よくわかる異世界魔法ー『マナの書』ー

日傘差すバイト

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【第三章】――大魔王のおでかけ――

ヴィヴィアンとセントラル②

 少女の罰の悪そうな表情。

 魔法店で見た耳長族ブラウニーの少女だ。
 おそらく、また戦利品を盗ろうとしていたのだろう。

 それにしても、こんなに節操なく盗みを働くには、何か理由があるはずだ。
 少女のキョロキョロと落ち着きのない目は、焦燥なのか、困惑なのか、何か打開策でも導き出そうとしているのか。

 しかし、ラークとアンシェルの苦労を目の当たりにした私には、もう簡単に許す事は出来そうにない。

「悪いけど、今回は逃がす気は無いわよ?」

 それにもう。
 にらみを利かせているのは、私だけではない。
 ヴィヴィアンもミラも、私にとっては信頼できる者達だ。

 すでに、いつでも食って掛かる準備は出来ていよう。

「くっ……」
 少女の歯がみするような表情は、悔しそうだ。
 気の毒だけど、代理人プロクシィ達の命を賭して得た戦利品をみすみす奪わせるわけにはいかないのだ。
 そもそも外で待っている私たちには、この荷車を見張っているという責が、暗に課せられている。

 少女を逃がす理由は無い。
 
 だが、特別に見逃すという気になる可能性も無いわけでは無い。
 そのためには、まず話し合いが必要だろう。

「ちょっと顔を貸しなさい?」

 私は、私と同じくらいの背の少女の胸ぐらを、片手で掴んで持ち上げた。
 魔法使いだからといって、非力とは限らないのよ。

「う、ぐ!」
 ぱたぱたと宙に浮いた脚を暴れさせても無駄。
 そのままセントラルの建物の裏まで来てもらう。

 荷車の見張りは、ミラに任せよう。
 
 ヴィヴィアンに同行するよう、目配せする。
 
 建物の裏。
 その薄暗く、静かで、不気味な路地裏。

 私はその娘を放した。
 地面に尻もちをついた少女が。
 けほけほ、と咳き込む。

 そして。
 白いフードが外れて。
 涙目で見上げる少女の顔が見える。 

「……!!」
 
 それを見下ろす私、そしてヴィヴィアン。
 私たちに、いくらか恐怖でも感じているのか、少女の表情はこわばっている。
 まぁ、ここまでたくさんの悪行を働いているのかもしれない。
 罰を受ける覚悟くらいはしているでしょう。
 暴行を受けるとでも思っているのかもね。
 
「これは私の推察に過ぎないのだけれど、あなたはこれまでに何度も窃盗をしてるんじゃないかしら? それも、代理人プロクシィの戦利品ばかり。違う?」

「……そ、そんなこと……」
 弱弱しい声。
 けれども。
 ヴィヴィアンは、「これはやってますね」と、耳打ちしてくる。

「嘘を吐くのは辞めなさい。こちらには、あなたの心を見透かすすべがある」

「……! くっ」
 耳長族ブラウニーの視線が、私の傍の小麦色肌の踊り子に向く。
 きっと、ヴィヴィアンが考えを読めることを悟ったのだろう。

「なぜ、こんな真似をしているの? 『代理人プロクシィの戦利品を奪えば、殺されても文句を言えない』。 私はそう聞いている。……いつか殺されるわよ?」 

「……儲かるから」

「儲かる?」

「そう。儲かるからよ! お金になるから!」

 お金。
 そのようなもの、私には価値が理解できない。
 お金があったとして、なんだというのだ?
「お金? それを手に入れてなんになるの? 危険を冒してまで……」
 
 ぐぐ、っと。
 少女は涙を湛え、耐えるような、怒りのような、悔しいような。
 そんな表情を私に向ける。

「マナ様」
 ヴィヴィアンがまた耳打ちしてくる。
 偽名フルゥで呼びなさい、と思いつつ。
 続きを待つ。

「マナ様、この者には病気の知り合いが居て、そのためにお金を必要としてるようです」 
 
 少女に問う。
「……だれか、助けたい者が居るのね?」 

 暫く、答えは返ってこなかった。
 俯いた少女は、逡巡しているのか、口を噤んでいるのか。

 けど。

「――……私に、魔法を教えてくれるはずだった師匠がね……。最初は病気だったけど、だんだん悪くなって、今はもう……。だから、直すのに必要な薬代も、だんだん高くなっていって……」

 なるほど。
 やはり事情があったらしい。
 魔法も使えず、力も無い。
 そんな少女が、大金を稼ぐには戦利品を奪って売るのが一番効率的だったというわけだ。
 
 私は、空を見る。
 朝焼けが近づいてきている空を。

 そして迷う。
 このまま放っておくかどうか。
 あまり、人族の営みに干渉するのは避けたいと思いつつも……。

「――……その、あなたの師匠の所まで案内なさい」

「え?」
 それには、ヴィヴィアンも耳長族ブラウニーの少女も驚いた。

「どちらにせよ、このままでは、あなたもその師匠も手遅れになりそうだわ。――でも、選択はあなたに任せる。私を、チャンスだと思うのか、余計なお世話だと思うのか。――あなたに任せるわ」



 ⌛⌛⌛⌛⌛ 

 そうして。

 戦利品を積んだ荷車の所に戻ってきたのは、ヴィヴィアンだけだった。
 待っていたミラに、ヴィヴィアンは言う。

 路地裏の方を振り返りつつ。
「マナ様は、別の用事に行かれました。――大変名残惜しいですけど。私も、そろそろ自分の拠点が気になりますので、この辺りで戻ります」

「うん」

 そして、ヴィヴィアンも行ってしまった。

「……どうしよう」
 残されたミラと。
 戦利品の手続きを終えて出てきたラークとアンシェル。
 
「あれ? 先輩たちは?」

「どっかいっちゃった……。どうしよ?」
  
「マジ? この分配金どうすんだよ?」

 そんなラークとアンシェルは、重そうな袋を幾つか抱えていた。
 ポロリ、と落ちた1枚がコロコロと転がって。

 白く小さい脚にぶつかって止まったそれを、拾い上げる。

「ぴかぴか」

 金色に輝く豪奢な装飾のコイン。
 それを拾い上げたミラは、ちょっと嬉しそうだった。




 
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