悪魔の王女と、魔獣の側近

桜咲かな

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第13話『アイリの変化と、ディアの求婚』

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城の中庭には、菖蒲あやめの花で埋め尽くされた庭園がある。
『アイリ』という名前は、菖蒲あやめを意味する『アイリス』から名付けられた。
そして、アイリの母親の名は『アヤメ』。
この庭園は、魔王オランが王妃アヤメの為に作った、思い出の場所なのだ。
ここで魔王はアヤメにプロポーズをした。
それはもう何百年も前の話である。
その場所を、今はアイリとディアが並んで歩いている。

「今日も綺麗だね、菖蒲あやめのお花~!」

菖蒲あやめの花とは言っても魔界の品種なので、季節関係なく満開だ。
子供のような笑顔で花を見るアイリと手を繋ぎ、ディアは歩き続ける。
ディアは何故か、いつも以上に口数が少ない。
ディアに誘導されるようにして、自然と花畑の中心へと向かって歩く。
やがて、二人の周囲は菖蒲あやめの花に埋め尽くされる。
二人と、菖蒲あやめの花の紫色。他には何もない世界だ。
そこで二人は立ち止まり、向かい合う。

……なんで、さっきからディアは無言なんだろう?

アイリが不思議に思っていると、ディアが徐に懐から小さな箱を取り出した。
屈んで片膝を突くと、アイリに見せるようして箱を開いてみせた。
その箱の中には、金色の輪に赤い宝石の施された指輪が入っていた。
アイリはその意味に気付き、一瞬だけ驚きに呼吸を止める。
その赤い宝石は……婚約ペンダントの、あの宝石。

「私はアイリ様を永遠に愛し、お守りすることを魂に誓います」

突然の事に、アイリは言葉が出ない。
ただ、ディアから紡がれる愛の誓いを、この心に、魂に刻んでいく。


「結婚して下さい」


それは、ディアからの二度目のプロポーズ。
なかなか返事を返さないアイリに、ディアは優しく笑いかける。

「お受け取り頂けますでしょうか」

ペンダントの時と同じように問いかける。
アイリは栗色の瞳をいっぱいの涙で潤ませて、ただ必死に頷く。

「う……ん。私は、ディアの、お嫁さんに……なり、ます……」

やっと言い切ったアイリの左手を、ディアの手が取る。
そのディアの手で、アイリの薬指に指輪が嵌められる。


婚約ペンダントが、婚約指輪に変わった日。
二人の約束は、永遠の愛の証に変わった。


二人の周りを優しい風が吹き抜け、菖蒲あやめの花々が揺れる。
まるで二人を祝福するかのように。
その風は……イリアだったのだろうか。
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