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エピローグ
優子
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「…どうなってるのよ。」
優子は終わるはずだった時間が、再び前に進み出した事に困惑していた。
いや、優子だけではない。その場にいる全員が同じ気持ちだった。一人を除いては…。
突然。小さな笑い声が耳に届く。
「いやいや。笑えるな。この展開は。馬鹿はお前だよ。見ろよ。地球は滅亡なんかしてないぞ?」
洋司は先程までの憔悴から見事に立ち直っていた。水を得た魚のように、今となっては生き生きすらしている。
そんな洋司をただ呆然と見ている優子の視界に唯奈が入り込む。
「残念でしたぁ。…ざまぁみろ。」
そう囁く声に熱はなく、口元だけが不自然な笑みを纏っていた。
唯奈の心ももう壊れてしまったのか。
その言葉は、優子だけに向けられていたものではないのだろう。
きっと、誰にとっても。ここから先は幸せとは無縁の生活しか待っていない。
「さぁ。もう良いだろう。いい加減離してもらえるか?コレは我が家の所有物だ。こんなクソみたいな女でも働いてもらわないと困るんだよ。俺の体裁ってやつがあるんでね。」
幸雄の腕に力がこもる。しかし優子にはもう、それに応える力は残っていなかった。
(最低最悪の結末ね。生きる希望なんて…もう無いわ。)
洋司が近付く。優子の髪を掴んで呪いの言葉を吐きつける。
「俺に恥をかかせたな。お前は死ぬまで鳥かごの中だ。逃げ場なんて無い。今日から不満すら言うことも許さない。
精々、家族に尽くすんだな。これは裏切りの代償だ。お前が選んだ道の行く末だよ。身を持って償ってもらうぞ。」
幸雄が洋司の手を掴む。その顔色は真っ青になっていた。
「あなたは…、あなたはそれでも人間ですか?」
洋司はその手を勢い良く振り払うと、冷静に冷たく刺すような声で幸雄を制する。
「黙れよ。そのままの質問を返してやるから自分の胸に良く聞いてみろ。俺が人間じゃねぇって言うなら、そうさせたのはてめぇら二人だ。
終末恋愛ごっこは終わったんだよ。良いか。お前にも責任は背負ってもらう。愛しい人とやらの為に一生苦しんでやれよ。それが愛ってもんだろ?」
洋司は狂っている。いや、そうさせたのは自分か。優子はもう何も考えたくなかった。自分の人生は隕石と共に消えて無くなったのだ。
(いつだって手に入らない。だったら、もういらない。何も…。求めない、必要もない。)
優子は洋司の手をそっと外して立ち上がる。
幸雄がどんな顔をしてるかは見なくてもわかった。
心は傷まない。
(さようなら。)
顔は見ない。幸雄の元に何も残さず前に進まなくては。
これから始まる地獄の日々を思うと頭にモヤがかかる。
「優子さん…。駄目だ。行ったらいけない。お願いだよ、こっちを見て。」
幸雄の心からの呼び掛けに優子の心が反応する。振り返ってはいけない。そう思いながらも、耐え難い気持ちが呼び起こされる。
「おかえり。さぁお家に帰ろう。」
優子をきつく抱き寄せる。決して逃さぬように。
「あぁ。さよならはちゃんとしないとな。」
急に体を反転させられる。
何という根性の悪さか。性格の悪さか。
今幸雄の顔を見れば、死んでいた感情が息を吹き返してしまう。洋司はそれをわかっていてやっているのだ。
自分を苦しめる為に。楽になる事は許さない。それを突き付ける為に。
「優子さん。」
幸雄と目が合う。込み上げる想い。心が傷まないはずなんて無い。今後、自分の人生を一生洋司に支配され続ける。そう考えると途端に怖くなった。それは死ぬよりも恐ろしい事だ。
咄嗟に洋司を払い除けようとするが身動きが取れない。そのまま引きずられて行く。
それを幸雄が追おうとするが、その前に唯奈が立ちはだかる。
「お兄さん。バットエンドだよ。」
唯奈が冷たく言い放つ。
幸雄はこの場に座り込む。自分は今、洋司の腕の中。
つい先程とは真逆の光景がそこにある。
絶望だけがその場に広がっていた。
優子は終わるはずだった時間が、再び前に進み出した事に困惑していた。
いや、優子だけではない。その場にいる全員が同じ気持ちだった。一人を除いては…。
突然。小さな笑い声が耳に届く。
「いやいや。笑えるな。この展開は。馬鹿はお前だよ。見ろよ。地球は滅亡なんかしてないぞ?」
洋司は先程までの憔悴から見事に立ち直っていた。水を得た魚のように、今となっては生き生きすらしている。
そんな洋司をただ呆然と見ている優子の視界に唯奈が入り込む。
「残念でしたぁ。…ざまぁみろ。」
そう囁く声に熱はなく、口元だけが不自然な笑みを纏っていた。
唯奈の心ももう壊れてしまったのか。
その言葉は、優子だけに向けられていたものではないのだろう。
きっと、誰にとっても。ここから先は幸せとは無縁の生活しか待っていない。
「さぁ。もう良いだろう。いい加減離してもらえるか?コレは我が家の所有物だ。こんなクソみたいな女でも働いてもらわないと困るんだよ。俺の体裁ってやつがあるんでね。」
幸雄の腕に力がこもる。しかし優子にはもう、それに応える力は残っていなかった。
(最低最悪の結末ね。生きる希望なんて…もう無いわ。)
洋司が近付く。優子の髪を掴んで呪いの言葉を吐きつける。
「俺に恥をかかせたな。お前は死ぬまで鳥かごの中だ。逃げ場なんて無い。今日から不満すら言うことも許さない。
精々、家族に尽くすんだな。これは裏切りの代償だ。お前が選んだ道の行く末だよ。身を持って償ってもらうぞ。」
幸雄が洋司の手を掴む。その顔色は真っ青になっていた。
「あなたは…、あなたはそれでも人間ですか?」
洋司はその手を勢い良く振り払うと、冷静に冷たく刺すような声で幸雄を制する。
「黙れよ。そのままの質問を返してやるから自分の胸に良く聞いてみろ。俺が人間じゃねぇって言うなら、そうさせたのはてめぇら二人だ。
終末恋愛ごっこは終わったんだよ。良いか。お前にも責任は背負ってもらう。愛しい人とやらの為に一生苦しんでやれよ。それが愛ってもんだろ?」
洋司は狂っている。いや、そうさせたのは自分か。優子はもう何も考えたくなかった。自分の人生は隕石と共に消えて無くなったのだ。
(いつだって手に入らない。だったら、もういらない。何も…。求めない、必要もない。)
優子は洋司の手をそっと外して立ち上がる。
幸雄がどんな顔をしてるかは見なくてもわかった。
心は傷まない。
(さようなら。)
顔は見ない。幸雄の元に何も残さず前に進まなくては。
これから始まる地獄の日々を思うと頭にモヤがかかる。
「優子さん…。駄目だ。行ったらいけない。お願いだよ、こっちを見て。」
幸雄の心からの呼び掛けに優子の心が反応する。振り返ってはいけない。そう思いながらも、耐え難い気持ちが呼び起こされる。
「おかえり。さぁお家に帰ろう。」
優子をきつく抱き寄せる。決して逃さぬように。
「あぁ。さよならはちゃんとしないとな。」
急に体を反転させられる。
何という根性の悪さか。性格の悪さか。
今幸雄の顔を見れば、死んでいた感情が息を吹き返してしまう。洋司はそれをわかっていてやっているのだ。
自分を苦しめる為に。楽になる事は許さない。それを突き付ける為に。
「優子さん。」
幸雄と目が合う。込み上げる想い。心が傷まないはずなんて無い。今後、自分の人生を一生洋司に支配され続ける。そう考えると途端に怖くなった。それは死ぬよりも恐ろしい事だ。
咄嗟に洋司を払い除けようとするが身動きが取れない。そのまま引きずられて行く。
それを幸雄が追おうとするが、その前に唯奈が立ちはだかる。
「お兄さん。バットエンドだよ。」
唯奈が冷たく言い放つ。
幸雄はこの場に座り込む。自分は今、洋司の腕の中。
つい先程とは真逆の光景がそこにある。
絶望だけがその場に広がっていた。
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