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クールな俺が変わる時
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夏休みが間近に迫る。
中学に入って初めての夏休み。
あれしよう、これしよう、と教室の中で飛び交う約束事。
相澤からのゲームの誘い。
小島からのプールの誘い。
他にも、クラスで集まって遊ぼう!だとか、肝試ししようよ!だとか。
クラス中が盛り上がる中、加藤は相変わらず一人。何も気にせず本を読んでいた。
そんな彼女を指差し、クスクスと笑う結城と白井。
それに追従するように女子たちがコソコソと話しては、駄目だよぅ。とか、やめなよー。と笑いながらふざけ合う。
それを見て相澤が言う。
「女子、えっぐ。」
それなー!と小島が乗っかる。
誰も、何も言わない。
みんな自分の身を守っているだけなのに。
俺の心は依然として問いかけてくる。
『それで、良いのか?』
と。
藤四郎は時々、加藤を呼び出しては何か話しているようだ。
でも。
所詮、何も変わらない。
変わらないんだよ、先生。
ほら。
大人は口では色々と言うくせに。
結局、何も出来ないじゃん。
俺たちの世界に介入することはできない。
夏休みの前日。
部活で遅くなった俺は、待っていると言った友達に断りを入れ、教室に忘れ物を取りに向かった。
やっと夏休みか。
そう思うと、何となく疲れがどっと出た。
教室の扉を開くと、そこには加藤がいた。
あれ?こいつ帰りの会の後、こーやって机に伏せてたよな。
あれから今までずっとこうしてたのかよ。
何してんの?
加藤はいつもピンと張った背筋をグニャリと曲げて腕を枕にぐぅぐぅと寝ていた。
何ていうか。
タフすぎるだろ。
案外。
本当に気にしてないのかもな。
そう納得すると、少しだけ気持ちが楽になる。
突然、ガタン!と音がして、俺はビクリと肩を揺らした。
振り向くと、寝ていたはずの加藤が俺を見ている。
「あぁ、初島くん。」
「おう。」
初めて加藤から名前を呼ばれた。
会話とは言えない言葉を交わし、少し気まずくなる。
その気まずさで、俺は思わず話を繋げた。
「何してんの?もう部活も終わってる時間だけど。」
加藤は驚いた顔を見せ、声をあげた。
「うっそ!やだ、寝ちゃったんだ。私。明日から夏休みだって思ったら気が抜けちゃったんだな。」
話切ってから、加藤は、あっと顔を崩す。
思わず出ちゃった。
そんな言葉だった。
俺は、不意に一人呟く。
「お前さ。きつくねーの?」
言ってしまってから、ハッとなり。
加藤の顔を見ると…。
加藤は泣いていた。
「キツイに決まってるよ。でもさ、私は私だもん。どうしていいか、わかんないよ。だから、頑張るしかないよ。」
そう言って、涙を拭うと急いでカバンを背負う。
「ごめん!気にしないで!じゃあ、またね。」
俺は何も言えず、ただ加藤の背中を見送った。
加藤の言葉が頭を何度も駆け巡る。
ーキツイに決まってるよ。でもさ、私は私だもん。どうしていいか、わかんないよ。ー
俺たちは、みんなわからないんだ。
この小さな社会で。
複雑な集団の中で。
迷いながら、戦っているんだ。
加藤は気にしてないんじゃない。
迷子になっているだけ。
だけど、俺には。
その正しい道が、どこなのか。
わからない。
大人が指し示す『正解』も信じていいのか、わからない。
じゃあ。
そんな俺たちを助けてくれるのは…。
一体誰だって言うんだよ。
中学に入って初めての夏休み。
あれしよう、これしよう、と教室の中で飛び交う約束事。
相澤からのゲームの誘い。
小島からのプールの誘い。
他にも、クラスで集まって遊ぼう!だとか、肝試ししようよ!だとか。
クラス中が盛り上がる中、加藤は相変わらず一人。何も気にせず本を読んでいた。
そんな彼女を指差し、クスクスと笑う結城と白井。
それに追従するように女子たちがコソコソと話しては、駄目だよぅ。とか、やめなよー。と笑いながらふざけ合う。
それを見て相澤が言う。
「女子、えっぐ。」
それなー!と小島が乗っかる。
誰も、何も言わない。
みんな自分の身を守っているだけなのに。
俺の心は依然として問いかけてくる。
『それで、良いのか?』
と。
藤四郎は時々、加藤を呼び出しては何か話しているようだ。
でも。
所詮、何も変わらない。
変わらないんだよ、先生。
ほら。
大人は口では色々と言うくせに。
結局、何も出来ないじゃん。
俺たちの世界に介入することはできない。
夏休みの前日。
部活で遅くなった俺は、待っていると言った友達に断りを入れ、教室に忘れ物を取りに向かった。
やっと夏休みか。
そう思うと、何となく疲れがどっと出た。
教室の扉を開くと、そこには加藤がいた。
あれ?こいつ帰りの会の後、こーやって机に伏せてたよな。
あれから今までずっとこうしてたのかよ。
何してんの?
加藤はいつもピンと張った背筋をグニャリと曲げて腕を枕にぐぅぐぅと寝ていた。
何ていうか。
タフすぎるだろ。
案外。
本当に気にしてないのかもな。
そう納得すると、少しだけ気持ちが楽になる。
突然、ガタン!と音がして、俺はビクリと肩を揺らした。
振り向くと、寝ていたはずの加藤が俺を見ている。
「あぁ、初島くん。」
「おう。」
初めて加藤から名前を呼ばれた。
会話とは言えない言葉を交わし、少し気まずくなる。
その気まずさで、俺は思わず話を繋げた。
「何してんの?もう部活も終わってる時間だけど。」
加藤は驚いた顔を見せ、声をあげた。
「うっそ!やだ、寝ちゃったんだ。私。明日から夏休みだって思ったら気が抜けちゃったんだな。」
話切ってから、加藤は、あっと顔を崩す。
思わず出ちゃった。
そんな言葉だった。
俺は、不意に一人呟く。
「お前さ。きつくねーの?」
言ってしまってから、ハッとなり。
加藤の顔を見ると…。
加藤は泣いていた。
「キツイに決まってるよ。でもさ、私は私だもん。どうしていいか、わかんないよ。だから、頑張るしかないよ。」
そう言って、涙を拭うと急いでカバンを背負う。
「ごめん!気にしないで!じゃあ、またね。」
俺は何も言えず、ただ加藤の背中を見送った。
加藤の言葉が頭を何度も駆け巡る。
ーキツイに決まってるよ。でもさ、私は私だもん。どうしていいか、わかんないよ。ー
俺たちは、みんなわからないんだ。
この小さな社会で。
複雑な集団の中で。
迷いながら、戦っているんだ。
加藤は気にしてないんじゃない。
迷子になっているだけ。
だけど、俺には。
その正しい道が、どこなのか。
わからない。
大人が指し示す『正解』も信じていいのか、わからない。
じゃあ。
そんな俺たちを助けてくれるのは…。
一体誰だって言うんだよ。
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