【完結】私たちの今

MIA

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荒れた俺が叫ぶ声

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ー親父さん今日いる?ー

部屋でゴロゴロしていたらメッセージが届く。

今井凌〈イマイリョウ〉。
小学1年からの付き合い。

多分。
俺が唯一、心を許せるのはコイツだけだ。

「親父ー、今日は夜勤?」

部屋からリビングへと声をかける。

「あー、休み!だから飯俺が作るわ!」

「凌、来るって。」

「おう。飯食ってけって言っといて。」

顔も合わせることなく会話をする。
これが、俺たちの距離感。

凌は、昔から親父に懐いている。

ーカッコいいじゃん。ー

そう言って、よく親父の昔話をせがむ。
親父も凌が可愛いんだろう。

中学校は分かれてしまったが、今でもこうやって家に来ては飯を食って帰って行く。

他の奴らと違って、親父は親父。俺は俺。
そうやって区別されていることが、今の俺にはたまらなく居心地が良い。

うちには母親がいない。
俺が小学校に上がる前に事故で死んだ。

親父の仕事は夜勤があるから、近くに住んでる、ばぁちゃんが実質育ての親ってところか。
中学生になってからはあまり行かなくなってしまったが。
俺はばぁちゃんもじぃちゃんも好きだ。

周りが同情の目を向けてくる中、二人とも俺を特別扱いしなかった。

悪いものは悪い。
俺の目を見て、真っ直ぐに教えてくれる。

二人は何にもビビらない。
親父を育ててきたんだから、当たり前か。
でも、そんな姿を格好良い。
そう思う。

母ちゃんも、そうだったな。

若い頃の親父と母ちゃんの写真。
あれは笑った。

乗りにくそうなバイクにまたがった、変な服と変な頭の親父。
その後ろに、これまた変な服と頭の母ちゃん。

「ダセェ!」

そう言って笑った俺に。

「バカかてめーは。バリバリにカッコいいじゃねぇか。母ちゃんも美人だろ!」

そう笑う。

写真の中で二人は、凄く楽しそうに笑っていた。

若くして結婚して、俺が産まれて。

たまに殴り合いの喧嘩もあったけど。
仲の良い夫婦だったと思う。

あの写真の親父と母ちゃんは、今の俺と同じ年。
14歳。

こんな変な格好の奴らが学校中にいたという時代。

親父。
あの頃の親父は。

今の俺みたいに荒れた気持ちを抱えていたか?

それとも。
毎日、楽しかったのかな。

俺は。
つまらなくて、どうしようもないよ。

学校も、勉強も。
何もかもが、面倒で。

みんなが楽しそうにしていることが、俺には全然わかんない。

中学生って、なんでこんなに疲れるんだろう。

小学校の時は今よりはもう少し楽しめてた気がする。
それは自由、だったからなのか。

中学に入ると、急にガラリと変わった。

校則があって、部活があって。
塾だとか、習い事だとか、俺には無縁だけど。
とにかく。
色々と縛りが強くなって、その不自由さが苦しいとさえ思う。

親父。
母ちゃん。

二人は、一体何を考えて毎日生きていた?

凌が聞き出す昔話を、今日も、俺は隣で静かに聞き耳をたてるだろう。

直接聞けば良いはずなのに。
何か、それも小っ恥ずかしくて出来ない。
昔はそんなことなかったのにな。

今は、親父と目を見て話すことすらも、ままならない。

何でかわかんないけど。
嫌なんだ。



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