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不器用な私が描く未来
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目の前に置かれたカップから立ち上がる湯気と、甘い香り。
ママが入れてくれた紅茶を、二人でこうして飲むのはいつぶりだろう。
散々泣いてスッキリした私は、今度はママの言葉に耳を傾ける。
「ママが中学生の頃ってさ。物凄く派手でオシャレな女の子たちのグループがいくつもあったんだよ。スクールカーストってものがハッキリしてて、このトップにいるグループにいかに入るか。そこでもどれだけ安全な場所にいれるか。これが凄く重要で、それ次第で学校生活を楽しく過ごせるのか、はたまた全然面白くないものになるのかが決まったんだよね。」
ママは紅茶を一口すすると話を続けた。
「ママはこの派手なグループにいたわけだけど、これがまた楽しいだけじゃ済まなくてね。毎日帰ってきては今日の自分で良かったのかって悶々と考えてたよ。急に仲間外れにされちゃう子を目の当たりにするたびに、明日の我が身だーって。」
私はジッとママの顔を見つめる。
そこにいたのは、私と同じ。
女子の世界を生きたリアルな女の子。
「あの頃は今みたいに携帯でずーっと繋がってるってわけじゃなかったからさ。ぶっちゃけ離れてる時は案外楽になれたりもしたんだよね。考えなくて良いっていうかさ。そこで気持ちを立て直して、明日も頑張るぞって。仮面を外したり付けたりしながら、どう上手くやっていくかを考えてたな。ママの場合はね!」
そう言って私の顔を見ると、ヘヘっと笑う。
「今はその休む時間がないもんね。」
急に真剣な表情になって、ゆっくりと話が紡がれていく。
「本当の自分が見えなくなってしまうほどに、常に誰かの為の自分でいなきゃいけないんだよね。それじゃあ疲れるのも当然だよね。ありのままでいれたら、そりゃ羨ましいと思う。だって大体はそうやって生きていけないもん。でも、凛。どんな生き方をしても間違いはないよ。要はね。元気で生きていければ、それだけで良いの。」
極論なんだけど…と、続く言葉。
「心を壊さず、無事に、毎日一回でも笑えたら。それだけで良いんだよ。とどのつまりはね。だってさ。大人になったら。本当、面白いくらい何てことなかった。って思うんだから。今の友達が大人になっても友達か、なんてわからないよ。ママは中学の頃の友達は今もう何してるかなんてわかんないもん。」
そう言って朗らかに笑うママの顔を、声を感じて。不意に自分の心にストンと落ちた何か。
毎日一回でも笑えたら、それだけで良い。
それはきっと、今みたいに。
無理をした笑いではなく。
取り繕った笑顔ではなく。
「でも、渦中にいると。わからないよね。もう随分前のことだけど。ママも経験してきたからさ。先のことなんて。って思う気持ちもわかるんだけどね。だけど、世界は広いよ。凛はこれからもっと大きくて、もっと自由な空に飛び立っていける。可能性に満ち溢れた『今』を生きてるんだよ。失ったって、また新しく手に入れることができる。そんな『未来』が待ってる。」
だから、大丈夫。
もう冷めきってしまった紅茶を全て飲み干すと、私に向けて、深く、強く、大きく。
ガッツポーズをする。
あまりに古臭くて、あまりに子供っぽくて。
私は思わず笑ってしまう。
失っても、それで終わりじゃない。
ママの言葉を反芻しながら。
その意味を噛みしめる。
凝り固まった鎖が静かにフッと緩む。
もう少し。
本当の私に素直になったって良いのかもしれない。
それは不器用な私でも、実は簡単にできることなんじゃないか。
初めて、そんな風に思えた。
ママが入れてくれた紅茶を、二人でこうして飲むのはいつぶりだろう。
散々泣いてスッキリした私は、今度はママの言葉に耳を傾ける。
「ママが中学生の頃ってさ。物凄く派手でオシャレな女の子たちのグループがいくつもあったんだよ。スクールカーストってものがハッキリしてて、このトップにいるグループにいかに入るか。そこでもどれだけ安全な場所にいれるか。これが凄く重要で、それ次第で学校生活を楽しく過ごせるのか、はたまた全然面白くないものになるのかが決まったんだよね。」
ママは紅茶を一口すすると話を続けた。
「ママはこの派手なグループにいたわけだけど、これがまた楽しいだけじゃ済まなくてね。毎日帰ってきては今日の自分で良かったのかって悶々と考えてたよ。急に仲間外れにされちゃう子を目の当たりにするたびに、明日の我が身だーって。」
私はジッとママの顔を見つめる。
そこにいたのは、私と同じ。
女子の世界を生きたリアルな女の子。
「あの頃は今みたいに携帯でずーっと繋がってるってわけじゃなかったからさ。ぶっちゃけ離れてる時は案外楽になれたりもしたんだよね。考えなくて良いっていうかさ。そこで気持ちを立て直して、明日も頑張るぞって。仮面を外したり付けたりしながら、どう上手くやっていくかを考えてたな。ママの場合はね!」
そう言って私の顔を見ると、ヘヘっと笑う。
「今はその休む時間がないもんね。」
急に真剣な表情になって、ゆっくりと話が紡がれていく。
「本当の自分が見えなくなってしまうほどに、常に誰かの為の自分でいなきゃいけないんだよね。それじゃあ疲れるのも当然だよね。ありのままでいれたら、そりゃ羨ましいと思う。だって大体はそうやって生きていけないもん。でも、凛。どんな生き方をしても間違いはないよ。要はね。元気で生きていければ、それだけで良いの。」
極論なんだけど…と、続く言葉。
「心を壊さず、無事に、毎日一回でも笑えたら。それだけで良いんだよ。とどのつまりはね。だってさ。大人になったら。本当、面白いくらい何てことなかった。って思うんだから。今の友達が大人になっても友達か、なんてわからないよ。ママは中学の頃の友達は今もう何してるかなんてわかんないもん。」
そう言って朗らかに笑うママの顔を、声を感じて。不意に自分の心にストンと落ちた何か。
毎日一回でも笑えたら、それだけで良い。
それはきっと、今みたいに。
無理をした笑いではなく。
取り繕った笑顔ではなく。
「でも、渦中にいると。わからないよね。もう随分前のことだけど。ママも経験してきたからさ。先のことなんて。って思う気持ちもわかるんだけどね。だけど、世界は広いよ。凛はこれからもっと大きくて、もっと自由な空に飛び立っていける。可能性に満ち溢れた『今』を生きてるんだよ。失ったって、また新しく手に入れることができる。そんな『未来』が待ってる。」
だから、大丈夫。
もう冷めきってしまった紅茶を全て飲み干すと、私に向けて、深く、強く、大きく。
ガッツポーズをする。
あまりに古臭くて、あまりに子供っぽくて。
私は思わず笑ってしまう。
失っても、それで終わりじゃない。
ママの言葉を反芻しながら。
その意味を噛みしめる。
凝り固まった鎖が静かにフッと緩む。
もう少し。
本当の私に素直になったって良いのかもしれない。
それは不器用な私でも、実は簡単にできることなんじゃないか。
初めて、そんな風に思えた。
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