悪魔の王女と、魔獣の側近

桜咲かな

文字の大きさ
上 下
73 / 91
第11話『イリアの調教と、ディアの記憶』

(3)

しおりを挟む
アイリとディアが向かい合ったチャンスを逃すまいと、コランが動き出す。
ディアを通り過ぎ、後方で待機しているエメラの正面に立つ。

「エメラ殿!!」

王妃でもないエメラを何と呼べば良いのか分からず、コランは思いつきで呼んだ。
アイリとディアの様子が見えないように、エメラの視界を遮るように堂々と立つ。
エメラはキョトンとした顔でコランを見下ろしている。
長身のエメラは、高校生くらいの体格のコランを見下ろす形になってしまう。

「王子様。わたくしに御用でしょうか?」
「そうだ!えっと……オレは、お前と、二人きりになりたい!!」
「……はい?」

コランはエメラの気を引こうと必死だが、これではまるで口説いているようだ。

「大事な話がある、だからオレの部屋に来い!」
「まぁ王子様ったら、大胆ですのね。えぇ、喜んで」

エメラはコランに異性としての興味はない。
だが、ここで気に入られておけば、魔獣界の独立の交渉がしやすくなる。
子供っぽく無邪気な少年に誘われたところで、大した警戒もしない。
コランとエメラが揃って会場の外へと出ていくのを横目で見たイリアは、ニヤリと笑う。
ここからは、イリアの演技の腕の見せどころだ。

「あっ、なんか突然、目眩が……」

イリアはフラフラと体を大きく左右に揺らし、床に座り込んだ。
アディも心配そうに屈み込む。

「アイリ王女、大丈夫ですか?」
「うーん、無理、立てない。悪いけど、アタシの部屋まで運んで?」
「分かりました」

アディは嫌な顔ひとつせずに、イリアを抱きかかえた。
堂々と『お姫様抱っこ』である。
アディに抱かれたイリアは、心でペロッと舌を出した。
思った通りだ。記憶がないだけで、優しく人を気遣う本質はディアと同じ。
そうなれば、イリアの思う壺。

(アディを手懐けるなんて簡単ね)

アディはイリアを抱えたまま会場を出る。
これから『悪魔の調教』が待ち構えているとは知らずに。
自らの足で、『地獄』……いや、『極楽』へと向かって。


アイリの部屋へと向かう途中、アディは不思議な感覚に襲われた。
少し前にも、こんな風にアイリを抱きかかえた事があるような……?
記憶になくても体が、感覚が、感触が、確かに覚えているのだ。
アイリの体温と温もりが、なぜか心地よく感じる。
それは『調教』という名の『愛』の、確かな成果を示していた。
しおりを挟む

処理中です...