死神×少女+2【続編】

桜咲かな

文字の大きさ
上 下
103 / 129
第32話『未知の前兆(後)』

(1)

しおりを挟む
どうするのが正しいのか分からずに、亜矢は焦り出す。

「とりあえず、ベッドで休んだ方が…!!」

だが、アヤメは何故か首を横に振っている。
しかし意識が朦朧としているのか、焦点が定まらない。
まるで、うわごとのように何かを口走り始めた。

「オラン……はやく……キスしたい……」
「何言ってんのよ、しっかりして!」

その時、玄関のドアが開く音がして、誰かが入ってきた。
インターホンを鳴らさずに家に入る人物と言えば、魔王しかいない。
帰宅した魔王は、リビングに入った途端に目にした光景に、思わずニヤけた。

「お~、亜矢もいるのか。…最高じゃねえか」

同じ顏、同じ制服を着た愛する少女が、家に二人揃っている。
魔王にとっては理想のシチュエーションだ。

「バカ!!アヤメさんが辛そうなのよ、何とかしなきゃ!!」

亜矢が必死になって訴えるので、魔王はアヤメの顏を見た。

「アヤメ?どうした」
「オラン……!!」

アヤメは魔王を見るなり、飛びつくようにして抱きついた。
そして、勢いそのままに……魔王に唇を重ねた。
それはもう、触れた、重ねたのレベルではない。唇の衝突である。

「なっ!?」

突然、目の前で始まったキスシーンに、亜矢は衝撃を受ける。

こんな時にキスしてる場合じゃないでしょ!?
……って、濃厚すぎる!長すぎる!!新婚じゃないんだから!!

亜矢が両手の拳を握りながら懸命に耐えていると、ようやくキスは終わった。
すると、あんなに辛そうだったアヤメが、ケロっとしているのだ。
すっかり気分は良くなったらしい。

「ふぅ……スッキリしたよ、オラン」
「クク…そんなに良いなら、もう一回するか?」
「え……うん、する……」

「ちょっと待ちなさいよーー!!!」

二人の世界に浸りながら再びキスしようとする夫婦を、亜矢が阻止した。

「アヤメさん、『つわり』は?気分は治ったの!?」
「はい。オランとキスしたら治りました」
「そんな訳ないでしょ!!」
「甘いぜ、亜矢。そんな訳があるんだなぁ」
「魔王は黙ってて!!」

『つわり』がキスで治る?そんな訳はない。
この夫婦は、また悪い冗談で騙そうとしているのだと亜矢は警戒し始めた。
だが、アヤメが申し訳なさそうに説明を始めた。

「それが、本当なんです」

アヤメが言うに……
この『つわり』は気分が悪くなるのではない。
我慢できなくなるほどに『キスがしたくなる』のだと言う。
そして、それはキスをする事によって治まる。
信じられない『つわり』の症状である。
だが、400年以上前にコランを身籠った時にも同じ『つわり』が起きたという。
『悪魔の子』を人間が身籠ると、前例にない事が起きるらしい。
今のアヤメは、正確には人間ではないのだが……。
しおりを挟む

処理中です...