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第四章
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【四】
誰かに好かれるなんて、まだ今は思ってもいなかった。そりゃぁいつかはって、忌み子なんて関係ねぇって、おまえが好きだって言われたかった。
「レン、最近超綺麗になったよネ?」
レンのモデル仲間、虎人族ミン・ソンユ。黒髪で琥珀色の瞳がカッコよく、武闘家で有名なソンユ家の長男だ。
よく頬に頬を擦りつけて来る。猫科はこういうスキンシップが多いらしい。というか鼻がいいなら偽物レンってバレないのか?
「え?」
「何だっけ? 三か月間花嫁修行に行ってたんだって?」
そしてもう一人、猫人族のララドーラ・フフ。茶色猫ッ毛に、深緑の瞳の今流行りの女優だ。モデルから念願の女優になれて張り切っている。
「ぅえあぁまぁ」
そういう段取りだったっけか。
「クンクン。なぁんか修行でレン、変わっタ? 匂いが大人めェ」
「大人めて、何ソレ」
「あとぉ、ディランくさぁイ」
「ブッ」
折角のアイスレモンティーがぁ!
「それってぇ、レンがディランと寝たってことぉ? でもレンって熊人族王のレディアン王の許婚でしょぉ? あ、っやばぁ! ララ面白くなってきたかもぉ~」
止めてくれ。その話は止めてくれ。
「一人のヒト族を取り合うのって珍しいよネ。普通は逆よネ逆!」
「一夫多妻なんてララはいやぁ。でもぉ、多夫一妻はいいと思うぅ」
どういう理屈だよ!?
「ねぇ~エ、当の本人はどうなのヨ?」
「そうよぉ、大事なのは雌側よぉ」
二人の興味津々の眼差しが突き刺さる。
「君達、休憩は終わり」
ビクッ。
背後からディランの声が。
ディランの声だって、見なくても聞けば分かってしまうようになった。
「何? 何で怒ってんのレン」
「べべべ別に・・・」
「? キスマーク、コンシーラーで隠せただろ?」
「なっ!? ばっ、ちがっ!」
二人の視線がショッキングピンク。
「あぁ~もうご馳走様ぁ」
「あぁんララも恋したいぃ」
「え、あ、待ってよ!」
席を立った途端、腕を掴まれた。
「おれは、許婚に負けるつもりはないから」
「なっ!? おまっ」
ディランが柏手を打つ。
「二本目始めるよー、下着は見せる為にあるんだから、いい写真撮ってよねー?」
ディラン監督。
「おいおまえら、モデルがいいからって股間のものおっ勃てるんじゃない」
撮影班のヒト族の証明担当と兎人族のカメラ担当がもじもじしていた。
「無理っすよ監督ぅ! 勃たせない方が失礼っすよぉ!」
「いいよぉ~? 興奮された視線で見てくれた方が、自分達も興奮するしネ。後で抜いてあ・げ・るネ」
ああああああこの間付けた乳首下着を恥ずかし気も無く見せつけるミンちゃん。神々しい。
「そうよぉ、皆ぁ、ララ達を見て発情しなさぁ~い? 場合によってはエッチなこと、してあ・げ・る」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!』
急激にこの撮影場所がやる気と活力に満ちる。
健全、とは。
「いい子達だ。やっぱり性欲に忠実じゃなきゃね」
「”欲望に”忠実な!? 性欲に限定するなよ忠実過ぎだろ!? モラル帰って来い!」
「ダメだよ”レン”。レンはそんな細かい突っ込みしないよ? あの子達のように欲望解放してるんだから」
「! ぅ、嘘・・・」
あんないやらしく振る舞えと!?
「上級者過ぎる! ボクにはレベチだ」
「へぇ~?」
ふくっ。
耳元にディランの吐息が吹きかかる。
「いいの? またあの下着付けて、今度はお風呂に入りながら着衣プレ」
「いいいいい行って来ますぅ!」
ええいいっ! パーカーを豪快に脱いだ。
行くぜぇ! もうボクはレンなんだから!
「ボクはぁレン・クジョウだぁぁ!」
「どしたねレン」
「ほら二人とも来て」
「へ?」
俺を中心に、ピンクのベッドで可愛い子二人を両サイドに寝かせたり、侍らせた。
「ん~なんか今日のレン、強引~! でもいいかモ~!」
「ほんとぉ~! ララ、レンになら抱かれてもいいかにゃぁ~」
なんかよく分からんけど二人が俺に甘えて来たぞ。よし、これを利用してボクを映させない壁になるがいい!
どう!? 俺、可愛いだろ(壁役)!?
「はぁ、やり切った、乗り越えた・・・」
撮影が終わって楽屋で寝転んだ。
シャッター音とカメラマンさんが褒めてくれるからつい調子に乗って、ウインクしたり色んな体制やポーズ(主に二人)させちゃったけど、ディランがOK出してくれたからいいしょ!
コンコン。
ドアがノックされる。
「お疲れ様です」
”レン”のマネージャーさんが入って来た。
やばっ。慌てて体勢を取り繕う。
「ふふ、大丈夫ですよリョウ様」
「えっ?」
聞き覚えのある声。
「ほぉら、わたくし、レベッカでございますよ」
「レレレレベッカ!?」
眼鏡とスーツを着ただけでこんなにイメージが変わるものなのか。
「わたくし、正式にリョウ様・・・いえ、レン様のマネージャーを勤めさせて頂くことになりました」
「メイドじゃ、無かった・・・?」
「マネージャーたるもの、そつなくこなさなくては。それに、本当はリョウ様の監視役でもございました」
「あぁ、うん、そうだと思ってた」
「此度、リョウ様がわたくしレベッカの推し、にございまして、レン様より正式にリョウ様専属のマネージャーをさせていただくことになりました」
推し? 推しって今人気の応援したい子っていう意味の?
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「あぁ、うんこちらこそ。レベッカとも研修期間からずっといたから心強いよ」
「まぁ、嬉しいお言葉でございますぅ」
「う、うん」
「本日の撮影わたくし驚きました」
「え?」
「あんな才能もお持ちだとは。さすがレン様がお選び抜かれたお方」
「才能?」
「皆誰もが被写体のリョウ様に目を奪われておりました。ディラン様も褒めておられました」
「うっそ、ディランが!?」
いや俺ただ視線があの二人に向けようとしてただけなんだけど。あくまで二人を立たせようとね。
「ただただ、日に日にリョウ様の魅力に感銘を受け続けておりました」
「凄く褒めてくれるんだねありがとう」
レベッカは褒め上手なことを理解した。
「っ! うきゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
え。
レベッカさんは顔を手で覆うと、勢いよく楽屋を飛び出して行かれた。
大丈夫か情緒の方は。
そんなこんなで俺のレン・クジョウの日常が始まった。
まずは食レポのお仕事。少しずつお野菜が嫌いだったけど食べれるようになった体裁SNSを出して、ついに美味しさを実感という結果を公表した。とある兎人族の兎野菜がとても美味いということで、野菜を克服したレン・クジョウが食するという、料理番組のちょっとした枠を貰えた。
兎野菜は生で食べるのが主で、後は手作りディップソースを付けたりして食べると美味しいらしいとのことだ。
俺は紫人参に興味があったので、早々生でソース無しでかぶりついた。俺のコメントはまぁ、硬そうに見えてサクサクしていることと、人参自体の甘味があって酸味のあるドレッシングをかけて食べると美味しいんじゃないかって感じ。緑大根は大根と言えば味噌だけど、この大根は醤油マヨが絶対合う、付けて食べるとほらめっちゃ美味い。などなどほくほく生野菜を食べさせて貰った。寧ろペロリと食べてしまい、こんなに美味しく食べて貰ったのは初めてと、野菜を作った農家の方とお店の方が号泣し、沢山段ボールに兎野菜をお土産で頂いた。ラッキー。
そのテレビがきっかけに、SNSで#兎野菜とレンがトレンド入りし、兎野菜が今人気になり過ぎて、大変なことになっているらしい。
メディアの影響力の恐ろしさを学んだ。
そして、今流行っているバーチャルライバーという、動画サイトで自身が演者でもありクリエイターでもあるそんなマルチな職業の方がいて、是非コラボをしたいと誘われた。何でも有名なホラー実況者で、黒ずきんさんと言うのだけれど。中々の絶叫、リアクション王で笑いあり涙ありの人気なライバーさんだ。
その方とスタジオを借りていきなり”Rainy”というタイトルのホラーゲームをした。何でも黄色いカッパに紅い傘を持った少女から逃げるというゲーム。勿論、逃げるだけではいけなくて、真エンディングを見るには少女を成仏させないといけないらしい。
黒ずきんさんは一周目をクリアはしているらしく、初見の俺を誘導しながら真エンディングを目指すという内容の動画だ。名付けて真エンディング見るまで終われてまてん。
ゲームもしたことない俺だけど、孤児院で子供達がやっていたのを見ていたから、何となく知識はある。黒ずきんさん並の絶叫と真エンディングまでのアーカイブをゲットし、無事真エンディングを見ることができて、3時間ぐらいで済んで良かった。
またそれもSNSトレンド入り#リアクション芸人レン #ホラー絶叫レン など。ほんとに驚いて椅子から落ちたんだけど、その映像がプロの切り抜き職人に面白く字幕付きの動画がアップされて、レン・クジョウのお嬢、清楚なイメージが変わってしまった。
「うぅ~」
ちかれた・・・疲れた。
こんなにもゲームって疲れるんだ。目、対し頭痛がする。皆ほんとによくやるな。撮影が終わり、お迎えしてくれる秘書のレベッカさん待ちだ。
ん?
聞き慣れた声がする。
「おれにだってプライベートは欲しい」
この声は、ディランだ。このスタジオにも出入りしているのか。さすがは芸能人。
「・・・・・・」
何故人は隠れてしまうのだろう。何故なら、ディランの隣に絶世の美女がいるからだ。ものごっつー綺麗だぁ。あの人も芸能人か?
あんな藍色の髪に水色の口紅が似合う美女おる。
「・・・だからって、うちをないがしろにするなんて。一番の恋人はうちでしょ?」
「!?」
ななななななななななぁんだって!?
「で、でも、レンも好きだし」
「一夫多妻するつもり!? 熊人は一筋でしょ!? モテるからっていい気にならないでよ! 子供作ろうって、言ってくれたのは嘘だったの!?」
ぅえええええっ!?
「ぅえええええっ!?」
何故ディランよ。俺を同じ反応をする?
ズキン。
あれ? 何だろ。胸がなんかチクリする。
でも分かった。
やっぱり、やっぱりそうだよな。
美女がディランの襟を引っ張り、豪快に口づけを交わした。
「っ」
ディランが慌てて彼女を引き剥がす。
「っおい! これはやり過ぎだ」
そうだろうよ。こうやってこっそり逢瀬を見ている奴がいるんだから。
「何よいつもしてくるくせに」
「おまっテニイ!」
ダメだ。これ以上はいちゃつきそうだ。早くこの場を去ろう。
「レン様?」
撮影場所に戻ると、レベッカさんが来てくれていた。
「あ、ごめんごめん」
俺、やっぱりディランが好きだよなこれ。好かれて、調子に乗ってたかも。結構、いや、かなりショック。俺は二番目、か。
「・・・? お疲れですね、お顔がすぐれないようで」
「うん、ゲームあんなにやったこと無かったから疲れちゃって。もう帰って休むよ」
「はい、参りましょう」
「うん」
そうだよな。ディランの周りには沢山の人達がいるし、恋仲になるのは至極当然のことで。なんで俺が一番好かれてるなんて自惚れ、それは見ている自分の視野の狭さと、彼のことを知らなさ過ぎ問題だ。恋は盲目とはいうけれど、俺はいつから盲目だった?
レベッカの車に乗った。
「レベッカ」
「はい?」
「あの、テニイっていう人、誰か知ってる、かな?」
ディランがそう呼んでた。
「あぁ、ディラン様のマネージャーですよ。それはもう優秀で有能な、ディラン様の御親友の方から紹介を受けたそうで」
マネージャーさんか。それならいつでもどこでも一緒だし、いちゃつき放題か。
「お会いになられますか?」
「ええっ!? いやいい! いいよ! たださっきディランと親しそうにしてたから誰かなって」
「・・・ディラン様がいらっしゃったのですか?」
「え? あぁ、うん。あ、今の話気にしないでね」
「・・・はい、畏まりました」
何か話題を変えなければ!
「レベッカさん!」
「どうしましたレン様」
「あのさ最近お仕事の毛色が違うんだけど? そりゃ勉強の為に仕事は選ばないって言ったけどこのままじゃぁレンのイメージがおかしくなっちゃうってかおかしくなってるぅ!」
レベッカは冷静に、眼鏡に触れる。
「確かにそうですが、仕事の幅も広がり以前よりも格段に急速に認知されています。最近のSNSのタグは#レンお嬢様? が主流でございますよ!」
「嬉しそうだな・・・。じゃなくて! このままだとレン様に怒られる! 帰って来て、え? 清楚とは? ってド叱られる!」
「いえいえ、そういった一面もあるということです。本職はモデルですから」
そう言うと、停車中、レベッカさんは一冊の本を俺に差し出した。
「ブッ!」
表紙におおおおおおおお俺の、俺の見覚えのある”アレ”がぁ!
「うふふ、ディラン様の至上最高傑作の作品集、こちらのタイトルは”YOUトピア”だそうです」
うん、でかでか表紙にも帯にもそう書いてるね、うん。ユートピア? 楽園?
「ふふ。この描かれている”ヌード”の方、一体誰でしょうね?」
「がっ!」
表紙がっ! うまくぼかしているけどこれ俺のすっぴんやんね!?
「ごっ・・・ふ」
こ、こんなものいつのまに描いてたんだって絵がいっぱいあるんだけど。
「こっ・・・れは・・・」
上手く首から下で描かれているので、バレてないとは思うけど。目の前のマネさんは絶対気が付いているな。ピンク色に染める前の俺の元々の栗色が出ちゃってるしね。
「だ、一体、誰だろうなぁ」
固まる俺に容赦なく、レベッカさんはペラペラとポイントを押さえ見せて来る。
「そしてこの写真。あのミン・ヨンユ嬢とララドーラ・フフ嬢を手籠めに取ったこの堂々たる女王なる表情、あぁ、堪らなくゾクゾク致しますでございますぅ・・・ハァ・・・ハァ、わたくしも踏みつけられたい・・・」
ああああああの写真!? 初仕事で頑張った!? あのガオー族とにゃんにゃん族か。本当だ! おかしいおかしいぞ! 俺はこんな恍惚で何処となく悪女な表情でそれぞれ左右に二人を侍らせて、俺のものだアピールした顔なんかしてない! ただ可愛いでしょ? を頑張ったんや。
「ハッ! これはぁ合成だ!」
どれもこれも、俺が何か、なんか、なん。
「・・合成・・の、はず」
なんでどれも”女王”なの?
「俺はただ”お嬢”を・・・」
「完全に”女王”です、あぁ、素敵です」
「そ、そんなぁ・・・」
「予約分が売り切れで、本日発売されました分も即刻完売とのことです。急ぎの重版決定が決まりました。SNSで#あぁレンはモデルだった #エクゾチックレン女王 #レン女王に踏まれたい #ユートピアはレン女王の足元にある など、ふぁぁ大変人気でございます」
「キィーッ!」
レン・クジョウのイメージが、どんどん変わってしまって来ている。このままではクビ、解雇もありうる。
「これは抗議だ! ディランに電話だ家に突撃だ!」
「はいマスター、今すぐ向かいますとディラン様にご連絡を致します」
「そうして! ぬぬぬ・・・」
これが、俺? ぁあいや違うレン?
俺オリジナルレンだ、そうだ。そう形成されてしまっている。修正・・・できるかな。
「ディラン様のお宅へ向かいましょう」
「え?」
嘘、本気だけどそんなすぐに行けるもん?
「え、ディランがいいって言ったのか?」
さっきの彼女はいいのか!?
「はい、泊まっていいとの許可が降りまして、はい、今すぐ行きましょう」
「ぅえ、ええええっ!?」
なんか会いたくないような・・・。
「ディランって何処に住んでるんだ?」
「熊人のベアーズ領土の海岸にございます、メゾネットマンションの最上階にいらっしゃいます」
「メゾネットぉ!? しかも最上階!?」
メゾネットマンションとは。集合住宅の一室で、複数階層を内階段で繋いで一戸とした物件のことだ。
ヒト族の領土は沢山の獣人領土に囲まれた中央に位置する。熊人ベアーズ領土はすぐ東にあり、レンの家はベアーズ領土入りだった。
車を走らせること一時間。
漆黒の大理石高級マンション、大きなガラス窓が目立つ、ディランの住処に到着した。
「ではレン様、明日、お迎えに上がります」
「え、あ、うん」
さてと。
「わっ!?」
振り返るとディランがいた。
「そんなに驚くことないだろ~」
俺より後にスタジオ出たはずだろ? 何故こんなに早いんだ?
「あ、そうだ! 泊まりとか勝手に決め」
ずんずん歩くディランに取り合えずついていく。
「ちょっ」
玄関でディランに緑の光線が360度からあらゆる当たると、扉が開いた。
これ何認証?
漆黒のエレベーターに乗る。
「他に誰が住んでるんだ?」
「住んでない、おれ一人」
「は、はぁっ!?」
「他の部屋は仕事部屋で使ってる。ほら、おれマルチクリエイターだから」
ほら、マルチクリエイターだから。
それでこちらが納得するとでも!?
チーン。と静にエレベーターが最上階に到着する。
「えぇ?」
いやなんでよ。さっき玄関あったでしょうよ。
何故ここにも玄関がある?
次はライト光線はなく、漆黒の大理石で作られた、ページを半分に広げられた本に手で触れていた。
ガチャンッ。開錠。
「ほら、入って」
「あっあぁはい!」
入ると中も真っ黒い大理石の部屋。
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
さずがメゾネット! 外から見えた窓はこれだ。そしてこの窓から見る景色は海と街が煌びやかに見える。これ写真撮ればいいのに・・・っていかんか、家バレするわ。
「泊まる気になった?」
「泊まる!」
あ。時すでにおすし。
「なら良かった」
「・・・・・・」
いいのかよ。
ダイニングルームもキッチンも広い。
「コーヒーでいいよね」
「・・・うん」
「座って待ってて」
あのディランが優遇・・・だと?
目の前に熱々のコーヒーが置かれる。
「なぁに?」
「いや、何を、企んでいるのかなって」
「企んでなんかないよ。そう言えばここに人を呼ぶの初めてだなって思い返してたところだよ」
「え」
嘘だろ、絶対嘘だ。
「いやいやいや。おニャの子侍り散らかして過ぎて覚えてないんじゃないのか」
目を細めれば・・・あぁ見える。ワイングラスを片手にディランの周りに可愛いおニャの子達がセクシーにキャッキャウフフしてる風景が!
「いやおれ作品に反映できないものには興味ないんだって。・・・昔から、おれの周りには人が居すぎてそれが嫌で、自分だけの世界が欲しかったんだよ」
そうか。天才にも悩みはあるのだ。
「じゃぁここがディランの世界か」
「そうだよ。ここはおれ一人」
ううむ。そこにいる俺はつまり・・・。
「ということは、俺は作品・・・」
ハッ! そうだ大事なことを思い出した。
慌ててトランクケースから例の画集を取り出した。
「そうだそうだそうだこれこれこれよ!? 人の写真勝手に合成しないでよてか俺の、はだっ裸! 表紙にするとは何事ぞ聞いてないんだけど!?」
呑気にコーヒーを飲むディラン。
「合成するくらいならこの仕事辞める。自分の最高傑作を表紙にしないで何にするんだ。おれはこれで抜ける」
「抜くなぁ! おかずにすなぁ!」
「これは全部レン・・・いや、リョウ、君の魅力で才能だよ。おれはそれを具現化したかった。まぁだけど良過ぎておれだけ知っていればいい君のことを世間様に知られたのが悔しいかな」
クッソ、普通に褒められているのが嬉しいよう。褒められたことなんてないし。褒められ慣れてないから。
ぺらぺら写真を見る。
「・・・俺、こんなにエ・・・じゃない」
「エロい、エッチ過ぎ。エッチの時もそうだけど」
「エッチエッチ言うな!」
「君さ、カメラを向けられると”スイッチ”が入るタイプだ、恐らくカメラのシャッター音が心地よくなって、集中力がマックス状態になって一種のトランス状態に入ったってこと。君は撮影を覚えてないだろ」
「え? いや取り合えず目立たないようにしようとは最初・・・、でもあぁ、あれ? そこから・・・」
気が付いたら楽屋? あれ、俺、何してたっけ?
「・・・君は感覚タイプだね。その日に、その時間で、その気分で、君は自分じゃない自分になれる。凄い才能だよ」
よく、分からないけど凄く褒められてる。
「だけど、おれはもう君を世間に写真で残したくない」
「え?」
何? やっぱり変だったのか!? そうだよな俺はど素人だ。
「君のエッチな顔や体はぁ、このおれの目に焼き付ければいい!」
こいつは何を言っている?
「もうそれがおれが君を映す最後の写真集になるだろう。ヌードは絶対、絶対おれの前だけ、ね!?」
ねっ!? ってあんだ。
「・・・やり始めたのはディランだし。この先もそうしたいって思うのディランだけじゃないかと思うんだけど。いきなり脱がされた時には、最高の変態だと思ったよいや現在進行形だけど」
今も変態だとは思ってる。
ふとディランは椅子にかけてあった白いシャツを持ってきた。
「じゃぁ脱いで」
シャツを奪い取って床に叩きつけた。
「人の話聞いてたかっ!? 脱いで、じゃぁないんだよ! じゃぁ? じゃぁって何よじゃあって!」
いそいそとシャツを拾い上げ、にっこりとシャツを俺に差し出す。
「裸にこれを着て」
「だっ」
「・・・創作活動手伝ってくれないと、エッチな」
むむむ。今日の俺は一味違うぞ。
「俺知ってんだぞ」
「? 何を」
「ディラン、”恋人”のマネージャーさんいるだろ」
ディランの目が瞬いている。ほほぅ? 動揺する時もお耳がピルピルするのか。
「運が悪かったな。情事をするなら周りを確認しなきゃだ」
「み、見てたのか」
「あぁ、しっかりと。ディープキスの後は見てないから知らないけど、お楽しみだった? いいか、誰だって自分だけを一番に思って欲しいって思ってる。一夫多妻になるつもりはない。所詮、おまえの俺に対する好きはライク、創作活動の”もの”なんだな」
何故かもじもじするディラン。
「・・・それって、君はおれの一番いになりたいってことだよね?」
「え? いや」
「じゃ、じゃぁ、さ、君が一番だって言ったら、リョウもおれを一番にしてくれるってことだよね?」
「・・・そっ」
「ディラ~?」
ハッ。この声は。
「ジャンプー無くなっちゃったんだけ」
はぅ! 素っ裸でも、超お綺麗ですね。って男性、だったんですねマネージャーさん!?
ギロリとテニイさんに睨まれた。
「ディラ? どういうこと!?」
「テニイっ!? 君帰ったんじゃ!?」
「何よ? あぁそういうこと? うちを帰らせて次の雌ってわけね?」
「ちょっと待てここまですることな」
「さいってぇーね!」
俺は遊ばれた。もしかして好きかも。そう思った俺が馬鹿だった。
俺は深くお辞儀した。
「すいません、不快に思わせたこと、本当にごめんなさい、帰ります」
玄関を出ようとしたら、力強く腕を掴まれた。あぁ、また怪力不足だ。
「リョウ、ちょっとこれには訳が」
こういうの、漫画で読んだことがある。まさか自分が修羅場を体験することになるとは。
「突然来てごめん。来るなって言えば良かったのになぁほんと」
何とか腕を振りほどけた。
「リョウ!」
ガチャンッ。
さようなら、理想のメゾネットマンション。
「あ、レベッカ? すいません至急車で迎えに来て欲しいんですけど。あぁ、時間かかりますよね、大丈夫です。何処かブラブラしてますから」
レベッカと電話が通じて良かった。
行きに通り掛け、屋台の並ぶ広場が見えた。レベッカ曰く、ボヤージュ市場というらしく、新鮮な野菜や魚や果物、肉、そしてご飯も売っているらしい。そこで時間を潰そう。
『今はレン・クジョウなのですから、変装して待っていてください!』
「あ」
忘れていた。首の黒いショールを派手なピンクの髪にフード代わりに被せて、後はサングラス。これはマストアイテムだと、レベッカに常に持っているよう言われたものだ。なるほど、凄く助かった。
「よし」
変装もバッチリ。一人の時間を満喫じゃー!
ボヤーシュ市場。夕方になりつつあるその市場には夕ご飯を食べにもしくは食材を買いに来るヒト族や獣人達が集っていた。
あれ?
よく見ると獣人さん達は獣の姿のままの人達が多い。ディランやモデル仲間の虎のミンや猫人のララは人型で獣の部分と言えば耳や尾だけだった。何か違いがあるのだろうか?
ディランも獣の姿でいて欲しい。そうしたらいつでも遠慮なくもふれるのに。
皆お洒落な買い物バックを持っている。俺も欲しくて雑貨屋さんで中に赤いチェックの布が敷かれた篭を購入した。
車の屋台やテントの屋台、大きな辛子明太子フランクフルトや玉ねぎのバター醤油焼き、米フィッシュバーガー・・・。
「こ、米っ!?」
ここに、米があるかもしれない!
また、おにぎりが作れる!?
「あ、あぁっ!」
米があった。しかし5kgからの販売で、お金が、足りないっ!
「・・・うぅ・・・」
米をまじまじと恨めしそうに眺めていたら、いきなりがしっと右肩を掴まれた。
「ヒッ!?」
「・・・みぃ~つ~け~たぁ~ぞ~!」
「!? ディランっ!?」
しかも汗だくだ。ほれ見ろ、おまえの汗だく姿で悩殺されて卒倒しとるおなごがおるぞ。
「ったく! こんなとこで何してんだよ!」
「何って、そりゃレベッカのお迎え待ちだよ、どうせ電車やバスで帰れないお坊ちゃまですよ!」
ん? おやおやおや?
目の前にいい金持ちがいるじゃないか。
「ディラン、お金持ってない? このお米欲しいんだ。お金、貸して欲しい」
ディランは米を見やる。
「米? おれは米は食わん」
「俺が食べるんだよ。誰もあんたにとは言ってないこの浮気者」
「うわっき・・・」
「浮気だろうが。テニイさんがいるのに俺を弄びやがって。そうだ、詫びろー! 米を買えー」
「弄ばれたと、思ったの?」
「当然じゃん! 色々おまえが初めてだったのに全部教え込まれたし。まぁでも今思うと本気にならなくて良かったかも。俺この仕事終わったら娼館へ戻ろうと思っているし」
「は? 何ソレ」
声質に、威圧が加わる。
「戻さない」
ビリッと空気がざわついた。
「・・・ちょ、何怒ってんの? 怒ってんのは俺なんだから」
「怒ってるんだ。テニイに嫉妬してるんだ」
嫉妬? 俺が? このモヤモヤしてやるせない気持ちが?
違う。
「俺にそんな資格なんてない。ただ、ヤダなって思っ」
急に景色が変わったかと思えば、ディランの肩に簡単に担がれた。
「ちょっ!?」
「その米、そう、それ下さい。ありがと」
しっかり米を買ってくれた、くれたはいいけど嫌な予感。
「何処に行くんだよ離せ下ろせ! ついでに米も下ろせぇ」
「おれの家まで下ろさないよ。あ、レベッカ? 迎えの車ごめん大丈夫だから、あぁ、うん、ごめんね迷惑かけて、じゃ」
車がぁぁぁぁ!
「ちょ馬鹿! テニイさんが待ってんじゃないの!? やだよ帰る!」
うぅ、怪力が無力。
「おまえらがいちゃつくとこなんて見たくない! もうおにぎり作りたいから帰る!」
また憧れのメゾネットマンションに帰宅。
ソファにゆっくり下ろされた。
「・・・? あれ? 期待してた扱いと違う。何でポイって投げないの? いいんだよ? 俺にはぞんざいな扱いが合ってる。テニィさんという一番がいたからあんなことができたんだねぇ」
あぁ、一番最初の出会いを思い出す。あぁ、こんな皮肉も懐かしい。
「だからあれはごめんて! っじゃなくて、リョウ。君は嫉妬してくれてるんだ。ということは、おれのこと、結構好きだよね」
もう好きなんて言うもんか。ぷいちょ。
どうせこの家から出して貰えないのなら勝手にしよう。そうだ、探索だ。
「ねぇリョウ、おれとテニイがいちゃついて、嫌だったんだろ」
「はぁん? 見せびらかしだった? 最悪な男だな」
二階にはお風呂があった。そして、さらにその奥には。
「ろ、露天風呂・・・だと!?」
しかも使用された、濡れた跡がある。
「え、嘘、マジかあいつマジで使いやがっ」
「いいねぇ、テニイさんは自由にここを使えるんだな。なぁにがこの部屋に人を入れたことがないだよ。嘘つき」
「いやっ、ちが、彼はマネージャーでそういう意味でカウントしてな」
「カウントしないほど自由に出入りできるのは恋人兼マネージャだから・・・」
ん? 別に扉があった。
「あ、あああああ待っ!」
開けると、・・・何ということでしょう。
「露天風呂直結のベッド!? しかもキングサイズに天井全体が、かか鏡!?」
何と言うことだ、こんなレベチな寝室。エッチ過ぎ!
ハッ。
お楽しみの後の風呂上り、だったのか。そりゃぁ焦るわな。
「・・・・・・」
そっと扉を閉めて、内階段を降りた。
米5kgを担ぐ。
「待った待った何処行くんだよ」
「帰るに決まってる。何? 二人のあれこれ見せて何がしたいの? 嫉妬を越えて幻滅」
「人の話中に勝手に動き回って見たのは君だろ!? しかもネタばらしをすると、おれとテニイはただの友人関係だ、何もしてない」
「・・・・・・」
一体この男は何を言ってるのだろうか。
「テニイはおれの獅子族の親友のツガイだ」
「二股っ!?」
「ちっがぁぁぁぁう!」
別の方から耳をつんざく叫び声が。
「っ!?」
噂をすれば、キッチンからテニイさんがスーツを着て現れた。
「やり過ぎたことは謝るけど、二股じゃないから。こいつはダーリンの親友だから今回の作戦に乗ってあげただけ。ちょっとばかしノリノリになっちゃったけど」
「? 作戦?」
「そう、ディランは貴方に嫉妬して貰いたくて、うちという第二の女設定を用意したわけ、作戦は大成功ね。この子の頭の中、結構ディラでいっぱいじゃない」
「えへへ」
「ちなみに、この部屋、うちも入るの初めてなの。作戦でどうしてもって、嫌だけど仕方が無いからって、渋々入れられたわけ。べっつにうちからしたらクッソどうでもいいんだけど」
いや、めっちゃ堪能してるよねおたく。
「でも裸になることないだろ、そんな脚本に書いてないっての」
「なぁに? 肉体関係ありますって分からせた方が、嫉妬に燃えるでしょ普通。あ、このことはダーリンに言わないであげる。もしもバレたら親友でも痛い目見るかもだし」
「・・・ほんっとに頼むよ」
二人の掛け合いは長年の連れ添いの雰囲気を感じ取れた。
「じゃ、じゃぁ全部、お芝居だったってこと?」
「そう! 嫉妬したよね? 頭の中、おれのことでいっぱいにしてくれたのが嬉しい!」
すっごい耳がピルる。
「別に、その」
「嫌だったんだろ!?」
「そりゃぁ・・・もごもご」
「うううう嬉しいっ!」
「ディラあんたそんなに興奮すると・・・」
ーバゥン!
「・・・え」
俺の前に、しろくまがいる。ブルブルブルとブリして、まぁるい小さな瞳がおれを見た。
「っ!?」
「ほら言わんこっちゃない。熊人は興奮がマックスを越えると、熊になるの」
フワフワもこもこの体毛が気になる。触ってもいいかな、いいよね?
あ。
ボフンとまた人の姿に戻ってしまった。
「あぁぁなんでぇ~!? 触りたかったのに!」
「え」
「素直になったらまたしろくまになってくれる!? ハァハァ作戦許すから! そうです嫉妬してました! これでいい!?」
生のしろくまだった! 絵本でしか見たことのない、白くて大きくてフワフワのしろくま。まさかディランが熊に変身できるなんて!
思い切り抱きついた。
「しろくまになってー! 頼む後生だからーっ!」
「ぅええええっ!? いや君、怖くない、のか!?」
「怖い? 何が?」
「・・・じゃ、うちは帰るから。後はいちゃつきなね。ディラ、明日の仕事は昼からにしてあげる」
じゃあねとさっさとテニイさんは出て行ってしまった。ディランに抱き締め返された。
「う、嬉しいけど、熊になると野生の本能が表に出るから、性欲を抑えるのが難しいんだよ。まぁ、子作りの時は熊の姿でしなきゃだけど」
スンッ。
「・・・・・・そ、っか、やめとこう」
離れようとしても引き剥がせなかった。
「その、あの、お話しが、あるんだけど」
もふもふの耳がピーンッと立っている。これはううむ、緊張、してる?
「何改まって」
泳いでいた目が、ばちっと俺を射抜く。
「君をいつも心から食べたいと思ってる。結婚を前提に、正式におれと付き合って欲しい。
それで、おれが帰って来ると、おかえりって美味しいご飯を作って待っていて欲しい」
え? 本気?
「ふ、何、いつも心から食べたいって、ふ」
普通は好きとか愛してるとか言う所なのに、ふふ。これがディランらしいというか。
「いつもデザートは君で。子供も欲しい。可愛い白くてまんまるなモフモフの子だぞ? 人間の変化が出来るまではいつもそのモフモフを堪能できるいい物件だぞ」
最高じゃないか。モフモフし放題、パラダイス。夢まで見たあの光景が手に入る。
「・・・忌み子の俺でいいのか?」
「何だろうが君じゃなきゃ意味がない」
ハッ! いみ、だけに!?
「ブッ、ふふ、あははははっ」
「おれの渾身のギャグが通じた!」
「寒いってーの、あははは、はぁ・・・」
「ねぇ、返事は?」
俺、幸せになっても、いいのかな?
「・・・よろしく、お願いシマ、ふわっ」
いきなり両脇を抱えられ、高い高いされた。
「ぃっやぁったぁぁぁぁーっ! レディアンに連絡しておこう」
忘れていた。俺の許婚殿。
「まぁあいつも分かっていただろうし」
「え、そうなの?」
「あれだけ顔や体に射精して、中だしもしまくったらそりゃぁ匂いで分かるよ」
「っ!? おおお俺しっかりお風呂に入ったし洗ったし念入りに!」
「そんなんで匂いが無くなると思ってるのはヒト族だけだよ。獣人の鼻は誤魔化せないほど繊細だから。おれだって念入りに君におれを染み込ませたもんね」
ようやく下ろしてくれた。
「そういうことでは、おれは娼館は好きじゃァない。可愛い子ちゃん達には悪いけど、沢山の雄の匂いが沁みついてるからね」
なるほど、そうなんだ。
「でも厨房にいた君は違った。まっさらで美味しそうだった」
「・・・食べたかったわけ?」
「うん。獣人はね、”食べたい”って本能で感じる相手とツガウんだ。そうじゃないといい子種が出来ないし、孕ませられないから。おれは君に一目惚れしたんだ。だから、何か繋がりを作るために、レンの計画に乗ったんだよ」
そういうことだったんだ。なんだ、俺だけじゃなかったんだ。
「・・・なんだ。てっきり俺だけ、何もない俺にディランがいきなり来て、入って来て、俺だけ頭の中がディランにいっぱいになってるだけだと思ってた。ディラン、カッコいいしモテるし、エチフレも、遊びでもいいと思ってたけど、テニイさんが現れて、ディランの隣にすっごくマッチしてて・・・って、おい!?」
折角のエモい話をしているのに、テキパキと俺の服を脱がす変態熊。
「おれに惚れさせるように頑張って来たんだから、当然の効果だろ。まずは体からメロメロに堕として、心は時間をかけてゆっくり自覚させて。無意識だけど君はあっちの最中は本当に素直だから、おれのこと好き? って聞いたら大好きっていつも好き好きって言ってくれてるし。この普段のツンツンとのギャップも癖になるよね」
っ、心当たりがないわけじゃない。多分、イキ過ぎて、気持ち良過ぎて正気がぶっ飛んでる時だ。
「ちょ、何コレ!?」
「え? 何って。裸に彼シャツにしたいの。下着脱いでよ」
「こんっ、の」
「おれのこと、好きでしょ?」
「くっ、こっ、の! ズルくない!?」
変態熊がぁ。
絶対に好きって素面で言ってやるもんか。 言われた通りに下着を脱いだ。
「窓際で髪を後ろで一つに持ち上げて、横を見て」
は、はぁ? ま、まぁ言われた通りにするけど。このポージングは何?
「こ、こぅ?」
まぁいいアディアが浮かぶなら、こんな訳分からないポーズの一つや二つ。
電気が消され、窓に大きな満月が顔を出していた。
もうそんな時間か。どうりでお腹が空くわけだ。
「ディラン、お腹空いた。ご飯食べてからまたやってあげ」
「あぁ・・・なんて素敵なんだ」
「っ!? なっ」
「動かないで」
ディランが俺の股の真下、足元で寝そべり、下から眺めている。完全なる変態熊がそこにいた。
「髪を持つことによってうなじが露わにあり、それによってシャツが上に上がり、キュートなお尻が見えそうで見えない。逆行で君の美しい体のラインがシャツにシルエットで現わされ、あぁ女神よ・・・ここが天国か」
こいつは一体何を言っているんだ。
はぁ、この下りも慣れてきた。
目に見えるほど、股間のモノがいきり立っている。前はこれから逃げていたけど、お世話してあげるのも、こ、恋人、の仕事、だし。
「この助平熊にはお仕置きかな」
「ぅぶむっ」
その俺の股の下にある変態顔の上に思い切り座ってやった。股間にディランの鼻息が当たる。
「ふぁっ、あぁ、んあぁ・・・」
ディランの熱い舌が俺の蕾に押し入る。
「んんん、美味しい、うんむ、あむ」
「あっ、きちゃ、いっちゃ、あんっ」
セーフ。汚すといけないから、射精直前にシャツで覆った。
「んん、はぁ、あぁ、危なかっ、あぁっ!」
ディランに腰を持ち上げられ、いきなり後ろから性器を挿入して来た。
「んあぁぅ、んぁ、あ、あ、はや、あぁ」
何とか窓に手を突いて、与えられる快感律動に耐える。
「ハァ、アァ、リョウ、好きだ、愛してる、食べたい」
「んっ、も、ぅ、食べ、て、るだろ、あぁ」
熱い、太くて硬いモノが俺の中で暴れる。もうこの異物感の圧迫感が気持ち良くて堪らない。奥をガンガン突かれ、肉襞を擦られるが堪らない。
「アァ、アぁ、出そう、だ、出し、たい」
「んあぁ、あぁ、あ、あ、あ、あ、あ」
俺の愛液が太ももを伝う。ポタポタと床を濡らした。
「ひぅっ!」
体がふわっと浮き、足が床から離れ宙ぶらりになった。その動作で窓で踏ん張り付いていた手も離れた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ・・・ぁぁぁあああ」
ディランに腰だけ抱えられ、前屈の体勢で宙で突き上げられた。完全に身を預け、ただただ一方的な穿ち。
「ぅあぁぁぁ、しゅき、こ、れ、しゅきぃ」
「アァッァァァァァ・・・だす、だす、だすおれのもの、はらめ、はらめ」
「いくいくいくいくぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
激しい律動に叫ぶことしかできない。
凶器が膨張し、俺の襞もしっかり締め付けて離さない。激しい抽挿と抜かせまいとのせめぎあいだ。
「ゥアァァァァァァ! ガッ」
「いぐっ! ぅ、ひっぁ」
奥に熱い濁流がドシリと注がれたのを感じた。コブが収縮を繰り返し、出来立ての子種を流し込む。
「ぅあぁ、あ、ちゅ、い、あぁ・・・」
ゴボゴボと一度に這いきれない放出された精液の音と匂いがする。溢れた精液がトロトロと俺の愛液と混ざり合い、太もも、ふくらはぎを伝って、かかとへ、最後に足の親指に雫となって、ぽとりと落ちる。その間も尚、ディランは腰を振り、俺の中に流し込み続ける。こんな、獣のようなエッチが堪らなくゾクゾクする。
「フゥ、ハァ・・・ハァ・・・」
「あんっ、あぁ」
ぬぽっと音と共に凶器が抜かれ、蕾の中がくっぽり空いてしまった。ディランが俺を床にようやく下ろした。
俺は窓に背をもたれかけた。
俺の股には溢れ返る誰かさんの白い濁液でいっぱいだ。
「・・・ハァ、ハァハァ・・・」
ディランの碧い目が光っていた。まるで獲物を見ているかのような視線に、胸が高鳴った。
俺の前にまだ、鋭利に仰け反る凶器が、亀頭の先端からポタポタと子種を零している。
徐に両脚を左右に大きく広げた。
「・・・くまさん、食べる?」
ディランは俺を窓に押し付け、腰を持ち、元気な凶器をズブリと刺した。
「んあぁぁんんっ、あぅ、んあぁ、あああ」
もうぐちょぐちょで、腰に力が入らなくて、ただ必死に腰を振り俺を貪る逞しい雄の厚い胸板に押しつぶされながら、快感に喘いだ。
「しゅき、でぃら、すき、すきもっと」
かっこよく可愛いこの雄熊が好きだ。
「可愛すぎだろよったく」
「んむ、んんっ、ん」
熱い激しい口付けにさらに凶器を締め付けた。食べられるばかりじゃない、俺もこの雄を食べてやる。
負けじとドンッとディランを押し退けた。
「ふあぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
俺はディランに跨り、自分で腰を激しく上下に、左右に振りまくった。
あぁ、この雄を屈服させているかの錯覚に陥る。ディランは俺のものだ。
ディランが俺の腰を掴んだ。
「うっあぁ、あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああ」
下から鋭利に穿たれた。
「いくいくいくいくいちゃ、いあぁぁ!」
ディランに思い切り顔射してやった。
綺麗な顔に、その体にも。
あぁ、なんて堪らない光景だろうか。
俺にもこんな狂気じみた心があったんだ。
この雄を俺だけのものにしたい、屈服させたい、俺だけを見るようにさせたい、と。
スイッチが入ったディランの瞳が鋭利に帯びた。
「最高だね」
声が枯れるまで喘がされ、いっぱい愛された。
ーいつか絶対、迎えに来るから!
忘れもしない、激しい雷雨の日。
どうして? どうして行っちゃうの? 俺のこと、嫌いになった?
『養子の貰い手が見つかったんだ。ごめん、リョウ。今のままのオレじゃおまえを幸せにできないから』
大好きな灰色の熊人のエリック。人の姿になることができて、先に家族を見つけた親友。
『必ず、迎えに来るよ。何処にいても、見つけに行くから』
うん、待ってる。約束だよ。
絶対、絶対お嫁さんにしてね。
『うん、約束だ』
「・・・・・・」
温かい感覚に、思い瞼が開いた。
「ん・・・」
「あ、起きた?」
気が付いたら、景色最高の露天風呂に入っていた。
「・・・ふぇ?」
後ろ抱きにディランが笑っている、
「ごめんね、マーキングで凄いことになっちゃったから、お風呂に勝手に入れちゃった」
グリグリと首筋に鼻を擦りつけて来る。
「ん~大丈夫、心地いい・・・」
ガラス張りの壁に窓に朝日が差し込んで綺麗だ。
「何か夢、見てたの?」
夢。そっか。懐かしい夢だったな。
「うん。孤児院で養子に行っちゃったグリズリーの熊人の親友がいてね、ふふ、そいつお嫁さんにしてねとか言ってた」
「・・・む」
ぎゅっと腰に手が回る。
「迎えに来るって言われて健気にずっと待ってた。十年ぐらいかな」
「今も彼を待ってるの!? おれは嫉妬深い毛深いよ!? 絶対渡さないからね!」
毛深いのは熊だからな?
「昔の話だってば。歳を重ねるにつれて分かって来た。ただの子供の約束だって。現実は、大人の社会に染まればただの世迷言だったってさ」
シスターに話を聞いた。エリックはもう遠い領土に行って幸せなんだと。なら、俺は彼を崩してはいけない。
「俺も十五になって本当なら養子縁組させて貰えるんだけど、ほら、オッドアイで忌み子だから。でもずっといるわけにはいかなくて、それでお金のいい娼館に住み込みで働いて、少しずつ孤児院にお金を回してたんだよ」
「レンの支援が終わったら、おれが孤児院ごと買い取る。新たな支援をしよう」
「!? ほんと!?」
「うん。それが君の望みだろ。それに、引っかかってたことがあるんだ」
「引っかかる?」
「うん。最近非正規の受胎の実が裏で出回っているらしくてね。それを悪用してる奴がいるらしい」
「悪用?」
「”ハイブリッド種”の作製だよ」
「はいぶりっど?」
「優れた獣人の子供さ。それはヒト族にしか生み出せない。ハイブリッド種は獣人の中でも強い野生の本能を生かしたまま、人間の姿になれ理性で制御できる種のことだ」
そうか。だからボヤージュ市場ではその人型の獣人がいなかったのか。あれが普通の日常で、俺の周りが異常だったんだ。異常も失礼か、優秀な獣人ばかりだったってことか。
「・・・え、ディランって・・・」
「あ、あぁ、うんえへへ。そう、おれもハイブリッド種ね」
「えへへ、じゃないよ! 可愛い子ぶるなよ実は最強熊じゃん!」
「いやいや! 何処の種族もハイブリッド種の起源は王族だよ? だから王家の血筋が最強なの」
「レディアン・・・、ベルモンド家が?」
「そう、・・・まぁ、”表向き”は」
表向きとか裏向きとか分からん。
「で、ベルモンド家を筆頭に、おれのようなハイブリッド種の獣人達が、非正規の受胎の実の出所を探ってるんだ」
「そっ・・・」
ふとディランの携帯端末が鳴り響く。
「今、君の影武者のおかげで、レンが動けてる。・・・はい、・・・うん、あぁ」
「・・・え?」
レン様は愛の逃避行中・・・じゃ。
「あぁ、分かった。じゃぁこっちも動く、ありがとうレン、気を付けて」
ディランが通話を切った。
「レンが無事戻ってくるそうだ。ふぅ~まぁ、君との関係もようやく形にできるし、安心して動けるかなぁ」
お口ポカン。
「な、な、ななんで教えてくれなかったんだよ!」
「君はレン・クジョウになることが仕事だし、こんな大事なことが背景にあったら、君は集中出来てた? きっと、おれのことも眼中になくて、ただのセフレな関係だったろうよ」
「・・・うぅ・・・」
正論でグゥの音も出ない。
「レン様・・・一体何者なん? あの人、ほんと怖くなって来た」
ディランはにっこり微笑む。
「あぁ、裏社会を取り仕切ってるヒト族のドンだよ。この話もレンから来て、惜しみない協力をしてる」
「ひぃっ!」
俺は、俺はそんなお方の大役をぉ!
「・・・おかげでいいパイプが出来て、メリットも申し分ない。それだけの大きな金と権力がある。お互いが信頼で結ばれてる」
「そうか! だからレディアン王との婚約か!」
「そう、言っておくけど、レディアンのレンへの溺愛が重過ぎでさ。でもその愛を上手く制御し発散させてるのがあのレン・クジョウだ。熊人の固執執着束縛はえげつないからさ、いやぁ凄いヒト族だ、本当に恐れ入るよ」
「・・・そぅ・・・あははなるほど。最初のデートの夜会も俺がレンじゃないって分かってたから自由にしてくれてたんだ? というかよくもまぁその偽の受胎の実の関係者を探るために、危険な場所へ行かせたね?」
「・・・まぁ、レンは策略者だからね? レディアンも信頼してる」
「・・・それでも危険な仕事だね」
「うん、だからレンの護衛に俺のエキスパート護衛を送った。そろそろ・・・連絡が来るかな」
「・・・は?」
「ボス」
「ひぃわっ!?」
思わずディランに抱きついた。黒装束で仮面のマスクを付けたデカイ大男が、いきなり露天風呂の部屋の枠の手摺に現れた。
どうしたらその巨体をバランス保って座れるわけ!?
「唯今戻りました」
めっちゃええ声やん。もっと、見せてよ、何仮面被っちゃって。この人も熊人なの? もふもふなの?
「分かった、分かったけど電話にしてくれ。今恋人をプライベート中なの。リョウ? 彼を食い入るように見過ぎ。君、素っ裸なの、覚えてる?」
「っ!」
「・・・・・・」
めっちゃ見られてた。
「グロウ、君も見過ぎ」
「・・・失礼します」
そう言い残すとすぐに消えた。
もふもふだった、熊だったわ。
「・・・忍者熊だ・・・」
「・・・彼の目を潰しておかないと。おれのリョウを見た罪は重い・・・」
ディランの目が本気だった。
「重い? そうか、おまえの愛もな?」
本当にやりかねないので、ご機嫌を取ってあげることにした。
勿論、体で。
誰かに好かれるなんて、まだ今は思ってもいなかった。そりゃぁいつかはって、忌み子なんて関係ねぇって、おまえが好きだって言われたかった。
「レン、最近超綺麗になったよネ?」
レンのモデル仲間、虎人族ミン・ソンユ。黒髪で琥珀色の瞳がカッコよく、武闘家で有名なソンユ家の長男だ。
よく頬に頬を擦りつけて来る。猫科はこういうスキンシップが多いらしい。というか鼻がいいなら偽物レンってバレないのか?
「え?」
「何だっけ? 三か月間花嫁修行に行ってたんだって?」
そしてもう一人、猫人族のララドーラ・フフ。茶色猫ッ毛に、深緑の瞳の今流行りの女優だ。モデルから念願の女優になれて張り切っている。
「ぅえあぁまぁ」
そういう段取りだったっけか。
「クンクン。なぁんか修行でレン、変わっタ? 匂いが大人めェ」
「大人めて、何ソレ」
「あとぉ、ディランくさぁイ」
「ブッ」
折角のアイスレモンティーがぁ!
「それってぇ、レンがディランと寝たってことぉ? でもレンって熊人族王のレディアン王の許婚でしょぉ? あ、っやばぁ! ララ面白くなってきたかもぉ~」
止めてくれ。その話は止めてくれ。
「一人のヒト族を取り合うのって珍しいよネ。普通は逆よネ逆!」
「一夫多妻なんてララはいやぁ。でもぉ、多夫一妻はいいと思うぅ」
どういう理屈だよ!?
「ねぇ~エ、当の本人はどうなのヨ?」
「そうよぉ、大事なのは雌側よぉ」
二人の興味津々の眼差しが突き刺さる。
「君達、休憩は終わり」
ビクッ。
背後からディランの声が。
ディランの声だって、見なくても聞けば分かってしまうようになった。
「何? 何で怒ってんのレン」
「べべべ別に・・・」
「? キスマーク、コンシーラーで隠せただろ?」
「なっ!? ばっ、ちがっ!」
二人の視線がショッキングピンク。
「あぁ~もうご馳走様ぁ」
「あぁんララも恋したいぃ」
「え、あ、待ってよ!」
席を立った途端、腕を掴まれた。
「おれは、許婚に負けるつもりはないから」
「なっ!? おまっ」
ディランが柏手を打つ。
「二本目始めるよー、下着は見せる為にあるんだから、いい写真撮ってよねー?」
ディラン監督。
「おいおまえら、モデルがいいからって股間のものおっ勃てるんじゃない」
撮影班のヒト族の証明担当と兎人族のカメラ担当がもじもじしていた。
「無理っすよ監督ぅ! 勃たせない方が失礼っすよぉ!」
「いいよぉ~? 興奮された視線で見てくれた方が、自分達も興奮するしネ。後で抜いてあ・げ・るネ」
ああああああこの間付けた乳首下着を恥ずかし気も無く見せつけるミンちゃん。神々しい。
「そうよぉ、皆ぁ、ララ達を見て発情しなさぁ~い? 場合によってはエッチなこと、してあ・げ・る」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!』
急激にこの撮影場所がやる気と活力に満ちる。
健全、とは。
「いい子達だ。やっぱり性欲に忠実じゃなきゃね」
「”欲望に”忠実な!? 性欲に限定するなよ忠実過ぎだろ!? モラル帰って来い!」
「ダメだよ”レン”。レンはそんな細かい突っ込みしないよ? あの子達のように欲望解放してるんだから」
「! ぅ、嘘・・・」
あんないやらしく振る舞えと!?
「上級者過ぎる! ボクにはレベチだ」
「へぇ~?」
ふくっ。
耳元にディランの吐息が吹きかかる。
「いいの? またあの下着付けて、今度はお風呂に入りながら着衣プレ」
「いいいいい行って来ますぅ!」
ええいいっ! パーカーを豪快に脱いだ。
行くぜぇ! もうボクはレンなんだから!
「ボクはぁレン・クジョウだぁぁ!」
「どしたねレン」
「ほら二人とも来て」
「へ?」
俺を中心に、ピンクのベッドで可愛い子二人を両サイドに寝かせたり、侍らせた。
「ん~なんか今日のレン、強引~! でもいいかモ~!」
「ほんとぉ~! ララ、レンになら抱かれてもいいかにゃぁ~」
なんかよく分からんけど二人が俺に甘えて来たぞ。よし、これを利用してボクを映させない壁になるがいい!
どう!? 俺、可愛いだろ(壁役)!?
「はぁ、やり切った、乗り越えた・・・」
撮影が終わって楽屋で寝転んだ。
シャッター音とカメラマンさんが褒めてくれるからつい調子に乗って、ウインクしたり色んな体制やポーズ(主に二人)させちゃったけど、ディランがOK出してくれたからいいしょ!
コンコン。
ドアがノックされる。
「お疲れ様です」
”レン”のマネージャーさんが入って来た。
やばっ。慌てて体勢を取り繕う。
「ふふ、大丈夫ですよリョウ様」
「えっ?」
聞き覚えのある声。
「ほぉら、わたくし、レベッカでございますよ」
「レレレレベッカ!?」
眼鏡とスーツを着ただけでこんなにイメージが変わるものなのか。
「わたくし、正式にリョウ様・・・いえ、レン様のマネージャーを勤めさせて頂くことになりました」
「メイドじゃ、無かった・・・?」
「マネージャーたるもの、そつなくこなさなくては。それに、本当はリョウ様の監視役でもございました」
「あぁ、うん、そうだと思ってた」
「此度、リョウ様がわたくしレベッカの推し、にございまして、レン様より正式にリョウ様専属のマネージャーをさせていただくことになりました」
推し? 推しって今人気の応援したい子っていう意味の?
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「あぁ、うんこちらこそ。レベッカとも研修期間からずっといたから心強いよ」
「まぁ、嬉しいお言葉でございますぅ」
「う、うん」
「本日の撮影わたくし驚きました」
「え?」
「あんな才能もお持ちだとは。さすがレン様がお選び抜かれたお方」
「才能?」
「皆誰もが被写体のリョウ様に目を奪われておりました。ディラン様も褒めておられました」
「うっそ、ディランが!?」
いや俺ただ視線があの二人に向けようとしてただけなんだけど。あくまで二人を立たせようとね。
「ただただ、日に日にリョウ様の魅力に感銘を受け続けておりました」
「凄く褒めてくれるんだねありがとう」
レベッカは褒め上手なことを理解した。
「っ! うきゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
え。
レベッカさんは顔を手で覆うと、勢いよく楽屋を飛び出して行かれた。
大丈夫か情緒の方は。
そんなこんなで俺のレン・クジョウの日常が始まった。
まずは食レポのお仕事。少しずつお野菜が嫌いだったけど食べれるようになった体裁SNSを出して、ついに美味しさを実感という結果を公表した。とある兎人族の兎野菜がとても美味いということで、野菜を克服したレン・クジョウが食するという、料理番組のちょっとした枠を貰えた。
兎野菜は生で食べるのが主で、後は手作りディップソースを付けたりして食べると美味しいらしいとのことだ。
俺は紫人参に興味があったので、早々生でソース無しでかぶりついた。俺のコメントはまぁ、硬そうに見えてサクサクしていることと、人参自体の甘味があって酸味のあるドレッシングをかけて食べると美味しいんじゃないかって感じ。緑大根は大根と言えば味噌だけど、この大根は醤油マヨが絶対合う、付けて食べるとほらめっちゃ美味い。などなどほくほく生野菜を食べさせて貰った。寧ろペロリと食べてしまい、こんなに美味しく食べて貰ったのは初めてと、野菜を作った農家の方とお店の方が号泣し、沢山段ボールに兎野菜をお土産で頂いた。ラッキー。
そのテレビがきっかけに、SNSで#兎野菜とレンがトレンド入りし、兎野菜が今人気になり過ぎて、大変なことになっているらしい。
メディアの影響力の恐ろしさを学んだ。
そして、今流行っているバーチャルライバーという、動画サイトで自身が演者でもありクリエイターでもあるそんなマルチな職業の方がいて、是非コラボをしたいと誘われた。何でも有名なホラー実況者で、黒ずきんさんと言うのだけれど。中々の絶叫、リアクション王で笑いあり涙ありの人気なライバーさんだ。
その方とスタジオを借りていきなり”Rainy”というタイトルのホラーゲームをした。何でも黄色いカッパに紅い傘を持った少女から逃げるというゲーム。勿論、逃げるだけではいけなくて、真エンディングを見るには少女を成仏させないといけないらしい。
黒ずきんさんは一周目をクリアはしているらしく、初見の俺を誘導しながら真エンディングを目指すという内容の動画だ。名付けて真エンディング見るまで終われてまてん。
ゲームもしたことない俺だけど、孤児院で子供達がやっていたのを見ていたから、何となく知識はある。黒ずきんさん並の絶叫と真エンディングまでのアーカイブをゲットし、無事真エンディングを見ることができて、3時間ぐらいで済んで良かった。
またそれもSNSトレンド入り#リアクション芸人レン #ホラー絶叫レン など。ほんとに驚いて椅子から落ちたんだけど、その映像がプロの切り抜き職人に面白く字幕付きの動画がアップされて、レン・クジョウのお嬢、清楚なイメージが変わってしまった。
「うぅ~」
ちかれた・・・疲れた。
こんなにもゲームって疲れるんだ。目、対し頭痛がする。皆ほんとによくやるな。撮影が終わり、お迎えしてくれる秘書のレベッカさん待ちだ。
ん?
聞き慣れた声がする。
「おれにだってプライベートは欲しい」
この声は、ディランだ。このスタジオにも出入りしているのか。さすがは芸能人。
「・・・・・・」
何故人は隠れてしまうのだろう。何故なら、ディランの隣に絶世の美女がいるからだ。ものごっつー綺麗だぁ。あの人も芸能人か?
あんな藍色の髪に水色の口紅が似合う美女おる。
「・・・だからって、うちをないがしろにするなんて。一番の恋人はうちでしょ?」
「!?」
ななななななななななぁんだって!?
「で、でも、レンも好きだし」
「一夫多妻するつもり!? 熊人は一筋でしょ!? モテるからっていい気にならないでよ! 子供作ろうって、言ってくれたのは嘘だったの!?」
ぅえええええっ!?
「ぅえええええっ!?」
何故ディランよ。俺を同じ反応をする?
ズキン。
あれ? 何だろ。胸がなんかチクリする。
でも分かった。
やっぱり、やっぱりそうだよな。
美女がディランの襟を引っ張り、豪快に口づけを交わした。
「っ」
ディランが慌てて彼女を引き剥がす。
「っおい! これはやり過ぎだ」
そうだろうよ。こうやってこっそり逢瀬を見ている奴がいるんだから。
「何よいつもしてくるくせに」
「おまっテニイ!」
ダメだ。これ以上はいちゃつきそうだ。早くこの場を去ろう。
「レン様?」
撮影場所に戻ると、レベッカさんが来てくれていた。
「あ、ごめんごめん」
俺、やっぱりディランが好きだよなこれ。好かれて、調子に乗ってたかも。結構、いや、かなりショック。俺は二番目、か。
「・・・? お疲れですね、お顔がすぐれないようで」
「うん、ゲームあんなにやったこと無かったから疲れちゃって。もう帰って休むよ」
「はい、参りましょう」
「うん」
そうだよな。ディランの周りには沢山の人達がいるし、恋仲になるのは至極当然のことで。なんで俺が一番好かれてるなんて自惚れ、それは見ている自分の視野の狭さと、彼のことを知らなさ過ぎ問題だ。恋は盲目とはいうけれど、俺はいつから盲目だった?
レベッカの車に乗った。
「レベッカ」
「はい?」
「あの、テニイっていう人、誰か知ってる、かな?」
ディランがそう呼んでた。
「あぁ、ディラン様のマネージャーですよ。それはもう優秀で有能な、ディラン様の御親友の方から紹介を受けたそうで」
マネージャーさんか。それならいつでもどこでも一緒だし、いちゃつき放題か。
「お会いになられますか?」
「ええっ!? いやいい! いいよ! たださっきディランと親しそうにしてたから誰かなって」
「・・・ディラン様がいらっしゃったのですか?」
「え? あぁ、うん。あ、今の話気にしないでね」
「・・・はい、畏まりました」
何か話題を変えなければ!
「レベッカさん!」
「どうしましたレン様」
「あのさ最近お仕事の毛色が違うんだけど? そりゃ勉強の為に仕事は選ばないって言ったけどこのままじゃぁレンのイメージがおかしくなっちゃうってかおかしくなってるぅ!」
レベッカは冷静に、眼鏡に触れる。
「確かにそうですが、仕事の幅も広がり以前よりも格段に急速に認知されています。最近のSNSのタグは#レンお嬢様? が主流でございますよ!」
「嬉しそうだな・・・。じゃなくて! このままだとレン様に怒られる! 帰って来て、え? 清楚とは? ってド叱られる!」
「いえいえ、そういった一面もあるということです。本職はモデルですから」
そう言うと、停車中、レベッカさんは一冊の本を俺に差し出した。
「ブッ!」
表紙におおおおおおおお俺の、俺の見覚えのある”アレ”がぁ!
「うふふ、ディラン様の至上最高傑作の作品集、こちらのタイトルは”YOUトピア”だそうです」
うん、でかでか表紙にも帯にもそう書いてるね、うん。ユートピア? 楽園?
「ふふ。この描かれている”ヌード”の方、一体誰でしょうね?」
「がっ!」
表紙がっ! うまくぼかしているけどこれ俺のすっぴんやんね!?
「ごっ・・・ふ」
こ、こんなものいつのまに描いてたんだって絵がいっぱいあるんだけど。
「こっ・・・れは・・・」
上手く首から下で描かれているので、バレてないとは思うけど。目の前のマネさんは絶対気が付いているな。ピンク色に染める前の俺の元々の栗色が出ちゃってるしね。
「だ、一体、誰だろうなぁ」
固まる俺に容赦なく、レベッカさんはペラペラとポイントを押さえ見せて来る。
「そしてこの写真。あのミン・ヨンユ嬢とララドーラ・フフ嬢を手籠めに取ったこの堂々たる女王なる表情、あぁ、堪らなくゾクゾク致しますでございますぅ・・・ハァ・・・ハァ、わたくしも踏みつけられたい・・・」
ああああああの写真!? 初仕事で頑張った!? あのガオー族とにゃんにゃん族か。本当だ! おかしいおかしいぞ! 俺はこんな恍惚で何処となく悪女な表情でそれぞれ左右に二人を侍らせて、俺のものだアピールした顔なんかしてない! ただ可愛いでしょ? を頑張ったんや。
「ハッ! これはぁ合成だ!」
どれもこれも、俺が何か、なんか、なん。
「・・合成・・の、はず」
なんでどれも”女王”なの?
「俺はただ”お嬢”を・・・」
「完全に”女王”です、あぁ、素敵です」
「そ、そんなぁ・・・」
「予約分が売り切れで、本日発売されました分も即刻完売とのことです。急ぎの重版決定が決まりました。SNSで#あぁレンはモデルだった #エクゾチックレン女王 #レン女王に踏まれたい #ユートピアはレン女王の足元にある など、ふぁぁ大変人気でございます」
「キィーッ!」
レン・クジョウのイメージが、どんどん変わってしまって来ている。このままではクビ、解雇もありうる。
「これは抗議だ! ディランに電話だ家に突撃だ!」
「はいマスター、今すぐ向かいますとディラン様にご連絡を致します」
「そうして! ぬぬぬ・・・」
これが、俺? ぁあいや違うレン?
俺オリジナルレンだ、そうだ。そう形成されてしまっている。修正・・・できるかな。
「ディラン様のお宅へ向かいましょう」
「え?」
嘘、本気だけどそんなすぐに行けるもん?
「え、ディランがいいって言ったのか?」
さっきの彼女はいいのか!?
「はい、泊まっていいとの許可が降りまして、はい、今すぐ行きましょう」
「ぅえ、ええええっ!?」
なんか会いたくないような・・・。
「ディランって何処に住んでるんだ?」
「熊人のベアーズ領土の海岸にございます、メゾネットマンションの最上階にいらっしゃいます」
「メゾネットぉ!? しかも最上階!?」
メゾネットマンションとは。集合住宅の一室で、複数階層を内階段で繋いで一戸とした物件のことだ。
ヒト族の領土は沢山の獣人領土に囲まれた中央に位置する。熊人ベアーズ領土はすぐ東にあり、レンの家はベアーズ領土入りだった。
車を走らせること一時間。
漆黒の大理石高級マンション、大きなガラス窓が目立つ、ディランの住処に到着した。
「ではレン様、明日、お迎えに上がります」
「え、あ、うん」
さてと。
「わっ!?」
振り返るとディランがいた。
「そんなに驚くことないだろ~」
俺より後にスタジオ出たはずだろ? 何故こんなに早いんだ?
「あ、そうだ! 泊まりとか勝手に決め」
ずんずん歩くディランに取り合えずついていく。
「ちょっ」
玄関でディランに緑の光線が360度からあらゆる当たると、扉が開いた。
これ何認証?
漆黒のエレベーターに乗る。
「他に誰が住んでるんだ?」
「住んでない、おれ一人」
「は、はぁっ!?」
「他の部屋は仕事部屋で使ってる。ほら、おれマルチクリエイターだから」
ほら、マルチクリエイターだから。
それでこちらが納得するとでも!?
チーン。と静にエレベーターが最上階に到着する。
「えぇ?」
いやなんでよ。さっき玄関あったでしょうよ。
何故ここにも玄関がある?
次はライト光線はなく、漆黒の大理石で作られた、ページを半分に広げられた本に手で触れていた。
ガチャンッ。開錠。
「ほら、入って」
「あっあぁはい!」
入ると中も真っ黒い大理石の部屋。
「ぅわぁぁぁぁぁっ!」
さずがメゾネット! 外から見えた窓はこれだ。そしてこの窓から見る景色は海と街が煌びやかに見える。これ写真撮ればいいのに・・・っていかんか、家バレするわ。
「泊まる気になった?」
「泊まる!」
あ。時すでにおすし。
「なら良かった」
「・・・・・・」
いいのかよ。
ダイニングルームもキッチンも広い。
「コーヒーでいいよね」
「・・・うん」
「座って待ってて」
あのディランが優遇・・・だと?
目の前に熱々のコーヒーが置かれる。
「なぁに?」
「いや、何を、企んでいるのかなって」
「企んでなんかないよ。そう言えばここに人を呼ぶの初めてだなって思い返してたところだよ」
「え」
嘘だろ、絶対嘘だ。
「いやいやいや。おニャの子侍り散らかして過ぎて覚えてないんじゃないのか」
目を細めれば・・・あぁ見える。ワイングラスを片手にディランの周りに可愛いおニャの子達がセクシーにキャッキャウフフしてる風景が!
「いやおれ作品に反映できないものには興味ないんだって。・・・昔から、おれの周りには人が居すぎてそれが嫌で、自分だけの世界が欲しかったんだよ」
そうか。天才にも悩みはあるのだ。
「じゃぁここがディランの世界か」
「そうだよ。ここはおれ一人」
ううむ。そこにいる俺はつまり・・・。
「ということは、俺は作品・・・」
ハッ! そうだ大事なことを思い出した。
慌ててトランクケースから例の画集を取り出した。
「そうだそうだそうだこれこれこれよ!? 人の写真勝手に合成しないでよてか俺の、はだっ裸! 表紙にするとは何事ぞ聞いてないんだけど!?」
呑気にコーヒーを飲むディラン。
「合成するくらいならこの仕事辞める。自分の最高傑作を表紙にしないで何にするんだ。おれはこれで抜ける」
「抜くなぁ! おかずにすなぁ!」
「これは全部レン・・・いや、リョウ、君の魅力で才能だよ。おれはそれを具現化したかった。まぁだけど良過ぎておれだけ知っていればいい君のことを世間様に知られたのが悔しいかな」
クッソ、普通に褒められているのが嬉しいよう。褒められたことなんてないし。褒められ慣れてないから。
ぺらぺら写真を見る。
「・・・俺、こんなにエ・・・じゃない」
「エロい、エッチ過ぎ。エッチの時もそうだけど」
「エッチエッチ言うな!」
「君さ、カメラを向けられると”スイッチ”が入るタイプだ、恐らくカメラのシャッター音が心地よくなって、集中力がマックス状態になって一種のトランス状態に入ったってこと。君は撮影を覚えてないだろ」
「え? いや取り合えず目立たないようにしようとは最初・・・、でもあぁ、あれ? そこから・・・」
気が付いたら楽屋? あれ、俺、何してたっけ?
「・・・君は感覚タイプだね。その日に、その時間で、その気分で、君は自分じゃない自分になれる。凄い才能だよ」
よく、分からないけど凄く褒められてる。
「だけど、おれはもう君を世間に写真で残したくない」
「え?」
何? やっぱり変だったのか!? そうだよな俺はど素人だ。
「君のエッチな顔や体はぁ、このおれの目に焼き付ければいい!」
こいつは何を言っている?
「もうそれがおれが君を映す最後の写真集になるだろう。ヌードは絶対、絶対おれの前だけ、ね!?」
ねっ!? ってあんだ。
「・・・やり始めたのはディランだし。この先もそうしたいって思うのディランだけじゃないかと思うんだけど。いきなり脱がされた時には、最高の変態だと思ったよいや現在進行形だけど」
今も変態だとは思ってる。
ふとディランは椅子にかけてあった白いシャツを持ってきた。
「じゃぁ脱いで」
シャツを奪い取って床に叩きつけた。
「人の話聞いてたかっ!? 脱いで、じゃぁないんだよ! じゃぁ? じゃぁって何よじゃあって!」
いそいそとシャツを拾い上げ、にっこりとシャツを俺に差し出す。
「裸にこれを着て」
「だっ」
「・・・創作活動手伝ってくれないと、エッチな」
むむむ。今日の俺は一味違うぞ。
「俺知ってんだぞ」
「? 何を」
「ディラン、”恋人”のマネージャーさんいるだろ」
ディランの目が瞬いている。ほほぅ? 動揺する時もお耳がピルピルするのか。
「運が悪かったな。情事をするなら周りを確認しなきゃだ」
「み、見てたのか」
「あぁ、しっかりと。ディープキスの後は見てないから知らないけど、お楽しみだった? いいか、誰だって自分だけを一番に思って欲しいって思ってる。一夫多妻になるつもりはない。所詮、おまえの俺に対する好きはライク、創作活動の”もの”なんだな」
何故かもじもじするディラン。
「・・・それって、君はおれの一番いになりたいってことだよね?」
「え? いや」
「じゃ、じゃぁ、さ、君が一番だって言ったら、リョウもおれを一番にしてくれるってことだよね?」
「・・・そっ」
「ディラ~?」
ハッ。この声は。
「ジャンプー無くなっちゃったんだけ」
はぅ! 素っ裸でも、超お綺麗ですね。って男性、だったんですねマネージャーさん!?
ギロリとテニイさんに睨まれた。
「ディラ? どういうこと!?」
「テニイっ!? 君帰ったんじゃ!?」
「何よ? あぁそういうこと? うちを帰らせて次の雌ってわけね?」
「ちょっと待てここまですることな」
「さいってぇーね!」
俺は遊ばれた。もしかして好きかも。そう思った俺が馬鹿だった。
俺は深くお辞儀した。
「すいません、不快に思わせたこと、本当にごめんなさい、帰ります」
玄関を出ようとしたら、力強く腕を掴まれた。あぁ、また怪力不足だ。
「リョウ、ちょっとこれには訳が」
こういうの、漫画で読んだことがある。まさか自分が修羅場を体験することになるとは。
「突然来てごめん。来るなって言えば良かったのになぁほんと」
何とか腕を振りほどけた。
「リョウ!」
ガチャンッ。
さようなら、理想のメゾネットマンション。
「あ、レベッカ? すいません至急車で迎えに来て欲しいんですけど。あぁ、時間かかりますよね、大丈夫です。何処かブラブラしてますから」
レベッカと電話が通じて良かった。
行きに通り掛け、屋台の並ぶ広場が見えた。レベッカ曰く、ボヤージュ市場というらしく、新鮮な野菜や魚や果物、肉、そしてご飯も売っているらしい。そこで時間を潰そう。
『今はレン・クジョウなのですから、変装して待っていてください!』
「あ」
忘れていた。首の黒いショールを派手なピンクの髪にフード代わりに被せて、後はサングラス。これはマストアイテムだと、レベッカに常に持っているよう言われたものだ。なるほど、凄く助かった。
「よし」
変装もバッチリ。一人の時間を満喫じゃー!
ボヤーシュ市場。夕方になりつつあるその市場には夕ご飯を食べにもしくは食材を買いに来るヒト族や獣人達が集っていた。
あれ?
よく見ると獣人さん達は獣の姿のままの人達が多い。ディランやモデル仲間の虎のミンや猫人のララは人型で獣の部分と言えば耳や尾だけだった。何か違いがあるのだろうか?
ディランも獣の姿でいて欲しい。そうしたらいつでも遠慮なくもふれるのに。
皆お洒落な買い物バックを持っている。俺も欲しくて雑貨屋さんで中に赤いチェックの布が敷かれた篭を購入した。
車の屋台やテントの屋台、大きな辛子明太子フランクフルトや玉ねぎのバター醤油焼き、米フィッシュバーガー・・・。
「こ、米っ!?」
ここに、米があるかもしれない!
また、おにぎりが作れる!?
「あ、あぁっ!」
米があった。しかし5kgからの販売で、お金が、足りないっ!
「・・・うぅ・・・」
米をまじまじと恨めしそうに眺めていたら、いきなりがしっと右肩を掴まれた。
「ヒッ!?」
「・・・みぃ~つ~け~たぁ~ぞ~!」
「!? ディランっ!?」
しかも汗だくだ。ほれ見ろ、おまえの汗だく姿で悩殺されて卒倒しとるおなごがおるぞ。
「ったく! こんなとこで何してんだよ!」
「何って、そりゃレベッカのお迎え待ちだよ、どうせ電車やバスで帰れないお坊ちゃまですよ!」
ん? おやおやおや?
目の前にいい金持ちがいるじゃないか。
「ディラン、お金持ってない? このお米欲しいんだ。お金、貸して欲しい」
ディランは米を見やる。
「米? おれは米は食わん」
「俺が食べるんだよ。誰もあんたにとは言ってないこの浮気者」
「うわっき・・・」
「浮気だろうが。テニイさんがいるのに俺を弄びやがって。そうだ、詫びろー! 米を買えー」
「弄ばれたと、思ったの?」
「当然じゃん! 色々おまえが初めてだったのに全部教え込まれたし。まぁでも今思うと本気にならなくて良かったかも。俺この仕事終わったら娼館へ戻ろうと思っているし」
「は? 何ソレ」
声質に、威圧が加わる。
「戻さない」
ビリッと空気がざわついた。
「・・・ちょ、何怒ってんの? 怒ってんのは俺なんだから」
「怒ってるんだ。テニイに嫉妬してるんだ」
嫉妬? 俺が? このモヤモヤしてやるせない気持ちが?
違う。
「俺にそんな資格なんてない。ただ、ヤダなって思っ」
急に景色が変わったかと思えば、ディランの肩に簡単に担がれた。
「ちょっ!?」
「その米、そう、それ下さい。ありがと」
しっかり米を買ってくれた、くれたはいいけど嫌な予感。
「何処に行くんだよ離せ下ろせ! ついでに米も下ろせぇ」
「おれの家まで下ろさないよ。あ、レベッカ? 迎えの車ごめん大丈夫だから、あぁ、うん、ごめんね迷惑かけて、じゃ」
車がぁぁぁぁ!
「ちょ馬鹿! テニイさんが待ってんじゃないの!? やだよ帰る!」
うぅ、怪力が無力。
「おまえらがいちゃつくとこなんて見たくない! もうおにぎり作りたいから帰る!」
また憧れのメゾネットマンションに帰宅。
ソファにゆっくり下ろされた。
「・・・? あれ? 期待してた扱いと違う。何でポイって投げないの? いいんだよ? 俺にはぞんざいな扱いが合ってる。テニィさんという一番がいたからあんなことができたんだねぇ」
あぁ、一番最初の出会いを思い出す。あぁ、こんな皮肉も懐かしい。
「だからあれはごめんて! っじゃなくて、リョウ。君は嫉妬してくれてるんだ。ということは、おれのこと、結構好きだよね」
もう好きなんて言うもんか。ぷいちょ。
どうせこの家から出して貰えないのなら勝手にしよう。そうだ、探索だ。
「ねぇリョウ、おれとテニイがいちゃついて、嫌だったんだろ」
「はぁん? 見せびらかしだった? 最悪な男だな」
二階にはお風呂があった。そして、さらにその奥には。
「ろ、露天風呂・・・だと!?」
しかも使用された、濡れた跡がある。
「え、嘘、マジかあいつマジで使いやがっ」
「いいねぇ、テニイさんは自由にここを使えるんだな。なぁにがこの部屋に人を入れたことがないだよ。嘘つき」
「いやっ、ちが、彼はマネージャーでそういう意味でカウントしてな」
「カウントしないほど自由に出入りできるのは恋人兼マネージャだから・・・」
ん? 別に扉があった。
「あ、あああああ待っ!」
開けると、・・・何ということでしょう。
「露天風呂直結のベッド!? しかもキングサイズに天井全体が、かか鏡!?」
何と言うことだ、こんなレベチな寝室。エッチ過ぎ!
ハッ。
お楽しみの後の風呂上り、だったのか。そりゃぁ焦るわな。
「・・・・・・」
そっと扉を閉めて、内階段を降りた。
米5kgを担ぐ。
「待った待った何処行くんだよ」
「帰るに決まってる。何? 二人のあれこれ見せて何がしたいの? 嫉妬を越えて幻滅」
「人の話中に勝手に動き回って見たのは君だろ!? しかもネタばらしをすると、おれとテニイはただの友人関係だ、何もしてない」
「・・・・・・」
一体この男は何を言ってるのだろうか。
「テニイはおれの獅子族の親友のツガイだ」
「二股っ!?」
「ちっがぁぁぁぁう!」
別の方から耳をつんざく叫び声が。
「っ!?」
噂をすれば、キッチンからテニイさんがスーツを着て現れた。
「やり過ぎたことは謝るけど、二股じゃないから。こいつはダーリンの親友だから今回の作戦に乗ってあげただけ。ちょっとばかしノリノリになっちゃったけど」
「? 作戦?」
「そう、ディランは貴方に嫉妬して貰いたくて、うちという第二の女設定を用意したわけ、作戦は大成功ね。この子の頭の中、結構ディラでいっぱいじゃない」
「えへへ」
「ちなみに、この部屋、うちも入るの初めてなの。作戦でどうしてもって、嫌だけど仕方が無いからって、渋々入れられたわけ。べっつにうちからしたらクッソどうでもいいんだけど」
いや、めっちゃ堪能してるよねおたく。
「でも裸になることないだろ、そんな脚本に書いてないっての」
「なぁに? 肉体関係ありますって分からせた方が、嫉妬に燃えるでしょ普通。あ、このことはダーリンに言わないであげる。もしもバレたら親友でも痛い目見るかもだし」
「・・・ほんっとに頼むよ」
二人の掛け合いは長年の連れ添いの雰囲気を感じ取れた。
「じゃ、じゃぁ全部、お芝居だったってこと?」
「そう! 嫉妬したよね? 頭の中、おれのことでいっぱいにしてくれたのが嬉しい!」
すっごい耳がピルる。
「別に、その」
「嫌だったんだろ!?」
「そりゃぁ・・・もごもご」
「うううう嬉しいっ!」
「ディラあんたそんなに興奮すると・・・」
ーバゥン!
「・・・え」
俺の前に、しろくまがいる。ブルブルブルとブリして、まぁるい小さな瞳がおれを見た。
「っ!?」
「ほら言わんこっちゃない。熊人は興奮がマックスを越えると、熊になるの」
フワフワもこもこの体毛が気になる。触ってもいいかな、いいよね?
あ。
ボフンとまた人の姿に戻ってしまった。
「あぁぁなんでぇ~!? 触りたかったのに!」
「え」
「素直になったらまたしろくまになってくれる!? ハァハァ作戦許すから! そうです嫉妬してました! これでいい!?」
生のしろくまだった! 絵本でしか見たことのない、白くて大きくてフワフワのしろくま。まさかディランが熊に変身できるなんて!
思い切り抱きついた。
「しろくまになってー! 頼む後生だからーっ!」
「ぅええええっ!? いや君、怖くない、のか!?」
「怖い? 何が?」
「・・・じゃ、うちは帰るから。後はいちゃつきなね。ディラ、明日の仕事は昼からにしてあげる」
じゃあねとさっさとテニイさんは出て行ってしまった。ディランに抱き締め返された。
「う、嬉しいけど、熊になると野生の本能が表に出るから、性欲を抑えるのが難しいんだよ。まぁ、子作りの時は熊の姿でしなきゃだけど」
スンッ。
「・・・・・・そ、っか、やめとこう」
離れようとしても引き剥がせなかった。
「その、あの、お話しが、あるんだけど」
もふもふの耳がピーンッと立っている。これはううむ、緊張、してる?
「何改まって」
泳いでいた目が、ばちっと俺を射抜く。
「君をいつも心から食べたいと思ってる。結婚を前提に、正式におれと付き合って欲しい。
それで、おれが帰って来ると、おかえりって美味しいご飯を作って待っていて欲しい」
え? 本気?
「ふ、何、いつも心から食べたいって、ふ」
普通は好きとか愛してるとか言う所なのに、ふふ。これがディランらしいというか。
「いつもデザートは君で。子供も欲しい。可愛い白くてまんまるなモフモフの子だぞ? 人間の変化が出来るまではいつもそのモフモフを堪能できるいい物件だぞ」
最高じゃないか。モフモフし放題、パラダイス。夢まで見たあの光景が手に入る。
「・・・忌み子の俺でいいのか?」
「何だろうが君じゃなきゃ意味がない」
ハッ! いみ、だけに!?
「ブッ、ふふ、あははははっ」
「おれの渾身のギャグが通じた!」
「寒いってーの、あははは、はぁ・・・」
「ねぇ、返事は?」
俺、幸せになっても、いいのかな?
「・・・よろしく、お願いシマ、ふわっ」
いきなり両脇を抱えられ、高い高いされた。
「ぃっやぁったぁぁぁぁーっ! レディアンに連絡しておこう」
忘れていた。俺の許婚殿。
「まぁあいつも分かっていただろうし」
「え、そうなの?」
「あれだけ顔や体に射精して、中だしもしまくったらそりゃぁ匂いで分かるよ」
「っ!? おおお俺しっかりお風呂に入ったし洗ったし念入りに!」
「そんなんで匂いが無くなると思ってるのはヒト族だけだよ。獣人の鼻は誤魔化せないほど繊細だから。おれだって念入りに君におれを染み込ませたもんね」
ようやく下ろしてくれた。
「そういうことでは、おれは娼館は好きじゃァない。可愛い子ちゃん達には悪いけど、沢山の雄の匂いが沁みついてるからね」
なるほど、そうなんだ。
「でも厨房にいた君は違った。まっさらで美味しそうだった」
「・・・食べたかったわけ?」
「うん。獣人はね、”食べたい”って本能で感じる相手とツガウんだ。そうじゃないといい子種が出来ないし、孕ませられないから。おれは君に一目惚れしたんだ。だから、何か繋がりを作るために、レンの計画に乗ったんだよ」
そういうことだったんだ。なんだ、俺だけじゃなかったんだ。
「・・・なんだ。てっきり俺だけ、何もない俺にディランがいきなり来て、入って来て、俺だけ頭の中がディランにいっぱいになってるだけだと思ってた。ディラン、カッコいいしモテるし、エチフレも、遊びでもいいと思ってたけど、テニイさんが現れて、ディランの隣にすっごくマッチしてて・・・って、おい!?」
折角のエモい話をしているのに、テキパキと俺の服を脱がす変態熊。
「おれに惚れさせるように頑張って来たんだから、当然の効果だろ。まずは体からメロメロに堕として、心は時間をかけてゆっくり自覚させて。無意識だけど君はあっちの最中は本当に素直だから、おれのこと好き? って聞いたら大好きっていつも好き好きって言ってくれてるし。この普段のツンツンとのギャップも癖になるよね」
っ、心当たりがないわけじゃない。多分、イキ過ぎて、気持ち良過ぎて正気がぶっ飛んでる時だ。
「ちょ、何コレ!?」
「え? 何って。裸に彼シャツにしたいの。下着脱いでよ」
「こんっ、の」
「おれのこと、好きでしょ?」
「くっ、こっ、の! ズルくない!?」
変態熊がぁ。
絶対に好きって素面で言ってやるもんか。 言われた通りに下着を脱いだ。
「窓際で髪を後ろで一つに持ち上げて、横を見て」
は、はぁ? ま、まぁ言われた通りにするけど。このポージングは何?
「こ、こぅ?」
まぁいいアディアが浮かぶなら、こんな訳分からないポーズの一つや二つ。
電気が消され、窓に大きな満月が顔を出していた。
もうそんな時間か。どうりでお腹が空くわけだ。
「ディラン、お腹空いた。ご飯食べてからまたやってあげ」
「あぁ・・・なんて素敵なんだ」
「っ!? なっ」
「動かないで」
ディランが俺の股の真下、足元で寝そべり、下から眺めている。完全なる変態熊がそこにいた。
「髪を持つことによってうなじが露わにあり、それによってシャツが上に上がり、キュートなお尻が見えそうで見えない。逆行で君の美しい体のラインがシャツにシルエットで現わされ、あぁ女神よ・・・ここが天国か」
こいつは一体何を言っているんだ。
はぁ、この下りも慣れてきた。
目に見えるほど、股間のモノがいきり立っている。前はこれから逃げていたけど、お世話してあげるのも、こ、恋人、の仕事、だし。
「この助平熊にはお仕置きかな」
「ぅぶむっ」
その俺の股の下にある変態顔の上に思い切り座ってやった。股間にディランの鼻息が当たる。
「ふぁっ、あぁ、んあぁ・・・」
ディランの熱い舌が俺の蕾に押し入る。
「んんん、美味しい、うんむ、あむ」
「あっ、きちゃ、いっちゃ、あんっ」
セーフ。汚すといけないから、射精直前にシャツで覆った。
「んん、はぁ、あぁ、危なかっ、あぁっ!」
ディランに腰を持ち上げられ、いきなり後ろから性器を挿入して来た。
「んあぁぅ、んぁ、あ、あ、はや、あぁ」
何とか窓に手を突いて、与えられる快感律動に耐える。
「ハァ、アァ、リョウ、好きだ、愛してる、食べたい」
「んっ、も、ぅ、食べ、て、るだろ、あぁ」
熱い、太くて硬いモノが俺の中で暴れる。もうこの異物感の圧迫感が気持ち良くて堪らない。奥をガンガン突かれ、肉襞を擦られるが堪らない。
「アァ、アぁ、出そう、だ、出し、たい」
「んあぁ、あぁ、あ、あ、あ、あ、あ」
俺の愛液が太ももを伝う。ポタポタと床を濡らした。
「ひぅっ!」
体がふわっと浮き、足が床から離れ宙ぶらりになった。その動作で窓で踏ん張り付いていた手も離れた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ・・・ぁぁぁあああ」
ディランに腰だけ抱えられ、前屈の体勢で宙で突き上げられた。完全に身を預け、ただただ一方的な穿ち。
「ぅあぁぁぁ、しゅき、こ、れ、しゅきぃ」
「アァッァァァァァ・・・だす、だす、だすおれのもの、はらめ、はらめ」
「いくいくいくいくぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
激しい律動に叫ぶことしかできない。
凶器が膨張し、俺の襞もしっかり締め付けて離さない。激しい抽挿と抜かせまいとのせめぎあいだ。
「ゥアァァァァァァ! ガッ」
「いぐっ! ぅ、ひっぁ」
奥に熱い濁流がドシリと注がれたのを感じた。コブが収縮を繰り返し、出来立ての子種を流し込む。
「ぅあぁ、あ、ちゅ、い、あぁ・・・」
ゴボゴボと一度に這いきれない放出された精液の音と匂いがする。溢れた精液がトロトロと俺の愛液と混ざり合い、太もも、ふくらはぎを伝って、かかとへ、最後に足の親指に雫となって、ぽとりと落ちる。その間も尚、ディランは腰を振り、俺の中に流し込み続ける。こんな、獣のようなエッチが堪らなくゾクゾクする。
「フゥ、ハァ・・・ハァ・・・」
「あんっ、あぁ」
ぬぽっと音と共に凶器が抜かれ、蕾の中がくっぽり空いてしまった。ディランが俺を床にようやく下ろした。
俺は窓に背をもたれかけた。
俺の股には溢れ返る誰かさんの白い濁液でいっぱいだ。
「・・・ハァ、ハァハァ・・・」
ディランの碧い目が光っていた。まるで獲物を見ているかのような視線に、胸が高鳴った。
俺の前にまだ、鋭利に仰け反る凶器が、亀頭の先端からポタポタと子種を零している。
徐に両脚を左右に大きく広げた。
「・・・くまさん、食べる?」
ディランは俺を窓に押し付け、腰を持ち、元気な凶器をズブリと刺した。
「んあぁぁんんっ、あぅ、んあぁ、あああ」
もうぐちょぐちょで、腰に力が入らなくて、ただ必死に腰を振り俺を貪る逞しい雄の厚い胸板に押しつぶされながら、快感に喘いだ。
「しゅき、でぃら、すき、すきもっと」
かっこよく可愛いこの雄熊が好きだ。
「可愛すぎだろよったく」
「んむ、んんっ、ん」
熱い激しい口付けにさらに凶器を締め付けた。食べられるばかりじゃない、俺もこの雄を食べてやる。
負けじとドンッとディランを押し退けた。
「ふあぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
俺はディランに跨り、自分で腰を激しく上下に、左右に振りまくった。
あぁ、この雄を屈服させているかの錯覚に陥る。ディランは俺のものだ。
ディランが俺の腰を掴んだ。
「うっあぁ、あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああ」
下から鋭利に穿たれた。
「いくいくいくいくいちゃ、いあぁぁ!」
ディランに思い切り顔射してやった。
綺麗な顔に、その体にも。
あぁ、なんて堪らない光景だろうか。
俺にもこんな狂気じみた心があったんだ。
この雄を俺だけのものにしたい、屈服させたい、俺だけを見るようにさせたい、と。
スイッチが入ったディランの瞳が鋭利に帯びた。
「最高だね」
声が枯れるまで喘がされ、いっぱい愛された。
ーいつか絶対、迎えに来るから!
忘れもしない、激しい雷雨の日。
どうして? どうして行っちゃうの? 俺のこと、嫌いになった?
『養子の貰い手が見つかったんだ。ごめん、リョウ。今のままのオレじゃおまえを幸せにできないから』
大好きな灰色の熊人のエリック。人の姿になることができて、先に家族を見つけた親友。
『必ず、迎えに来るよ。何処にいても、見つけに行くから』
うん、待ってる。約束だよ。
絶対、絶対お嫁さんにしてね。
『うん、約束だ』
「・・・・・・」
温かい感覚に、思い瞼が開いた。
「ん・・・」
「あ、起きた?」
気が付いたら、景色最高の露天風呂に入っていた。
「・・・ふぇ?」
後ろ抱きにディランが笑っている、
「ごめんね、マーキングで凄いことになっちゃったから、お風呂に勝手に入れちゃった」
グリグリと首筋に鼻を擦りつけて来る。
「ん~大丈夫、心地いい・・・」
ガラス張りの壁に窓に朝日が差し込んで綺麗だ。
「何か夢、見てたの?」
夢。そっか。懐かしい夢だったな。
「うん。孤児院で養子に行っちゃったグリズリーの熊人の親友がいてね、ふふ、そいつお嫁さんにしてねとか言ってた」
「・・・む」
ぎゅっと腰に手が回る。
「迎えに来るって言われて健気にずっと待ってた。十年ぐらいかな」
「今も彼を待ってるの!? おれは嫉妬深い毛深いよ!? 絶対渡さないからね!」
毛深いのは熊だからな?
「昔の話だってば。歳を重ねるにつれて分かって来た。ただの子供の約束だって。現実は、大人の社会に染まればただの世迷言だったってさ」
シスターに話を聞いた。エリックはもう遠い領土に行って幸せなんだと。なら、俺は彼を崩してはいけない。
「俺も十五になって本当なら養子縁組させて貰えるんだけど、ほら、オッドアイで忌み子だから。でもずっといるわけにはいかなくて、それでお金のいい娼館に住み込みで働いて、少しずつ孤児院にお金を回してたんだよ」
「レンの支援が終わったら、おれが孤児院ごと買い取る。新たな支援をしよう」
「!? ほんと!?」
「うん。それが君の望みだろ。それに、引っかかってたことがあるんだ」
「引っかかる?」
「うん。最近非正規の受胎の実が裏で出回っているらしくてね。それを悪用してる奴がいるらしい」
「悪用?」
「”ハイブリッド種”の作製だよ」
「はいぶりっど?」
「優れた獣人の子供さ。それはヒト族にしか生み出せない。ハイブリッド種は獣人の中でも強い野生の本能を生かしたまま、人間の姿になれ理性で制御できる種のことだ」
そうか。だからボヤージュ市場ではその人型の獣人がいなかったのか。あれが普通の日常で、俺の周りが異常だったんだ。異常も失礼か、優秀な獣人ばかりだったってことか。
「・・・え、ディランって・・・」
「あ、あぁ、うんえへへ。そう、おれもハイブリッド種ね」
「えへへ、じゃないよ! 可愛い子ぶるなよ実は最強熊じゃん!」
「いやいや! 何処の種族もハイブリッド種の起源は王族だよ? だから王家の血筋が最強なの」
「レディアン・・・、ベルモンド家が?」
「そう、・・・まぁ、”表向き”は」
表向きとか裏向きとか分からん。
「で、ベルモンド家を筆頭に、おれのようなハイブリッド種の獣人達が、非正規の受胎の実の出所を探ってるんだ」
「そっ・・・」
ふとディランの携帯端末が鳴り響く。
「今、君の影武者のおかげで、レンが動けてる。・・・はい、・・・うん、あぁ」
「・・・え?」
レン様は愛の逃避行中・・・じゃ。
「あぁ、分かった。じゃぁこっちも動く、ありがとうレン、気を付けて」
ディランが通話を切った。
「レンが無事戻ってくるそうだ。ふぅ~まぁ、君との関係もようやく形にできるし、安心して動けるかなぁ」
お口ポカン。
「な、な、ななんで教えてくれなかったんだよ!」
「君はレン・クジョウになることが仕事だし、こんな大事なことが背景にあったら、君は集中出来てた? きっと、おれのことも眼中になくて、ただのセフレな関係だったろうよ」
「・・・うぅ・・・」
正論でグゥの音も出ない。
「レン様・・・一体何者なん? あの人、ほんと怖くなって来た」
ディランはにっこり微笑む。
「あぁ、裏社会を取り仕切ってるヒト族のドンだよ。この話もレンから来て、惜しみない協力をしてる」
「ひぃっ!」
俺は、俺はそんなお方の大役をぉ!
「・・・おかげでいいパイプが出来て、メリットも申し分ない。それだけの大きな金と権力がある。お互いが信頼で結ばれてる」
「そうか! だからレディアン王との婚約か!」
「そう、言っておくけど、レディアンのレンへの溺愛が重過ぎでさ。でもその愛を上手く制御し発散させてるのがあのレン・クジョウだ。熊人の固執執着束縛はえげつないからさ、いやぁ凄いヒト族だ、本当に恐れ入るよ」
「・・・そぅ・・・あははなるほど。最初のデートの夜会も俺がレンじゃないって分かってたから自由にしてくれてたんだ? というかよくもまぁその偽の受胎の実の関係者を探るために、危険な場所へ行かせたね?」
「・・・まぁ、レンは策略者だからね? レディアンも信頼してる」
「・・・それでも危険な仕事だね」
「うん、だからレンの護衛に俺のエキスパート護衛を送った。そろそろ・・・連絡が来るかな」
「・・・は?」
「ボス」
「ひぃわっ!?」
思わずディランに抱きついた。黒装束で仮面のマスクを付けたデカイ大男が、いきなり露天風呂の部屋の枠の手摺に現れた。
どうしたらその巨体をバランス保って座れるわけ!?
「唯今戻りました」
めっちゃええ声やん。もっと、見せてよ、何仮面被っちゃって。この人も熊人なの? もふもふなの?
「分かった、分かったけど電話にしてくれ。今恋人をプライベート中なの。リョウ? 彼を食い入るように見過ぎ。君、素っ裸なの、覚えてる?」
「っ!」
「・・・・・・」
めっちゃ見られてた。
「グロウ、君も見過ぎ」
「・・・失礼します」
そう言い残すとすぐに消えた。
もふもふだった、熊だったわ。
「・・・忍者熊だ・・・」
「・・・彼の目を潰しておかないと。おれのリョウを見た罪は重い・・・」
ディランの目が本気だった。
「重い? そうか、おまえの愛もな?」
本当にやりかねないので、ご機嫌を取ってあげることにした。
勿論、体で。
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