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恋人に悩んだら・2
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大我〈タイガ〉は今。
最大の後悔の波に飲み込まれている。
恋人である聡美〈サトミ〉に勘違いされたまま、振られてしまったのだ。
しかも、彼女の心に大きな傷を残す形で…。
(俺は。どっちも守りたかった。それなのに…。)
そうして深い落とし穴から這い上がれず、彷徨っている時。
この店を見つけた。
(何でも良い。今はとにかく、誰かに聞いて欲しい。)
大我は藁にもすがる思いで中へと入っていた。
「いらっしゃいませ。」
声を聞くなり、口早にまくしたてる。
「あの。誰かに話したら本当は駄目なんだろうけど…。もうどうしていいかわからなくて。言葉を売ってるって書かれてたから、つい。あの、俺。買います。言葉、買います。」
店主は静かに話す。
「迷っておられるのですね。大丈夫、ここで聞くことはここだけの話。まずは深呼吸して落ち着いて。それから聞かせて下さい。あなたへの言葉、お売りします。」
「俺。彼女に振られちゃったんですけど…。その形が最悪というか、何ていうか。浮気してるって思わせて傷付けちゃったんです。その相手って、俺のガキの頃からの親友で。あの…その…。いわゆる、性同一性障害ってやつなんです。見た目は女でも、心は完全に男。」
だから、本当に。親友なのだ。そこに男とか女とか、そんな垣根なんかなくて。
純粋に自分にとって大事な存在。
そしてその大事な存在は、彼女にも言える事。
「その事を知ってるのは俺だけで。親にも言えてない状態なんです。ずっと誰にも打ち明けることが出来ずに一人で抱えて生きてる。小学校の時に、俺。いじめられてて。その時に唯一、味方でいてくれた奴なんです。だから一緒に背負ってやれるなら、俺だけでも理解してやりたくて。」
中途半端な偽善かもしれない。でも小さい頃にそう誓ったのだ。
秘密を抱えて苦しいなら、自分が捌け口となろう。そう決めた。
「一度、彼女に紹介した事があって。そしたら、そいつ。彼女に惚れちゃったんです。そうなると俺も黙っちゃいられなくなる。彼女にはその後も何度も『また会いたい』そう言われたけど、会わせる事が出来なかった。かと言って、そいつの事を言うわけにもいかない。そうこうしてたら、だんだん疑われるようになって。たまたま言い争いしてるとこ見られちゃったんです。まさか彼女を巡った口論なんて言える訳もなく。そのまんま、彼女の中では俺の浮気が確定したんです。」
ちゃんと説明するべきだったのか。
でも自分は言えなかった。
「そいつを悪者にするような嘘は、彼女に付くのが嫌で。だけど本当の事も言えなかった。どうするべきだったかが今でも、わからないんです。彼女はもう『友達だ』って言葉は信じられなくなってた。」
沈黙のうち、店主がゆっくりと語りかける。
「あなたに送る言葉です。」
=相手を想ってつく嘘は
死んでも真実にする覚悟=
「嘘はいけない。私たちはそう思って生きてますよね。でも例えば誰かの為につく嘘なら?本当にそれは絶対悪になりえるのか。ならば、どうしたら良いか。
嘘を本当にするしかないんですよ。貫くんです。まるで本当の物事のように。」
では。
彼女にとって、友達を『悪』とすれば良かったというか。
「どちらも守りたいならば、どちらにとっても傷がつかない嘘をつくしかない。そして、その嘘への罪悪感はあなただけが背負うんですよ。」
どちらにとっても無傷でいられる嘘。
どうすれば彼女を守れたのか。どうすれば友達を大事にできたのか。
今は考えても答えは出ない。
だけど、自分の保身のためにどちらにも中途半端になっていたのだけはわかる。
「俺の覚悟が足りなかった…。彼女も友達も大事だと言いながら、俺が悪者にならない『言い訳』だけを並べた。」
そうだ。自分は誰よりも自分を守った。
結果として、傷付けたくなかった人を深く傷付けた。
「と、言っても。この件は誰も悪くないんですがね。とても難しい問題ですね。さぁ、どうします?」
そう言って店主は朗らかに笑う。
誰も悪くはない、確かにそうかもしれない。
だけど自分は本気で向き合いたい。この事は、このまま終わらせてはいけないのだ。
大我は目が覚める思いだった。
=相手を想ってつく嘘は
死んでも真実にする覚悟=
何かを守る時は、時に嘘が必要なのだろう。
大事なのはその覚悟。
つくからには悟らせない、気付かせない。その苦しみを背負うのは自分。
どちらも失えないなら、覚悟を決めるんだ。
(俺は、ちゃんと考えなきゃいけない。どうすべきかを。どうしたいのかを。)
迷いはいつの間にか、消えていた。
答えを出そう。
再び、大切な人を手元に手繰り寄せるために。
最大の後悔の波に飲み込まれている。
恋人である聡美〈サトミ〉に勘違いされたまま、振られてしまったのだ。
しかも、彼女の心に大きな傷を残す形で…。
(俺は。どっちも守りたかった。それなのに…。)
そうして深い落とし穴から這い上がれず、彷徨っている時。
この店を見つけた。
(何でも良い。今はとにかく、誰かに聞いて欲しい。)
大我は藁にもすがる思いで中へと入っていた。
「いらっしゃいませ。」
声を聞くなり、口早にまくしたてる。
「あの。誰かに話したら本当は駄目なんだろうけど…。もうどうしていいかわからなくて。言葉を売ってるって書かれてたから、つい。あの、俺。買います。言葉、買います。」
店主は静かに話す。
「迷っておられるのですね。大丈夫、ここで聞くことはここだけの話。まずは深呼吸して落ち着いて。それから聞かせて下さい。あなたへの言葉、お売りします。」
「俺。彼女に振られちゃったんですけど…。その形が最悪というか、何ていうか。浮気してるって思わせて傷付けちゃったんです。その相手って、俺のガキの頃からの親友で。あの…その…。いわゆる、性同一性障害ってやつなんです。見た目は女でも、心は完全に男。」
だから、本当に。親友なのだ。そこに男とか女とか、そんな垣根なんかなくて。
純粋に自分にとって大事な存在。
そしてその大事な存在は、彼女にも言える事。
「その事を知ってるのは俺だけで。親にも言えてない状態なんです。ずっと誰にも打ち明けることが出来ずに一人で抱えて生きてる。小学校の時に、俺。いじめられてて。その時に唯一、味方でいてくれた奴なんです。だから一緒に背負ってやれるなら、俺だけでも理解してやりたくて。」
中途半端な偽善かもしれない。でも小さい頃にそう誓ったのだ。
秘密を抱えて苦しいなら、自分が捌け口となろう。そう決めた。
「一度、彼女に紹介した事があって。そしたら、そいつ。彼女に惚れちゃったんです。そうなると俺も黙っちゃいられなくなる。彼女にはその後も何度も『また会いたい』そう言われたけど、会わせる事が出来なかった。かと言って、そいつの事を言うわけにもいかない。そうこうしてたら、だんだん疑われるようになって。たまたま言い争いしてるとこ見られちゃったんです。まさか彼女を巡った口論なんて言える訳もなく。そのまんま、彼女の中では俺の浮気が確定したんです。」
ちゃんと説明するべきだったのか。
でも自分は言えなかった。
「そいつを悪者にするような嘘は、彼女に付くのが嫌で。だけど本当の事も言えなかった。どうするべきだったかが今でも、わからないんです。彼女はもう『友達だ』って言葉は信じられなくなってた。」
沈黙のうち、店主がゆっくりと語りかける。
「あなたに送る言葉です。」
=相手を想ってつく嘘は
死んでも真実にする覚悟=
「嘘はいけない。私たちはそう思って生きてますよね。でも例えば誰かの為につく嘘なら?本当にそれは絶対悪になりえるのか。ならば、どうしたら良いか。
嘘を本当にするしかないんですよ。貫くんです。まるで本当の物事のように。」
では。
彼女にとって、友達を『悪』とすれば良かったというか。
「どちらも守りたいならば、どちらにとっても傷がつかない嘘をつくしかない。そして、その嘘への罪悪感はあなただけが背負うんですよ。」
どちらにとっても無傷でいられる嘘。
どうすれば彼女を守れたのか。どうすれば友達を大事にできたのか。
今は考えても答えは出ない。
だけど、自分の保身のためにどちらにも中途半端になっていたのだけはわかる。
「俺の覚悟が足りなかった…。彼女も友達も大事だと言いながら、俺が悪者にならない『言い訳』だけを並べた。」
そうだ。自分は誰よりも自分を守った。
結果として、傷付けたくなかった人を深く傷付けた。
「と、言っても。この件は誰も悪くないんですがね。とても難しい問題ですね。さぁ、どうします?」
そう言って店主は朗らかに笑う。
誰も悪くはない、確かにそうかもしれない。
だけど自分は本気で向き合いたい。この事は、このまま終わらせてはいけないのだ。
大我は目が覚める思いだった。
=相手を想ってつく嘘は
死んでも真実にする覚悟=
何かを守る時は、時に嘘が必要なのだろう。
大事なのはその覚悟。
つくからには悟らせない、気付かせない。その苦しみを背負うのは自分。
どちらも失えないなら、覚悟を決めるんだ。
(俺は、ちゃんと考えなきゃいけない。どうすべきかを。どうしたいのかを。)
迷いはいつの間にか、消えていた。
答えを出そう。
再び、大切な人を手元に手繰り寄せるために。
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