悪魔の王女と、魔獣の側近

桜咲かな

文字の大きさ
上 下
63 / 91
第9話『イリアの決行と、ディアの変貌』

(8)

しおりを挟む
アイリはまず、隣にいるレイトの存在に気付く。

「レイトくん?ここ、どこなの……?」

レイトが返事に迷っていると、次にアイリは斜め前に立つエメラの姿に気付いた。

「エメラさん?なんで、ここに……」

次にアイリは、ようやく正面、階段上の玉座に気が付く。
その椅子の前に立っているのは、黒衣を纏った……

「ディア……!!」

アイリは、おぼつかない足取りでフラフラと歩を進めて階段に足を乗せる。
しかし、その歩みを止めたのは無情にも階段上のディア。

「私はディアではない。魔獣王アディだ」

アイリは足を止め、目を見開いてディアを見上げる。
目の前の人は、確かにディアなのに……確かに、ディアの声なのに。
その冷たく見下す視線も、名前も、アイリが知るものではない。

「ディア……何言ってるの?ディア……でしょ?」
「ならば逆に問う。貴様は誰だ」
「……!?」

まるで別人のようなディアは、アイリの事など何もかも忘れてしまったかのようだ。
今、ここがどこで、どういう状況で、ディアは一体、どうして……?
イリアであった時の記憶がないアイリには、何が起きているのか、全てが分からない。

「ディア、忘れちゃったの?私は、アイリ……だよ……ディアの、婚約者、だよ……?」

震える体と唇で、途切れ途切れに何とか必死に言葉を繋げていく。
レイトは何もできない歯痒さと、そんなアイリの姿を目に映す辛さで、目を瞑りたい衝動にかられた。
それでも……アディとなったディアは、アイリの言葉を無残に打ち砕く。

「記憶にない。私の婚約者はエメラだ」

「……え?」

アイリは、ゆっくりと横のエメラに視線を移す。
すると視界に映ったのは、エメラの顔ではなく……胸元。
エメラの胸元には、小さな青い宝石のペンダント。
まるで、アイリの赤い宝石のペンダントと対をなすような……。
だとすれば、あれはディアからの『婚約の証』。

「い……や……」

アイリは無意識に、自身の胸元のペンダントの赤い宝石を片手で握りしめた。
これは確かに、ディアが愛を込めて贈ってくれた婚約の証……だったはず。

それなのに、もう、その意味はない……?
ディアは私ではなく、エメラさんを選んだ……?

見開いた栗色の瞳から涙が溢れ、次々と零れ落ちていく。
アイリの感情も涙も、もう誰にも止められない。
しおりを挟む

処理中です...