25 / 29
エピローグ
瑞希と尚道
しおりを挟む
(間に合わなかった)
尚道と瑞希。二人は同時にそう思った。
そう思っていた…。はずなのに。
なぜ、未だに何も変わらずここにいるのか…。
惨劇の舞台だったこの場所は、今となっては何事も無かったかの様に静かだ。
隕石の落下は見えていた。
凄まじい音と、眩い光が、この世の終わりを明確に物語っていたのだ。
「隕石が…消滅した…?」
尚道が呟くと周囲は現実へと引き戻されていく。そうだとして。仮に滅亡から免れていたとしても、自分たちの命が危ない事には変わりはなかった。
瑞希は我に返る。
(隕石がどうなったかは今は良い。この男から目を離しちゃ駄目だ。)
尚道は考えている。自分の凶行はあくまで明日がない事が前提だったのだ。
滅亡せずに済んだ。では済まない。
しかしやってしまったものは今更どうにもならない。
それに、一度覚えた快感は忘れられるものではない。
地球が存続しても、自分はもう終わりだ。後戻りも巻き戻しも出来ない。
この有り様が全ての結末である。
(俺はもう先なんかない。それなら、せっかく与えられた時間だ。何も気にせず続ければ良い。
どうせ警察がすぐに機能するだろう。そこが俺のタイムリミットか。警察が来たら死ねば良い。俺の人生はどちらにせよ今日で終わったんだ。
…なんだ。迷いも悩みも必要もないじゃないか。)
瑞希は男の口元に笑みが浮かんだのを見逃さなかった。
これは続く。
そう確信すると体がブルッと震えた。恐怖ではない。自分の願いはまだ叶えられる。という事。
これが武者震いというやつだろうか。
尚道は狙っていた家族に再び視点を戻す。そのまま近付き側にいた母親を斬り付け蹴り飛ばす。
時間の制限が無くなった今、気にすべきは自分のタイムオーバーまで。
まずはこの子どもを一人目にする。そう決めたのだから、それは『しなくてはならない事』なのだ。
(コイツ…。子どもを狙ってる?)
瑞希は尚道の意図を読み取っていた。誰でも良いのなら、側にいた無抵抗の母親を殺してるはずだ。殺すまでいかなくとも、傷付けたいだけならこの家族に固執する必要もない。
滅亡せずに済んだのに。
諦めていた世界は再び息を吹き返した。この子はその小さな光を、この先も大きく輝かせる未来が待っているのに。それを奪おうというのか。
させない。そんな事をさせてはいけない。
瑞希の頭に浮かぶ裕樹の顔。体は瞬発的に反応していた。
父親の元に駆け寄り、自分に子どもを渡すように説明する。怪我をした状態では守りきれない。
父親は瑞希の顔を確認すると、お願いします。と言って子どもを引き渡した。
尚道は突然割って入った女に苛立つ。
走り出す瑞希。
(クソ女が!俺の獲物を横から掻っ攫っていきやがった。ぶっ殺してやる!予定変更だ。あの女を先に殺ってやる。)
瑞希はすぐに追い付かれる。
尚道は瑞希に斬り掛かる。
何度も、何度も。
瑞希は痛みに耐える。
尚道は夢中だった。人を殺す。それが今まさに叶おうとしている。
瑞希は意識が薄れていく中で、子どもを強く抱き締め続けた。
(ごめんね。苦しいかもしれないけど…。あなたをここから出さない。警察が来るまで我慢して…ね…。)
脳裏に浮かぶのは裕樹の顔。そして圭介。
確かに幸せだった。
しかし今ほど充実した瞬間は無かった。
瑞希の視界が徐々に光を失っていく。
(…殺った…のか?何だこれ。すげぇ良い気分だ。これが俺の求めていたもんだ!!)
尚道は達成感に酔いしれる。
もっと殺したい。
どうせ長らえた命だ。これは捕まるまでの延長線である。
美しい顔が狂気に染まる。そこにいるのは人間ではなかった。まさに悪魔。
時は再び動き出す。どう逃げるか。
恐怖、混乱、絶望。
今この場を支配しているものは人ならざるもの。
この先に待つのは残酷な結末でしかない。
尚道にとっては、これからが始まりであった。
瑞希の瞳に一点の光。
その意味は、まだ誰も知らない。
尚道と瑞希。二人は同時にそう思った。
そう思っていた…。はずなのに。
なぜ、未だに何も変わらずここにいるのか…。
惨劇の舞台だったこの場所は、今となっては何事も無かったかの様に静かだ。
隕石の落下は見えていた。
凄まじい音と、眩い光が、この世の終わりを明確に物語っていたのだ。
「隕石が…消滅した…?」
尚道が呟くと周囲は現実へと引き戻されていく。そうだとして。仮に滅亡から免れていたとしても、自分たちの命が危ない事には変わりはなかった。
瑞希は我に返る。
(隕石がどうなったかは今は良い。この男から目を離しちゃ駄目だ。)
尚道は考えている。自分の凶行はあくまで明日がない事が前提だったのだ。
滅亡せずに済んだ。では済まない。
しかしやってしまったものは今更どうにもならない。
それに、一度覚えた快感は忘れられるものではない。
地球が存続しても、自分はもう終わりだ。後戻りも巻き戻しも出来ない。
この有り様が全ての結末である。
(俺はもう先なんかない。それなら、せっかく与えられた時間だ。何も気にせず続ければ良い。
どうせ警察がすぐに機能するだろう。そこが俺のタイムリミットか。警察が来たら死ねば良い。俺の人生はどちらにせよ今日で終わったんだ。
…なんだ。迷いも悩みも必要もないじゃないか。)
瑞希は男の口元に笑みが浮かんだのを見逃さなかった。
これは続く。
そう確信すると体がブルッと震えた。恐怖ではない。自分の願いはまだ叶えられる。という事。
これが武者震いというやつだろうか。
尚道は狙っていた家族に再び視点を戻す。そのまま近付き側にいた母親を斬り付け蹴り飛ばす。
時間の制限が無くなった今、気にすべきは自分のタイムオーバーまで。
まずはこの子どもを一人目にする。そう決めたのだから、それは『しなくてはならない事』なのだ。
(コイツ…。子どもを狙ってる?)
瑞希は尚道の意図を読み取っていた。誰でも良いのなら、側にいた無抵抗の母親を殺してるはずだ。殺すまでいかなくとも、傷付けたいだけならこの家族に固執する必要もない。
滅亡せずに済んだのに。
諦めていた世界は再び息を吹き返した。この子はその小さな光を、この先も大きく輝かせる未来が待っているのに。それを奪おうというのか。
させない。そんな事をさせてはいけない。
瑞希の頭に浮かぶ裕樹の顔。体は瞬発的に反応していた。
父親の元に駆け寄り、自分に子どもを渡すように説明する。怪我をした状態では守りきれない。
父親は瑞希の顔を確認すると、お願いします。と言って子どもを引き渡した。
尚道は突然割って入った女に苛立つ。
走り出す瑞希。
(クソ女が!俺の獲物を横から掻っ攫っていきやがった。ぶっ殺してやる!予定変更だ。あの女を先に殺ってやる。)
瑞希はすぐに追い付かれる。
尚道は瑞希に斬り掛かる。
何度も、何度も。
瑞希は痛みに耐える。
尚道は夢中だった。人を殺す。それが今まさに叶おうとしている。
瑞希は意識が薄れていく中で、子どもを強く抱き締め続けた。
(ごめんね。苦しいかもしれないけど…。あなたをここから出さない。警察が来るまで我慢して…ね…。)
脳裏に浮かぶのは裕樹の顔。そして圭介。
確かに幸せだった。
しかし今ほど充実した瞬間は無かった。
瑞希の視界が徐々に光を失っていく。
(…殺った…のか?何だこれ。すげぇ良い気分だ。これが俺の求めていたもんだ!!)
尚道は達成感に酔いしれる。
もっと殺したい。
どうせ長らえた命だ。これは捕まるまでの延長線である。
美しい顔が狂気に染まる。そこにいるのは人間ではなかった。まさに悪魔。
時は再び動き出す。どう逃げるか。
恐怖、混乱、絶望。
今この場を支配しているものは人ならざるもの。
この先に待つのは残酷な結末でしかない。
尚道にとっては、これからが始まりであった。
瑞希の瞳に一点の光。
その意味は、まだ誰も知らない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる