私達もラークたちと共に、その後を追うのだった――。
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